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17話 『笑うピエロと堕天使』

 俺の頭の中はもうパニックだ。

 今目の前にいる17くらいの少女が、《笑うピエロ》のナンバー1で俺と同じ聖剣使いだと?

 もう、わけがわからなくなってしまう。


 俺が沈黙するのをラーシェは前から覗き込み、心配そうに見てくる。


 「大丈夫ですか?」

 「ああ……大丈夫だ……」


 と言っても、俺の頭の中はまだ混乱状態である。

 とにかく深呼吸して、心を落ち着かせよう。

 俺は大きく息を吸って、また全て吐き出した。


 少しは落ち着いたかもしれない。 

 

 隣を見ると、ミラノは話など一切聞かずクッキーを食べ続けている。

 お前にも関係があるかもしれないんだぞ。


 俺は紅茶を一口飲みコップを置く。


 「1つ気になるんだが、《笑うピエロ》のナンバー1でありながら、聖剣使いであるであることをどうして俺に教えるんだ?」

 「教えるって約束でしたから」

 「いや、そうだけど。何か別の理由があるんだろ? たったそれだけの理由で教えるようなやつが、《笑うピエロ》のナンバー1になれるわけがない」


 俺の視線とラーシェの視線が混じり合い、ラーシェは少しだけ顔に笑みを浮かべた。

 そして視線を俺から机に落とし、喋り始めた。

 

 「10年以上も前の話です。私は小さな村に住んでいて、ある日兄と一緒に2人で森に入りました」


 昔を思い出すようにゆっくりと喋り、俺には少し楽しげに見えた。

 その表情を見ると、ラーシェの楽しい思い出話を聞いているかのようだ。

 兄はそれだけ優しいのだろうか。


 「2人だけで森を進んでいき、興味本位で先が見えないほどの暗い洞窟に入りました。私達は戻らずに進んでいき、そして青白い光を放つものが見えました」

 「それがこの聖剣?」

 「はい。この剣は岩に刺さっていて、兄が引き抜こうとしましたが、この剣はびくともしませんでした」


 聖剣は選ばれた者しか引き抜く事ができない。

 たとえ、どれだけ鍛えてそれだけ剣を上手く扱えたとしても、聖剣に選ばれなければ抜く事ができないのだ。


 「それで兄と盛り上がって私が引っ張ってみたら」

 「抜けたってことか」

 「そうです。それで、私達はまだ幼かったし、小さな村だったから誰も剣に詳しくなくて、持ち帰っても誰も聖剣だとは気付きませんでした。

 それから私はこの剣が気に入って毎日を振るようになり、多少なりとも剣の腕を上げていきました。ですが……」


 そこで言葉を区切り、怒りと悲しみ、憎しみ、絶望、後悔、負の物の全てが混じり合ったような表情を浮かべ、机上で拳を握った。


 「とある国の騎士約100人くらいが、突如村に押し寄せてきて村にいた人を拘束し始めました。そして、騎士団長らしき人物が私の前に来て、この剣を渡せと言ってきました」

 「でも、ここにあるってことは……」

 「父が娘の大切な剣だから奪うな、と言ってくれたんです。しかし、父に腹を立てた騎士団長は、騎士達に向かって村人を全員殺すよう命じました」

 

 酷いな。

 聖剣を手に入れるために、村人を殺すって人のする事じゃないな。

 

 「私は真っ先に斬られそうになりましたが、父と母が庇ってくれて、それで……私は兄と共に逃げました」


 ラーシェにはそんな辛い過去があったんだな……。

 俺も父様を殺されたが、その時は今までにない程の怒りと悲しみを味わった。

 もしあの時、魔王に会うという選択肢を出さなかったら、自分が死んだとしても国王を殺していたかもしれない。


 「そして私達はなんとか町にたどり着き、そこでゴミを漁ったりして暮らしていました。兄が仕事をして、そのおかげで家を借りたり出来るようになり、生活に不便は感じませんでした。

 ですが、あの時のことはいつになっても記憶に残っています。目の前で殺された父と母。火で支配された村。一緒に遊んでいた友人の変わり果てた姿。一生消えることのない記憶です」

 「それは大変だったな……。でも、その出来事と《笑うピエロ》になんの関係があるんだ?」

 「私と兄はあの騎士達の事が気になり、調べたところ《堕天使》と繋がりがあったのです」

 

 《堕天使》とは、裏の世界を支配する巨大犯罪組織である。

 数年前は、《堕天使》の活動が活発だったが最近は何故か落ち着いてきている。

 

 「さらに騎士達だけでなく、国も《堕天使》と繋がっていて、その国以外にも《堕天使》と繋がっている国がありました」

 「え、てことはもしかして……」

 「はい。私と兄は《堕天使》及び、その組織と関わった国を徹底的に排除することを決めました」

 「でも、圧倒的に戦力不足じゃないか?」

 「その部分は案外問題なく解決しました。最初に潰した国には大勢の人や獣人の奴隷がいて、その奴隷達を解放したら仲間になってくれると言ってくれたので、一気に戦力を増幅させることが出来ました」

 「ということは、最初の国は2人で襲ったの?」

 「はい。少し苦戦はしましたが、小さな国だったので大丈夫かなと」


 いやいや、2人で国を潰せるって強すぎでしょ。

 ラーシェも十分強いと思うけど、兄はその倍くらい強かったのかな。





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