187話 おどおど
更新時間に意味は無いです
イベント、「都市防衛ライン」の終了。結果として、壊滅した街は一つだけだった。
それでも街が一つ壊滅してしまった、とも言える。しかし、僕とエニグマ、アズマの三人で防衛に参加したベラルも壊滅しかねない状況ではあった。
長く続くウェーブとプレイヤーキラーによる防衛戦力の低下。エニグマとアズマが居たからこそ全ての敵を迎撃し、全ウェーブを突破できた。二人が居なかったらほぼ確実に壊滅していた、とも言える。
防衛としての結果は出せただろう。
ちなみに、エニグマがベラルの防衛に赴いたのはNPCの占いによってベラルが多くのモンスターに襲撃される、という結果が出たためだったようだ。何でも、都市を一つも壊滅させずにイベントを終了させようという考えがあったらしい。NPCから聞いた話はモンスターに関する物だけで、プレイヤーキラーの存在はエニグマにとっても想定外だったとか。
エニグマは占いの結果で出たベラル壊滅の可能性と、前々から予想していた壊滅した街が次のイベントの舞台になるだろうという事。それらを踏まえた上で、次のイベントを潰せないかという好奇心と悪戯心で街を壊滅させまいと奮起していた。
それでも一つは壊滅してしまったと悔やんでいたが。
イベント報酬は終了後にクラン対抗戦の報酬配布と同様、お知らせにメッセージにアイテムが添付されて送られてきた。
メッセージによると、僕の報酬はセーヴィルとベラルの防衛による物だ。
内容は勲章が何枚か。それと「無形のスキルオーブ」というよく分からないアイテム。あとお金とステータスポイントとスキルポイント。
勲章はコインのような物とピンの付いたメダル形の物の二種類がある。コインは十枚ほど。効果や用途は不明。メダルは二枚のみ、アイテムの分類は装備品。装備ボーナスはSTRとVITにプラス10。それが二つで20ずつ上がる。サイズを変更できる特殊効果もあるので、クラン対抗戦で貰ったバッジの横に付けておいた。
無形のスキルオーブは名前に反してスキルを取得できる効果は無い。「無形」というのはスキルの名前ではないようだ。
残りの三つ、お金とポイント二種は特に言及する点も無い。レベルに依存しないポイントはやはり有難いってくらいだ。
「んむー……。やっぱりただの水晶かな。鑑定しても何も出ないし」
無形のスキルオーブをゴーグルの『鑑定』を使用して調べてもみたが、何も出なかった。
目ぼしい結果が出なかったのではなく、文字通り何一つとして情報が出なかったのだ。要は鑑定不可。どういったアイテムであるのか、何を目的に配られたのかも分からない。現状はただの不気味な水晶でしかない。
いつか鑑定できたりで効果が分かる事を願おう。
コインの勲章を指で弾きながら、システムメッセージのお知らせを確認する。コインを弾く時の高い音が癖になる。
新たなお知らせは毎度恒例のアップデート情報だ。なんだかんだまだやっていない闘技大会の調整と、イベントの告知。
闘技大会の基本的なルールは勝利するとポイントが増え、敗北するとポイントが減る。そのポイントの多さでランキングが決定する。
今回の調整はマッチングに関する物だ。今までは多少の振れ幅はあれど、ポイントが近しい者同士でマッチングするようになっていた。
しかし時間帯によってはポイントが少ない者と大量保持者でマッチングするケースがあった。その場合は実力の差を考慮して強制的にキャンセルするのだが、調整によってキャンセルが無くなったようだ。
ポイントの方に調整が入り、自分よりポイントを大量に保持しているプレイヤーに勝った場合、手に入るポイントが多くなる。負けても失うポイントは少なく、ローリスクハイリターンとなったのだ。ランキング上位の者は時間帯によってはハイリスクローリターンになるということだ。
まあ、対人戦はあまりやるつもりは無かったから僕にとっては案外どうでもいい調整だ。
イベントの告知は二つあった。
一つ目は「都市防衛ライン」で壊滅したテューロというかなり南の街が舞台となるイベント。イベント名は「過去の探求」だ。
街が壊滅した事で街の地下にあった遺跡が露出したそうで、そこの探索がイベントの内容になる。告知でかなり広いと明言され、街よりも広く張り巡らされた地下遺跡を歩き回る事になるんだとか。
この「過去の探求」は闘技大会と同じ永続イベントだ。簡単に言えば、ダンジョン追加である。
二つ目は「Dimension:PHANTASISTA」。こちらも探索型のイベントで、別マップを探索する。
探索してアイテムを収集する形式としか情報は公開されていない。期間は10月の5日と6日。結構な時間がある。
「地下遺跡かぁー……」
地下遺跡。街の地下にあったものが、壊滅によって露出した。
遺跡が作られた時代が何時なのかにもよるが、もしかしたら錬金術についてまた何か分かるかもしれない。テューロという街は聞いたことすらないが、行ってみるのもありだ。誰かに聞けば大体知ってる。
「んー」
しかしエニグマに連れて行ってもらうというのはできない。エニグマは前に言っていた別のゲームが発売されてプレイできるようになったとかで、ここ数日は少しの間だけログインして他の時間はそのゲームをやっている。
