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186話 赤と青


 いきなり背後から攻撃されて、死んでしまってから急いでベラルに戻ってきた。


 そこで目にしたのは異様な光景だった。


 赤のオーラを纏ったエニグマと、青のオーラを纏ったアズマ。

 それぞれに違いがある。エニグマはオーラの他に赤い雷も纏っていて、アズマは鎧の関節部などのあらゆる隙間から紫のオーラが出ているため、紫色に発光しているように見える。

 エニグマの『迸る激情(フラッシュポイント)』は前にも見たが、アズマのは初見だ。

 いや、エニグマのも前に見たのとは少し違う。エニグマの体に近付くにつれて色が濃くなるのは、前に見た時には無かった。


 しかし異様なのは二人が纏っているオーラではない。

 視覚で認識できる「異様」という言葉が最も顕著に現れているのはアズマだ。人間だろうがモンスターだろうが、エニグマを無視してアズマと戦っている。矢も魔法も投擲物も、あらゆる遠距離攻撃が軌道を変えてアズマに集中しているのだ。

 全てのヘイトと攻撃がアズマに向いている。これを異様と言わずして、何と表せばいいのだろう。


「泣いてる……?」


 今のアズマを見ていると、兜の目の部分が紫に光っているからか泣いているように見える。それだけでなく、不思議と物悲しい雰囲気を纏っているようにも感じた。


 エニグマはアズマの周囲に居る敵を次々と倒していっている。動き始めてしまうと僕は視認できないが、一瞬だけ赤い雷が空中を通り過ぎると、その近くに居た敵が死亡し光となって消えていく。

 アズマがヘイトを集め、エニグマが処理する。初期にやっていたタンクとアタッカーの関係と変わらないが、二人の強さはかなり変わっている。



 しばらくすると全ての敵の殲滅が終わり、エニグマが止まった事で再び視認できるようになった。


「凛。俺の注意不足で死なせてしまったな、すまん」


「怒ってるの?」


「……いいや、この場における合理的な判断を下しただけだ」


 止めどなく溢れ出ているオーラから受ける印象とは反対に、穏やかな目をして頭を撫でてくる。


「生き残った防衛戦力は一時的に撤退した。死んだプレイヤーが戻ってくるまでは俺らだけで相手だな」


「大丈夫?」


「問題ない。お前は俺らが――」


「リン、サポートを頼む」


 珍しく鎧を着ている状態のアズマが喋った。それもエニグマの言葉を遮るように。


 他の人が戻ってくるまで僕達で防衛しなくてはならない。プレッシャーも感じるが、二人は急に攻撃してきた敵プレイヤーとモンスターの相手をしていたのだ。僕が居なくても何とかなる。

 だが何もせずに傍観するつもりはない。足を引っ張らない程度にはサポートできるように頑張ろう。


「……ヘイトは全部アズマに向かう。俺とお前は攻撃をするだけでいい。周りに人は居ないから何でもいい、殲滅力が高い攻撃を使え。俺とアズマはどうにでもなる」


 どうにでもなる、というのは巻き込んでしまう可能性についてだと思われる。他人を巻き込まないように、と考えなくていいのであれば、色々なアイテムが使える。

 殲滅用の攻撃手段としてはずっと主力である爆弾や毒煙玉がそうだ。攻撃範囲が広いため周りに人が居ると使えないアイテムである。


「任せて。殲滅力は折り紙付きだからね」


 ここはレベル上げのチャンスだと考えよう。大量の敵を殲滅すれば、ゴーレムを作ったり強化するのに必要な経験値の稼げる。

 殲滅ならサスティクのダンジョン、聞いた話によると名前を世界の写鏡というらしいが、そこの11階層から大量の敵を相手にする場所でやり方は知っている。毒で倒しきれずとも爆弾や弓があるし、事前に時間があれば魔法陣の設置もできる。なんならエニグマに設置して来てもらうのもありだ。


