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191話 テューロという街


 転移装置についての商談はお試しで設置してみて様子を見よう、というので決まった。


 その後も売れそうな物について話した。星命の護符とかもチラつかせ、不定期でアイテムを納品するという契約を取り付けた。

 ちなみに注射器や魔導血液のポーションは一切出してない。遠距離で注射器を刺すような使い方をしなければ普通のポーションでいいし、売る必要がないと判断した。



「長旅って程でもないけど、お疲れ様」


「ありがとうございます」


 商談らしき会話が終わった頃、馬車が目的地へ到着した。

 疲れた顔をした出雲さんが馬車の外から手を伸ばしてくれたので、有難く手を掴み、勢いを利用して馬車を飛び出る。



 護衛サービスの目的地に設定したのはテューロという街。

 前回のイベント、「都市防衛ライン」でモンスターによる襲撃に耐えきれず防衛が失敗した街である。だからこそ永続イベント「過去の探求」に繋がるのだが。


 しかし防衛に失敗し壊滅した、と聞いていた割には結構建物が残存している。むしろ本当に壊滅したのか疑わしいほどだ。

 プレイヤーとNPCを一目で見分ける方法が無いためNPCが居ないのかは不明だが、少なくとも見かける人物は全て戦えるような格好をしている。民間人は居なさそうな雰囲気がある。


「もう復興してるんですか?」


「いや、襲撃によって破壊されたのは一部だけだよ。住人は居なくなってしまったけどね」


 襲撃してきたモンスター達、建物じゃなくて住人が狙いだったのか。前線の人間を無視して街へ行こうとしてたのは、街中の方が弱い人間が沢山居るって分かってたからなのかな。


「それでも冒険者ギルドや教会なんかは人は居るし、クランハウスもあってちゃんと使える。破壊されて遺跡への入口になった所は元々購入不可のエリアだったから機能性は他の街と変わらないよ」


 結果的に住人が居なくなり、街の一部が崩壊して遺跡が出てきただけになる。


 テューロを訪れた理由である遺跡についてだが、形式はサスティクのダンジョン、世界の写鏡と似たような物らしい。

 遺跡にモンスターは出てくるが、街へ出てくる事は無い。

 ただ世界の写鏡とは違い、冒険者ギルドによる管理はないらしい。新しく出てきた物だから管理よりも調査が先になっているだけで、時間が経てば管理もされるようになるらしいが。


「予定があるからボクはここで。そうだリンさん、フレンド登録をしてくれないかな。忙しい時もあるから早めに連絡してくれると嬉しいんだけど」


「あ、はい」


《『出雲』からフレンド申請が届いています。受諾しますか?》


 受諾しておく。フレンドが増えるのは嬉しいし。


「ありがとね。じゃあこれにてドロンってことで」


 手をヒラヒラと振りながら出雲さんはテューロの街中へと歩いて行った。多分、この街にあるクランハウスへ戻ったのだろう。


 僕の横に立っている、商談の途中から一切喋っていないブレイズさんを見る。

 顔色は悪くない。車酔いではなさそうだが、少し不機嫌そうである。


「とりあえず教会行きますか」


「……そうだね」







****






 教会のファストトラベルと開放するためのクエストはHP回復ポーションの納品と簡単な物で、すぐに終わった。


 テューロ内部を歩いていてそれとなく理解したが、崩壊したのは街の主要部分も一部含まれているようだ。そのせいで住宅街が少し取り壊され、道を作っている途中だった。

 住人が居なくなったとはいえ、勝手に取り壊しても平気なんだろうか。


 などと考えながら街中を歩き、遺跡の入口までやってきた。

 道を作っているのと同様に、遺跡もただあるだけでなく、出入りがしやすいように階段を作っている途中だった。


「ここも辰星運輸か。人が集まるから商売ができるって考えてんのか」


 作りかけの階段、端の一部は既に完成していたのでそこを通っている時に、ブレイズさんがそう呟いた。


 何の事かと考えたが、すぐに答えは出た。

 土木作業員だ。

 階段を作っている者はツナギと呼ばれるような作業服を着ていて、黄色いヘルメットを被っている。現実っぽい格好だ。胸ポケットやヘルメットには辰星運輸のロゴマークが描かれている。

