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22話 『本部へ向かう』

 「そういえば、もう一つ言っておきたいことがあるんだが」

 

 俺は隣で歩くラーシェに声をかけ話を再開する。


 「俺はメジューナム連合国の国王は殺してないからな」

 「え? ですが、王都中にそう広がっていましたよ」


 いきなり何を言い出すのかコイツは、という目でラーシェは見てきた。

 俺がこう言ってもそうだと思っていました、と反応されなかったということは、もうすでに俺が父様を殺したことになってるんだな。

 それに、王都の人間は政治に特に関係なさそうだし、誰が何をしたという情報が手に入れば、それを本当の事なのか疑わずに鵜呑みにしてしまう。

 ヴァラグシア王国の民は情報操作されてしまっているのだ。


 しかし参ったな。

 このペースでいけば、他の国へも俺が殺したというデマが流れて行っているかもしれない。

 メジューナム連合国はまだ犯人を見つけていないだろうし、本当の犯人が見つかるまで俺は殺人鬼ということになってしまう。

 どうにかしてこの誤解が解けないものか。


 とまずは、身近な人から解いていかなければいけないな。


 「それはフリュースとかいうクソ国王が流したデマだ。まず、俺なんかが殺せる相手じゃないだろ。それに……メジューナム連合国の国王は俺の父様なんだよ……」

 「え……。それは、すいませんでした。何も知らない私が、どうして殺してしまったんですか、とか失礼なことを聞いてしまって……」

 「お腹がすいた。ラーシェ、何か持ってない?」


 重たくなってしまった空気をミラノはぶち壊しながら、ラーシェの体を勝手に触り始めた。

 空気を読めていないことは確かだが、暗い雰囲気が飛んで行ったおかげで話を進めやすくなった。

 これには感謝だな。


 「なにもないじゃんかぁ」

 「本部につけば、沢山食べ物はありますよ」

 「え!? じゃあ早く行こう!」


 だから今向かってるじゃないか。

 一人で走っていこうとしてるけど、本部の場所知らないだろ。


 「クリムさんは」

 「ん?」

 「クリムさんは、本当の犯人を知っているのですか?」

 「知ってるさ。犯人はヴァラグシア王国の国王だ。多分実行犯は別にいる。《堕天使》の奴らだろ」

 「《堕天使》はどこまでも……」

 「つまりこれで、俺達は皆敵が同じになったということだ」

 「……絶対に《堕天使》、そしてヴァラグシア王国を壊滅させましょう」

 「そうだな」


 とは言ったものの、俺は《堕天使》についてそこまで詳しくない。

 聖剣使いとして知っておかなければいけない、最低限の事しか知識に入れていない。

 どのような組織であるかとか、何をしているかとか。

 しかし、《堕天使》を壊滅させるにはそれだけの知識じゃ全く足りない。

 もっと深くまで知らなければ。





 「ここが私達の本部がある街になります」

 「へぇ、結構栄えてるな」

 「食べ物が沢山あるんじゃないの!? 最高じゃん!」

 

 本部があるという街に入り、あたりを見渡してみると、そこら中に出店されていて大勢の人が買い物をしている。

 それ以外にも、冒険者が依頼(クエスト)を受注しに来ているのか、なにやら大きな建物の中に入っていく。

 視線を少し上に向けると『冒険者ギルド』と書いてあった。 


 ああ、そうか。

 俺は勝手に依頼が送られてくるけど、冒険者が自分で依頼内容を選ぶことが出来るのか。

 いいなぁ。

 俺も自分で選びたい。

 今まで受けた依頼の中だと、炎天竜が一番大変だったな。

 魔獣の中でも竜種は特に厄介な部類だから、あんまり相手にしたくないんだよなぁ。

 

 「ねぇねぇ」

 「ん?」

 「お金頂戴」

 

 横を見てみれば、両手を出しながら笑顔で立っている魔族野郎がいた。

 そんな魔族の隣には、鳥の丸焼きを売っているお店があった。

 

 だが、俺はあえて理由を聞いてみる。

 

