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208話 解説と依頼と肉体作製


 ドラゴンの素材は手に入ったので、幽霊たちの肉体を作れるか試してみたい。

 しかし好奇心は抑えなければならない。

 先程ドラゴンから魂を回収した直後にブランがグラーシーズドレイクではない、と言っていた。その事について聞こうとしたらエニグマに聞けとの事なので、今のうちに聞いておいた方が良いだろう。

 それに加え、手伝ってくれたブランの頼み事も聞かなければならない。


 順番に処理していこう。まずはエニグマからだ。


「エニグマ先生」


 クランハウスのホールにある受付パネルを操作しているエニグマに声を掛ける。


「どうした急に。キモイな」


「酷くない? ……ブランが言ってたけど、さっきのドラゴン、通常個体と違うらしいね」


「ああ。レア個体と呼ばれる個体だな」


「レア個体」


 まず通常個体を見たことがないから違いが分からないが、レアなら強いとか特別なドロップアイテムが出るとか、貰える経験値が多いとかだろうか。

 特別なアイテムがドロップするとしたら解体してしまったのは勿体ないし、貰える経験値が多いなら魂の回収という経験値を獲得できない方法で倒してしまったのは勿体なかったかもしれない。


「どう違うの? やっぱり経験値が多い?」


「知らん。まあ強い分経験値は多いんじゃないか。そもそも個体が違うから素材も違うぞ」


「素材違うんだ。へぇー」


 つまり今回手に入れた素材は元々狩る予定だったグラーシーズドレイクの素材ではないのか。

 別にグラーシーズドレイクじゃないといけない理由もない。人間の素材に変換するのが目的だし、レアであるなら下位変換で変換できる量も増えるだろうからどちらにせよ文句はないが。


「あれの個体名はグラキエースドラゴンだ」


「グラキエース……」


 名前の響きがカッコいいな。


「レア個体はお前にも関連してる事があるぞ」


「うん?」


「グレイズの西方面で拾ってきた動物だ。アルビノの狸とアライグマは通常ポップしないモンスターだが、グラキエースドラゴン同様運が良ければ出会えるはずだ」


「めっちゃ運良かったんだな僕……。っていうか試してきたの?」


「まあな。それよりブランが待ってるから行ってやれ。この場合文句言われるのは俺なんだぞ」


 エニグマの視線が僕の後ろへ向いた。視線を追うと、椅子に座ってこっちを見ているブランと、その隣で宙を向いていて何を見ているのか分からないゴーストが。


「文句? ……とりあえずブランがエニグマに聞けって言ってたって事は伝えておくよ。それなら怒られないでしょ」


「分かった分かった」


 いいから早く行けとでも言いたそうな顔で、しっしっと手で払うような動作をする。これ以上話そうといしても同じ事しか言われ無さそうなので、エニグマとの会話はこれで終わりにしよう。


 エニグマから離れ、次はブランの正面に座る。


「ブランもありがとね」


「ん」


「それで頼み事って?」


「武器を作って欲しいの」


「え? 武器……?」


 武器の製作依頼なら僕ではなく武具職人の元を訪ねるべきではないのか。ブランなら魔法特化だし、武器のカテゴリは杖とかになる。となれば木工職人だ。少なくとも僕に頼む内容ではない。

 それを言おうとしたところで、ブランと目が合う。至って真剣な眼差しだ。ふざけている訳ではないようだし、ブランが頼むべき相手を理解していないとは考えにくい。

 つまり思考を巡らせた結果、僕に頼むのが良いと判断したという事になる。


「ブランの要求通り作れるかは分からないけど、とりあえずどんなのか教えて」


「まず形状は銃がいい。できれば狙撃銃」


「あー、銃ね。銃かぁ……」


 いきなりハードル高いな。でもこれはできなくもない。エニグマとブレイズさんの知り合いの人たちが集まって銃を作っていたし、頼むか交渉で何とかなりそうだ。


「弾を撃つ機構は必要ないけど、弾の代わりに魔法を発射したい」


「うーん?」


 物理ではなく魔法攻撃型の銃か。INTに極振りして魔法攻撃しかできないから魔法防御力が高い敵の対策に銃を、という訳ではないのか。


 しかし“形状が銃”よりも難しい要求が来てしまった。

 魔法を撃つだけならば転移装置と同じような感じで魔術と魔導プログラムでどうにかなるが、それだと撃てる魔法の種類と魔法攻撃力は固定になってしまう。ブランは自分の魔法攻撃力を反映して、種類に縛られることなく自由に魔法を使いたいはずだ。


「できる?」


「かなーーーーーり難しい。でも頑張って考えてみる」


「ゴーストとの先約があるんでしょ? 私のは後回しで良いから。じゃ」


 ブランはそれだけ言い残して受付から転移していった。

 製作時には頭を抱える事になりそうだが、今から考えて疲れる必要はない。ブランの言う通り、先に他の問題を解決してから時間をかけて頭を抱えよう。


「待たせてごめんね、ゴースト」


「問題、ない。幽霊、残り時間、まだある」





 ゴーストを連れて錬金ラボまで戻ってくると、部屋の隅に大量の木箱が積み上げられていた。


「おや、おかえり。原初のフラスコは20個ほど注文しておいたよ。転売でもするのかい?」


「使う予定です」


 パネルから注文履歴を開くと、原初のフラスコが25個注文されてあった。


 幽霊は合計で102人。原初のフラスコは二個で一セットで、元々持っていたのと合わせると26セットあるから全員を収容するにはあと25セット必要だな、と追加で25個発注しようとして思いとどまる。

 果たして原初のフラスコは51セットも使うのか?

