31話 『食事をして』
魔王城には明日出発ということで、俺とミラノはクロスさんの家に泊めてもらうことになった。
ということで、俺とラーシェは夕食の準備をしている。
こう見えて俺は、長い間一人で生活してきたこともあり、自炊は得意である。
ミラノは当然と言っていいのか、ソファーに座って寝ている。
テラは買い物に行き、クロスさんは自室で作業を行っている。
ラーシェによると、自分が組織のナンバー1であるが、本当のリーダーは兄さんだと言っていた。
作戦から情報の整理、組織の統括など全てクロスさんがやっているそうだ。
話を聞いていると、ラーシェが心の底から尊敬しているのが伝わってくる。
本当に仲の良い兄妹だ。
「この家って、ほかに誰か来たりしないのか?」
「他って、兄さんやテラ以外の方の事ですか?」
「ああ」
「普段は来るんですけど、今日は……」
話を聞いてみると、この家はクロスさんの家でテラと二人で住んでいるそうだ。
どうやら、ここを本部として《笑うピエロ》は活動しているらしく、タイミングが良いのか悪いのか、今日この家には誰も来ないらしい。
普段手に入れた情報の伝達のために、幾つかに分けられた部隊のリーダーもしくはそれに近い存在が訪れるそうだ。
「俺達に協力することを教えなくて大丈夫なのか?」
「きっと教えたら、私が拒否しても手伝いに来てしまいますよ。なので、お手伝いが終わったら知らせます。あくまで、私と兄さま、それにビビザスが勝手に協力するだけですからね」
そう微笑みながら口にすると、人参を包丁で綺麗に切り落とした。
手つきを見ていると、ラーシェも料理をすることに慣れているみたいだ。
なんなら、料理に自信が有った俺より上手い。
見ていて動きに無駄がない。
無駄のない動きをしている人を見ると、なんだかスッキリとした気分になる。
不思議だ。
「クリムさん? 手が止まっていますよ?」
「え、あ、すまん」
上から目線で語っていた俺の方が無駄があるとか恥ずかしいな。
ここはラーシェに迷惑を掛けないように動かないとな。
夕食が完成したのと同時にテラが帰宅し、ご飯が冷める前に全員席に着いた。
美味しそうな料理から湯気がもくもくしていて、ミラノの腹がぐぅぅ、となる。
しかし、ミラノは気にすることなく並ぶ料理に目を輝かせていた。
「これ全部ラーシェが作ったの!?」
「いえ、クリムさんにも手伝っていただきました」
「え、てことは、クリムが作ったってことか……」
あからさまにテンション下げてんじゃねぇぞ。
毒入れるべきだったな、こりゃあ。
「それじゃあ、食べようか」
クロスさんの合図とともに、各々スプーンやフォークを手に取って出された料理を食べ始める。
うん、自分で言うのもなんだが、結構よく作れている。
俺はスープと魚の煮つけを担当したが、スープは程よい香りに、体に染み渡るような味。
魚は特に美味しい。
身の奥まで味が染み込んでいて、ほろほろと身が崩れていく。
最高。
「この魚めっちゃ美味しい! これ絶対ラーシェが作ったんだよね!」
「それはどうも。美味しいと言って頂けて何よりです」
「これクリムが作ったの? ……負けた」
何の勝負をしていたんだが。
まあ、美味しいと言って貰えて良かった。
料理は自分で美味しいと感じるより、誰かに感じてもらえた方が嬉しいからな。
「本当だ。クリム君凄いね」
「これ気に入った」
うんうん。
今日は良く寝られそうだ。
その後も俺達は、様々な話題の会話を弾ませながら、 楽しい食事の時間を過ごしていった。
俺は今日借りる部屋に戻り、風呂に入った後ベッドで横になった。
ひとまず、誰か協力してくれる人を見つける、という目標は達成された。
見つからなかったらクラティスとの話が進まなかったが、それを防ぐことが出来たから良かった。
それにしても、中々凄い二人が仲間になってくれたな。
二人と一体か。
まあ、どっちでもいいか。
ビビザスは到底、俺が敵う相手ではない。
《悪魔を統べる者》があそこまで強いとは思っていなかった。
敵に回さないようにしたい。
何がともあれ、今のところ俺に出来る事はない。
俺はただ、クラティスと二人が会い、無事に話し合いが終わる事を祈るだけだ。
……なんだか眠くなってきたな。
今日は色々あって疲れた。
もう考えるのはよそう。
そう思い、俺は静かに目を瞑る。
体が相当疲れていたのか、一瞬にして眠りについた。




