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52話 湖底遺跡調査(5)


「お前は知ってると思ったんだがな」


「何が?」


 そんな急に言われても。

 何についてだろうか。少なくともこの遺跡に入ってからは僕が知っていた要素はないのだが。


「さっきの記号だよ」


 さっきの記号…というと、結局属性の相性だった先程の謎解きだろうか。三角形が沢山並んでいたが、知っているなら最初から解いてる。エニグマからヒントを貰いながら考えて解いたというのは、まあ、そういうことだ。


「心当たりないのか?」


「あの三角形って何か意味あったの?」


「あるぞ。それもお前に関わりそうなのがな」


 僕に関わる? あの上向きだとか下向きだとか、横線が入ってる三角形が全て壁に描かれていたヒントから導き出した答えと同じように、世間一般的にも属性を表すとかだろうか。

 僕がその世間一般的を知らないのだが、そうなら魔術に使えるかもしれない。


「あの記号は錬金術記号って言ってな、まあネットとかで調べれば出るだろ」


「錬金術記号!?」


 それはとても興味深い。

 壁に描かれていた通りならば、上向きの三角形は火、上向きの三角形に横線が風、下向きの三角形は水、下向きの三角形に横線が土だろう。

 もしこれらを魔法陣に描いて成立するのであれば、一々火や水などを描く手間が省ける。錬金術の記号が魔術で適用されるかは分からないけども。


「それは凄いね、でも何で知ってるの?」


「錬金術について教えてやろうと調べてたらかなり前に1回見たのを思い出してな」


 ほれ、と言って紙を渡してくる。

 紙には先程、壁や石版に描かれていた4種類の三角形や、三日月、雄や雌を表す記号なんかも描いてある。書かれている補足説明で初めて知ったが、雄の記号はマスキュラ、雌の記号はフェミニンと呼ぶらしい。

 それらの中に、僕が自分で描いたことのあるものが1つ。

 円の中心に点を描いただけの記号、これは魔法陣に描いて作って試そうとしたけど効果が全く予想できず、迷子になって湖に出てヒュプノスさんと話してたりしてたら忘れて結局使えなかったやつ。この記号の意味は「金」、或いは「太陽」。


 アイテム欄からこの記号が描かれた魔法陣を取り出して、エニグマから渡された紙と見比べてみる。


「うん、やっぱり同じだ」


 サイズの違いはあれど、円の中心に点があるのは同じ。

 もし、この魔法陣が記号の通りの結果をもたらすのであれば、記号の意味と同じ金、または太陽と同等の属性を持つ。太陽というのは火属性魔術を作る時に使うが、適用された意味が太陽ではなく金だとしたら? 金の生成が可能になるとでも?


「待て待て、外でやれそれは」


 好奇心を抑えきれずに起動しかけたが、エニグマが止めてくれたおかげで使わずに済んだ。が、気になるのは変わりない。

 1週間以上前に作ったので正確には覚えてないのだが、この魔法陣はかなり多くのMPを持っていかれた印象がある。それでもまだ完成しない髑髏の魔法陣よりかは遥かに少ないが。

 仮に金などの物質の生成が魔術で可能だとして、それがどの程度のMPを使うかは分からない。


 金、太陽の記号にだけでなく、三日月は銀と月、マスキュラは鉄と火星、フェミニンは銅と金星など、色々意味がある。

 紙を読んでいくと、3が2つ並んで2本の横線が被せられているような記号があり、これの意味はなんと「塩酸」。その下には円を左右に2等分した線が引かれている記号、これは「硝酸」。

 塩酸と硝酸。これは以前、エニグマから戦闘に使えるアイテムとして教えてもらった王水の材料だった筈だ。王水は確か、大抵の金属を溶かし、人が触れると焦げて死ぬ水。

 非常に気になる。

 太陽と金を意味する記号が、成立したのは火属性を表す太陽だからか、それとも金なのか。太陽という惑星が属性を表す時、火属性になるが、月や火星、金星なんかにも対応する属性はあるのか。そもそも記号で魔法陣が成立するのかどうか。


