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31話 魔術試験運用


 魔術のテスト。学校のアレみたいなのではなく試験運用的なテストだ。

 MPが回復するまで合成で毒煙玉を作って回復したら魔法陣を描いて、とやって魔法陣は合計6種類作った。

 毒煙玉を作ったのは吸わなければ大丈夫なので離れて投げれば平気かなーって。あと囲まれた時の自決用と、一応対策用の魔術を作ったのでそれが使えればいいなと。


 うさ丸は安全面の観点からやはりお留守番。店主さんは魔法陣を描いてる途中でやる事があるらしくどこかへ行った。



 というわけでまたモリ森へやってきた。僕のレベル帯だとモリ森が丁度良い狩場だ。レベル的には、であって僕のステータスと戦力ではどうだか。

 あと草原は未だに始めたてのプレイヤーが沢山いるし、ウサギを倒すのはちょっと心苦しい上に被験体として弱い。耐久性は狼の方が高いし、死んでもペナルティで困ることはそんなにないのでモリ森で良い。


 狼は単体で居ることもあるが、多くの場合は複数体で行動している。

 ゆっくり見れるという点では単体を相手にするのが楽なので群れているのは嬉しくない。だが設置型の魔術を使って数を減らせばその限りではないだろう。


「落とし穴をここに置くとしたら……飛び越えてここら辺に来るかな」


 設置型魔術は1つだけではない。例えば「アイスニードル」という氷属性魔法だが、もちろん飛ばす使い方もある。だが設置しておけば踏んだ時に氷の針が飛び出る。踏んだ時に容赦なく発動するので僕が踏んだら自殺になるだろうけど。

 置いた落とし穴の魔法陣を狼が踏むとして、後に続いて落ちるほど馬鹿ではないだろう。当然避けて来る。その進路上に他の魔法陣を設置しておけばそれを踏む…はず。



 あとはここに狼を誘導して僕が踏まないように陣取っていれば何匹かは倒せる。

 魔法陣の場所を忘れないように目印として木に紙を貼り付けておき、真っ直ぐ歩いていくと4匹の狼を発見した。


「初手はこれかな」


 先手を取って狼達の気を引く攻撃は「ファイアランス」。名前の通り火の槍だ。森で火を使うと火事になるとかそういうのは一切考えない。流石に大丈夫だろうし。



 発動待機状態の魔法陣を取り出し、狼の1匹に向かって発動する。魔法陣から飛び出した炎の槍は狼の胴体を貫き、死亡させた。

 倒せたらいいなとは思ったけど倒せるとは思ってなかったのでこれは僥倖。こちらに気付いて追いかけてくる他3匹を視認し、魔法陣を設置した場所へ来た道を戻る。


 狼の行動パターンは跳びついて噛みつきか爪での攻撃。遠距離攻撃はなく、跳びつきにしても跳ぶ前には地面を踏んばる必要がある。

 となると、僕は魔法陣からなるべく離れた方がいい。跳びついてきて魔法陣も飛び越えられたら意味がなくなってしまう。


 目印の紙が貼られている木が見えてきた。地面に置いてある魔法陣が描かれた紙を踏まないように気を付けながら通り抜け、狼達を待ち構える。


 最初の魔法陣、落とし穴が発動すると踏んだ1匹とその後ろを着いてきていたもう1匹が穴に落ちる。後ろの奴は気付いたけど止まりきれなかったようだ。

 落とし穴を見た最後の1匹が穴を飛び越えてくるが、その着地地点にはアイスニードルの魔法陣が置いてある。踏んだせいで発動したアイスニードルは、狼のお腹辺りを貫いて絶命させた。


「……わお」


 氷に体を貫かれた狼、子供もやるゲームだから血は出ないけど思ったより……グロテスクかな。すぐに光の粒になって消えていったけど。

 落とし穴には、まだ落ちた狼が残っている。出ようと藻掻いているが、穴はそれなりに深いので出るのは無理だろう。

 この穴に落ちた狼達を倒すために自ら入るなんて馬鹿な事はしない。処理は簡単、毒煙玉を投げ入れればいい。そうすれば勝手に毒を吸って死ぬ。


「せいっ」


 放り込んでしまうと衝撃で起爆しない可能性があるので叩きつけるような感じで投げ入れる。穴の底に落ちた毒煙玉は紫色の煙を立ち上げる。近くにいると自分まで毒で死にかねないので、離れるのも兼ねて目印の紙を回収しておく。


 穴の方から狼の悲鳴が聞こえてくる。前回実験した時は毒煙玉に反応したのか、何匹か狼が寄ってきた。また寄ってくるかもしれないので不意打ちされないように、されても道連れで倒せるように範囲の広い毒煙玉と対策用の魔術を準備する。

 対策用の、と称しているが実際に効果があるか分からない。魔法陣に描いた絵は風属性を表す竜巻、それと展開の形状を表すドーム。毒煙を吸うとダメージを受けるなら、自分の周りに風を発生させて毒煙を寄せ付けないようにすれば安全に使えるのではないか、という考えで作ったものだ。


「…来ない、かな」


 前回は偶然近くに居た群れが寄ってきてしまったのか、毒煙がよっぽど目立ったのか。追加の狼は来ない。

 落とし穴から出ていた毒煙も消えた。



 今試した3つの魔法、名前は僕が勝手に付けているだけで本来は無いが、仮に「ファイアランス」「アイスニードル」「落とし穴」と呼ぶことにする。


 ファイアランスとアイスニードルに関してはどちらも一撃で狼を絶命させた。そこまでレベルが高くないこのモリ森でその実績がどの程度なのかは分からない。もしかしたらボスであるクマさんをも一撃で倒せるかもしれないし、そうでないかもしれない。


