56話 突然の死
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鍛冶や裁縫のスキルを取って自分でやろうとちょっぴり思った。まあ無理なのだが。
無理な理由として、1番大きいものは「錬金術で手一杯」というのがある。調薬にしても合成にしても、星占いにしても何ができるか、何ができないかを理解しきれていない。初級等価交換は…放置で。
この理由が真っ先に出てきて、他の生産スキルの取得はやめた。しかし諦めたわけではない。いつか、やれるという自信が出た時にやろう。
「明日へ向かおうランララン〜」
あるかどうかも分からない適当な歌詞を適当に口ずさみながらスキップして街中を歩いていく。
目的地は店主さんからフレンドメッセージで伝えられた店。前に店主さんに渡した星水に関しての話を料理人とするために呼ばれたのだ。大通りという程でもないが、それなりに人通りのある道に面した場所に店はあるらしいので迷うことはないだろう。
話は変わるが、冒険者ギルドで売っているというマップを今度買おう。湖の件みたいなマップを所持していると入れないような条件がある場所は今後もあるかもしれないが、それよりもマップの見やすさが良い。スマホよりも小さく薄い板で、持ち運びも楽だ。
何故こんな事を思っているのかというと、長くなるのだが端的に言えば…
「迷った…」
お前何回目だよ。と自分でツッコミを入れたくなる。この結果から分かることは、やはり地図がある現代文明は最高ということだろう。
不幸中の幸いというべきか、全く知らない場所で迷った訳では無い。
今歩いているのは長々と続く裏路地、何回も繰り返し見た瓶に、苔が模様のようになっている壁、見るからに古い木箱や樽。前にも同じ道を同じように通っている。そう、ここは。
「逢魔の空間への道、ね」
「キュイィ」
うさ丸も同意している…のかな。
この裏路地を抜ける方法は知っている。前と同じであるなら、壁のどこかが通り抜けて、別の道へ繋がっているはず。
木刀を壁に押し付けながら歩いていると、高い音と共に引っかかる。そこを通っていけば、結構見慣れた師匠の家へと辿り着く。
「あれ? リン? どうしたんだいこんな時間に」
師匠のペットであるリスのリコが低木の枝の上から話しかけてくる。初めて来た時と同じように、迷子になってここに着いたという旨を伝え、黄昏の首飾りを使って雑貨屋ぐれ〜ぷに戻る。
「さて、もう一度」
ここから店主さんと料理人が待っている店まで行かなければならない。既に1回迷っているのに大丈夫なのか、という点だが、店主さんにメッセージを送って待ってもらおう。その時間でマップを買って店へ行こう。
なんて思っていると、1件のシステムメッセージが届く。
《称号:『迷い人』を獲得しました》
ほう。褒められてないというのは詳細を開かずとも分かる称号だ。
──
『迷い人』
ある種の才能として本人の意思に関係なく迷う救いのない方向音痴。
マップ所持不可。特殊マップ侵入条件緩和。
──
やはり褒めてない。というかマップ所持不可って…。
今から買いに行こうとしてたのに。ある意味完璧なタイミングではあるけども。
仕方ない、店主さんに迎えに来てもらおう…。
フレンドメッセージを送って迎えに来てもらった後、店主さんと一緒なら無事に店に到着できた。
その店では大柄な男の人が待っていた。プレイヤーネームは「黒軒」。この人が商談相手であり、早速話が始まる。
相手側は料理人であり、飲むとパチパチと弾ける食感の星水を使った商品を考えている。店主さんに渡していたサンプルを作って試作もしたらしく、それを飲ませてもらったりして決める。
僕にとってこの話は儲かるか儲からないかの差でしかないため、お金が貰えるなら割とどうでもいい。