「考えすぎじゃないか」


「んにゅ?」


 アズマに声をかけられて紙から目を離すと、壁一面に広がったスライムゼリーが。

 どうやら考えている間に戦闘があったらしい。振り返って後ろを見てみると、通路の至る所にスライムの残骸が張り付いている。勿体ないが、今更回収しに戻る訳にもいかなそうだ。


「にしても、随分進んでるな。戻んのめんどくせぇ」


 効果が切れたのでまた暗視ポーションを飲みながらエニグマがぼやく。その不満はもっともで、遺跡に入ってからもうかなりの距離を進んできている。道はエニグマが覚えてるだろうから問題ないが、ここまでで体感3kmくらいの道に更に続きがあり、探索が完了しても脱出手段が無かったり中断して引き返す場合はこの道を戻っていかなければならない。

 というか、この遺跡に終わりとかあるのだろうか。宝箱はたまに置いてあるし謎解き部屋もあるのだが、通路と部屋が連続してあるだけで終わりは見えない。


「ダンジョン脱出アイテムとかないの?」


「あるにはある。サスティクで売ってるのはクソ高い使い切りだから買ってねぇけど」


 つまりないらしい。まあなるようになる…と願おう。


 時々通路にいるスライムをアズマがシールドバッシュのスキルで倒し、暇があればスライムゼリーを集めて進む。

 段々と遭遇する頻度や数が多くなってきて、エニグマの出番も増えてくる。僕はやることがないのでスライムゼリー集めだ。

 スライム同士が合体したりする事はないが、数で押されかける事もしばしば。アズマが攻撃しながらヘイトを集め耐えているうちに、エニグマが数を減らして倒していくのが2人の戦い方。一緒にプレイしている時間が長いからか、喋らずにアイコンタクトで合図をしたりタイミングを合わせたりしているように見える。


「倒す数が多いから収集数も多いなーっと」


 スライムゼリーが沢山。相変わらず空き瓶は有り余っているのでずっと回収していられる。そのうちスライム作ってみたいなとか、スライムゼリーに味付ければ売れるんじゃないかとか考えながら拾っているが、スライムを作っても使い道がないし、そもそもこれ食べれるんだろうか。

 見た目は食べ物のゼリーだから害がなくて相当変な味じゃなければ、どうにか加工して売れるかもしれない。商売でいえば星水やポーションがあるからゼリーはやらないが。……いや、料理人に売ればゼリー食べれるのか…?

 前向きに検討しておこう。


 このゲーム、現実的な所とゲームらしき所の境界が分かりにくいのだが、遺跡に存在意義…というか、作られた理由とかはあるのだろうか。

 エニグマが宝箱から原初のフラスコを拾ってきた事、謎解き部屋で錬金術記号といわれるものが出てきた事、スライムが大量に出現する事を考えると錬金術師が関わっていてもおかしくはないかもしれないのだが。

 NPCが決定した意志の結果、この遺跡が作られたとしたら、そのNPCが作ろうと思った理由があるだろう。住処であれば過去に住んでいた者の遺産なんかがあるかもしれないし、何かを保存、または封印するのであれば最終的にそれが見つかるのかもしれない。

 進んだ距離を考えると、どこかへ繋がる通路という線もなくはない。謎解きやスライムがいるから可能性としては低いだろうが。


「んー、まあいいか」


 思考を放棄し、ゼリーを回収しながらスライムを倒しまくって無双状態のエニグマとアズマに着いていく。

 常に戦闘してるという程ではないが、1分も戦闘しない時間はなく、倒してから40秒ほどで別のスライムとエンカウントするくらいには間隔が短い。また1回の戦闘で出てくるスライムの数が多く、最初の方は1体だけだったのが今は最低でも4体はいる。