 幽霊たちをフラスコに収容して、錬金ラボで肉体に移すのなら51セット全部使うだろう。だが、肉体の作製は現地でもできる。そして肉体に魂を入れたらフラスコは空になるので、また別の幽霊を収容できる。


 ……51セットどころか25セットも要らないのでは? 一セットで十分では?


「リン、焦ってる。何か、あった?」


「い、いや……なんでもない……」


 落ち着こう。

 この大量に余った原初のフラスコの処分は後で考えるとして、ドクターが払ってくれたであろう注文分の代金を渡しておこう。


「ドクター」


「……受け取っておこう」


 注文履歴に表示されいていた分のお金を差し出すと、ドクターは少し間をおいてから受け取ってくれた。

 これで金銭の貸し借りはなしになる。


「がんばろー」


 原初のフラスコを一セットだけ回収して空いている机へ向かい、幽霊を収容しているフラスコを取り出し、構築キット拡張パックに入っていた方のビルドマットを広げる。

 そして現れたウィンドウと睨めっこ。


「んー……」


 キャラメイクが苦手な僕からすれば、ある程度のプリセットが組んでいたとしても若干違和感が出てしまう。かといってスキャン機能で僕の体を参考にしたとしても、幽霊全員が同じような顔と体格になってしまう。

 しかしセンスもない、でも皆同じ顔なのも気持ち悪い、とループしていき、最終的に他のプレイヤーとかNPCをスキャンさせてもらおうという結論に至った。これならスキャン対象をどう集めるかだけが問題になるから、延々と悩むよりかはマシだろう。


 でも今回は作れるか試すというのもあって、スキャンするのは他人ではなく僕だ。

 僕をスキャンして何も手を加えないまま肉体を作製すると女性になってしまう。回収してきた幽霊は男性だったが、そのままなら生前と性別が変わるだろう。だが僕に性別を手直しできる技術はない。

 しかし幽霊にはどうなるか分からないと伝えてあるし、その上で実験体を買って出てくれたのだから、性別が変わるくらいなら許容範囲だと信じておこう。


 言い訳を考えながらスキャンを選択する。選択肢に現れたのは僕とゴースト、ドクターの他に知らない名前がもう一つ。


「んえ、誰だこれ……」


 見たことも聞いたこともない名前だ。しかし錬金ラボを見渡しても僕、ゴースト、ドクター以外に人は居ない。


「もしかしてこの幽霊?」


 原初のフラスコに収容している幽霊がスキャンの対象になっているとしたら、錬金ラボに知らない名前の人物が存在している事にも納得がいく。

 試しにスキャンを実行してみると、しばらくしてからウィンドウに肉体が表示される。

 鉱山で回収した幽霊と同じ姿だ。


「なるほどねぇ」


 スキャン機能は回収した魂の元の姿も反映できるようだ。

 リードの時は肉体を先に作ったが、リードは幽霊のように完全な抽出じゃなくて僕のHPとMPを死なない程度に吸い取っただけだ。その場合はどのような姿になるんだろう。不完全な僕なのかな。


 機能についての詳細を考察するのは程々に、肉体の作製に戻る。

 プリセットどころか最初から完成形があるのなら僕が苦労する事はない。これで先程狩ったグラキエースドラゴンの素材から人間の素材に変換できれば、残りの問題は素材量だけになる。


「リン、色んな、顔。おも、しろい」


「むっ」


 変顔をしているつもりはなかったのだが、客観的に見たら変な顔をしていたようだ。気を付けなければ。


 ウィンドウの端にある「等価交換」を選択し、グラキエースドラゴンの素材を放り込む。

 等価交換はポーションはポーション、クリスタルはクリスタルというように同系統のアイテムにしか変換できない。しかし、肉体を作製する材料である肉や骨などは同じカテゴリに存在しているようで、肉から骨などに変換できる。

 それらを踏まえ、投入する素材はグラキエースドラゴンの肉。理由は最も多いからだ。


 グラキエースドラゴンの素材から下位変換が可能な素材は膨大な量ある。その中には人間の素材もあった。

 一個の素材から複数の素材に変換、というのはできないので、肉体の作製に必要な素材の種類だけグラキエースドラゴンの肉を入れて下位変換を実行していく。

 素材の種類によって変換量にバラつきがあるが、変換量が最も少ない素材でも肉一個から二十人分の肉体を作製できるくらい変換できる。



【余剰分の素材は保存されます。素材ストックの項目から取り出し可能です】



 素材の投入が終わると、今まで見たことのないメッセージが表示された。メッセージを閉じると、ウィンドウの端、「等価交換」の項目の下に「素材ストック」が追加されていた。


「はいおっけー」


 作製完了を選択すると、ウィンドウに表示された肉体が投影されて机の上に出てくる。

 いよいよ大詰め、魂を込めれば僕がやる事は終わる。後は魂が肉体に馴染むのを待つだけになる。


 ゴーストが暇そうな顔で僕の作業を眺めているので、魂魄抽出装置のチューブを肉体に刺すように頼んでみる。


「ちゃんと刺さってる?」


「ぶっすり」


 装置を起動し、フラスコに収容していた幽霊の魂を肉体へ移す。前と同様、スポッとフラスコから出て行って消えた。


「これで少し待機だね」



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[一言] ドクター、なんで間があったのかな?
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