「来たな。死なない程度に頑張れよ」


 そう言ってエニグマはまた見えない速さで移動していった。目の前に居たはずのエニグマが突如消え、赤い雷だけが残っていた。

 魔法陣の設置を頼む前に行ってしまった。仕方ないので諦めよう。


「アズマ、その青いのってどういう効果なの?」


 見ていたのとエニグマから聞いたのでヘイトや攻撃を集める効果があるだろうというのは予想できるが、正確な効果をまだ知らない。

 だからアズマに聞いたのだが、返答は中々返ってこない。

 ジェスチャーで何かを伝えようとしたり、メニューを操作しているような動きを見せた後に、考え込んでしまった。


「『轟く慟哭(フラッシュポイント)』はエニグマの『迸る激情(フラッシュポイント)』の対極ともいえるスキルだ」


 無言でどうにか伝えるのを諦めて喋り出した。それと同時に、フレンドメッセージが送られてくる。


 口頭では同じ「フラッシュポイント」という読みだが、スキル名は違うようだ。

 轟く慟哭と迸る激情。アズマからは泣いているように、エニグマからは怒っているように感じたのも関係があるのだろうか。


 感情の関係はさておき、『轟く慟哭(フラッシュポイント)』の効果はエニグマにも引けを取らない強さだった。

 まずステータスの上昇。HPを4倍、VITとMNDを3倍に上昇させる。

 次に回復効果。常に最大HPの2%を回復する。更にHPが50%以下になった時に10%回復、25%以下になった時に25%回復する。

 他には攻撃を5%で無効化したり、一定範囲内の遠距離攻撃やヘイトを強制的に集めたり、逃亡する者へ状態異常を付与したり、自分に悪影響を与える状態異常を無効化したり。

 果てには死亡時に50%の確率で復活する。


「馬鹿なの?」


「オレに言わないでくれ。修正されるとは思うけども」


 こんなスキル、修正されない方がおかしいと思うのだが。

 いや、エニグマの『迸る激情(フラッシュポイント)』は結構前からあるけど修正されてない。そもそもこのゲーム、スキルに関する修正がほとんどない。このまま変わらない可能性も普通にある。


「エニグマのと違って代償とかは無いんだね」


「今のところは確認できてない」


 最大HPが1になったり、特定のステータスが0になる代わりに減少した分だけSTRに加算されるとかは無い。

 ステータスの上昇という点ではエニグマの方が強い。が、そもそも攻撃重視と防御重視で役割が違うから比べるような事でもないのか。


「状態異常を無効化できるなら毒煙玉も平気だね」


 兜が動いたと思ったら喋らなくなった。向いた方を見ると、敵が現れ始めている。次のウェーブが始まったようだ。


 まずは挨拶代わりに一個、毒煙玉を投げて牽制する。煙を越えて向かってくる敵も居るが、歩いて行くうちに次々と倒れていく。

 毒耐性は無いようだし、HPもそれほど高くない。星水のポーションの効果上昇能力を使って毒を増幅させた毒ポーションを使っているだけあって中々に強いと再認識する。


 アズマが僕を守るように前に出た。そのアズマに収束するかのような動きで敵が集まってくるので、敵とアズマの間を塞ぐように毒煙玉をばら撒く。


「最近使ってなかったけどやっぱり普通に強いな、これ」


 僕のSTRだと投げて届く距離に限界があるし、飛ばすためのゴーレムを作るのもありかもしれない。またエニグマを頼ることになりそうだけど。


 僕以外の殲滅戦力であるエニグマだが、相変わらず姿は見えない。ただ稀に毒煙玉越しに赤い光が残っているのが見える。

 前は『迸る激情(フラッシュポイント)』を発動していても視認できないほどの速さでは無かったが、今は見えない。エニグマのレベルアップ、僕のレベルダウンなどが原因だと思われる。