 しかし、どちらかというと着目すべきは落とし穴だ。目測3mほどの穴を一瞬で作るというのは拘束技として実に有用だ。そして合わせ技に毒煙玉を投げ込めば大抵のモンスターは倒せるのではないか。

 落とし穴が効かないのは飛ぶモンスター、地面を掘って移動するモンスター、落とし穴の高さ以上の跳躍力または壁を登る技術を持つモンスター。逆に言えば、狼のようなモンスターは落とし穴から抜け出す手段はない。クマさんとかもそれは同じだろう。メイビー。

 毒が効かないにしても、落とし穴が有効なのであれば時間稼ぎはできるし、毒を使わなくても倒す手段はあるだろう。穴の上から魔術を発動するとか。


 なんか外道みたいな戦法になってるような…? いや、僕らしい戦い方、と言おう。外道ではない、やれることをやっているだけであって、その部分は他の人と変わらない。

 何はともあれ、拘束技として落とし穴は使える。紙と羽根ペンはあるのでここで1枚描いて、帰ったら量産しておこう。



 試してない魔法陣は残り3つ。風属性のドーム、水属性の蛇、雷属性の電撃。電撃は指の先から電撃が出ている絵の魔法陣で、威力は期待してない。麻痺の状態異常を付与できたりすれば嬉しいが、そう上手くいくだろうか。


 もう新しく試す設置型の魔法陣はないので歩き回って狼を探すが、全然エンカウントしない。


「ん、毒草がある…」


 毒草はモリ森の深部にしか生えてない。群生地かと思えるくらい生えているのでかなり深い所まで来てしまったようだ。毒煙玉の素材になるので回収はしておこう。

 強い毒ポーションを作るには毒草を大量に使うので、買う手間とお金を削減できるのはいいことだ。


「…っ」


 足音。右側からゆっくりと、静かな足音が微かに聴こえた。

 金属バットを手に、足音のする方を警戒する。


 木々の間から姿を現したのはクマ。だがこれまでに2回出会った時とは雰囲気が違う。あちらは明確な敵意を持っているようで、目が合った瞬間に襲いかかってきた。


「あっぶな…」


 大きく飛び退く事で大きく振られた腕を回避する。

 雰囲気の違いに気付けてよかった。警戒を解いて近付こうものなら今ので死んでいた。


 しかし何故攻撃してくるのだろうか。今までは警戒されようとも出会って即戦闘にはならなかったのだが。

 考えられるのは別個体か、何かの理由で気が立っているとか。


 理由はどうあれ、攻撃してくるのを自分から受けて死ぬなんて事はしない。敵対するのであれば僕も応戦するべきだろう。

 体当たりや腕の振り回しを木を盾にしたり、大袈裟とも言える距離の飛び退きで避けつつ、魔法陣の準備をする。


 今はまだ余裕があるので、確実性がないのも使おう。

 1つ目は数的有利を作れるかもしれない水蛇。魔法陣から飛び出た水の蛇は、地面を這ってクマに近付き、足に絡みついた。

 水蛇に足を取られている間に次の魔法陣を取り出す。2個目は電撃。筒状にしてあった魔法陣が描かれた紙を広げ、クマに向けて発動。一瞬だけ光が見え、クマがよろけて咆哮する。

 クマの胸辺りから湯気のようなものが出ている。恐らく、あそこに当たったのだろう。一撃では倒せなかったらしい。


 激しくなった攻撃をギリギリで避けながら、残り2枚となった魔法陣を確認する。1枚は風のドーム、もう1枚は落とし穴。

 風のドームは毒煙玉から身を守れないかと作ったものなので攻撃性はないと思うし、この場面で毒煙玉を使ってしまったら自分も死ぬので使えない。

 そうなると必然的に落とし穴を使うことになる。


 クマが腕を大きく振った攻撃の後、背中を向けて一直線に走り出し、途中で落とし穴の魔法陣を落とす。

 そのままクマと落とし穴の魔法陣の直線上になるように走り続けると、当然クマは僕を真っ直ぐ追いかけ、魔法陣を踏んで落とし穴に嵌る。


「案外なんとかなるものだね…」


 戻って穴の上からクマを見下ろしているが、クマは未だに敵意を向けてくる。攻撃されたし、ここまで傷付けたのに今更仲良くしようね、なんて無理な話だ。クマには悪いが僕の経験値となってもらおう。

 風のドームを発動させつつ、毒煙玉を投げ入れる。風のドームが毒煙から僕を守ってくれると思っていたのだが、僕の周りで風が吹き荒れるだけで僕から毒煙を離すようにはできてないらしい。流石にそんな甘くないようだ。

 僕も毒煙を少し吸ったが、ほんの少しだけで持続的でもないのでダメージは大したことない。逆に毒煙を吸い続けているクマは苦しそうな声を上げ続け、次第に弱々しくなって死んだ。


《レベルが上がりました》


 久々に聞いたアナウンス。レベルが3から4に上がったのは何日か前、魔術の取得の途中、休憩中に合成でポーションを作ってる時だった。

 レベルが4から7になった。レベルを2つ飛ばしてのレベルアップ。このモリ森のボスはクマだと聞いていたので、やはり倒したからかなりの経験値が入手できたのだろう。

 それと、レベルは13から上がりにくくなるらしい。言い換えれば、13までは簡単に上がるということだ。レベルアップに必要な経験値が少ないのも一気に上がった理由かもしれない。


 毒煙が消えたので落とし穴の中にあるクマのドロップ品を回収する。落ちていたのは爪と皮。使うかは微妙だが持っておいて損はないはず。


「んしょ……さて、帰ろ」


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