77話 背筋が爆発して死ぬ
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「いらっしゃいませ」
雑貨屋ぐれ〜ぷに入ると、カウンターにはぐれーぷさんではない人が立っていた。NPCでも雇ったんだろうか。
カウンターに入ってぐれーぷさんの部屋に行っても何も文句を言われない辺り、僕のことは教えられてるのか僕でなくても何も言わないのか。
「納品納品〜」
ぐれーぷさんの部屋に設置してある納品ボックスを開き、ポーションを入れようとするとメッセージが届く。
《『アリス』からフレンドメッセージが届いています》
【アリス:今暇か?どこに居るんじゃ?】
ポーションをボックスに入れながら雑貨屋ぐれ〜ぷに居るという返事を送る。僕に用があるなら来るだろうし、ここで待つか。
待機中は暇なので、師匠から貰った魔術の本を読んで時間を潰しておく。
「ええじゃろ別に! 我だってお得意様じゃろが!」
思ったより色々と属性があるんだなーと読んでいると、店の方からアリスさんの声が聞こえてくる。本を閉じてインベントリに放り込んで見に行くと、先程の店員のNPCに止められているようだ。
「どうしたんですか?」
「おぉ、リンよ! …お主、随分と様変わりしとるな」
アリスさんの視線が僕の頭に集中している。様変わりというのはエニグマから貰ったゴーグルや、アクアさんから貰った髪飾りの事だろう。
そういえばアリスさんと最後にあったのは巫女服を着せられた時…夏祭りに行った日より前だし、何日か会ってなかったな。
「それより聞いてくれ、此奴が関係者以外は入れないって言うんじゃ!」
僕は関係者になっているのか。確かにポーションの取引先ではあるけど。
それならアリスさんとも取引してるって言ってたし、アリスさんも入れてもおかしくは無いのだけども。
アリスさんもぐれーぷさんの部屋に入れるように店員に言ってみるが、それでも「店主からは許可されてないので…」と止められてしまった。
仕方ないのでアリスさんの店に移動する。
「今日はどうしたんですか?」
アリスさんの店である「不思議の国」に到着し、中に入ってから応接室らしき所で椅子に座らせられる。
「先ずはいつもご利用ありがとうございますなのじゃ」
「…はい?」
「リンには服の依頼も貰っとるし、試着もしてくれるし…。謝謝」
「しぇいしぇい」
「感謝じゃ」
「なるほど」
つまりどういう事だろう。
「そして! 製作依頼と試着の分、セーラー服、軍服ワンピース、メイド服、巫女服、スクール水着。5着達成を記念して!」
「はい」
「無料で1着作ってやるのじゃ!」
「わーい」
喜んでみたものの、別に欲しい服はない。軍服ワンピースをとても気に入ってるから、最初に依頼を出した白衣を着ることもあんまりないくらいだし、これ以上増えても…という感じではある。
「これはリンが軍服ワンピースしか着ないからじゃな」
そう言われましても。
巫女服とメイド服は動きにくいし、白衣はたまには着てる。水着は泳ぐ時しか着る必要ないから普段着ないのは当たり前だ。街中で水着で歩いてたらただの変態でしかない。
「我は考えたのじゃ。我があげた服を着ないならリンの要望に沿った物を作れば着てくれるんじゃないかと」
「動きやすくて客観的に見て変でなければ何でも」
「なぁぁぁんでそう無頓着なんじゃお主は!」
だって軍服ワンピース可愛いしカッコイイし動きやすいしの三拍子揃ってるから変える必要ないんだもん。
「いいから要望を出せい!」
アリスさんがテーブルに膝を乗せて僕の肩を掴んでくる。
要望。そう言われても、本当に欲しい服がないので何とも言えない。強いて言うなら、戦闘用の動きを阻害しなくて防御力があるような軽鎧とかそういうもの。
だが軽鎧はおそらくアリスさんの専門外。言っても仕方の無いことだ。
「あー…えっと……ちょっと待ってくださいね………んー…」
段々と肩に掛かる力が強くなってきて、顔も近付いてくる。「はやくしろ」という威圧がひしひしと伝わってくる。
