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241話 Demension:PHANTASISTA(1)


 目に映る景色が切り替わると同時にバリア装置を起動し、杖を手に持つ。PvPが盛んということで、準備は整えておくべきだろう。


「わあ…」


 転移先は何処かの山みたいだ。麓に見える村と頂上のちょうど中央くらいの位置。

 周囲に気配はない。


「どうしましょうか」


「に、人数が少ないからあんまり派手には動けない…と思います…。なので…えっと、クエストの達成を優先で……」


「分かりました」


 優先するべきはクエストの達成。といっても、クエストの内容は指定されたアイテムの収集やモンスターの討伐なので、結局やることは同じではある。

 取り敢えず、目に付いたアイテムを採取しつつ麓の村を目指すことにした。マップ内で発生するクエストは基本的に現地のNPCから受けるものらしいので、村で何かクエストがあればいいなという希望的観測を持って歩く。


 適当な木の実を手に取ってみると、アイテムの詳細を確認する間もなく勝手にストレージに収納された。普段使っているアイテムストレージとは違い、イベント専用のものが用意されているようだ。おそらく、帰還時にこのイベントストレージに入っているアイテムがポイントに変換されるのだろう。


「このマップってボスとかいるんですか?」


「います、けど…その…」


「…ああ、時間かけすぎると他プレイヤーに狙われるんですね」


「はい…」


 どうやら【世界の写鏡】などのダンジョンのようなボス戦に集中できる環境ではないようだ。

 フィールドボスだと他プレイヤーが介入してくる。ボスへのラストアタックを横取りされるとかならまだマシだが、ボスを倒した直後の疲弊している時にPvPが発生するのが一番厄介だ。仮にボスと戦うとしたら速戦即決が望ましい。


「…ボス討伐、行きますか…?」


「やめておきましょうか。二人でボス戦なんかしてたらカモですし」


「あっ、はい…」




 PvPが頻発しているという割にはプレイヤーの気配すらないまま村に到着した。

 この村は通常マップの街や村と違い、攻撃制限がかけられていない。つまり村の中は絶対に安全という訳ではなく、ここでも戦闘は起こり得るということ。人工物は分かりやすい目印になるので、待ち伏せをしているプレイヤーが居てもおかしくはない。が、今のところそんな様子はない。


「あ…クエストが発生してます…」


 ミーティアさんが見ている先に視線を向ける。そこには腕を組んで首を傾げ、一定の地点を行ったり来たりと歩き回っているNPCがいた。如何にも困っていますと肉体で表現するそのNPCの頭上には疑問符が浮かんでいる。比喩とかではなく。


「すいません、どうかしたんですか?」


「ええ、実は…」


 NPCに話しかけた途端にペラペラと事情を話し始めた。まあ、世間話とかどうでもいい話から始まるよりかは余計な情報が無くて助かるけど。

 たまに相槌を打っていると話が終わり、自動的にクエストが受注された。内容は山の頂上から薬草を採ってきてほしいというもの。


「こ、このクエスト、報酬がかなり多いですよ……」


「そうなんですか。…ってことは難易度が高いのでは?」


「おそらく…」


 それに目的地は山の頂上。先程中腹から下山してきたところを今度は頂上まで登り、アイテムを採取した上でまた下ってくる必要がある。非常に面倒だ。


「はぁ、とりあえず行ってみますか。移動は僕に任せてください」


「えっ…?」


 割り振っていなかったステータスポイントをSTRとAGIに振る。そして滑り止めがついているグローブとロープを取り出して前準備は完了。ロープで輪っかを作り、その部分をミーティアさんに持ってもらう。


「じゃ、しっかり掴まっててくださいね」


 翼を広げ、空へ飛び出す。やはり歩くよりも飛んだ方が速い。この方法は僕がまだ飛べない時にグレイシアにやってもらったのを参考にしている。

 ある程度まで高度を上げたら、山の斜面と平行になるような軌道を意識して頂上に向かう。この移動方法、便利だし速くはある…のだが、僕はバリアがあるから兎も角ミーティアさんが狙われると対処できないのが難点だ。祈るしかない。



 幸いにも攻撃を受けるなく、数分で頂上へ到着した。

 山頂から薬草を採ってこいというクエストだったので、さっさと採取して帰ろうと思っていた。しかし、何処を見ても薬草なんてない。というか緑が無い。山頂は岩で構成された不安体な足場が広がっているだけだ。


「や、薬草…ありませんね…」


「おかしいな、山ってここで合ってると思うんだけど」


 周りに他の山なんて無かった。クエストの内容を読み違えているのかとメニューを開こうとすると、空気が擦れるような音が聴こえてくる。


「んあ?」


 何の音だろう、と顔を上げると、空から炎の塊がこちらに向かって近付いて来ている所だった。数秒どころか1秒も待たずに炎の塊は僕たちの前方に飛来し、大きな爆発を起こした。

 爆発からは離れていたのでダメージはないが、爆発によって岩石が粉砕され小さくなった石が飛んでくる。横を見れば、その全てを斬り伏せてノーダメージのまま警戒を続けるミーティアさんの姿が。前にも降り注ぐ矢から守ってもらったことがあるが、相変わらずよく剣一本で防ぎきれるものだなと感心してしまう。