 「なんで?」

 「なんでって、あの鳥の丸焼きが食べたいから」


 全くまともな回答が返ってこなかった。

 というか、こいつはどれだけ俺から金を貰うつもりなんだ。

 幹部なんだから、たんまりと貰ってるだろ。

 じゃなかったら、幹部なんてやめた方がいい。

 

 「今の持ち金は?」

 「ゼロ」

 「クラティスから貰ってないのか?」

 「貰ってるよ」

 「じゃあなんで持ってないんだよ」

 「自分のお金を使いたくないから、全部魔王城に置いてきた」


 なんてケチな奴だ。

 幹部にもなった奴が、自分の食事代さえ出したくないだとよ。

 ふざけてやがる。

 まだ俺はお前に何もしてもらってないんだぞ。


 「絶対に金やらないからな」

 「えー! なんで!?」

 「なんでじゃねぇ!」


 こういう奴に簡単に金を貸すと、次から次へと借りようとしてくる。

 簡単に借りることが出来る相手だと認識されてしまうのだ。

 そんな風に認識されてしまったらたまったもんじゃない。


 まだ何か言っているが、全部無視してラーシェの後をついていく。

 俺が仮面をつけているせいで、周りの人からの視線を物凄く感じる。 

 だけど、そんなことをいちいち気にしていたらダメだ。

 無視無視……。


 「ここです」

 

 恥ずかしい気持ちを抑えてただひたすら歩いていると、突然立ち止まり隣にあった家を見た。

 げっそりした顔で俯いて歩いていたミラノも、ゆっくりと顔を上げて本部だという建物を見る。

 

 「おぉ……?」

 「もっと大きな建物を想像していましたか?」

 「えっと、まあ」

 「肉……」


 なんというか、普通の家って感じだ。

 一般的な加増が住んでいそうな、二階建ての家。

 とはいっても、ちょっとばかり周りの家より大きい様な気がする。

 気のせいか?


 俺のそんな疑問を他所に、ラーシェは扉に手をかけて手前に引いた。

 

 「汚いかもしれませんが、どうぞ中へ」

 

 そう促され、俺とミラノは家の中に入っていく。

 玄関には綺麗な花が添えられていて、良い香りがする。

 汚いかも、と言っていたが全然そんなことはない。

 ここから見える範囲でも整理整頓がなされていて、散らかっている様子が全くない。 

 どちらかと言えば、一人で暮らしていた俺の家の方が汚い。


 「お邪魔しま――」

 「疲れたぁ……」


 ミラノは、後ろから俺の肩に思いっきりぶつかっていったが、そんなことを気にも留めずフラフラな脚で歩いていった。

 そして、並べてあった椅子を三つ均等の間隔で並べると、勝手に寝転んで目を瞑った。

 失礼にも程がある。

 

 「疲れているんですね」

 「肉を食べれなくて不貞腐れてるだけなんじゃないか……?」

 

 ミラノに呆れながら家の中を進んでいくと、上からドタドタと足音が聞こえた。

 その音は階段を駆け下りる音に代わり、二つの耳が曲がり角から姿を現した。

 ただの耳ではない、獣の耳だ。


 「おかえりなさい!」


 耳から下が見えなかった角から出てきて、正体が明らかになる。


 「獣人族か」


 頭の上に耳がついていて、焦茶色の髪でクリっとした濃赤の瞳をした女性が出てきた。


 「それと……こんにちは」

 「こんにちは」


 獣人族と言っても、見た目はほとんど人間と変わらない。

 ただ頭の横に耳がついているか上についているかぐらいの違いしかない。

 ただし、戦闘能力は断然獣人族の方が高い。

 獣の血が流れているのだから、それは当然かもしれない。

 高い建物を軽々上っていくし、硬いものだって一撃で砕くことが出来る。

 しかし、そのような体の使い方が出来るようになるのは、ある程度体が成長してからで、子供の頃は人間の子供と何も変わらない。

 だから、獣人族は子供の時に誘拐され弱体化する魔法をかけられ、奴隷として売られてしまうのだ。


 「それで……ここで寝ている方は――」

 「うるさいなぁ今機嫌悪いのっ! 喋りかけると殺すぞっ!」

 「……こわ」



 


 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



















 

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