41話 『悪い子だから』
俺は一瞬、目の前で一体何が起こったのか分からなかった。
いや、未だに分からない。
というか、信じることができない。
逆に誰が信じるんだ?
幼い少女が、三人の騎士達を触れずに吹き飛ばすなんて。
「大丈夫ですか!?」
「マフレン様!」
「……何が起こった」
飛ばされてきた騎士達を支える仲間は、異様な少女の存在に目を見開いて驚いていた。
しかし、それは俺達も一緒だった。
「ラフカ……?」
「ラフカ……その力は一体……」
「やっぱりラフカは悪い子……」
イライラした様子で、マフレンと呼ばれた金髪の騎士は立ち上がると、剣の先を俺に向けて声を荒げた。
「いいかっ! あの子供も危険な存在であることが確認されたっ! これにより、拘束対象をクリム・オーラに加え、あの子供も加える! 次の攻撃に備え、陣形を整えろっ!」
そう言い放たれると、騎士達は、ここで返事をすることは分かっていたかのように、息が揃った返事をした。
すると、俺とラフカを四方八方から囲うようにして、防御陣形を取っているつもりなのか、戦いの傷が刻まれている盾を展開した。
「ちょっと! あんなに小さい子供まで拘束するなんておかし――」
「あなた魔族なのね。少しでも動いたら、脳みそをスキルで破壊するわよ」
マフレンの横に立っていた女は、ミラノに抗議をさせる暇も与えずに首に鎖を巻き付けた。
「お前もだ。今、スキルを発動させようとしただろ」
もう一人の男の騎士も、ラーシェの背後に気付かない間に回り込み、頭に向かって矢を引いた。
「……すいません、ミラノさん」
焦りが出てしまっていたとはいえ、ミラノとラーシェの行動を封じることが出来るということは、相当な実力を持っていることは間違いない。
流石は大国の騎士だな。
「子供だと思って油断していたが、その判断は間違っていたようだ」
少し苛立っている様子で、マフレンは剣を構え近づいてくる。
それに合わせて、俺も剣を構える。
聖十二騎士を相手にした時は、《光之王》を使うことが出来なかったが、皮肉にもバレているお陰で使用することが出来る。
体力の消耗は激しくなってしまうが、ギリギリいけるってところか……?
正直、リーダー格の三人の実力によって結果は変わってくる。
「もう容赦はしないぞ。クソガキ」
「別にいいよ。だって、ラフカは悪い子だから」
「意味の分からないことを言いやがって」
マフレンは地面を強く蹴り飛ばし、一瞬でラフカとの距離を縮める。
しかし、俺も指を咥えて見ていたわけではない。
俺の剣は、完全にラフカに向かう剣を捉えていた。
そしてそのまま剣を吹き飛ばし、相手の動きを封じる――。
という想像は、全て一秒もかからず無駄になった。
「えぁ……?」
「え……?」
「だから言ったのに。悪い子だって」
一体何が起こったのか、俺の頭ではすぐに整理できなかった。
そのせいで、振り始めていた剣も、最後まで振り切ることなく止めてしまった。
そんなことをしたら、ラフカが斬られてしまう。
そんなことはない。
何故なら、マフレンの剣が粉々に砕け散っていったからだ。
剣に触れていたのは、空気だけというのにも関わらず。
「どう……して……」
「だからそれは」
マフレンは腹部に大きく衝撃が走ったかのように、突然体を屈ませると、口から大量の血を吐き出した。
今目の前で、何が起きたのか、何をされたのか、誰も分かっていない。
ただ一人、ラフカという少女だけを除いて。
本当に昨日共に食事を摂った少女なのか。
一緒にゲームをして遊んだ少女はどこへ行ってしまったのか。
血を吐き苦しむマフレンに、冷たい目を向けながら近づいて行くラフカを見ていると、そんなことさえ分からなくなってしまった。
「マフレン様が……」
「なんだよあのガキは……」
「そうだ……! 分かったぞっ! アイツはきっと――」
「ちょっと静かにして」
ラフカがただ一言、静かにそう言い放つ。
同時に、騎士達は紐を切られた操り人形にように倒れ込んでいく。
「くっ……!」
「体が……!」
唯一意識を保てているのは、ミラノ達の動きを封じていた騎士達だけだ。
だが、その騎士達でさえ、膝をついてしまう始末である。
「はっ……はは……」
「どうしたの?」
口から血を流しながら笑う騎士に向かって、ラフカは首を傾げてそう問う。
ああ、不思議だな。
目の前にいる人が血を吐いて、騎士達が大勢倒れているというのに、ラフカはそれが当たり前の光景のように見ている。
「お前……アレだな……」
「あれ?」
「噂の殺人特化型人形だろ……」
「……そうだよ」
「は……やっぱり……な……」
マフレンは意味深な言葉を発し、魂が抜けたようにその場に倒れていった。




