63話 クラン加入RTA(1)
「さーてーとー…」
昨日の祭りでエニグマからイベントがあると聞いたし、準備をするべき…なのだが。
如何せん情報が少ない。イベントの概要としては……収集イベントという事だけか。昨日エニグマが言っていた通り、採取かもしれないしモンスターを倒してドロップアイテムを集めるのかもしれない。
情報が少ないと何を準備するか悩むのだ。
「戦力は強化しておいて損はないかなー」
採取にしても確実に安全というのは無いだろうし、モンスターと戦うにしても強くて損はない。あまりにも平和だから昨日は思いつかなかったが、対人戦である可能性も0ではないし。
「ステータスで言うと魔法系…」
僕のステータスはAGIとINTにしか振ってない頭の悪いステータスだ。AGIは置いておくとして、INTに振った場合は魔法攻撃力が高くなるのと、MPの最大値が上がる。
ほとんど街に引きこもって戦闘をしないし、戦闘をしても周りの人に任せっきりになる場合が多い。鉱山然り湖底遺跡然り。
戦闘をしないからあまり意識しなかったが、防御力が皆無な僕が戦いの中で生き残る術は思いつく限りで2つある。
防御力が低ければ当然、相手の攻撃がダイレクトにHPを減らす事になる訳で、物理防御のVITも魔法防御のMNDも壊滅的であるから攻撃を受ければ少し強いくらいの相手でも余裕で死ぬだろう。だから攻撃を避ける。そうすれば死ぬことはない。
しかし避ける、よく言う「当たらなければどうということはない」というのにも限度はある。めちゃくちゃ広い範囲の攻撃だとか、反応できない速度の攻撃だとか。
それでもう1つ思い付いたのが、攻撃される前に敵を倒す事。全てに噛み付く狂犬のように攻撃的であり、それを実行できるほどの火力と速さを必要とするが、魔法攻撃力が高いという点においては不可能ではない。AGIも高いし。
僕は魔術を使うから、魔法の弱点である詠唱も必要ないし、敵を発見してすぐに攻撃に移れるという速さは持っている筈だ。あとはそれで敵を倒す火力。
「となると、いつも通り魔法陣の開発と量産かなぁ?」
魔法陣は作って試してを繰り返して、使える物は分かってきているが、それを続けて使える物をピックアップして量産すれば良いかな。
…ん? いや…
「同期みたいな魔法陣に直接影響する効果を持つ魔法陣もあるんだから強化の魔法陣があっても何ら不思議ではない、か…?」
師匠から借りた本にはそんなの無かったけど、同期があるんだし強化があってもおかしくはない…かもしれない。
では考えてみよう。同期の魔法陣は鎖、或いは爆弾と導火線だった。絵のイメージは繋がりとか、連鎖といった物だと思う。
じゃあ強化は? イメージから行くと、強化は倍増とか補うとか、かな。それらを表す絵というと…加減乗除のうちの加と乗の記号とか?
つまり「+」か「×」で良いのかな?