 しかしやはりレベル差の暴力と言うべきか、スライムはエニグマの攻撃を受けたら一撃で飛散してゼリーになる。


「適正レベルが低いのかな?」


 ゲーム的に考えるならば、初期の街であるルグレの近くにある遺跡だからだろうか。だが僕が知らなかっただけで大抵の人はマップを所持しているから湖には来れず、レベルが低いと道中の戦闘で勝てず湖に辿り着けないという条件があるため難易度が高くてもおかしくはない。運営の想定ではこの遺跡はもっと公になる筈だったのだろうか。

 逆に、現実的な考えを当てはめるのであれば、スライムは遺跡の製作者が配置したモンスター、それか勝手に住み着いたモンスターである。錬金術記号の謎解き部屋の少し前くらいから急に現れ始めたので恐らく前者だろう。

 意図的に配置されたモンスターならば、数が多いのにも理由があるかもしれない。この程度にやられるならそれまでという事なのか、人海戦術というので疲労を狙っているのか。スライムが作れるのであれば、作りすぎたからそこら辺に放置してるという線もなくはない。


「だとしても、かなぁ」


 エニグマとアズマに疲労の色は見えない。面倒になったのかアズマが盾を構えて体当たりし始めているが、疲れてはなさそうだ。

 アズマの突進に合わせて後ろからエニグマが着いていき、突進で倒しきれなかったり当たらなかったりしたスライムを剣で斬り裂いていく。確立された戦術なんだろうか。

 僕を置いていくのかというくらいの速度で殲滅しながら進んで行くので、スライムゼリーが回収しきれず通路に残っている。リポップするのか分からないので貴重な素材になるかもしれないし、回収しておきたいのだが…置いてかれて1人で戦闘になったら勝てる自信がないので大人しく着いていこう。幸い、AGIはアズマより高いのでアズマを起点に殲滅している2人には追いつけるだろう。


 走って2人に追いつき、スライムゼリーを回収しつつ距離が開いてしまったらまた走る。


「…こう考えると回収も面倒だな」


 ウサギやイノシシ、狼なんかと違って体が残るスライムは、自分である程度まで瓶に入れないとアイテムとして回収できない。他のモンスターは倒せばドロップアイテムだけが残るから楽だったが、スライムはそうではない。

 湖で水を回収する時もそうだったが、長時間にわたる単純作業というのは心が死んでくるのだ。そういった場面で使える、回収専用の都合のいいスキルとかないのだろうか。後でエニグマとか師匠に聞いてみよう。


 アズマの最高速度で進み続け、数分。ずっと通路だったのが、急に部屋に出る。


「よし、スライムとはおさらばだ」


 部屋にはスライムが居ないからか、アズマは一息ついて休んでいる。エニグマは既に部屋を調べ始めている。

 アズマは謎解きを一切やる気がなさそうなのでエニグマに横へ行って一緒に調べる。この部屋には壁に何かが描かれている事はなく、パネルが1枚あるだけ。扉を見ると白い金属の扉に金色の装飾が入っていて、明らかに今までとは違う。

 エニグマがパネルを起動すると、何処か見覚えのある、釜と素材の絵が表示される。


「これは…」


 師匠から貰った本のどれかに、同じものがあった筈だ。合成の指南書か教科書。

 あの時は表示されていた素材を合成してアイテムが完成すればオッケーだった。今回もそのパターンだろうか。

 釜の中に表示されている素材は何かの鉱石と、丸い石。パネルを触らせてもらい、素材を長押しして調べてみると金と魔石だった。


「…何作ればいいんだろ」


 金と魔石。作るものが指定されてないので完成系が予想できない。自由に作れという事なのかもしれないが、金と魔石はどう合成すればいいのか。


「後は任せるぞ」


 素材を調べたのが妙に手慣れていたからか、エニグマはパネルを僕に任せると言ってアズマの元へ歩いて行って隣に座り、何かを話している。

 エニグマは恐らくこのゲームでの錬金術の内容を詳しくは知らず、合成の仕様も知らない。これまでとは違い、丸投げしたりヒントを貰ったりするのは難しそうだ。


 釜とは違う場所、右にある枠の中に金と魔石を合成する為の素材になる物、様々な草や実、粉、鉱物や水晶なんかが沢山並んでいる。その枠をスクロールして素材を見ていくが、金と魔石が合わさりそうな物はない。


