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229話 スピーディーな用事


「何それ」


「連絡手段だよ。NPCはプレイヤーと違って遠距離の連絡手段がないからね」


 ブランが錬金ラボにやってくるなり早々、作った連絡手段について口を出してきた。


 今回作ったのはノートパソコンを模したアイテム。

 最初は電話にしようと思ったが、僕が常に出れる状態ではない事と、おそらく携帯しないであろう事からやめた。

 結局完成したのは、起動すると相手からのメッセージを画面に表示するだけのアイテムだ。なので入力するためのキーボードと、表示するための画面だけしかない。会話相手も決められた相手だけで、現実のSNSのような複数の相手と自由に会話できる訳でもない。頑張れば作れなくはないだろうが、別に頑張ることでもないので適当な妥協点に落ち着いておいた。


 この連絡手段となるアイテムを僕とフィクトスが持っていれば連絡は取れる。常に稼働していても問題ないようになっているので、これを錬金ラボに設置しておけばフィクトスからの連絡は確認できる。


「NPCと連絡取るの?」


「雇ったからね。というかなんで来たの?」


「あ、そうそう。グレイが凛姉と遊びたいって」


「グレイシアが? そんな事言うなんて珍しい」


「今まではずっと一緒だったからじゃないの? 急に忙しくなったみたいだし」


「あー、そうかも」


 さっさとノートパソコンもどきと錬金術の生産キットを届けよう。そうすれば今日やろうとしていたことは終わるので、グレイシアに構ってあげられる時間もできるはずだ。


「もうちょっとブランが遊んであげてほしい」


「いいよ」


「戻ってくるまでそんな時間かからないから。よろしくね」




 フィクトスファミリーの施設から帰ってくる直前に記録した座標情報を装置に組み込み、転移する。固定用の転移装置は部屋においてあるが、自室まで戻るのも面倒なので手持ちの装置で移動することにした。


 転移先は錬金術の施設の中なので、その場に班員か班長のネフが居ればいいのだが……。

 と、思っていたらすぐに見つかった。驚かれているが付き合うつもりはないので伝えることだけ全て話す。


「ネフ、空き部屋どこ? 適当な部屋に置いておけばいい? いいよね。というかここに置いてくね。自分たちで好きな所に移動させておいて。あとこれからは要望とかあればフィクトスに伝えてくれれば僕に伝わる筈だからよろしくね」


 錬金術班のために発注した生産キットは原初のフラスコ、錬金釜、理の天秤、分解キット、構築キットを五個ずつ、あと占星盤を一個だ。

 星占いに関してはNPCは使い方が分からないだろうし、僕が教えてもカメラが無い事には始まらない。そして教えた場合、カメラを作ることになるのはおそらく僕なので面倒だからやめた。ブランから依頼もあるし、当面の間は作るつもりはない。


「じゃ、僕はこれで。気楽にやってね」


 ネフの返事を待たずに錬金術班の施設から出る。あとはフィクトスに連絡手段となるノートパソコンもどきを渡し、使い方を説明して終わりだ。一応マニュアルのような物も書いてあるし、そう時間はかからないだろう。

 早く帰ってグレイシアと遊ぼう。


「たのもー! フィクトスどこー?!」


「ボス、叫ばなくても真横に居る」


「居たんだ。はいこれ」


「板か? 何か作って欲しいものでも?」


「連絡手段ね」


 無意味な問答をする前に黙って説明を聞くように言い、大まかに機能などを話す。その後マニュアル本を渡し、細かな機能はそれを読んで欲しいと伝えた。


「……つまり、これでボスと連絡が取れると?」


「そう、だからそれはフィクトスが管理しておいて。あと屋敷の部屋を一つ変えておいてほしい」


「どの部屋だ?」


「あー……案内する」


 フィクトスに屋敷まで着いてきてもらう。

 屋敷の中から目的の部屋までの道は覚えていないので、転移をして屋敷の入口に向かってフィクトスを迎えに行き、また転移して段々と近付く形になった。



「この部屋! 僕が来るとしたらこの部屋からだから。その連絡機もここで管理してほしいんだ」


「構わないが……この部屋である必要はあるのか?」


 僕が案内した部屋は、クランハウスの自室にある転移装置の転移先として設定されている場所だ。空き部屋のままではいずれ倉庫などとして使われてしまい、転移できなくなったり、転移できても部屋を出るまでが面倒になったりするかもしれない。

 ノートパソコンもどきを管理してほしいというのはただの建前である。


「ぶっちゃけ連絡機はここじゃなくてもいいけど単純に空き部屋として扱って欲しくない」


 フィクトスは少し考えてから、僕の言った通りこの部屋をノートパソコンもどきを管理する部屋にすると言ってきた。空き部屋じゃないとするなら何かの部屋にしなければならないが、その“何かの部屋”のアイデアは浮かばなかったようだ。


「じゃ、よろしく。それ壊さないでね」


「了解した」



 やるべきことは終わったので転移でクランハウスまで戻る。

 我ながら中々スピーディーに用事を終わらせられたのではないだろうか。フィクトスを部屋に案内するのに時間がかかったから五分とは言わないが、十分はかかっていない。はずだ。


