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189話 移送護衛サービス


「何だったんですか?」


「十割くらいエニグマのせいだろうな」


「あ、それは何となく分かってます」


「アイテムステータスに『激昂の呪い』っていうのがある」


 呪いの装備だった。激昂という文字からすると、『迸る激情(フラッシュポイント)』の副作用みたいな物っぽい気もする。

 あのスキルに今までそんな影響があるとは聞いてなかったが。前に暴走したりもしていけど、それは別スキルの影響だったし。


「使い続けると呪いの炎に蝕まれる。炎は損傷を与えないが、苦痛を与える」


 痛みを乗り越えて呪いを克服すると、その武具を装備している間、能力の上昇と特殊武具スキルの使用が可能になる。

 武具スキルというのは名前の通り武具に付与されたスキルで、この場合は『激昂の呪い』がそのまま武具スキルになる。呪いの炎を使用できるくらいしか文面の情報が無いらしいので、それ以上何かあるかは実際に使ってみないと分からないそうだ。


「結構強くないですか?」


「うん。でもエニグマは殴るよ」


「ああ、はい」


 エニグマが悪いかというとそうでも無いが、悪くないという訳でもない。

 おそらく、エニグマは意図的にチェーンソーに呪いを付与してブレイズさんに渡したのではない。呪いについて知らず、何となくで貸した結果ブレイズさんに呪いが発現してしまったのだろう。

 呪いを知らなかったのはエニグマ自身に効力が無かったから。それは自覚症状がない病気みたいな感じだ。しかしアイテムステータスを調べるだけで呪いについては分かる筈だったのに、それをしなかったのはエニグマの怠慢ともいえる。

 それでも全ての責任がエニグマにある訳ではなく、ブレイズさんがチェーンソーを起動する前に調べなかったのも原因の一部ではある筈だ。


「いいんじゃないですかね」


「止められると思ったけど」


「エニグマも悪いと思いますよ。100%ではないですけど」


「……そ、リンちゃんが良いならいいや」


 ブレイズさんがさて、と呟いてから僕から目を逸らした。移った視線の先には涙目で正座しているユラさんが居る。その横にミーティアさんも何故か一緒になって正座している。


「ごめんなさい~!」


「守れなくて、ごめんなさい……」


「ミーティアちゃんが謝る理由おかしくない?」


 そうはそうだ。ミーティアさんは僕を守ってくれていた。そのせいでブレイズさんの方に手が回らなくなったとも考えられるが、アズマでもない限り一人で離れた二人を守るのは無理だ。守られた立場では口出しできないが。


「俺は怒ってないさ。急に必殺技撃っちゃったのは……まあ悪い癖かもしれないけど、そこさえ気を付けてくれればいいよ。反省してるならこれで終わり、リンちゃんもそれでいい?」


「え? あ、どうぞ」


 そういえば僕も一応被害者か。


「じゃあ終わり! ユラちゃんもミーティアちゃんも立ちな」


「はい!」


「うぅ……」


 ユラさんは元気よく立ち上がり、ミーティアさんは足が痺れたようでユラさんに支えられて何とか立ち上がったが、そこから動かない。


「で、目的は達成したしどうする?」


 ブレイズさんがこちらを見てくる。

 この後の予定はない。正確にはやりたい事はあるけど明確な行動予定は決まってない、だ。

 弓のアビリティを手に入れたし、先程考えていたテューロについて、行けはしなくても行くための道筋を考えるくらいはしておいた方がいい。具体的には辰星運輸に話しに行くべきだ。


「辰星運輸のクランハウスに行くとかですかね」


「りょーかい。そういう訳で、またね二人とも……ミーティアちゃん大丈夫?」


「気にしないで、ください……。大丈夫です……」


「ブレイズさんまたね!」


 二人に見送られ、Project Cometのクランハウスを出る。

 別れ際に二人とフレンドになった。ユラさんからは弓について困ったら聞いて欲しい、ミーティアさんからは友達になってください、と。

 Project Cometは結構な数のメンバーが居る筈だが、一回も会わなかったのはクランハウスが複数の街に分布しているからのようだ。設備カスタムの機能が影響して施設は街ごとに異なるため、ラーディアのクランハウスの訓練所は他のクランハウスからアクセスできないとか。



