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10話 『聖剣の観察』

 「そういえば、お前の名はなんというのだ?」

 

 透けるような青眼で、俺を見上げながら魔王はそう質問してくる。

 

 「俺の名はクリム・オーラだ」

 「なら、これからクリムと呼ぶ。妾の名は、クラティス・ブレン・フェルノンだ。妾のことはクラティスと呼ぶがいい」

 「皆さま付けで呼んでるのに、俺はいいのか?」

 「聖剣使いに様付けなどされたくないわ。それに、どうせ何も言わなくても、様などつけなかっただろうに」

 「まさか。こんな俺でも、魔王様には敬意を払いますよ。あ、様って付けちゃった」

 「鬱陶しいやつじゃの」


 まさか魔王とこんな会話するなんて、思いもしなかった。

 いつも会っていた時は、必ず戦場で殺し合い。

 俺が光之王を死ぬ気で使えば、魔王と互角に戦えるかもしれないが、戦場でそんな無駄なことはできない。

 必ず、実力が上位に来る騎士と5人で固まり、魔王と対峙していた。

 それでも魔王は、いつも余裕そうな笑顔を浮かべていたが、俺たちは結構必死だった。

 生きるか死ぬかの戦場で、魔王みたいに笑ってなどいられない。


 「クリム」


 唐突に名前を呼ばれて、俺は少し身構えてしまった。

 

 「何を身構えておるのだ。手を組んだばかりではないか」

 「そうだけど、体が勝手に警戒するんだよ……」


 俺の体は、そう簡単に魔王から警戒を解かないらしい。


 「安心するがいい。妾はお前が裏切らぬ限り、殺しはしない。裏切らぬ限りはな」

 

 睨んできながら、同じ事を2回も言わなくていい。

 聞こえてるから。


 「それでなんだ?」

 「その聖剣。見せてくれんか?」


 まだ一言もいいと言っていないのに、華奢な腕を前に出して受け取る姿勢をとっている。


 魔王に聖剣を渡すのか……。

 手を組んだとはいえ、少し抵抗があるな。

 魔王にとって聖剣は、木の枝のような存在なのかもしれない。

 もしそうだったら、俺に力を見せつけるためにポキっと折られてしまうかもしれない。


 でも、ここで渡さないのもなぁ……。

 信用を失ってしまうかもしれないし。

 元から信用はないけども。

 それでも、マイナスになってもらったら困るし。


 俺が渡すのに戸惑っていると、下から俺を見上げながらフッと笑った。


 「安心しろ。奪ったりはせん」

 「クラティス……もしかして、人の心を読めるのか……?」

 「そんなわけなかろう。お前の顔に書いてあったのだ」


 そこまでお見通しなら仕方がない。

 俺は聖剣を腰から引き抜くと、色白く細い腕に渡した。

 聖剣を受け取ると、色々な角度に傾けて光を反射させたりしていた。 

 光を反射させると、聖剣は金に輝いてクラティスの顔を照らした。


 この剣をそこまで観察することはないと思うんだけどな。

 いつも腰に差している俺でさえ、そんなに観察したことはない。

 

 「この剣……二つもあるのか」


 クラティスは剣を眺めたまま、独り言のようにそう呟いた。


 「その聖剣は一本しか存在しないぞ」

 「一本? もしかして、気付いておらんのか?」

 「何のことだ?」

 「この聖剣は……まぁ、いいだろう。自分で気づけばいい。そっちの方が面白いしな」

 「なんだよ。教えてくれったっていいだろ」

 「断る。妾は教えぬ。自分で頑張るがよい。返すぞ」


 剣を差し出しながら、クラティスは笑う。


 こいつ性格悪いな。

 流石魔王だ。

 結構大事そうな事を教えてくれないとは。

 

 俺は聖剣を受け取って、腰に差す。


 「そういえば、妾とお前は手を組んだな」

 「そうだな」

 「妾はお前の復讐に付き合ってやる。でもその代わり、妾達にも付き合え」


 確かにそうだな。

 手を組むということは、お互いに協力し合うこと。

 俺に復讐を手伝ってもらうのだから、出来る限りクラティスの言うことに従わなければならない。


 「わかった。それで、俺は何をすれば良い」

 「話が早くて助かるぞ。今妾達は六つの国と戦争をしておってな」


 流石に戦争しすぎだろ。

 よくも攻められずにいられるよな。

 一体どれだけの魔族が相手しているのだろうか。


 「それで人数が足りないのだ」

 「……」


 何か嫌な予感がする。

 俺のこういう時の予感は、何故か当たってしまうのだ。


 「クリムのように、強い人間を連れてこい」

 「そんな無茶な……」


 やっぱり悪い予感は、当たってしまうのだ。


 

 

 


 

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