 あるいは、何かの拍子にスキル効果が変わった、とかもあるかもしれない。


「あとは見える範囲の奴だけだ。お前が好きにやれ」


「うぇぇいっ!」


「急にどうした」


「いやビックリした! 急に後ろから話し掛けられたら変な声出ちゃったし」


 声でエニグマだと分かっていたが、背後から来るとは思いもしなかった。

 さっき背後から攻撃されて一度死んでいるからか、無意識に背後への警戒心が高まっていた。今の変な声はその警戒心が過敏に反応してしまっただけだ。多分。


「後ろから出てくるのはやめて」


「いいからさっさと倒してやれ。アズマがタコ殴りにされてるぞ」


 エニグマはそう言うが、誇張するにも限度があるだろう。確かにアズマは全てのヘイトを請け負っているいるが、カウンター系のスキルを使用して敵を倒している。

 死角から攻撃されていようが何事も無かったかのようにしているので、敵の攻撃力ではアズマの防御力を越えられないのだろう。


 しかしアズマ自身の攻撃力も敵の防御力を越えられないようで、処理に苦戦している。残りはアズマに攻撃している少数のみなので手助けをした方がいい。


「ぽいっ」


 毒煙玉をアズマに向かって投げる。状態異常は効かないらしいし、嘘を言ってなければ大丈夫だ。

 若干心配したが、紫の煙の中に青い光が混じり始めた。その後何事もなく出てきた。本当に効かないのか。


「これで終われば楽でいいんだがな」


 それには同意する。

 エニグマとアズマが居るとはいえ、僕のアイテムは無尽蔵ではない。聞いた話によると長い時は本当に長く、20ウェーブを越えるようだし、そこまで長引かれると僕の戦力が大幅に低下するおそれがある。

 まあ僕が居なくても何とかなりそうではあるけど。


「そうはいかないみたいだね」


 すぐに次の敵が出てきた。


「っていうかペース早くない?」


「ああ。さっきボスっぽいのも居た。長引くとボスが複数現れるようになってもおかしくないな」


「最初見えなかったのってボス倒してたからなんだ」


 このままペースが早くなり続けると、数ウェーブ後には休憩の時間が無くなるほどになりそうだ。ウェーブ間の時間も街によって異なるようだ。




 面倒な事にその後も襲撃は続き、傾向の予測通りにウェーブ間の休息時間は短くなっていった。おかげで何ウェーブ目なのかも分からない程だ。

 敵の数も増加していたが、エニグマが本気を出し始めたので僕がやっていた事はあまり変わらなかった。


 そして敵の出現が途切れ、襲撃はようやく終わった。


「……」


 赤い雷を纏った剣とチェーンソーを持っていたエニグマは、機嫌が悪そうな顔で戻ってきた。

 チェーンソーの回転を止めると、溜息を吐いて無表情になった。エニグマのオーラの色が少し薄くなったようにも感じる。


「お疲れ。よく倒したな」


 そのまま僕の頭を撫でてくる。こいつめ、子供扱いするなとあれほど。

 僕の考えを読み取ったのか、また別の理由があるのかは分からないがアズマがエニグマの脇腹を突いた。流石のエニグマも予想外だったのか、「うぐぁっ」と声を出して驚いていた。


「ぶっとばすぞ」


 そう言いながらもアズマを殴った。エニグマの高すぎるSTRはアズマの重量を浮き上がらせ、飛ばすのには容易い。アズマはどこか遠くへ飛んでいってしまった。


「えぇ、酷いね……」


「どうせあれじゃあ死なない。すぐ戻ってくるだろ」


 そういう事ではないのだが。僕だってあれでアズマが死ぬとは思ってない。死んでも50%で復活するらしいし。

 ただ、殴り飛ばす行為自体が酷いと言っているのだ。


「使えるな、今の」


 何でだよ。


『フラッシュポイントシリーズ:溢れ出す感情を今此処に』

エニグマは怒りの赤、アズマは悲しみの青。もう一つか二つくらい考えてはいるけど名前がパッとしないから保留中。

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