11話 『魔族と人間』
「人間を連れてこいって? ここに?」
「そうだ」
最初から断るのもなんだが、それは無理だろ。
人間と魔族は昔から争ってきている。
それなのに、魔王のところに行くぞ、って言われてついてくるバカなんていないだろうしな。
それに、あの国に戻っても俺の悪い噂が広がってるかもしれないし、どっちにしろ難易度が高すぎる。
「それは難しい」
「何故だ?」
「色々問題がありすぎる」
「そんな問題どうにもなる」
まだ、どんな問題があるか話してないだろ。
それに、クラティスの頭の中で、どんな問題が浮かび上がってるのか気になる。
どうせ、軽い問題しか浮かび上がっていないんだろうな。
「それに妾はお前と手を組むと認めたが、配下達が認めたわけではない」
「それとこれと、なんの関係があるんだ?」
「十分ある。もし、妾の配下が束になって襲ってきたら、お前は1人で対処できるか?」
「それは……」
どちらかと言えば、無理だろう。
まだ、3人なら相手にできるかもしれないが、あそこにいた奴らが同時に来たら、結構きつい。
「だからお前には仲間が必要なのだ。束になって襲えば殺せると分かっている相手に、協力しようと思わない。だから、お前には人間の仲間が必要なのだ。その人間共と協力し、妾の配下達を認めるのだ。それに、戦力を増やすこともでき、戦争を有利の進められる」
配下に認めさせるとか言っているけど、本当はただ有能な人材が欲しいだけだろ。
魔王が俺のことを認めれば、灰形も自然と納得するだろうし。
少なくとも、ほかの魔王の配下はそんな感じだった。
魔王はこの世界に何人もいる。
俺の国がある豪炎の大陸は、クラファスを含めて五人の魔王がいる。
本当は七人いたが、そのうち二人は今俺の目の前にいる魔王が殺してしまった。
そんなことは置いといて、正直クラティスの言うことも一理ある。
配下達が俺に協力してくれなければ、うまく復讐を進めることもできないし、もしかしたら邪魔をされるかもしれない。
だけど、今の俺が人間の仲間を作るのにも結構な苦労がいる。
ヴァラグシア王国は、あの最悪な国王が喧嘩を売りまくって様々な国と戦争をしたせいで、俺の顔は他国に知れ渡ってしまっている。
そんなところに俺が行ったら、どうなるかは簡単に想像ができる。
「やっぱりそれは無――」
「おい、お前達。何をしている。早く来い」
あいつどこ見て喋ってるんだ。
俺の話を遮ったかと思えば、俺ではなく遠くの方を見て喋っていた。
配下にでも連絡したのだろうか。
でも早く来いって、結構体ボロボロに――。
「遅くなって申し訳ございません。クラティス様」
背後から僅かな魔力が感じられ、後ろを振り向くと六人の魔族がクラティスに向けて跪いていた。
その中には、俺が人質に取った魔族もいた。
やっぱり幹部だったんだな。
「ティフォンの再生が遅いから遅れたんだからね」
「黙れミラノ。元はと言えば、お前がこいつに負けなければ、こんなことにはならなかったのだ」
俺が四肢を切り落とした魔族は、どうやらティフォンという名らしい。
それにしても、さっきからずっと睨まれ続けている。
「何言ってんのさ。勝てる雰囲気出しといて負けたくせに」
「俺はそんな雰囲気出していない。お前の勘違いだ」
「結局負けたけどね」
「やめろよ二人とも。クラティス様の前で」
人質に取った魔族に二人は静止を促され、お互い睨みながら言い合いをやめた。
クラティスは二人の言い合いを黙って見ていた。
だが、怒っているわけでも、楽しんでいるわけでもなく、我が子の喧嘩を見る親のように何故か見えた。
「お前達いいか。お前達の前にいる奴は、シノヴァクの剣を使う聖剣使いだ」
「シノヴァクの剣ですか!?」
「何それ?」
「ミラノ知らないの?」
シノヴァクの剣?
何だそれは。
俺達人間の間では、ただの聖剣としか呼ばれていなかったけどな。
聖剣使いは他にもいるらしいが、剣の一本一本に名前があったなんて知らなかった。
「それでこの聖剣使いだが。今日から妾達の仲間になる。仲良くするんだぞ」
「え?」
魔族達にしばらくの沈黙が流れた後、皆一斉に口を開き始めた。
「本気なのですかクラティス様!?」
「そいつ敵ですよ!」
「あぁ……クラティス様はおかしくなってしまわれたのか……」
目を瞑って頭を抱えながら座り込む者もいた。
でもこの反応当然だよな。
今さっき殺しあったばっかだし、人間と魔族は昔から対立している。
今頃手を組むなんて、頭がおかしくなったとしか思えないはずだ。
「お前達が認められないのは分かる。だが、聖剣使いが仲間になれば一気に戦力が上がる。そうだろ?」
「ですが、クラティス様。そいつは人間なのです。敵になるより、味方になられる方が危険だと考えます! だからどうか、もう一度考え直してください!」
ティフォンが汗を流しながら、必死にクラティスを説得しようとするが、それに首を縦に振ることはしない。
「考えた結果、聖剣使いを仲間にすることにした。でも、安心しろ。この聖剣使いは、今から人間の国に一旦戻る。だから、ミラノにこの聖剣使いの監視を命ずる」
「私!?」
俺の監視を命じられた魔族は、俺が殺さないように斬ったやつだった。
ミラノと呼ばれた魔族は、俺とクラティスを交互に見ると、ため息をついて下を向いた。
どうやら、嫌だとは言わないらしい。
流石に魔王の指示には逆らえないか。
「分かりました。しっかり監視します」
「正気か!?」
「だって、クラティス様の命令だもん」
クラティスにそう宣言した後、立ち上がって俺の前まで歩いてきた。
肩まで伸びる銀の髪が揺れ、紅の瞳の中にある十字架が俺を捉えた。
俺よりも少し身長が低いため、目を細めて下からジッと見てくる。
「名前は?」
「名前……?」
てっきり、お前を絶対殺してやるとか言われると思ってたから、聞き直してしまった。
「そうだよ。君の名前」
「俺の名前は、クリム・オーラだ」
「クリムね。私の名前はミラノ。よろしく」
そう俺に名乗りながら、俺に手を出してきた。
その手は、俺が剣と魔法で切断した腕だ。
なんかそうされると、どうしても握手するのに躊躇ってしまう。
「今度は、腕斬らないでよね」
ルビーのような瞳で俺を見てくると、顔を歪めて笑顔を浮かべた。
その笑顔に少し驚いたが、俺も手を前に出した。
「背後から急に、魔法を飛ばさないでくれよ」
俺もそんな冗談を言いながら、魔族に手を握った。




