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210話 家の購入


 元幽霊のフィクトスファミリーと雇用契約を結んだが、結局お金や場所などに困る。

 そこでお金も知識もあるエニグマを頼ることにした。グラキエースドラゴンから全然時間が経ってないのに、また頼ることになってしまって申し訳ない。


 そんな訳で、フィクトスファミリーの面々にはゴーストと一緒に、幽霊の時に居た場所で少しの間待機してもらっている。


「NPCの雇用か。なるほどな」


「なるべく寮みたいな施設を優先したいかな」


「そうか。んじゃ行くぞ」


「え、どこに?」


「バジトラ」


 エニグマ曰く、大人数を転移させるコストが無いんだからバジトラから移動させるべきではない、と。

 だから施設はバジトラで購入し、労働者たちもバジトラで活動してもらう方が良いだろうと言っていた。

 クランハウスとペアリングすれば、雑貨屋ぐれ〜ぷのように施設間の移動で来れるようにできるらしい。それなら距離や場所による不便もないと考えているようだ。


 やはりエニグマを頼って正解だった。



 現在、バジトラの商業ギルドという施設に来ている。

 この商業ギルドは名前の通り、商業に関する公共施設だ。街によっては冒険者ギルドと合併しているが、バジトラやヴィクターなんかの商業がある程度盛んな街では独立した施設として存在している。

 来た理由は土地の購入。商業ギルドは不動産としての役割もあり、物件の紹介をしてくれたりするとかなんとか。


「100人余りが暮らせる物件となるとかなり限られてきまして……」


 提示された選択肢はまさかの二つ。限られてくると言っても、もう少し多いと思っていた。

 役員の話によると、ちょっと前までは同じ規模の物は複数あったのだが、急に購入者が増えて今はもう二つしか残ってないという。

 購入者は十中八九プレイヤーだろう。買わなかった人が急に買うようになったのではなく、買う人が増えたという事だと思われる。



 選択肢として出てきた二つの物件の条件を見比べてみる。

 片方は街はずれにあり、地図を見る限り敷地がとんでもなく広い。写真がないためどんな建物があるのかは分からないが、役員は立派な豪邸と言っていた。

 しかし敷地や建物の分、お金はかかる。それと定期的に軽く掃除はしているが、住むようにするには少し手入れをする必要はあるとのこと。


 もう片方も一件目までではないが街の外側寄りにある。こっちは一件目に比べると敷地は狭く建物も小さいらしい。だが僕が言った、100人を超過する人数を住ませるには十分な条件を満たしている。

 こちらは一件目よりもかなり安い。建物が狭い分、こっちは家具などを揃えればそのまま住めるらしい。


「どっちが良いかな……」


「広い方が良いんじゃないか」


「でも高いよ?」


 一件目はしっかり数えないと桁数が分からないくらいの金額をしている。確実に財布に優しくない。


「払えなくはない。まあ選ぶのはお前だ、好きな方にしろ」


「うーん……」


 将来性や拡張性という意味では、一件目の方が良い。敷地が広ければ後から施設を建てることも可能だし、人が増えても困りはしないだろう。

 すぐに決断できないのはやはり値段だ。僕が頑張ればすぐ払えるような額を緊急でエニグマに借りるというだけならすぐに決められるのだが、少なくとも“頑張ればすぐ払える額”ではない。