 言われてみれば、街中で舗装や住宅の解体をしていた者も同じような格好をしていた。


「先行投資ってやつなんですかね」


「そうかもね。あとは慈善事業をやったと信用を得たり名前を広めたりってのもあるかも」


 ただ人が集まるからってだけでなく、ある程度収益の見込みを持ってやっているのかもしれない。

 それにしても、どれだけの資金が動いているんだろう。絶対に少なくない額、最低でも僕の全財産の5倍くらいは動いていそうだ。

 そう考えると財力って大事なんだな。特に商売をするのには。





「よし、じゃあ行こうか」


「はい」


 階段を下り終え、遺跡の内部へ侵入したので意識を切り替える。

 今回は下見とか様子見なので本格的に探索や攻略を行うつもりはない。これはブレイズさんと話し合い、互いに気になる事が探索よりもそっちを優先しようと決めたからだ。

 本格的な探索や攻略をしないといっても、簡単に死ぬつもりは無いし、可能な限り情報を集めて帰りたいと思っている。



 まずは入口で装置を使用し、座標情報を記録する。

 転移用の装置はスペアがあるのでブレイズさんにも渡しておいたので、脱出や離脱、帰還に使ってもらう。

 次に記録した座標情報をコピーして同じ座標が記録された魔石を三つ用意する。一つは僕が転移時に使う物、一つはブレイズさん用、最後の一つは予備だ。


「これをその空いてる窪みに入れてください」


「分かった」


 魔石を渡し、装置に組み込んでもらう事であとは起動するだけで転移が可能になった。

 ブレイズさんが使い方を理解してないと不安だと言うので、装置が正常に動くかのチェックも兼ねて使ってみてもらうと座標情報を記録した位置へ転移した。

 動作不良は無いらしい。転移距離が短かったからか魔石に破損はないため、取り換える必要はなさそうだ。


 座標を記録した位置から少し進んだ所から装置を起動して転移していたので、ブレイズさんが戻ってくるまで足を止め、追いつかれたらまた並んで歩く。


「OK、使えるね」


「それは良かったです」


 街を幾つか跨いで移動しても座標情報が記録された魔石が壊れるだけだ。遺跡が広いとしても、街と街の間以上の広さは無いだろう。仮に街と街の間と同じくらいの広さがあっても魔石が壊れるだけで済む。


 遺跡内部は長い間街の地下に埋もれていたのにも関わらず、意外と綺麗だ。所々壁や床が風化して壊れているのは別として、埃やカビなどは一切ない。

 壁にはランタンが吊るされていて、壁際の一帯を照らしている。

 僕は吸血鬼になった恩恵で暗視能力を持っているのでランタンは意味がない。しかし普通の人にとっては有難い物だろう。進んでいくと途中から無くなってしまったが。


「ランタン無くなりましたね」


「多分あれは元々ある物じゃないね。誰かが設置したんじゃないかな」


「まだ設置途中って事ですか」


「まあそうなるね。全部に付けるつもりなのかは知らないけど」


 ブレイズさんがそう言いながら自分に注射器を刺すと、紺色の髪の一部に銀髪が混ざり、目が赤くなった。

 中身は僕が『ブラッドエンゲージ』で生み出した血液だったようだ。血液ポーションもそうだけど、全部見た目が同じだから分かりにくい。


 一時的とはいえ吸血鬼になれば暗視能力を獲得できるし、ステータスも上昇する。遺跡に入った時は夕方だったし、夜になればステータスの上昇量も増えるしHPとMPの自動回復力も高くなる。しかも大抵の暗視のポーションより効果時間が長いし、作製コストも僕の血だけなので安い。

 色々な観点から見ても良い判断だと言える。


「とりあえず出てくる敵の種類とある程度の広さが分かるといいね」


「ですね」





 雑談を交えながら歩くこと数分、平和なまま探索が続くと考え始めた所で、異質な音が響いてきて足を止めた。


 少なくとも前後の直線に音を出した原因の存在は見えない。

 ムニュン、という謎の音は確かに聞こえた。同じタイミングでブレイズさんも足を止め、チェーンソーを取り出して構えたので、音がしたのは間違いない筈だ。


「……何の音?」


「さあ……? スライムとかですかね?」


 シリンジカタパルトと爆弾を手に持ち、音源の方へ向かう。分かれ道を幾つか曲がっていくと、何かが『探知』の範囲内に入ったようでなんとなくの場所が分かった。

 このまま道を進んでいけば確実に遭遇する。


「人型だね。でもなんか変だな……」


 『探知』と一括りにしても、このスキルには様々なアビリティが存在する。

 僕が主に使っているのはなんとなく生物の位置が分かる『生物探知』と、名前のまんま五感を強化する『聴力強化』、『視力強化』の三つだ。他にも持ってはいるがレベルが低いため効果は小さく、使ってはいない。

 ただ以前エニグマがやっていたような音波の反響を利用した索敵なども『探知』に含まれている。ブレイズさんが見てもいないのに人型だと分かったのも、僕が知らない『探知』のアビリティだろう。


「変とは?」


「いや、ごめん。よく分からない。俺も見えてる訳じゃなくて感覚的にどんなのかが分かるだけだからさ。ただ警戒はしてほしいな」


「分かりました」


 更に進むと、道の中央に誰かが立っていた。二人組で、ブレイズさんの言う通り人だ。

 離れているからか、顔や装備は見えない。真っ黒で、まるで影のような……。


 いや、それはおかしい。

 今の僕は暗視能力を持っているから、暗いから顔が見えないなんて事はあり得ない。顔が見えないというのは視力不足か、物理的に隠れているかの二択しかないが、視力はアビリティによって強化されているし、立っている者は顔を隠すような物は身に着けていないように見える。


「リンちゃん、構えて」


 違和感が確信に変わる。あれは暗くて黒いのではなく、元から黒いのだ。

 ただ、近付いたせいで気付いた事もある。ただ黒く塗りつぶされた平坦で薄っぺらい影ではなく、黒には濃さが存在する。そのせいで身に着けている装備の凹凸が視認できた。

 片方は普通の服、もう片方は軽そうな防護服っぽい格好だ。その両方が頭に二つの突起がある。

 見覚えのある格好でしかない。僕たちの格好にそっくり。


「コピーされてるぅー……」


なんかまた改行とかで迷走してきた気がする

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― 新着の感想 ―
[一言] ドッペルゲンガーじゃないか
[一言] コピー系の敵多いな
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