39話 めっちゃうるさい
結果的に勝てたとはいえ、反省すべき点は多かった。
特に最後の1体。1発で倒しきれずに、偶然落とした魔法陣があったおかげでなんとか勝てたが、戦闘で偶然は何度も起こらない。
原因は遠距離からの攻撃手段がなくなった事。全員が魔法使い型のステータスだったから足止めや防衛も兼ねて仕方なくインファイトを仕掛けていたが、攻撃力も防御力もない僕にとってはこちらから近接戦闘を始めるのはあまり好ましくない。やるとしても魔法で怯ませた隙に攻撃するべきだっただろう。
魔術には普通の魔法使いとは違い魔法陣をストックできるし、発動が速いというアドバンテージがある。MPの先払いも可能だし、所持数に制限はない。それを活かさない手はない……と思っていたが、甘かったようだ。次からはもっと大量に作っておこう。
あと、今回は質よりも数というテーマだったと思う。最後の方は装備も整っていたけど、ルークス道中のような明らかにボスというのはいなかった。
最後の1体との戦いから考えるに、改善点は1対1の戦闘だろう。遠距離からの攻撃手段もそうだが、近接戦闘の手段も考えておかねば。あの場合は毒煙玉を投げつけるべきだったのかもしれない。
反省点とは逆に、学べた事もあった。
戦闘中でも武器を手放さなければならなくなる場面が存在することや、短剣なんかの小さい武器は弱点を突くのに便利だということ。
そういえば短剣拾うの忘れてた。
……まあいっか、安いやつだし。バジトラでまた買おう。
学べた点といえば、戦闘中にブランが叫んでいた『凍結解除』というワードについて聞いてみたら、そういうスキルだそうだ。
発動していると複数の魔法を発動待機状態で維持できるけど、その間は赤とか青とか緑とかの色が出てきて、それを対応する属性で答え続けなければならないとか。例えば、赤なら火属性、青なら水属性と答え続ける。その間にも通常と同じ手段で魔法の発動や発動待機が可能だが、数が多くなれば色が出てから属性を答えるまでの制限時間が短くなり、失敗すると暴発するらしい。しかも発動待機を解除して攻撃すると、止めていた分のMPを一気に消費する。
聞いてるだけで凄い難しそうだし自分からやろうとは思わないね。
しかしそう考えると尚更、魔術のアドバンテージは大きい。
なんて思いながらうさ丸を膝の上に乗せて撫でているとバジトラに到着した。
「おぉ、これがバジトラ…なんか空暗いんじゃが」
アリスさんの言う通り、空が暗い。とはいえ、原因はすぐ分かる。城壁越しでも見える空へ上る煙が太陽の光を遮ってしまっているんだろう。
現実だったら環境問題とかあるのかもしれないが、ゲームだからかそういったのはあるように見えない。
「これからどうするの?」
「僕は武具屋とかで武器調達して教会でファストトラベル開放したらやることないよ」
「我は知り合いが…お、来た来た」
アリスさんが向いた方を釣られて見ると、黒髪の女性がやってきた。背中には人を背負っていて、あれがアリスさんの知り合いじゃなければ普通に誘拐犯かと思って通報してる。
「紹介しよう。……プレイヤーネームなんじゃったっけ」
「ニア。よろしく」
喋る度に口の中のギザギザした歯が見える。現実であの歯はないだろうし、キャラメイクってそんな細かい所まで変えられるのかと感心。弄ったら変になると思って触れずにスルーしたが、結構幅広く変更できるようだ。
「…じゃ!」
そんなドヤァって顔してもアリスさん何も紹介できてないんですけどね。
「……誘拐?」
ブランがニアさんが背負っている人を指して言う。それは僕も気になっていた。傍から見れば誘拐にしか見えない。
「違う、これは友人。起きろヒュプノス」
「んんぅ、なにぃ…?」
ニアさんが背中から降ろした、空色の髪をサイドテールにした少女。珍しく目線が僕と同じくらいだ。それでも僕より少し高いが。
ヒュプノスと呼ばれた少女は、何故か枕を抱えている。
「ここどこぉ?」
「外。このままだと犯罪者と勘違いされるから自己紹介して」
「初めてましてぇ、ヒュプノスだよぉー。よろしくー」
僕とブランも自己紹介をすると、アリスさんが2人についての説明を始める。
ニアさんは走るのが好きで、オープンワールドかつ人との交流もあるこのゲームを始めたらしい。走るのが好きといっても陸上選手的な好きではなく、昔から鬼ごっことかで走り回ってたという感じの好きなんだと。
ヒュプノスさんは、放置してるとずっと寝ているらしい。本人によると、外には出たくないけど色んな所でお昼寝がしたい、とのこと。枕を抱えているのはどこでも眠れるようにだろう。