成功するにしても失敗するにしても、試せることは試した方が良い。
「2倍にしておこう」
見慣れた、比較しやすい魔法陣、火の槍。その魔法陣の中に「×2」という魔法陣を描く。魔法陣というか数式? だけど。
魔法陣自体は完成。MPを込めると、いつもより消費が多い。MPを全て使い切り、HPも少し減った。
「期待して良いのかな…」
「サスティクの時間だオラァ!」
「え? 何?」
急にエニグマが現れ、僕を抱えて雑貨屋ぐれ〜ぷを出る。
されるがままに抱っこされて教会まで来て、言われるがままにバジトラへ移動する。そしてそのままアズマと合流し、馬車に乗らされる。
「え? 何?」
「サスティク行くぞ」
「え? 何で?」
「クラン作ったのがサスティクだから入るのにサスティクに来なきゃいかんのだ」
「へぇ。何でアズマは喋らないの?」
「最近はロールプレイで鎧を着てる時は喋らないんだよそいつ」
なるほど。
そういえば肌も顔も見えないプレートアーマーだからアズマと認識していたけど、よくよく思い出したら前と鎧が違う。前は無骨な鎧だったのに、今のは彫刻が入って少し豪華になっている。
それでも最初に言ってたマントは追加されてないのか。
「…いやさ」
あまりにも急展開で忘れていたけど、魔法陣の実験に行こうとしていた所だった。
「そうか。クランハウスにそういう施設を追加できるが…要るか?」
「I need it」
「なんで英語なんだよ」
そんな便利な機能があるのか。クランハウスというからにはクランのメンバーしか入れないだろうし、人目も気にする必要も無さそうだ。
問題があるとすれば、ぐれーぷさんにポーションとかを売る必要があるからルグレからのアクセスか。ルグレからサスティクまでは街2つ。片道で1万ソルも使うことになる。中途半端な量だけ持っていくと移動だけで稼ぎの大半を使ってしまったり、そもそも赤字になる可能性さえある。
「バジトラからサスティクの間のボスは?」
「でっけぇ鎧」
「鎧?」
「リビングアーマーって言うんだったか? 生きてる鎧だな」
「一体だけ?」
「そうだ。その分強いぞ」
分類的にはどういうのだろう。リビングアーマーと言うからには鎧自体が生きている、幽霊系のモンスターだろうか。それかゴーレムとかそんな感じの。
どちらにせよ目はない…と思うから閃光玉は使えない。逆にアズマとエニグマの視界を遮ってしまうだけだ。それと同じ理由で呼吸器系もないだろうし、毒煙玉も効かなそうだしアズマ達の邪魔をするだけだ。
となると、アイテムを使って戦闘するのには少し無理がありそうだ。そうなれば使えるのは消去法で魔術くらいしかないが、鎧に効果的な属性って何だろう?
「鎧に有効的な属性って?」
「あ? あー、中に人が入ってる場合は、まあ素材の電気伝導率にもよるが…大抵の鎧は金属だし、伝導率も高いから雷属性が有効かもな。熱伝導率もそうだから火属性も有効っちゃ有効か」
なんか思ってたより物理的な回答が来た。
「あと、鉄には低温脆性ってのがあってな? 一定以下の温度になると脆くなって割れるようになる特性があるんだ」
「鉄なの?」
「さあ?」
何で知らないんだよ。勧めるんだからてっきり鉄の鎧なんだと思った。
「まあ鋼も大体鉄。低温脆性が無いのは面心立方格子……まあ銅とか銀とか金だし、強度を考えると鉄は使われてるだろ。ゲーム特有の鉱石は知らんけどな」
ゲーム特有というと、閃光玉に使っているリアダントクリスタルみたいなものだろうか。あれ、結局ネットとかで調べても何も出ないんだよね。むしろ検索ワードを間違えてるんじゃないかと訂正が来るくらいには何も引っかからない。
まあ、鎧には氷が効くかもというのが分かっただけでも良かった。氷属性の魔法陣は幾つかスタックもあるし、全く役に立たない訳では無さそうだ。
…と、思っていたんだけどな。
「…」
アズマが何も喋らずに盾で鎧を殴り飛ばし、ガラガラと大きな音を立てながら崩れていく。
やはりレベル差の暴力というのがある。アズマとエニグマは既にサスティクに行く為にこの鎧を倒しているだろうし、サスティクのダンジョンは難易度が高くて未だに攻略が終わってないと聞く。難易度が高いというのは様々な要素があるだろうが、分かりやすいのは敵の強さ。敵が強ければそれほど倒した時の経験値も多く、レベルは相当上がっている筈だ。
だって戦闘時間1分も無いもんね。アズマが攻撃を防いで、エニグマがでっかいハンマーで吹き飛ばして、そこにアズマが追撃で盾殴りしつつ攻撃を防いでを何セットか繰り返して終わりだったし。
「僕の出番…」
「おら行くぞ」
「…うい」
結局、馬車から出て乗っただけだ…。