何とか時間を稼ぎながら思考を巡らせ、それっぽい提案を考えてみる。
……ダメだ、思いつかない。さっき言った「動きやすくて変じゃなければ良い」が全てだった。
しかしそれを言っても同じように返されるだけだ。何とかそれっぽくて僕が着て変にならないような事を言わなくては。
「…あ、スカートじゃなくてズボンが欲しいです」
「ほうほう」
ようやくアリスさんの手が肩から離れる。肩が痛いというか重いというか、掴まれていた時の感覚がまだ少し残っている。
アリスさんはメモを取り出して何かを書いている。たまにメモを取るのをやめ、チラッと僕の方を見てまたメモを続けるのを繰り返しているので、僕に似合うような服の構想を練っているのだろうか。
「了解じゃ、お主の要望は確と受け取った。して、まだ終わりじゃないんじゃよ。だから帰ろうとするでない」
まだあるのか。用事も終わったし弓の練習とかエニグマとアズマを誘ってクエストに行ってみよーと立ち上がったが、アリスさんの言葉でまた座る。
「実は我でもお主からでもない服のリクエストがあってな。ちなみにリンに渡して欲しいと」
「えぇー…」
「これじゃ」
アリスさんが取り出して渡してきたのは真っ白で薄い布…じゃなくてワンピースと言われる服。布と間違えるくらいには白一色だし、何より軽い。
「誰からのリクエストなんですかこれ」
「それはちょっと言えんのじゃ」
匿名なのか、そういうサービスなのか。はたまた名前を口に出せないような人……って、そんなの居ないか。
ワンピースと言えば、前にブランとアリスさんが何か言ってたような…? いつどこでどんな話をしていたかは忘れたけど、話してはいた気がする。
「着るんですか、これ」
「うぅ…む」
どっちなんだ。
「まあ着たくないなら着なくても、って感じじゃな。我のリクエストじゃないからそこまで。着るんじゃったらモチのロン撮るが」
「あ、じゃあ着ないです」
態々着る必要はない。というかこのワンピース、スカート部分の反対側、つまり肩の所が紐しかないんだけど。肩とか胸元とか出てるの?
それはあんまり着たくないな。
「では帰りまっすー」
「また連絡するぞ」
アリスさんの店を出て、ルグレでやることも特に無いので少しぶらぶら歩く。露店を見たりするけど特に変わってないし。
そういえば星水の取引先である黒軒さんの店は気になる。前にぐれーぷさんに連れてきてもらったので流石に迷わずに来れた。
黒軒さんの店に向かうと、まあまあ人が居る。持ち帰りのサービスもあるらしい。繁盛してるのは確認出来たし、星水のジュースだけ買って帰ろう。
その後は教会へ向かい、クランハウスへ転移する。
ホールではエニグマとアズマ、エアリスさんが同じテーブルを囲んで座っていた。アクアさんとクロスくんの姿は見えない。
「何してるの?」
「見て分からんのか。ポーカーだ」
いや見ても分からないけどそんなの。
エニグマが言ったのが嘘でなければ、3人はポーカーで遊んでいるようだ。なんか、エニグマっていつもトランプ使ってるような。
「やるか?」
「ルール分かんないけど」
「ババ抜きにでも変えてやるよ」
そう言うと持っていたトランプと、テーブルの上に置いてあった山札を併せ、アズマとエアリスさんが持っていたのも回収してシャッフルを始める。
参加するとは言ってないのだけれど。まあ、参加しないとも言ってないし暇だしやるが。
エニグマとエアリスの間、アズマと向かい合うように椅子に座る。エニグマがシャッフルしたトランプを1枚ずつ配り、それが終わるとジャンケンをして順番を決める。
エアリスさん、僕、エニグマ、アズマという順番になった。エアリスさんが僕のを引いて、僕がエニグマから引けばいい。
「エニグマ達ってイベントのクエストやった?」
「俺はまだだな」
「オレは昨日やったが」
「あたしもまだね」
アズマだけ既にやっているようだ。
「どんなの?」
「ギルド職員から説明聞かされるだけだが」
ダイヤのJは…あった。