しかし、試作品を飲ませてもらった感じでは、僕の舌がおかしくなければ売れるし人気になるだろう。
原材料である星水の入手ルートは恐らく僕からのみであり、ここで契約してしまえば今後他の入手ルートが出てきたとしても独占できる。契約にいつまでも取引をさせるほどの拘束力がないにしても、しばらくは稼げるだろう。
売れる。つまり儲かる。金の亡者になった訳じゃないがお金は幾らあっても損は無い。ファストトラベルでルグレからサスティクに行くとしても街を1つ跨ぐから1万ソルかかるし、今から貯めておくのもいいだろう。
そして何よりも、この話はこれでもかというほど上手くできている。原因は材料である水と星の写真だ。
水は瓶に入っているのを大量に所持している上に、湖などで回収できるし、水のクリスタルがあるのでMPがあれば生成できる。更に言えば、路地裏などでリポップする採取アイテムとして認識されており、雑貨屋ぐれ〜ぷで15本1ソルで売られている。プレイヤー人口が増えたせいで前より価格が下がった。
星の写真に関しても、夜の間に空を撮りまくればデータの確保は完了、それをプリンターで現像するだけである。店主さんにポーションを売るという契約を結んだ時に、希望の品を仕入れてもらうという話もしたが、一切使ってなかったため店主さんから珍しく文句を言われたため、プリンターを要求したらポンとくれた。2万5000ソルで。
だからわざわざアリスさんの所に借りに行く必要もないし、低コストで量産は簡単なのだ。
「じゃあそれでいいかな〜?」
黒軒さんと話す必要があるのか、というのは少し疑問ではある。
確かに、星水を飲料として売るのであれば味付けをする料理人が必要ではあるが、僕は店主さんに売り、店主さんが需要がある人に売るだけであり、そこの話は店主さんと黒軒さんですればいいのではと思うが。
需要があるなら作って売るだけだし、ないならないでポーションに混ぜて効果を上げるだけだから特に困らない。今回は需要があっただけだ。
「僕は良いですよ」
「私も大丈夫です。いやはや、有難いですね。売る前から『これは売れる!』と分かる物を売るチャンスを貰えるとは」
黒軒さんはおおらかな性格で、男の人なのに一人称が『私』だ。まあ、社会人なら珍しいことでもないのかな…?
だが、こういう優しいとか優しそうな人は怒らせると凄い怖いだろう。変な事はしないようにしなくては。
「決まり〜!」
「はい。では黒軒さん、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
人見知りがこういうのをやるのは辛い…。
いや、ここはいい経験になったとでも思っておくべきか。この先、店主さんを介さずにこういうのをやる機会もあるかもしれないし。
解散という事になり、黒軒さんは星水ジュースの正式な名前決めやメニューへの追加などを始め、僕と店主さんは店を出る。
「リンちゃん〜、黒軒の事は名前にさん付けなのに何でわたしは『店主さん』なのかな〜?」
「え?」
なんか怒ってる気がする。何故と言われても呼び慣れてるからとしか答えられない。しかし本人が怒ってる訳だし、いつまでも「店主さん」と呼ぶのは今後混合する可能性もある。
「じゃあぐれーぷさん?」
「うん、いいね〜」
ニコニコになった。店主さん呼びに慣れてしまってるから、しばらくは意識して呼ばないと間違えそうだ。
その後、ぐれーぷさんとも別れ、1人になる。
さて、何をしようか。
スマホにメモした内容のうち、ポーションの納品とアリスさんからの呼び出し、星水の商談は終わった。残りは錬金術記号の実験、バジトラの鉱山に行きたい。あとヒュプノスさんに呼ばれていたな。
ヒュプノスさんとはフレンド登録をしてないためニアさん経由でしか連絡できないが、現在ニアさんはログインしてない。友達らしいしアリスさんの方に連絡しておこう。
