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59話 採掘


 幽霊を視認できる条件を考えた事が無駄足だったとしても、疑問は残る。

 まだ幽霊とは確定してないが、視認に条件が必要というのは普通のNPCではないし幽霊という事にしておくとして。


 何故幽霊が居るのか。それが最大の疑問である。

 ここは鉱山だ。それも廃れた物ではなく、まだまだ現役の。

 幽霊というのは墓場だとか廃校だとか、薄暗くて廃れている所に出てくるイメージがある。鉱山の中も薄暗いといえばそうだが、廃れてはいない。

 そして幽霊達の格好。土で汚れた薄い服に金属製のヘルメット、手拭いのような物を首に掛けている。更にピッケルを肩に担いでいるのを見るに、幽霊は鉱夫だったのだろう。

 幽霊についてあまり詳しくないので曖昧ではあるが、この世に未練が残ってたり怨念があると幽霊になる…とかだったような。しかしすれ違う幽霊達は何かを恨んでるように見えないし、ブランが見えていたなら普通に鉱夫と思い込むくらいには違和感もない。


「凛姉、何か来る」


 度々横を通る幽霊を見て考え事をしていると、ブランが警告をした後、魔法の詠唱に入る。

 幽霊を認知できないブランから警告という事は、多分幽霊ではない別の何かだ。無害な幽霊を除いて、鉱山で初めてのエンカウントという事になる。


 ブランの詠唱が3個目に入った所で、薄暗い通路の奥から出てきたのは、物凄くデカい蟻だった。触角が生えている高さが僕の視線より高い。


「『凍結解除』!」


 僕が蟻を確認したと同時に、ブランが放った3つの魔法を受けて吹き飛ばされ光となって消えていく。


「わお」


 手を出す間もなく、蟻が行動してくることもなく戦闘は終了した。蟻が消えた所には、ドロップアイテムとして黒い殻のようなものが落ちている。

 アイテム名は「アーマーアントの甲殻」。大きさの割に軽いけど、かなり硬いので防具とかに使えそうだ。


「アーマーアントかぁ…」


 これ、僕は特に問題ないが虫が苦手な人からしたら地獄なんだろうな。

 ドロップアイテムの甲殻は譲ってくれるそうなので、使うかは別として貰っておく。


「そういえばさ、何で来るって分かったの?」


 ブランは探知スキルを持っていないのに、僕よりも早く気付いていた。僕が考え事をしていたというのもあるが、そうだとしても蟻は出てくるまで見えなかったので気になる。


「魔法」


「そんな魔法あるんだ」


 便利だな、魔法。


 それはそうと、蟻と戦った辺りから見かける幽霊の数が減っている。

 蟻とは何回か遭遇して、その度にブランが先手を取って魔法で倒しているが、幽霊とは4人しか会ってない。幽霊も蟻に攻撃されるとか、幽霊が生きていた時も蟻はいて、蟻を避ける習性が残っているとかだろうか。

 幽霊が居ることも何か理由があると思うんだけど…。


「視認条件も関係あるのかな…」


 ブランと合流するまでの空き時間で、露店を回ったりしていたが、幽霊が居るという話は聞かなかった。ごく普通の、当たり前の事ならば別に言わなくてもいいだろうとなるけど、幽霊って別に一般的ではないような。

 だとするとバジトラの人達も幽霊が居ることに気付いてないのかもしれない。更にそうならば、店にスキルオーブを売っているような探知スキルは視認条件ではない?


 何か特別なクエストが幽霊に関係しているとして、その最終目標は何で、誰から依頼される物だろうか。

 普通の人が視認できないのだとしたら、幽霊が見える人、或いは幽霊自身から?

 幽霊が望む事というと、成仏とかかな。

 しかし幽霊達は困っているような素振りも見せないし、クエストがあるかも分からない。


 そもそも無害だと決まった訳じゃない。中立の存在で、何かしたら敵対するようになるとかもあるかもしれない。


「うーん…」


 ブランが言うように、襲ってこないならそれで良いだろう。クエストがあるかどうかを探したりするのは、1人の時に気が向いたらやろう。

 というか、かなり遅れてるんだから先駆者に幽霊を見える人がいるだろうし、掲示板とかに情報があるかもしれない。後でエニグマに聞いてみるか。


「考え事は終わった?」


「うん」


 ブランと目が合う。もしかしてずっと見られてた?