アリスさんを含め、なんとも濃い人達だ。
「我は此奴らと行動するが……リンとブランも来るか?」
「わぁ、結局その喋り方でやるんだぁー。黒歴史だねー」
「言うな」
「どうする? 凛姉」
「…またの機会にします」
友達とやりたいだろうし、一緒に行くのは気が引けるので断る。
アリスさん達と別れ、ブランにやりたい事はないか聞きつつ街をぶらぶら歩いていく。武具屋には行きたいと思っているが、その武具屋が何処にあるか分からないので適当に歩いている。
ブランと話すついでに僕に付きっきりだけど友達とやらなくて良いのかというのを聞いてみるが、平気らしい。部活があったりで時間が合わないとかだろうか。中学生って帰宅部は少ないイメージがあるし。まあブランは帰宅部だけど…。
《『エニグマ』からフレンドメッセージが届いています》
【エニグマ:油揚げ美味いよな】
思い返してみればヒュプノスさんの口調というか喋り方、若干店主さんとキャラ被りしてるような……。いや、でも少し違ったな。
「凛姉、あそこ武具屋じゃない?」
「だね」
ショーケースに剣やプレートアーマーと呼ばれる鎧が置いてある店に入る。あの鎧、ホラーゲームとかだったら動き出してもおかしくはない感じのやつだった。錬金術ならそういう仕掛け作れてもおかしくはない……かもしれないし、いつか作ってみたいな。
店内をうろうろ歩いて武器や防具を見て回る。
この街の鉱山が近く鍛冶が盛んという特徴もあり、ルグレの武具屋よりも多くの武器種がある。
斧やハンマーなんかもあり、片手で持てる物から僕の身長よりも大きいものもある。こういうのってステータスが足りていればこのサイズのまま装備できるんだろうか。それとも防具みたいにサイズは調整されるのかな。
アイテムの性能を確認していると、店の中で一旦別れたブランが寄ってくる。
「何買うの?」
「んー、とりあえず短剣を何本か。あと何か使えそうなのがあったら買おうかな」
ゴブリンと戦って短剣もそれなりに強い事が分かったし、引き抜けないとか強い衝撃でどこかへ飛んでいってしまうとかもあるだろうし予備を含めて何本か買っておく。
あとは面白そうな物も買えたらいいなとも思ったが、ブランが暇そうなのでまた今度にしよう。
「次は魔法使い用の武具屋だっけ」
歩いてる途中でブランに聞いた行きたい場所。普通の、今行ったような武具屋は剣や斧、ハンマー、篭手などの物理用の武器や防具を売っている。魔法用の武器や防具も勿論あり、杖や魔導書、ローブなんかが該当する。
それらの、魔法用の装備を売っている武具屋があるらしいが…。
「この街にあるのかな」
鍛冶が盛んなこの街において、木や布などの製品はそこまで作られてないのではないか。
なんて考えるのが馬鹿らしくなるくらいすぐ発見できた。
「あるんだ…」
先程の武具屋と同じように店の中で別れ、それぞれ買いたいものを買う。
杖って魔術の攻撃力に関係するんだろうか。魔術の威力が決まるのは魔法陣が完成した時であって戦闘中じゃないから装備品は関係ない気がするけど。
アイテムステータスを見ていくと、INTが装備条件になっている物が多い。ローブは条件はなく装備ボーナスでMNDをプラスするとかの効果だ。布製で軽いから鎧と違って装備条件がないのかな、と思ったり思わなかったり。
また、種類はあまりないが魔法のスキルオーブも売っている。火水土風の4つで、値段もそこそこ高い。どちらにせよ買わないが。
《『エニグマ』からフレンドメッセージが届いています》
【エニグマ:レモン1個に含まれるビタミンCはレモン1個分なんだぜ】
魔導書を手に取ってパラパラ捲ってみるが、よく分からない文字が敷き詰めれられているだけだ。師匠から貰った指南書や教科書とは違い装備品だからか中身は特にない。
「凛姉」
「ん、魔導書買ったんだ」
「うん。こっちの方が魔法攻撃力が高い」
ああ、杖に物理攻撃力ボーナスがあったのは最悪の場合に殴れるようにか。魔導書でも角とかで殴れそうではあるが。ボーナスがある分、杖の方が魔法攻撃力のボーナスは低いとかなんだろう。知らないけど。
「あとどこか行きたい所とかある?」
「私はもういいよ。凛姉が行きたい所行こ」
僕もそこまで目的はないが、ファストトラベルの開放はしておいた方がいいので教会へ行こう。
《『エニグマ』からフレンドメッセージが届いています》
【エニグマ:前に粉塵爆発勧めたが自分を巻き込むからやめた方がいいかもな】
めっちゃメッセージ送ってくるじゃん。
レモン1個に含まれるビタミンCはレモン1個分って知ってました?
僕は知ってました。