何かあれば呼べとは言われたが、連れて行って欲しいからという理由で楽しみを邪魔するのも気が引ける。それにこれくらいはエニグマに頼らなくても解決できるようになりたい。
だがエニグマに頼らずに行くとは言っても、僕の戦力では行けるか怪しいし、そもそもテューロがどこにあるかも知らない。結局は誰かを頼る事になるが、エニグマに全部任せるのをやめたいだけだ。
要はあれだ、いつもは行先までの乗り換えをエニグマに任せてただ着いて行っていただけだが、行先までの道のりも乗り換えも自分で調べて行こうという考えだ。結局交通機関は使っているしそこは変わらない。
「まずは場所かな。ブレイズさんなら知ってそうだ」
フレンドメッセージで聞いておこう。
行く方法は行った事がない場所だから馬車くらいだが、より安全なのは辰星運輸の護衛サービスだろう。前にエニグマに連れられて利用したが、あれから繁盛しているようだ。結構話題に上がっているのを耳にする。
問題は金だ。結局それである。
一応蓄えがあるといえ、それも無尽蔵ではない。辰星運輸が提示する額によっては財産の大半を失ってもおかしくはない。
≪『ブレイズ』からフレンドメッセージが届いてます≫
【ブレイズ:口頭で説明する方が楽だから今行くよ。あと今日暇?前に言ってた弓使いと連絡が取れたから紹介できるけど】
返事早いな。
何か返事しようとフレンドメッセージを見つめていると、本当にすぐにブレイズさんが錬金ラボへやってきた。スタンバイしてたんじゃないかってくらい早い。
「テューロの場所だっけ?」
「はい」
「あー、ここだね」
ブレイズさんは地図を見せてくれる。指が置かれている場所に街の形があり、その上に被せるようにテューロという文字が書かれている。
方角で言えば北の方、地図上では上の方。そっちを見ていくと、知っている街の名前が幾つか出てきた。繋がっている道を辿っていくと、テューロまでに何個か街がある。
「最短でヴィクターから8個進んだ街かな……」
いや遠いわ。
何だ8個進んだ街って。どんだけ遠くで壊滅してるんだよ。
遺跡はどうしても気になるから行くけどさ。
「イベント? 一緒に行く?」
「いや、ずっとエニグマに頼りっぱなしだったので今回はなるべく自分の力で行きたいというか」
「俺もテューロはまだ行った事ないしちょうどいい。俺は着いて行くだけだから全部任せるよ。勿論、リンちゃんが嫌じゃなければね」
ブレイズさんはエニグマ並みに頼りになる。もし想定外の事があっても、ブレイズさんの知識や力があれば解決できるかもしれない。そういった意味では着いてきてもらうのも悪くはないのだが。
「むむむ……」
しかし想定外でも頼ってしまうのはどうなんだろうか。
「人脈も力だと思うけどね。自分でどうにかできない時に頼れる人との繋がりは強い力になる」
「確かに」
言いくるめられている感じはするが、ブレイズさんの言う事も納得できる。
「じゃあ決まり。それで今日は時間ある?」
「あーーーーーーーーーーります」
「弓使い、会いに行く?」
「行きます」
ブレイズさんに弓使いの人との仲介を頼んだのは、シリンジカタパルトの武器種が弓だからだ。装填を補助するアビリティや速射系のアビリティが無いかとブレイズさんに聞いた時、ブレイズさんは知らないが弓使いの知り合いなら居る、という事で紹介してもらえないか頼んだ。
連れられて向かったのはラーディア。「Project Comet」というクランのクランハウスがあるのがラーディアらしい。
弓使いというのはそのクランのサブマスター。アズマと同じ役割の人らしい。
どこかで聞いたクラン名だな、と思ったが、クラン対抗戦でトップ10位のどこかに入っていたクランだ。表彰されたから聞き覚えがあるんだ。
「ここだね」
クランハウスまで来ると同時に、誰かが扉を通って出てきた。
「お、ミーティアちゃん。こんにちは」
「え、ええ……!? ブレイズさん……どうしてここに……?」
少し大きめのコートを着た少女だ。水晶に月が彫られたネックレスを付けていたり、コートの胸ポケットに星のマークが描かれている。クラン名通りなのか、星に関する装備が多いようだ。
それに、このおどおどした喋り方とミーティアという名前。お陰で思い出した。この人、「Project Comet」のクランマスターだ。クラン対抗戦の表彰式で何処かへ走り去ってしまった人。
今の僕より少し大きいくらいなのに、クランマスターとしてしっかりしているのは凄いと思う。喋り方はおどおどしてるけど。
「ユラちゃんに会いに来たんだ。話通ってる?」
「あ、はい……。えっと、その子が……?」
「どうも、リンです。よろしくお願いします」
「ど、どうも。ユラちゃんはクランハウスの中に……あ、えっと……入場権限を与えます……」
≪クラン『Project Comet』のクランハウス:ラーディア支部への入場権限が与えられました≫
言っている途中でシステムメッセージが届いた。
喋り方とは違ってメニューの操作は早い。いや、言葉よりも行動の方が早かっただけかもしれない。
「ありがとうございます」
「ユラちゃんは……ホールで待ってると思います……。わ、わたしは、えっと……あ、案内しま……す」
とても言いにくそう。