「…採取ポイントとやらも見つからないし」


 目と話題を逸らす。

 しかし採取ポイントが見つからないのは本当だし、せっかくピッケルを買ったのに見つけられずに帰ったら意味が無い。


「壁とか掘ってみたら?」


「流石にそんな適当にやってあるわけ無いでしょ」


 と言いつつも、そうだったら勿体ないのでピッケルを取り出し、手近な壁に打ち付けてみる。

 ポロッと小さい岩が壁から地面に落ちて、拾い上げてみると『鉄鉱石』というアイテムだった。


「…あるんかい」


 ただの壁で、採取ポイントには見えないのだが、見た目に騙されていた。

 続けてピッケルで壁を掘っているとポロポロ鉄鉱石が落ちてくる。今のところ鉄鉱石しか落ちないが、エニグマから石炭もバジトラの鉱山で採れるという話を聞いたような気もする。場所の問題だろうか。

 興味本位で鉱山まで来たから、鉄や石炭の使い道はどうするかと考えていると、システムメッセージが新たなスキルの取得を告げる。


《スキル:『採掘』を取得しました》


「おお…」


 メッセージが来た瞬間に、その影響が目に見えて分かる。比喩とかではなく文字通りに。

 掘っていた所を含め、1部の壁が薄く光っている。恐らくこの光っている部分が、所謂『採取ポイント』なんだろう。

 試しに光ってない部分の壁にピッケルを打ち付けてみるが、壁に突き刺さって終わりだった。掘っていた所とは別の光っている壁は、ピッケルを打ち付けると鉱石が落ちてくる。


「あ、銅鉱石」


 さっきの採取ポイントは鉄だったが、これは銅だ。

 採取ポイント毎に出てくる物も違うのか? それは気になるな。


「ブラン、色んな所掘ってみたいんだけど、いい?」


「いいよ」


「ありがと」


 よし、いっぱい掘ろう。









****








 鉱山に入ってから数時間、採掘スキルを手に入れてから目に付いた採取ポイントへ駆け寄って全て掘っていた。


 そして気付いた。鍛治系統のスキルを持ってないからこれだけ採ってもそこまで需要がない事に。

 とは言うものの、売ればそれなりのお金にはなるかもしれない。なんか勿体ないから売らないけど。


 入手した鉱石は鉄だけでなく銅や銀、鉛もある。

 掘っていると稀に岩が落ちてきて、それを削ると水晶や属性系のクリスタルが出てきた。その中に「リアダントクリスタル」という、聞いた事もない物があった。これについては暇な時に調べてみる。


 かなり長い間掘っていたが、蟻はブランが全て倒してくれていたらしく、襲われる事もなかった。

 なかったのだが…。それはそれとして、不思議な事はあった。鉱山に入ってから幽霊とは会ったが、人とは会わなかった。

 ゲームといえど、生産に必要な素材は湧いて出るような物ではない筈だ。当然誰かが採掘しに来るものだと思っていたが、実際に誰とも会ってないのは何か理由があるのか。

 湖みたいに、特殊な条件を満たす場合のみ行けるような場所に迷い込んでしまったとか?


 ……ブランの後ろを着いていってるが、出口まで来た。ここまで特別な道はなかった。変な道は通ってないし特殊マップとかはない気がする。


「ちゃんと戻ってこれたー!」


 多分1人だったら絶対戻ってこれなかったかな!


「これからどうするの?」


「んー、バジトラの店とかを適当に見てからルグレに戻ろうかな。ブランは?」


「一緒に行く」


 別に無理に来なくても……いや、本人が来るって言ってるし、バジトラは道を覚えてないから1人だと多分迷うし来てもらうか。

 まさかこのゲーム始めてからやたらとブランが一緒に来たがるのって僕の事心配してたから…?


 そんな酷かったっけ、僕の方向音痴。


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど 友人二人も、あまりの方向音痴加減に心配して、街の外の移動には付いていくのね……………ww
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