表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/43

9話 『俺と父様』

 「クリム、剣はこうやって振るんだ」


 俺の剣術は父様に教えてもらった。

 父様は国王だったため、多忙な日々だったがそれでも空いている時間は、俺の勉強に付き合ってくれたり、剣の振り方、魔法の使い方を教えてくれた。

 母様は俺が5歳くらいの時に病気で亡くなってしまい、その時に初めて父様の涙を見た。

 

 母様を亡くしたのに、今までと同じように国民と接して、仕事をこなした。

 それでも、悲しみがなくなったわけではない。

 夜になって父様の部屋に行くと、小さな声で泣いているのが聞こた。


 誰にも計り知れないほどの悲しみを抱えながら、今までと同じように接する父様を、俺は心から尊敬していた。

 いつか必ず、父様のような人になると心に誓っていた。

 

 それから、ほとんど毎日のように剣術を教えてもらった。

 足の動かし方、腰の使い方、腕の使い方、剣の角度、攻撃パターン、剣に関することだけでも、数え切れないほどのことを教えてもらった。


 父様の剣術は、勇者にも匹敵するほど凄いものだった。

 勇者と聖剣使いの違いを簡単に説明すると、勇者は大きな功績と上げたもので、聖剣使いは名前の通り聖剣を扱う者のことだ。

 勇者の使用する武器は皆違うが、大抵剣を使う。

 国王でありながら、それ程の剣の腕前を持つ者はなかなかいない。

 父様はそれ程凄い人だったのだ。


 そんな父様に10年近く指導してもらえたおかげで、俺は相当な技量を習得することができた。

  

 そしてある日、俺の元に一通の手紙が届いた。

 その手紙には、聖剣使い選抜対象者に選ばれたと書かれていて、日時と場所が書かれていた。

 そして当日、書かれていた場所に向かうと、500を超える人数がいた。

 聖剣使いが選ばれるのを見ようと、集まってきていたのだ。


 その人達をかき分けて、前に立っていた騎士に手紙を渡すと、待機場所に案内された。

 そこにはすでに5人いて、俺は最後の1人だった。


 「只今より、聖剣使いの選抜を始める!」


 その声と共に、人々は大声をあげて盛り上がり、熱を膨らませていった。


 俺たちはまた騎士に連れられて、人々の前にやってきた。


 「この中から聖剣使いが選ばれるのか」

 「でも子供ばっかりだな」

 「バカ! それでも俺達より強いんだぞ!」

 「俺達の方が弱いって、なんか悲しいな……」


 勝手に何やら言っているが、殆どの会話は俺の耳には入ってこなかった。

 俺を含めて選抜対象者は、目の前の岩に刺さっている金に輝く聖剣に釘付けだった。

 聖剣は神によって作られた剣だとされている。

 本当に神が作ったのか知らないが、この剣に不思議な力が込められているのは事実だ。

 

 この剣を絶対に引き抜く。

 そのことしか、俺の頭にはなかった。

 

 「では始める」


 1人の騎士の声と共に、1番左に立っていた奴が岩を登り剣に手をかけた、足を踏ん張って両手で思い切り引っ張る。

 だが、剣はびくともしない。

 これが聖剣か。


 「次!」


 2人目も同じように岩に登っていき、剣を握る。

 だが、抜けない。


 「次!」


 同じように合図が出されるが、3人目も抜くことができなかった。

 そして、4人目も、抜けなかった。


 「次!」


 そして俺の番が来た。

 岩に手をかけて登っていく。

 少し大きな岩だが問題ない。


 足をかける場所を見つけて、さらに登っていく。

 それを繰り返していくうちに、金に輝く剣の姿が明らかになった。

 岩を問題なく登りきり、聖剣に手をかける。

 両足と両腕に力を入れて、強く引っ張る。


 「え?」


 だが、聖剣はびくともしなかった。

 何度引っ張っても全く動かない。

 本当に抜けるのか? 

 と思ってしまうほどだ。


 「もういいか?」

 

 騎士がそう聞いてくるが、俺はもう少しだけ待ってくださいと言って、剣を引っ張り続けた。


 動かない。

 びくともしない。

 俺じゃダメなのか?

 俺は聖剣使いにふさわしくないのか?

 もしこの剣に認められなかったら、父様に合わす顔がない。

 俺の額から汗が流れていく。

 そうしてだ!

 あれだけ長い時間、父様に稽古をつけてもらったのに!

 何が駄目なんだ!

 俺じゃ……俺じゃ聖剣使いには――。


 『肩の力を抜いて』

 「誰だ?」


 突如声が聞こえ、俺は後ろを振り返るがそこには下で騒ぐ人々しかいない。


 気のせいか。


 俺はそう思い、もう一度力を入れる。


 『ほら。また肩に力が入ってる。だから力を抜いてって、言ってるでしょ?』


 そう耳元で囁かれるような気がしたと思ったら、次は肩に手を当てられている感覚があった。


 「さっきから誰だ」

 『そんなことどうでもいいでしょ。ほら。力を抜いて、剣を引っ張るだけ』 

 「そんなことして抜けるか」

 『聖剣を手に入れたくないの?』


 俺はそう聞かれ黙ってしまった。


 『ふふふ。やっぱり欲しいのでしょ? だったら、私の言った通りに肩の力を抜いて、心を落ち着かせて、引っ張ればそれでいい』


 俺は言われた通りにすればいいか悩んだ。

 なぜなら、これだけ力を入れても抜けないのに、逆に力を抜いて引いても抜けるわけがない。

 でも、どうせこれ以上力を入れても抜けそうにないし、言われた通りにしてみるか。


 心を落ち着かせるために、深く息を吸って吐いた。

 それを何度か繰り返し、肩を回す。


 そして、体の力を抜き剣を握りしめる。

 

 『今よ』


 その声と同時に、剣を引っ張った。

 すると、今までにないような感覚が体に走った。

 剣がぐらっと揺れたかと思うと、そのまま上に上がって剣が抜けた。


 「え……抜けた……」

 『ふふふ。やっぱり言った通りでしょ? またね』


 そう言い残すと、俺の背後から気配が消えた。


 俺が呆然としているのに反し、人々は大声で騒いでいた。

 それに気がつくまで、しばらく時間がかかった。





 

 「父様! ただ今戻りました!」

 「おお! クリムっ!」

 

 すっかり城内は祝いムードになっていた。

 

 多くの人に囲まれていた父様は、俺の姿を見ると笑いながら歩み寄ってきた。

 

 「父様……俺……俺……」

 

 父様は、俺の身長に合わせるようにしゃがみ込むと、俺を力強く抱きしめた。

 

 「お前は俺の誇りだ。本当によくやったな」

 

 そしてその時、父様の涙をもう一度見た。




 

 父様のあの時の笑顔と、涙は俺は死ぬまで忘れない。

 もう一度父様の笑顔を見たい。

 だが、俺のそんな願いは、一生叶うことはない。

 


 



 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