アズマの話を聞く限りでは戦闘はないので、僕1人で行こうがパーティーを組んで行こうが変わらなさそうだ。話されるだけなら報酬とかも無さそうだし、別に行かなくても良いかも。
「報酬ってあんのか?」
「無い」
「ならアズマ、説明よろしく」
エニグマがアズマにクエストで聞いた内容を話すように促す。報酬が無いなら面倒だしギルドまで行って話を聞きたくないから、アズマの話を聞くだけで良いというのは楽だ。
「モンスターが大量発生する時期があるらしい。それが予言かなんかで近付いてるって分かったんだとさ」
あ、ジョーカー引いた。エニグマが引いて…はくれないか、流石に。手持ちはまだ4枚あるし、その内に引いてもらえればいいけど。
「で、そのモンスターが大量発生する時期は稼ぎ時でもあるし、より多くの人により多くのモンスターを狩ってもらって素材を売ってもらおうってので冒険者ギルドが討伐したモンスターの種類や数に応じてポイントを与え、そのポイントでアイテムと交換出来るようにしてる…とかなんとか」
「モンスター倒したらアイテムと交換出来るポイントやるからいっぱい倒してこいって?」
「そんな感じ」
アズマの説明をエニグマが短くまとめる。
イベント開催期間中にモンスターを倒せばポイントが貰えて、そのポイントでアイテムと交換出来るのか。このイベントを頑張ってやるかどうかは交換出来るアイテムによるかな。
「何と交換出来るか次第だな。イベント限定武具だとか称号、スキルなんかはありそうだが」
あー、そういうのもあるのか。
限定という言葉には唆られる。別にそのアイテムやスキルなんかを持っていなくても特に問題が無かろうとも、限定というだけで欲しくなる。典型的な「限定って言葉に弱い」タイプなんだろう。
ハートの7。ペアは出来たけどジョーカーは引かれないな。
「モンスターの種類でポイントが変わるのは気になるな。リソースのバランスを考えると強いモンスターはポイントが多くなると思うが」
「リソースのバランス?」
「弱いモンスターも強いモンスターもポイントが同じなら弱いモンスター倒した方が楽だろ?」
理解した。遠回しな言い方だから分からなかっただけで、ちゃんと言ってくれれば分かる。
確かにルグレ周辺に生息するモンスター達は初心者でも倒しやすい強さになっているけど、ポイントが同じだったら他の街で活動しているプレイヤーもイベント期間中だけルグレに移るかもしれない。
サスティクとかで活動している人くらいならバジトラやルークスにいるモンスターでも倒しやすいかもしれないけど。とにかくポイントが同じならルグレ周辺で人が密集するのは簡単に予想出来る。
「ポイントを効率よく集めるのであれば活動場所を考える必要も出てくるな。それなりに強くてポイントが高いが倒すのも簡単なモンスターが湧く、人が少ない場所。これは理想の形だから幾つか条件が当てはまれば良い」
「サスティクのダンジョンは人が多いから厳しそうね」
「だな」
スペードのK、ペアが出来た。残ったジョーカーはエニグマに引かれて手持ちが無くなったから上がりだ。
「どこ行く? バジトラの鉱山は人見なかったよ」
「いや、あれは無理だ。俺の背筋が爆発して死ぬ」
…?
背筋が爆発して死ぬってどんな状況なんだ。「背筋が冷える」みたいなのは感覚的に分かるけど、爆発することあるのか…? いや、冷静に考えて有り得ないけどさ。
爆発するかは置いといて、エニグマは虫が苦手だからだろうか。バジトラの鉱山にはでっかい蟻が居る。それを嫌って、という事なのでは。
「まあ場所はどうであれ、パーティーは組んだ方が良いかもな。パーティーなら強いモンスターも比較的楽に倒せるし、その場合ポイントも全員同じだけ貰えるだろ」
「別に1人で倒しても構わんのだろう?」
アズマが変な口調になった。それ前に聞いたな、確か死亡フラグ?
「はい上がり」
いつの間にかエアリスさんも上がっていて、エニグマも今上がりだ。最後までジョーカーを持っていたアズマが最下位という事になる。
「まだやるか?」
「いや、訓練所で色々やってくるよ」
「うぃ〜」




