8話 『聖剣使いと魔王』
城内には、俺の歩く音だけが響き渡る。
壁には豪華な額縁に入れられた巨大な絵が飾ってあり、いかにも城って感じがする。
どこまで続いているのか分からないほど、長い廊下がいくつもあり、少し気持ちを不安にさせる。
部屋が沢山あるのか、一定の間隔ごとに扉が設置されている。
どの扉にも、金の装飾がされている。
ヴァラグシア王国の城よりも、もしかしたら豪華かもしれない。
城内はどこまで行っても暗いが、見えないほどではない。
一応周りを警戒しながら、足を進めていく。
これだけ部屋が多いため、魔王がどこにいるのか悩むところだが、大体見当はついている。
やっとここまで来たんだ。
魔王に会えなければ、全て水の泡になる。
必ず魔王と手を組んでやる。
「ここか?」
俺の目の前には、今まで見てきた部屋の中で1番巨大な扉がある。
さらに、装飾も1番豪華なため、恐らくここで間違いないだろう。
間違っていたら、また探せば良いだけだがな。
ドアノブに手をかけて、少し力を込めて押すと木が軋む音を立てながら前に開いていった。
「妾に何か用か? 聖剣使い」
部屋は城内とは違い、明るく照らされていて、人が100人入っても全然余るほど広さがある。
天井にはシャンデリアが吊るされていて、綺麗に輝いている。
そんな部屋に置かれた豪華な椅子に座るのは、魔族を支配する者、魔王だ。
「用がなかったら、こんなとこには来たくないな」
部屋に足を踏み入れながら、俺は魔王にそう答えた。
銀に輝く長い髪を伸ばし、透けるような青眼を持つ魔王は、まるで作られた人形のように美しく見える。
あいつが人間の国を歩いたら、男どもが寄ってたかって来るかもしてしれない。
俺は剣を引き抜かずに、魔王に近づいていく。
その行動に疑問を覚えたのか、余裕そうに組んでいた足を戻して、魔王は目を細めながら首を傾げた。
「妾を殺しに来たのではないのか?」
「魔王を殺しに来るんだったら、もっと人数を連れて来るさ」
「ほう……。なら、目的はなんだ? てっきり妾を殺したいのだと思っていた。戦う準備をしていたのに」
んー、と言いながら魔王は座ったまま背伸びをした。
全く戦う準備なんてしてなさそうに見えるが……そんなことはどうでもいい。
「俺は色々あって王国から追い出されてな、それで復讐してやろうと思って」
「ほう。それで?」
魔王は頬杖をつきながら、俺のことを見ている。
「それで提案なんだが」
「ん?」
「なあ魔王。俺と手を組まないか?」
俺のその言葉に、魔王は唖然として部屋の中は沈黙に包まれた。
が、魔王は顔を下に向けたかと思うとケラケラと笑い始めた。
「面白いなぁ。聖剣使い」
しばらく笑い声が響きわたり、また静寂が訪れた。
魔王の顔から笑顔が消えて、目をキッと尖らせながら俺のことを睨む。
「妾の配下を倒してここまで来たと思えば……手を組まないか、だと? 何が目的なのだ?」
「だから復讐が目的……」
「そこでない。復讐で何をするのだ? どのように復讐をするのだ?」
何をするか?
どのようにするか?
そんなに決まってるだろ。
俺の父様を殺し、俺を追放した奴が生きているなんて許せない。
今この場で似合わない笑顔を俺は浮かべて、魔王に向ける。
俺の表情を見て魔王はどう思ったか、気にするまでもない。
「ヴァラグシア王国の国王を殺す。そして、あの王国を滅ぼす。それが俺のする復讐だ」
俺の声が広い空間に響きわたり、そして音がなくなる。
「ククククク……ひははははっ! いいぞいいぞ聖剣使い! 実に面白い!」
魔王は椅子から勢いよく立ち上がると、そのまま階段を走って降りて俺の目の前まで来た。
それも最高の笑顔で。
「本当にいいのか? 妾と手を組んだら、本当に滅んでしまうぞ?」
「構わない。俺がいなくなったら、あの国がどうなるか教えてやるさ。俺の父様を殺し、追放したことを後悔させる」
「クックック。そうか。いいじゃろう。妾もお前と手を組もう」
そして白い肌で、華奢な腕を俺に伸ばしてきた。
今まで数え切れないほどの人間を殺し、時には魔族をも殺した手。
だが、俺はその手を躊躇することなくとった。
そして、敵であるはずの魔王と聖剣使いの俺は、手を組んだ。
魔王は計画を続けるために。
俺は、国王に復讐して後悔させるために。
国を守る聖剣使いなど、もういない。