「ないなぁ」


 どちらも石だから、という理由で鉱物類や水晶を1つずつ長押しして名前を調べているが、やはりない。というよりも、金と魔石にどんな共通点があるかを知らない。金は手に入れる機会がないが、現実に存在してはいるのである程度どんな物か分かるのだが、魔石は現実にはないので何なのかよく分かってないのが原因だろう。

 石という共通点があるなら、そのままでも合成すれば完成するのでは? と思って試してみたが、失敗して最初の状態に戻ってしまった。


「じゃあ鉱物とか水晶でもなさそうかな…」


 大体魔石のせいである。

 次に割と万能な液体系を調べてみる。ただの水だったり、水銀だったり、炭酸水とかもあるが、それで合成できそうかと聞かれるとそうでもない。その中に1つ、ここ数時間で一番見た液体、つまりスライムゼリーを見つける。

 ゼリーが液体なのか固体なのかは気になるところではあるが今はどうでもいい。

 魔石の知識はそこまで多くなく、師匠から聞いた持続薬というものの素材である魔導水の材料であること、魔力を含んだ石であることくらいしか知らない。スライムゼリーが魔石の魔力で動いているのがスライムだとするなら、これでスライムを作れるのではないだろうか。


「…こじつけだけどね」


 失敗しても死ぬわけではないだろうし、試してみるのが良いだろう。右枠からスライムゼリーを取り出し、釜の中に移す。金は退かすか迷ったが、黄金のスライムができるかもと脳裏に過ったのでそのままにしておく。

 釜をぐるぐるして完成したのは金色の丸い塊。黄金のスライムらしきものはプルプルしながらパネルの中を動き回り、どこかへ行ってしまった。


「え、今ので正解じゃないの?」


 パネルが真っ暗になったが、扉は開かない。もう一度起動してみると、先程とは別の物が表示されていた。

 新しく表示されたのは円。右枠には火や水、槍や針などの絵があり、長押ししてみると火属性だったり水属性だったり。


「あぁ…なるほど」


 今度は魔法陣か。

 だが何の魔法陣を作ればいいのだろう。合成では最初から釜の中にあった物を右枠の素材を使って合成すれば成功だったのだが、今表示されている魔法陣の骨組みである円の中には何もない。自由に作って完成すればいいということだろうか。

 ならば、と水の絵を円の中に移動させて終わりにしようと思ったが、「威力が足りません」と出てきた。


「指定あるなら書いといて欲しいなぁ」


 威力が足りないというのは、今の魔法陣の中にある絵は水だけで、この魔法陣を起動しても水が発生するだけだからだろう。威力を上げるなら、右枠にある要素の絵、つまり槍や針、刃を魔法陣に持ってくればいい。そうすれば水属性の槍とかに変化する。

 扉が開けば割とどうでもいいので考えたのと同じ、槍を魔法陣に持ってくると魔法陣が光り、次に見えるようになったら紙に描かれている状態になっていた。


「これで終わりかな?」


 合成が完了した時とは違いパネルは点いたままだが、扉は開かない。この部屋にはパネル以外に物がないので、扉が開かないなら何かを間違えたのだろうか、とパネルを睨んでいると、ついさっき合成で作った金色のスライムが戻ってきて、紙に描かれた魔法陣を吸収してまた何処かへ行ってしまった。

 スライムが去ると、ゴゴゴゴ…と重い音を立てながら扉が開く。


「お、ナイスー」


 扉が開き、アズマが寄ってくる。エニグマも立ち上がって砂を払い、地面に置いていた剣を持って腰に装備し、こちらへ向かってくる。


「ボス戦かもしれんから準備しとけよ」


「分かった」


錬金術記号はwikiとか読んでみるのも面白いですよ。スマホだとコードの違いで表示されない場合もありますけど。

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