「……そういや俺も広い庭が欲しいな。悪いが勝手に決めさせてもらうぞ」


 そう言ってエニグマが広い方の物件を購入すると役員に伝える。

 僕が決めかねていたのを見てなのか、言葉通り広い庭が欲しかっただけなのかは分からない。


「良いの?」


「タダではやらんぞ」


「うん、それは承知の上だけど」


 ただそれだけの膨大な額を払う事になっても良いのか、という質問だ。


「ああ、構わん。グラキエースの件でロープの耐久と拘束力は実証できたんだ。となれば次にやる事は決まってる」


「……何?」


「楽しみにしておくんだな」


 教えてくれないようだ。ロープの耐久性と拘束力が証明されて次の段階に移行するとしたら、その次の段階というのは一体何なんだろう。

 耐久性も考えようによっては拘束力の一部だ。拘束中にロープが千切れでもしたら意味がない。

 そして広い庭が必要という事は……。


 まさかドラゴンを捕まえようとでもしているんだろうか。

 できるかできないかで言えば可能だろう。僕でさえ、『テイム』を使ってうさ丸やソラなんかと契約を結べたのだ。エニグマだってできてもおかしくはない。


「名義はお前な」


「え、うん。……名義?」



【購入手続きが完了しました】

【管理権限を取得しました】



「これで終わりだ。行くぞ」


 システムメッセージをゆっくり確認する暇もなくエニグマが出て行こうとしているので、急いで椅子から降りて着いて行く。








****








「全員居るよね?」


「102、人」


「ありがとう。はい注目ー」


 元幽霊たちを鉱山の中から購入した家まで連れてきた。鉱山から結構遠かったが、なるべく人と会わないように街の外側を回ってきたので目立ってはいないだろう。


「僕の友人であるエニグマに協力してもらって敷地が広い家を購入しました。皆さんにはここに住んでもらいたいと思います」


 頑張って声を張り、後ろの方の人にも聞こえるような声の大きさで説明を行う。

 エニグマの紹介、住居を優先したから仕事を与えるのはもう少し後になること、衣食住のうち住は与えてるけど衣と食はまだ未定なこと。


「とりあえずさっさと自分で稼げるようになってほしいかな」


 プレイヤーと違ってNPCは生命の維持に食事が必要になる。

 その食事を得るためにはお金が必要だ。しかし僕は介護をするつもりなんて一切ないので、食事のためのお金は稼いでもらいたい。

 僕だって常に管理できる訳でもないし、自立できるなら早々にしてほしいのだ。


「って事で、掃除と整備やっといて」


 エニグマが買ってきてくれた掃除用具を纏めて置き、話を終わらせてから親玉を呼ぶ。


「多分組織全員の名前を覚えることはないから、元々親玉だった君に代表やってほしいんだ」


「了解した」


「で、ある程度班分けをしておいてほしい。分野別に。というかそれぞれ何人くらい居る?」


「欠員を考慮すると鍛冶が四割。他の木工、石工、裁縫、料理、錬金術、その他がそれぞれ一割ずつ」


「その他って何」


「色々できる奴とか、雑用とか。あと交渉役なんてのも居る」


「なるほど」


 約100人居て最低でも一割ほどという事は、それぞれ10人は確実に居るのだろう。鍛冶の割合が多い気もするが、それに文句を言っても仕方がない。


「じゃあ分野別に大体10人のグループを作っておいて」


 人数が多いのは回転率が高いことを意味する。鍛冶の仕事を与えても、人数と仕事の配分を的確にやれば効率は高くなるだろう。

 つまり優先して仕事を確保するのは鍛冶だ。


「あと君の名前、フィクトスで合ってる?」


「はい」


「ん、オッケー。連絡事項は君に伝えるから、君からみんなに伝えてほしい。できるかな」


「了解」


 一応雇用主と労働者という関係になったからなのか、元幽霊たちも鉱山で肉体を与えた直後とは少し喋り方が変わっている。それでも完全な敬語という訳ではないが。

 僕は敬語のままでいいかと変えずにいたら、喋る度に敬語じゃなくていい、と言われるので仕方なく変えた。


 フィクトスに伝えるべきことは全部伝えたので、エニグマの元まで戻る。


「鍛冶の施設を作るのと仕事を確保しないとね」


「ああ。頑張れよ」


「仕事の確保は当てはなくもないけど、施設の方は一切知識ないんだよね。なんかヒントくれない?」


「商業ギルドあるいはプレイヤークラン」


「だよね。なんかいい感じのクランってどこかある?」


「……辰星運輸でいいんじゃないか」


 辰星運輸、建築なんかもやってるのか。サービスが幅広いな。

 しかしちょうど良かった。仕事の話を出雲さんに相談しに行こうと思っていたところだったので、施設の建設を辰星運輸がやっているならその話もしよう。


「じゃあ行ってくるね」



借金

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