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32話 『傷だらけの少女』

 ここから魔王城へ行くには、ヴァラグシア王国から行くのと比べれば距離は短いが、それでも半日はかかる。

 その為、今日は日が昇る前に出発しなければいけない。


 「おいミラノ。早く起きろよ。置いてくぞ」

 「ぅ……うぅあ……。置いてかないでぇ……」

 「じゃあさっさと支度をしろ」

 「うぅ……」


 全く困った奴だ。

 クロスさんやラーシェはもう朝食を摂り終えたというのに、ミラノはまだこうして寝ている。

 クラティスに言いつけてやろうか。


 「起きる起きる……」


 俺の考えが伝わったのか、目を擦りながらベッドから立ち上がった。

 寝起きという事もあり、長い髪がぼさぼさだ。

 これは準備に時間がかかるぞ。



 

 

 「さあ、クラティス様に会いに行こーう!」

 「……お前を待ってたんだからな」


 結局あの後、なんやかんやでミラノに一時間も待たされてしまった。

 クロスさん達には本当に申し訳ない。

 心が広い人たちで良かった。


 クロスさんがテラと話している間に、俺達は馬車を借りに行く。

 ミラノは家の中で寝ているが。


 まだ時間が早いおかげで、良い馬車がたくさん残っている。


 「どれにする?」

 「そうですね。半日乗らなければいけないので迷ってしまいますね。あ」


 良い馬車を見つけたのか、ラーシェは声を漏らして一台の馬車に近寄っていく。

 

 おお。

 確かに良さそうな馬車だ。 

 座る場所も広くて、柔らかい素材が使われている。

 これなら体も痛くならないだろうし、寝ることも出来る。

 馬も落ちていてそうな個体だし。


 あとは値段次第だな。

 えーっと、一、十、百、千、万、十……。


 何、この値段……。

 馬車でここまで高いの初めて見た。

 確かに馬車に使われている素材は高級なものばかりで、なんなら馬の毛並みも綺麗だ。

 だが、これは流石に高すぎやしないか。

 誰でも簡単に支払える値段ではない。


 「ちょっと高いよな。別のを見て見るか」

 「いえ、これにします。すいません、この馬車を貸してください」

 「え!?」

 「18万リールね」

 「どうぞ」

 「はい丁度ね。では、素敵な旅を」


 本当に借りちゃったよ。

 こんな高い馬車をクロスさんに相談しなくても良かったのか?

 もしミラノが俺の金でこの馬車を借りてきたら、怒るどころか泣いちゃうな。

 

 「クロスさん怒らないか?」

 「……? どうして怒るんですか?」

 「だって、そんな高い馬車を借りちゃったから」

 「そういうことですか。安心して下さい。お金は沢山ありますので」

 

 これが金持ちの余裕ってもんか。





 クロスさんは話を終えていたらしく、馬車が到着したのと同時に、全員で素早く馬車に荷物を積んでいく。

 誰かのせいで時間に余裕がなくなってしまったからな。

 

 積み終えると、クロスさんが手綱を握り俺達は後ろに乗り込む。

 どうやら、馬を操縦するのはこれが初めてではないらしく、進んでやってくれた。 

 ミラノもやりたいと言っていたが、さすがに心配だからやめさせた。

 馬を暴走させたら、俺達がどうなってしまうか分からない。


 

 馬を進めて約二時間。

 周りはこれといって何もないただの草原が広がっている。

 季節的にも暑くもなく寒くもなくといった感じで、気持ち良い風が流れてくる。

 

 「なんか面白いことないのー?」


 とは言っても、することがない。

 つまり、今の俺達は暇なのだ。

 会話の話題もなくなってきてしまい、誰も喋らないどんよりとした空気になっている。

 しかし、この何もない草原に、今の空気を変えてくれるものは存在しない。

 

 緑の草原が突然赤にならないかな。

 あの巨大な岩が爆発しないかな。 

 大量の木が急に切り落とされないかな。


 色々なことを想像してみるが、それが実際に起こることはな――。


 あれ?

 なんかだれか倒れてないか?

 いやでも、岩のようにも見える。

 少し距離があるせいで分からない。


 「おいミラノ、あれって人じゃないか?」

 「ん? どれ?」


 俺は馬車の中から外を指差す。

 指している場所を見つけることが出来たのか、ミラノは何故か笑顔を浮かべた。


 「あれ絶対人だよ!」

 「……確かに人っぽいですね。それに、子供のようにも見えます」

 「クロスさん、ちょっといいですか」


 クロスさんに事情を説明し、倒れているらしき人へ急いで向かってもらう。

 馬を走らせたことで、あっという間に目標地点へと近づいて行った。

 

 おいおい……。

 本当に人じゃねぇか。

 それにまだ幼い女の子だ。

 客観的に見て、13から15歳といったところだな。


 急いで馬車から降りて、少女に声をかける。

 

 「おい! 大丈夫か!?」

 「……み……ず」

 「水? 分かった! この地を覆う命の源。ここに現れよ。水球(ウォーターボール)


 俺は急いで詠唱を終わらせて、口に入る大きさの水球を作った。

 それを震える少女の口に、ゆっくりと入れて飲み込ませる。


 水球は非常に魔力消費が少ない魔法だ。

 しかし、それも使えない状態だという事は、相当な目に遭ったに違いない。

 一体誰がこんなことを……!


 「ありが……と……ござ……ます」


 声もかすれてしまっている。

 とにかく、今はこの子を休ませなければいけない。

 

 「危険な状態ですね。馬車の中で治癒魔法を使いましょう」

 「体中に傷があるよ。服に血もついてるし」

 「クロスさん」

 「うん。一旦魔王城へ向かうのはやめて、どこか休める場所へ向かおう。何かあった時に、馬車の中だと対処できないかもしれないからね」


 

 

 

 

 


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