返事が来るまでは錬金術記号について調べてみよう。一昨日、遺跡の中でエニグマから貰った錬金術記号が描かれている紙はまだ持っているのでそれを参考にしよう。
フラフラと露店を見ながら適当に歩き、雑貨屋ぐれ〜ぷへと戻る。今回も迷って道から外れ、いつの間にか路地裏の方にいたが、まあ帰ってこれたし問題はないだろう。
「メッセージは来てない。よし、やるか」
エニグマから貰ったメモと白紙をテーブルの上に広げる。
そういえば、と太陽の記号である円の中心に点が描かれた物の性能を試してない事を思い出すが、アイテム欄を探しても見つからない。黄金のスライムを倒す時にアズマに渡した魔法陣の中に混ざっていたのか、我武者羅に攻撃してた時に使ったのか。
どちらにせよもう無いのだが。しかし使ったとしても、攻撃以外の結果は確認できてないので錬金術記号が表すのは太陽であり、金ではなさそうだ。
「あ、要素忘れてた」
円を描いて真ん中にくるくると点を加えて完成と思ったが、魔法陣には属性と要素が必要である。錬金術記号が、この場合は太陽を表し、太陽は火属性だ。
しかしそれだけでは属性のみであり、そこに要素を加える事で強化、または方向性の指定となる。
ただ、いつも通り槍とか刃を描いても面白くない。
「なんか面白そうな要素はーっと…」
要素を考えてみるが、中々思いつかない。
「…あ、そうだ。何か前に属性の合成できないか気になったけど試してなかったような」
数分悩んでも面白そうな要素は思い浮かばなかったが、代わりとなりそうな事は思いついた。
属性の合成。複数の要素を合わせて魔法陣が作れるんだから属性もできるんじゃない? といったものだ。
ただし属性同士というのは互いに大きく干渉し合う。火に風ならば火の力が強くなるだろうが、逆に火と水では火は消えるし、水も蒸発という結果で何も無くなる可能性もある。風と水なんかは分からないが。
考えただけでもパターンが沢山あり、どれをやるか悩んでしまうが、既に魔法陣に描かれた太陽の錬金術記号は火属性。兎に角水はなし、土や風はありと言えばありだが…。
「うーん…」
1番最初に頭に浮かんだ、同じ属性を複数描いた場合にどうなるかというのが気になるので太陽の錬金術記号を複数描いてみよう。
円と点を量産し、最初に描いたものの周りに5個描いたところでもういいだろうとMPを込めてみる。
「これで威力強化とかだったら使え──」
突然目の前が真っ白になる。
次に見えたのは、MPを込めていた筈の魔法陣ではなく、水。噴水の水だ。
「─る?」
突然景色が変わったことに戸惑い、辺りを見渡して確認する。
ここはルグレ中央の噴水広場、つまりこのゲームを始めて最初に降り立つ場所であり、死んだ時に戻ってくる場所。
厳密に言えば、リスポーン設定は最後に入った街であって、ルグレ以外で活動している人はルグレにはリスポーンしないのだが。まあ僕にとってはここがリスポーン地点だ。
そしてここに来る可能性として、確実に前者はない。つまり消去法で後者、リスポーンした事になる。
当然、死ななければリスポーンもしない訳だが。
「なんで死んだし…」
自覚がない。
暗殺という可能性も無くはないが、復活するプレイヤーをわざわざ暗殺する必要はないし、僕を倒しても得られる経験値は少ないだろう。
心当たりがあるとすれば、直前にやっていた行動、魔法陣にMPを込めていたこと。
髑髏を描いた魔法陣が完成せずとも、MPを込める時にMPが0になるとHPで肩代わりして魔法陣を完成させようとする。そしてMPやHPの減る速さは、大抵は総合的な必要MP量に比例する。髑髏だけが例外で、減る速度に対していつまで経っても完成しないが、他の魔法陣は必要なMP量に差異はあれど完成までの時間は同じだ。
