21話 『絶対に許さない』
コンコンコン、とノックの音が部屋に鳴り響き、静かな部屋にその声が響いた。
「入れ」
「失礼します」
許可が下りると、ノックをした者は一礼して入ってきた。
その者はオーダーメイドの鎧を纏い、短い赤髪を伸ばしていた。
乱れることなく姿勢正しく歩きそして跪いた。
「何の用だ。バガス」
「はい。国王様、俺を……私を聖十二騎士に選出していただき、心より感謝いたします」
「そんなことか。それはお前が使えそうだったから選んだまでだ。しっかり私のことを守れ」
ヴァラグシア王国の国王であるフリュースは、書類に筆を走らせながら返事をした。
まだクリムの父が殺されて少ししか経っていないが、すでにヴァラグシア王国にはその情報が入ってきたことにより、国内は大混乱に陥った。
それにより、整理しなければいならない書類の数が増えたのだ。
国王の死ということもあり、馬を休ませず走らせて情報を持ってきたのだ。
死因は毒による殺害と記してあったが、犯人はまだ見つかっていないとも記してあった。
その報告書を見て、フリュースは笑みを浮かべた。
バレないように殺害するよう頼んでおいたが、少し心配していた。
もしフリュースが関与していたとなれば、どのような処分が下されるか分からない。
だが、バレなかった。
フリュースは気分が上がっていた。
邪魔者が消えたとなれ、あとは自分のやりたい放題。
その息子の聖剣使いも追放したことで、自分の前から邪魔者は完全に消えた。
そう思っていた。
「はっ。それと一つ、お聞きしておきたいことがあります」
「なんだね」
「聖剣使いとの会話のことなのですが、隣国の国王を殺したとはどういうことなのでしょうか」
「……そのことは忘れるんだ。聖十二騎士には関係ない」
「しかし――」
「これ以上この話をするのならば、お前の降格するぞ。騎士長よ」
「も、申し訳ございません……!」
「下がれ」
バガスはそう言い放たれると、素早く立ち上がり王室から出ていった。
国王様は一体なにを隠しているんだ。
もしも、もしもだ。
国王様が聖剣使いに言っていたことが本当のこととなれば、それを聞いてしまった俺達はどうすればいい。
他の聖騎士達は、どうせ嘘だから気にする必要はないと言っていた。
しかし、実際に隣国の国王が殺害されたと報告が入り、その息子である聖剣使いも追放された。
今、この国では聖剣使いが隣国の国王の殺害に関与していると情報が流れている。
もしかしたら、本当に聖剣使いが関与しているかもしれない。
だが、あの時俺が見た聖剣使いに表情は嘘だとは考えられない。
「この国の裏で何かが起こっている」
バガスは確信し、己がやるべきことを考え始めたのだった。
◇◆◇
ここはメジューナム連合国。
国民からも支持が高かった国王が何者かに殺されたことにより、暗い雰囲気が国内に流れていた。
この国の歴史はまだ他国に比べ短く、約50年程前に第二次豪炎大陸大戦が終結し、戦勝国であるオルン神国を中心に、小さな国が集まり新しく樹立した国家がメジューナム連合国だ。
そして、新しく樹立した国家の最初の国王に、クリム・オーラの祖父に当たり、オルン神国の国王だったデラファフ・オーラが就いたのだ。
デラファフの死後、王位継承権一位だったムラセス・オーラが王座に就いたのだ。
ある時、メジューナム連合国と親交が深く、さらにはムラセスと国王同士以上の仲だったヴァラグシア王国の国王が死去した。
当時の国王には王位継承権を持っている者がいたが、王が亡くなる少し前に犯罪行為が判明し、継承権を剝奪されていた。
その為、国王を継ぐ者がおらず、我こそはという者たちが手を挙げた。
いくつもの派閥に分かれ、その争いは武力でぶつかり合うようになり、国内は大混乱となった。
その混乱を落ち着かせるために、ムラセスは自身の弟で会ったフリュースと共に大勢の騎士を派遣して、ようやく混乱が収まった。
フリュースは大混乱を収めたとして評価され、国民からも支持が高く国王として就任したのだ。
それが良い判断だったのかは、正直国民はどうでも良かった。
ただ、国内を混乱へ陥れた者たちには、国王の椅子には座ってほしくないと、ただそう思っていただけだった。
そんな思いの国民の判断により、メジューナム連合国は悲しみに包まれたのだ。
しかし、その事をヴァラグシア王国の国民が知ることはない。
「ランローズ様、戴冠式は明後日となりました」
「そう……ですか」
「ついにこの日がやってきましたね」
「ええ、そうね。ですが……私が王の座に座る姿を叔父様にも見ていてもらいたかった」
そう呟きながら、ランローズと呼ばれた女性は一筋の涙を流した。
自分が涙を流していることに気付き、急いでハンカチで涙を拭いた。
化粧が取れてしまわないように、やさしく肌に触れて。
メジューナム連合国の王位継承権一位であるランローズ・アウターは、権力が最も強い家系に生まれた娘だ。
アウター派閥以外にもいくつか存在するが、この派閥に逆らえば権力によってねじ伏せられる。
故に、アウター派閥に逆らう者は誰一人としていないのだ。
しかし、ランローズは王女になるなんてどうでも良かった。
今ある何気ない日常がずっと続けばそれで良いと考えていた。
その日常の中には、ムラセスが入っていた。
しかし、それは誰かの手により一瞬にして崩壊していった。
ランローズに近づいてくる大人たちは、皆権力だけしか見ておらず、誰もランローズという人物を見向きもしなかった。
同い年と遊ぼうにも、そのたびに媚びを売ってくる者たち。
大人に声をかけられれば、すぐに権力の話になる。
だが、ムラセスだけは違った。
ランローズにとって父親のような存在だった。
本当の父親は権力を手に入れるための駒としか見ておらず、遊んでもらったことなど一度もなかった。
しかし、ムラセスはランローズを一人の少女として関わり、そこで初めて普通を知った。
そんな人物を、ランローズが尊敬しないわけがない。
王座など関係なく、これからずっと慕って行こうと決めていた。
だが、それはかなわぬ夢となった。
王位継承権一位であるランローズは自動的に女王となる。
しかし、もうすでに女王などどうでも良いなどどいう、哀れな考えは消えていた。
この女王という最高権力を使い、ムラセスを殺した人物を必ず炙り出す。
犯人は絶対に逃がさない。
「ランローズ様」
涙を拭いたのを確認すると、護衛人が緊張した声音で名を呼んだ。
「まだ何か?」
「たった今、話が入ってきたのですが……」
自分から話し出したのにも関わらず、なぜか汗をかき言葉に詰まっている様子を見て眉を顰めた。
「早く言いなさい」
「は、はい……! ムラセス様を殺害した犯人なのですが……ヴァラグシア王国の聖剣使いだそうです」
「え……。聖剣使いって……だって……」
「はい、ムラセス様の……息子です」
なんで……?
ムラセス様は、私によく息子さんの話を聞かせてくれた。
あんなに笑顔で。
大切な家族だとも言っていた。
……許さない
ムラセス様を……家族を裏切った聖剣使いを……。
私は絶対に許さない。