 そんな感じで二人と別れて教会まで来た。

 現在居る街はラーディア。行先はヴィクターにある辰星運輸のクランハウスだ。ラーディアが北方面、ヴィクターが南方面というだけあってファストトラベル機能を使っても遠く、お金が掛かる。なので少しでも軽減するために雑貨屋ぐれ~ぷでその場に転移を行い、ルグレまでの移動料金を消してからヴィクターへ向かう。


「大丈夫かなぁ……」


「適当でも何とかなるさ」


 そんなものかな。





 辰星運輸のクランハウスは今まで見たどのクランハウスよりも大きい。他の所とは違って入口に看板があり、大きく「辰星運輸」と書かれているため一目で分かりやすかった。

 そしてここは今まで訪れたクランとは形式が違うようだ。商業系のクランだからか、一律で客として扱われる。


「ではこちらでお待ちください」


「はい」


 受付で要件を伝えると何処かの部屋に通され、待機しておくように言われた。


「相談だけでもちゃんと通してくれるんですね」


「門前払いして他のクランに客流れるくらいなら相談だけでも聞いてから判断するべきって考えてるんじゃないかな」


「他のクランでも同じような事やってるんですか?」


「まあこの世界特許権とか無いし、辰星運輸を真似して始めたクランもあると思うよ。辰星運輸がやらなくてもどのみち少し時間が経てばやる所は出てくるだろうけど」


 客の取り合いとか、面倒そうだ。そういう方針とかを考えるのは上の人だろうし、下っ端というか末端の人がそこに関わってこなさそうだけど、振り回されたくはないしパンドラの箱みたいな自由なクランに入っててよかったな。


「ただ初期に始めたアドバンテージはある……筈だよ。先にそういう事業をしてるって噂が広まれば、競争になった時に名前が出やすいし」


 ブレイズさんがそう説明してくれた直後に、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。

 どうぞと少し大きめの声で言うと、ドアが開いて人が入ってくる。


「失礼するよ、ブレイズ。それと、リンさん、だよね? エニグマから聞いているよ」


「初めまして」


 入ってきたのは眼鏡を掛けた男性だ。僕が持っているのと同じゴーグルを頭に付けている。服装は布製で、微妙に動きにくそうな感じだ。見るからに戦闘を意識していない、というか戦闘しないプレイヤーだ。


「うん、初めまして。ボクは出雲、辰星運輸のクランマスターをやらせてもらってるよ」


 まさかのクランマスターだった。利益が出るかも分からない相談だったしクランマスターが出てくるとは思ってもいなかったが、もしかして全ての相談や商談をこの人が担当しているんだろうか。

 もしそうだとしたら処理能力が凄いという事になる気がする。


「何で出雲が出てくるんだ?」


「何でって、そりゃパンドラの箱とは契約があるからね。エニグマにも良くしてもらってるし」


 エニグマが契約がどうとか言っていたのは覚えてるけど、クランマスターが出てくる程の契約を結んでいたのか。


「それで、護衛と移送についての相談だったね」


「はい。ヴィクターからテューロまでなんですけど」


「うん、成程ね。人数や時間帯、日時の指定はある?」


「日時はいつでも良いです。人数は……二人です」


 一瞬だけ他の人が一緒に来るかもしれないという思考が過ったが、誰かを誘うつもりはない。エニグマは別のゲームをやってるからログインしてないし、アズマやブランなどの他のメンバーは既にテューロへ行った事がある。

 念のため確認しようとブレイズさんを見たら、僕に目を合わせて頷いてくれた。


「二人ね、オッケー。日時の指定もなし、と。ちょっと待ってねー」


 出雲さんは手に持っていたボードに挟まれた複数の紙に目を通して確認した。パラパラと捲っていって四枚目になった所で手を止め、視線をこちらに戻してくる。


「一番早いのだとこの後すぐに行けるね」


「幾らですか?」


「あー……こんな感じだね」


 ボードに挟まっていた紙のうちの一枚を取り出して見せてくれた。移動距離や馬車の大きさ、人数などによってプランが異なるようだ。僕が希望した条件に丸が付けられていて、合計で13万ソルほどになっている。

 払えなくはない額だ。手持ちでは足りないため、クランハウスにある貯金箱へ取りに行けば、にはなるが。


「高くね?」


「いやー、これでもサービスしてるんだけどなぁ」


「13万で良いですよ」


「……リンちゃんがそう言うなら」


「うん、じゃあこれで」


「クランハウスにお金取りに行ってきます」


「準備が終わったらもう一回ここに来てね。ボクも準備しておくよ」


エニグマの影響力は大きい


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[一言] さすがエニグマ
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