もし、作っていた魔法陣にMPを込めた時、MPだけでは足りなくてHPが肩代わりして、0になって死んだとしたら。
それはこう、なんというかヤバイ。
先ず第一に、僕が認識できない速さで減った事になる。気付いた時には死んでリスポーンしていた。独り言の続きを噴水広場で呟いていた程に。
減ったのが一瞬。そして、髑髏のような例外を除いて魔法陣の完成に要する時間は、およそ5秒程度。仮に減るのにかかった時間が0.1秒だとしても50倍である。
昔、エニグマが話していたのだが、人間が1つの刺激に対して構えている場合、刺激から反応するまでの時間は普通の人では約0.2秒、早い人でも0.1秒らしい。もちろん待ち構えていなければもう少しかかるのだが、僕が魔法陣にMPを込め始めてから噴水広場に来るまでは一瞬、1秒にも満たなかったと思う。
要は、恐らく0.1秒よりももっと速く僕のMPとHPは枯渇し死んだ、だ。そうなれば当然僕が50人死のうがあの魔法陣は完成しない。
考えながら歩いて雑貨屋ぐれ〜ぷへと戻ってきた。流石に大通りから行けば迷うことはない。
「で、だよね」
借りている、ほぼ住んでいると言っても過言ではない部屋に戻ると、テーブルの上には魔法陣と錬金術記号が描かれたメモがある。
魔法陣を確認するが、完成はしていない。MPが足りないから当たり前だろう。
しかし現状、この魔法陣を完成させるのは難しい。何せMPとHPが減るというより、消えるという表現が適切な程までに速く無くなる。MPを少しずつ込めて回復を待ち、また込めるというのができず、込めようとしたら死ぬという理不尽。
「無理、かなぁ…」
HPとMPの総量、減る速さと完成するまで時間を考えると、必要なMPは数万、下手したら数十万、数百万まで行くかもしれない。
面倒なので計算を飛ばして僕のHPMPが大体300だとして、先程考えた0.1秒としても50倍かかり、300×50は15000。減少はもっと速いと予想しているので、そうならばもっと必要になるだろう。
「数十万単位のMPね」
呟いてみるが、解決法は何も浮かばない。
MPを生成する道具なんかがあれば話は別だろうが、そんなゲームバランスが確実に崩壊するような物があるわけない。いや、数十万単位のMPを使う魔法陣も恐らく十二分にゲームバランスを壊すだろうけども。
希望に縋るとすれば、ゲームでよくある神秘の泉的な、所謂パワースポットだろうか。あれば、だが。
「あると良いけど、あったとしてもだよねぇー」
そういうパワースポットって到達までの要求レベルが高かったりするだろう。少なくとも初期の街の周りにポンポンあるようなものではない。
このゲームではバリアのようなもので道が塞がれていることがなく、行こうと思えば何処へでも行けるらしいが、強いモンスターから隠れながらあるかどうかも分からない場所を探すには賭博が過ぎる。
まあ、結局解決はしない。
「放置で」
作りかけの魔法陣をインベントリに放り込み、新しい紙を取り出す。
まさか魔法陣を作っていて死ぬとは思わなかったし、結局属性の合成がどうなのか分かってない。もしかしたら属性の合成自体に多大なMPが必要であり、太陽の錬金術記号を複数描いた事でそれらを合成しようとMPが消えたが、合成しても火と火は火でしかないため威力は変わらない、とかもあるかもしれない。
だから、次はもう少し完成しそうな物を作ろう。属性は想像が簡単な火と風。錬金術記号は使わずにやるが、それでも想像通りになれば火の威力が上がるはず。
「おお、優しめの消費MPだ」
いや、要素を忘れていた…が、さっきもそうか。ならいいや。
消費はMPのみであり、HPまでは及ばなかった。とはいえ7割くらいは無くなったが。
性能は今度試してみようか。
書いてる途中に後書きとか何か書こうとは考えてるんですけど書き終わった時に何書こうと思ってたか忘れるんですよね。