 帰ってきてそのまま庭に向かい、グレイシアに会いに行く。

 今日だけでエニグマとアズマ、他二名がクランを脱退して僕がクランマスターになったり、ブランの武器を作るために検証したりして試行錯誤したり、フィクトスファミリーに顔を出したりと色々とやったからかなり疲れた。久々に濃い一日を過ごした気分だ。まだ昼だが。


「グレイシア」


「リン! おかえりなさい!」


「うん、ただいま」


「グレイいい子にしてたよ!」


「偉いね。よしよし」


 グレイシアの頭を撫でると嬉しそうな顔になる。ここまではいつも同じのパターンだ。


「今日はブランからおんみつこうどう? っていうやつを教えてもらってたぞ!」


「隠密行動かー。……なんで?」


「必要なことだから。グレイの役に立つ知識だし、きっと凛姉の役にも立つ」


「そこまで将来性見据えてるんだ。親みたいだね」


「凛姉はサポートタイプだから誰かと一緒の方が強いの。基本的に誰と組んでも力は出せるけど、相手が居ない場合もある。でもグレイならいつも一緒でしょ?」


 心配されてるの僕なのか。グレイシアが一人で生きていくためにではなく、僕がグレイシアと組むために隠密行動を教えていたらしい。


 しかしブランの言う事も一理ある。今後グレイシアと行動を共にすることは少なくないだろうし、その場合は僕がグレイシアのサポートをするという形になる。サポートを受ける側が弱いと効果はあまりないし、強いに越したことはない。

 とはいえグレイシアを危険な目に合わせたくないという思いもある。



「……今決めるか。グレイシア、僕と契約を交わしたいと思う?」


「けいやく?」


 グレイシアを危険な目に合わせたくないというのは、失う恐怖から来るものだ。だが失うのを阻止する手段はある。

 それがうさ丸やソラとも交わした契約。『テイム』というスキルのアビリティで、死亡によるキャラのロストを防ぐ効果がある。契約相手はHPが尽きてもプレイヤーと同様に復活できるようになるが、契約者の命令に服従する義務が生まれる。

 ただ利があるだけでなく、リスクもある。だからこそ知識のないグレイシアにはそういったリスクを鑑みて、慎重に判断してほしいと思ってこれまで契約を交わさずにいた。


 だが契約を交わさずに何とかするのも、いつまでできるか分からない。グレイズの祭りに出かけたように外へ出る機会だってこれから増えていくだろうし、想定外の戦闘だって起こる可能性はある。グレイシアを失ってから嘆いても仕方ない。

 故に今を選択の時としよう。幸いにも、契約は僕側から解除が可能なのでグレイシアが嫌になったら破棄することもできる。


「グレイシアが強くなりたいなら、それだけ危険が付きまとう。僕はグレイシアを危険に晒したくないから、契約で君を守ってあげられる」


「強くなるにはけいやくっていうのをする必要があるのか?」


「僕としてはそうしてほしいね、強制はしないけど。契約を結べば保険ができるけど、僕の命令は絶対聞いてもらうことになる。そのことをよく考えて決めて欲しい」


 あまり語りすぎると混乱してしまうし、要点だけまとめるくらいがちょうどいいだろう。


「よく分からないけど、リンがそうしたいならけいやくするぞ!」


 ……やはり早すぎたかもしれない。グレイシアが今の体に転生してから僕が親のような立ち位置で接してきたせいで、考え方が歪んでいる可能性がある。子育てって難しいな。


「嫌になったら言うんだよ?」


「うん!」


 今後グレイシアの考えが変わることはあるのだろうか。様々なものに触れて、沢山知識を身に着けて、契約のメリットとデメリットを理解した時、ようやくこの契約の意味について改めて考えてくれるかもしれない。それか反抗期が来たら、かな。

 そんなことを考えながら契約を結ぶ。



【契約を行った事により、『グレイシア』は死の概念から切り離されました。また、ステータスの閲覧、変更が可能になりました】



 何回か契約を交わしてきて、もう見慣れたシステムメッセージが流れる。


「じゃあこれから頑張ろうね」


「これで強くなった?」


「まだだよ。今のは強くなるための準備かな」


「グレイはなにしたら強くなるんだ?」


「んー……」


 何だろう。レベル上げとかスキルの取得かな。いやでも、ちゃんと強くしてあげるには戦術的な面も教える必要があるし……何から手を付ければいいのか分からない。

 強くないと戦術が確立しないという考え方もあるし、格上を相手することを想定して戦術を先に教えておくべきだという考え方もある。


「ブランは何からすればいいと思う?」


「レベル上げ」


「はい」


 強さや所持スキルの内容によって戦術の幅も広がる。確かにレベル上げでもいい。

 悩んでいる時間が無駄だと感じたので、ブランが提案したレベル上げに行くことにする。寒さの耐性もあるので、向かうのは北方面で良いだろう。


「ブランも来る?」


「行かない」


 理由を聞くと、先程作って渡した銃の仕様と使用感を九割以上把握しておきたいらしい。ラッパーみたいだなと思いながら聞いていたら、ラッパーではない、と釘を刺された。僕の妹はラッパーではなくエスパーだったようだ。


「行こうグレイシア」


「うん! リンとお出かけだー!」


 レベル上げはお出かけと言っていいのか……?


後書きに書く事なにかあったかな

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