6話 『その魔族は何か違う』
「えぇー。ミラノ負けちゃったよー」
門の前にいる奴らに近づくにつれて、向こうの会話が聞こえてくる。
1人は俺について話しているが、もう3人はそれに反応せずに、ずっと黙って俺のことを見ている。
そのまま動かないでいてくれたら、ありがたいんだけどな。
でも動くと言うなら、俺が潰せばいい。
いまだに俺が進むのを、誰1人としても止めようとしない。
横に整列している魔族は、自由に動くことが出来ないのか心配そうな表情を浮かべている。
まさか、本当に何もしてこないとは思わなかった。
途中で砲撃とか放ってくると思ったが、そんなこと考える必要もなかったようだ。
スムーズに進んだおかげで、門に繋がる階段のところまで辿り着いた。
ここまで何もされないと、逆に罠の可能性もあるため、階段の前で立ち止まって様子を見たが、罠らしきものはなかった。
色々考えても結局進まなければ、どうしようもない。
とにかく今は、魔王の元に行くことだけを考えろ。
俺は階段に足をのせて、一歩、また一歩と歩みを進めていく。
門が近づくにと同時に、門の前に佇む魔族達とも距離が近寄っていく。
このまま邪魔しないでくれると、助かるんだがな。
だが、俺のそんな願いもすぐに散っていった。
「人間」
階段を登り切った時、1番端に座っていた魔族に鋭い声をかけられる。
俺の方に体の向きを変えると、ゆっくりと距離を縮めてくる。
その魔族は、黒色の髪に所々赤毛が混じり、腰に剣を差していた。
他の3人は黙って見ている。
こいつの行動に口を出さないと言うことは、この場所では1番権力を持っているのだろうか。
そんなことを考えながら、その魔族と目を合わせる。
直後、俺の体は寒気に襲われ警鐘が鳴り響いた。
すぐさま後ろに飛んで、その魔族から距離を取る。
なんだ。
この男は何が違う。
はっきりとはわからないが、危険すぎる。
「どうした」
距離を取って剣を引き抜いた俺を、男の魔族は鋭い目つきで睨みつけてくる。
凄まじい殺気だ。
もし距離を取っていなかったら、あの刀で首を刎ねられていたかもしれない。
俺の額から、汗が流れ落ちる。
こいつはさっきの女の魔族みたいに、荒い攻撃をして来ないはずだ。
一撃ずつ丁寧に、相手を確実に殺すために、戦場という盤面を上手く進めていくだろう。
「お前、ヴァラグシア王国の聖剣使いだな」
どうやら、俺のことを知っているらしい。
だが、ひとつ間違っている。
俺はもうあの国の者ではない。
「俺のことを知っているんだな。だけど、俺はもうヴァラグシア王国の聖剣使いじゃない。ただの、聖剣使いだな」
「意味がわからない。どうせ、国王に潜入するように頼まれでもしたのだろ?」
「国王の話はしないでくれないか。どうしても、イラつくんだよ」
あの国王の顔が浮かぶだけで、抑え切れないほどの怒りの衝動に駆られてしまう。
今すぐにでもあいつを殺したい。
父様を殺したあいつを……俺は……!
「そんな演技で通れると思ってんのか。人間」
「しまっ――」
意識を現実に戻して前を向けば、刀を引き抜き俺の首を狙う魔族が、すぐ目の前にいた。