「な、なんでしょう…」


「プレイヤーの攻撃か、突発的なイベント。…それかボスの登場演出、ですかね」


 移動の関係で仕舞っていた杖を手に取り、光線の威力とサイズを最大まで上げる。そして未だ煙が晴れない爆心地に向けて撃てば、何かの鳴き声と同時に一瞬だけ全損したHPバーが煙越しに表示された。


「わお、直撃~♪」


「え、えぇ…」


 ようやく煙が晴れると、そこには倒れた巨大なヤギがいた。南無。


「さて、あれがフィールドボスならドロップアイテムかあの死体から直接採取できるアイテムに目的の物が…――およ?」


 少し目を離した隙にヤギが立ち上がっていた。HPバーは表示されていない。そのことからあれが生き返った訳ではないことはすぐに分かる。つまり…


「形態移行か…」


 マガジンを交換しながら見ていると、ヤギの身体が赤い液体に包まれる。液体は次第にヒトと同じ手足の形になり、最後にはヒトの身体にヤギの頭を持つモンスターとなった。

 再びHPバーが表示される。モンスターの名前は「スケープゴート」。


「面倒な奴だ」


 動き始める前に三回トリガーを引く。『換装』でマガジンを交換してもう1セット…と思ったが既に死んでいた。

 流石に第三形態はないだろう。その証拠に、先程は消滅せずに残っていた死体が消え始めている。


「さてさて、薬草はあるかな〜っと」


 死体の消滅を視認したのでイベントストレージを開く。クエストアイテムだから複数はドロップしないだろうし、個数が少ない順かつ入手順にソートすれば……あった。

 イベントクエストアイテム、『身代わりのバラ』。アイテムテキストは“幸せは犠牲の上に成り立つ。”だ。イベント用アイテムでこのマップの外に持ち出せないからかテキストが短めだ。

 果たしてこれが薬草なのかと問われると微妙なところだが、クエストガイドでは既に薬草を手に入れて納品するだけになっている。あまり深く考えるのも野暮だろう。


「それじゃさっきのNPCの所まで戻りましょうか」


「は、はい…」


「ちゃんと掴まっててくださいねー」


 行きと同じ方法で村まで戻る。帰りはある程度高度を確保できれば、あとは滑空しているだけで済むから楽だし速い。


「リンちゃんさん…一人でボスを倒して回った方が効率良いのでは…?」


「そうですか? ポイントがパーティーで共有ならみんなで行った方が良いと思いますけど」


「でも…リンちゃんさんは一人で倒せますし……」


「言われてみれば…。あれ? なら6人がそれぞれ別のボスを倒しに行けば最高効率では?」


「えっ…規格外を基準にされても…」


 心外な…と思ったが、冷静に考えると今の僕って規格外に分類されるのか。確かに、ブランの魔法を借りて火力と装甲を手にしているのだから、ブランが規格外なら僕も部分的に規格外であっても変ではない。


「もう着きますね」


 ちょっと会話している間に村に着いた。そのまま先程のNPCに『身代わりのバラ』を渡してクエスト達成。


「どうします? 探索続けますか?」


「い、いえ…流石にこのポイントを持って死にたくないので…」


「では一旦帰還しますか。それで、どうやって帰るんです?」


「マップの各所に…た、たぶんですけど、この村にも帰還用の装置があるはずです…」


「なら村の外れにある石造の小屋か、村の中心にある大きめの家ですね。僕は前者だと思いますけど」


「わ、わたしもそう思います…」


「ではそちらに」


 山から戻ってくる最中に目についた二つの建物。小屋の方だけ村の雰囲気と少しズレていたし、後付け感があったのでそちらが帰還用装置があると踏んだ。予想が合っていれば、中心の家は村長みたいな村の中で偉い人が住んでいる場所か、集会場のようなものだろう。

 予想通り、村の外れにある小屋には冒険者ギルドからこのマップに来た時に使った装置と同じものが置いてあった。


「えっと、これをこうして…帰りましょう、リンちゃんさん…」


「はーい」


 景色が切り替わり、冒険者ギルドの内部まで戻ってきた。何によってポイントを獲得したかの詳細が出てくるが、興味も無いので無視してポイント交換の受付に向かう。

 そういえばどんなものを交換できるか見てなかった。期間限定という言葉に釣られて参加したはいいが、目的が無ければ意味ない…とまでは言わないが、モチベーションを維持できないだろう。何か良いアイテムとか面白い物があれば良いけど…。


 報酬一覧を眺めていると、ちょいちょいと袖を引かれた。


「ど、どうですか…?」


 猫耳を付けたミーティアさんが少し不安そうに首を傾げて僕の顔を覗き込んできた。さっき言っていたものだろう、早速交換したらしい。


「似合ってますよ。違和感ないですね」


 髪色と同じ色をしている猫耳がピコピコと動く。


「可愛いですね」


 猫耳…僕はデフォルトでドラゴン要素があるから着けることは無いだろうけど、一応交換しておこうかな。何かに使えるかもしれないし。


 ……いや待てよ。報酬一覧にあるアイテム、ざっと見た感じ別に要らないから全部『等価交換』で面白い物に変換できそうだったら躊躇なく使えるな。そうなると全部交換しておいた方がいいのか…?

 時間はある。あとは僕のやる気次第、か。


「僕はまたポイント集めに行きますけど、ミーティアさんはどうしますか?」


「お邪魔じゃなければご一緒します…」


「それじゃれっつごー」



ヤギの第一形態は「スペースゴート」です。

scapegoatのcとpを入れ替えただけなのであんま考えてないです。

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