182話 極式と複式とあ
タイトルはミスではない
その後星命の護符を調べて分かったのは、描いた星座によって効果が変わり、より多くの星を繋いで星座を描けば効果が上がる。そして、星座を描くのは構築キットに付属する鉛筆でのみ可能という事も判明した。
現状、僕の知り合いに錬金術をやっている人はドクター以外に居ない。そのドクターでも『構築』を取得するスキルレベルにまでは到達していないので、構築キットに含まれる鉛筆は使えない。
つまり、ドクターが単独で研究するというのは不可能だ。こればっかりは仕方がないので対処できない。
星座の形による効果の変化を調べるために、杯の他に十字架や剣の形に星を繋げた写真を護符にしてみた。
同じ星座でも数個の星を繋げた物と多くの星を繋げた物、これらを比べると繋げた星が多い方が効果が増えていた。
十字架で試して、星が少ない方の効果はアンデッドに対するダメージが2%上昇。星が多い方はアンデッドに対するダメージが10%上昇と、光属性ダメージが5%上昇。
星の数で効果が上昇するというのに気付き、試しに数十から百くらいまでありそうな数の星を巻き込んだ十字架の星座を描いてみたら、なんか凄い護符が完成した。
効果はアンデッドに対するダメージが65%上昇、アンデッドから受けるダメージが50%減少、光属性ダメージが30%上昇、闇属性ダメージが20%減少、治療効果が175%上昇。
描くのに時間がかかったが、その時間を対価とするには効果が多く、大きい。余りあるほどだ。
しかし唯一の懸念点は効果が継続する時間だ。護符を調べただけでは時間は明記されていないため、実際に使ってみて調べるしかないだろう。一番厄介なのは何らかの要因によって制限時間が変動するパターンだが、それが無いことを祈る。
剣の星座で作った護符の効果は斬撃属性ダメージが10%上昇。
こちらは星を多くしたりというのはやっていない。理由は単純で、街の外からモンスターが攻めてきて防衛に参加していたNPCやプレイヤーが戦闘状態に入ったという情報が入ったからだ。
錬金ラボでドクターと一緒に話しながら護符を作っていたら、ブランが入ってきて呼ばれた。急いでクランハウスから出て、街の外へ向かうと確かに既に戦闘が始まっていた。
「リン。タイミングとしては最高だと思わないかい? 作ったばかりで色々不明瞭な点も多い護符。戦闘以外で浪費するのは少し勿体ない。だが、この戦闘で使えばバフを盛れるし分からなかった点も分かるようになるだろう」
「ですね」
「リンもそう思うか。では護符を分けよう。リンはこの三枚を持って行ってくれ」
「了解です」
ドクターに渡された護符は三つ。水属性ダメージが15%上昇する杯の星座、斬撃属性ダメージが10%上昇する剣の星座、そしてなんか色々凄い十字架の星座だ。
十字架の護符は対アンデッドとしてだけでなく、光属性の攻撃をする人やヒーラーへのバフとしても使える。ブランも光属性の魔法は取得しているだろうし、光属性に限定されるとはいえダメージに+50%のバフが付くのは強いだろう。
効果が高いとレアそうで使うのに躊躇ってしまうが、作り方が分かったのだからまた作ればいい。色々と作っていくことで欲しいバフも作れるようになるだろうし。
護符を分けたが、ドクターと別行動をとる訳ではない。パーティーを組んでいるのだから、多少離れる事があっても完全な別行動にはならない。護符を分けたのは各自で使える場面に使えばいい、という考えからだ。
「来るの遅れたけど平気かな」
「ウェーブ制っぽいから大丈夫だと思う。今2ウェーブ目」
「そうなんだ。……その情報何処から手に入れたの?」
「ゴーストから聞いた」
幽霊から聞いたのか。バジトラでは幽霊が見えていなかったけど、しばらくその話題に触れていない間に見えるようになっていたらしい。情報を聞き出す程度なのだから仲良くなっているか使役もしているのだろう。
「一応言っておくけど、ゴーストってプレイヤーだからね?」
「あ、そうなんだ」
僕の想像とは違っていたようだ。ゴーストって名前のプレイヤーとは会った事が無いし会っていたとしても覚えていないから、普通の幽霊かと思った。
「同じパーティーに居るけど」
「そうなの?」
パーティーメンバーを確認すると把握していた僕を含めた四人ともう一人、「404-Ghost」という名前の人が居た。僕はパーティーリーダーではないから知らなかった。
いや、というか……
「紹介されてなくない?」
今日ログインしてクランハウスの中を歩いている時にブランに誘われ、その時に一緒に居たドクターとラピスラズリが同じパーティーと言っていた。てっきりそれで全部だと思っていたから、パーティー欄から確認するという行為をしなかった。
「……言ってないかも。でも凛姉の後ろに居るよ」
「え?」
振り向くとそこにはローブが立っていた。
いや、ローブではない。ローブを着た人間だ。深く被っているため顔が見えず、一瞬だけ人と認識できなかった。
「こわ」
「……驚かせるつもりは、なかった。ごめん、なさい」
責めるつもりはなかったが、謝られると困る。頭まで下げられると、こっちが悪いみたいな気分になってくる。
頭を下げたローブの人は高い声で、背丈は僕より少し大きい。ブランと同じくらいの身長だ。
「ゴースト。よろしく」
「え、ああ、うん。リンだよ。よろしくね」
「……ブランが、話してた。リン。心配だけど、大事な、家族」
「『影縫い』。ゴースト、黙ってて」
「んー、んー」
ブランが何か唱えると、ゴーストの身体に黒い糸のような物が絡みつき、拘束した。口にも糸が絡み、物理的に塞いでいるので喋る事ができないようだ。苦しくはなさそうだが。
「呑気だね」
と、ブランとゴーストと話していたら背後からラピスラズリがやってきた。ブランと合流した際にラピスラズリの元へ行ったドクターも一緒だ。
「ごめん」
「まだ大丈夫さ。様子を見てきた感じ、前線だけで抑えられているよ。このウェーブはね」
「前に出ないと戦えない。行くよ、ゴースト」
「んんっん。んんんん、んん」
「それ解いてあげたら?」
****
「もうすぐ、来る。風が、そう囁いてる」
ゴーストは不思議な子だ。喋り方も独特だし、ほぼ常にローブを深く被っているため顔が見えない。たまに隙間から見えるのも、顔に張り付けられた白い紙だった。完全に目が隠れているので前が見え無さそうだが、平気なのかと心配になる。
前線に行く途中で聞いた話だと、ゴーストもレジェンズに所属しているプレイヤーの一人だ。それだけで実力は証明できる。
「『ソナー』」
「ブラン、使って欲しいタイミングとかあったら言ってね」
「うん。まだいい」
護符についても既に伝えてある。基本的に僕がここだと思った時に使うと言ったが、使って欲しいタイミングがあれば言ってくれれば僕も使用できる。
「来た」
「『止まれ』。凛姉、光属性のやつ使って」
持っていた三つの護符の内の一つ、十字架の星座が印刷された護符を使用する。
ブランに対して使うと念じると、護符は端から段々と消えて行った。その過程で描かれた星座だけが残り、空中に留まっている。浮いている星座に触れると、ブランの元へ移動していった。最終的にブランの前で輝きを放ち、星座は消えた。
おそらくこれで発動できたのだろう。起動にそこまで時間が掛からないので、急に必要になっても案外平気そうだ。
「ありがと。『シャイニングレーザー・極式』」
魔法の詠唱を一切しないブランが唱えた魔法は、一見どんな効果なのか分からない物だった。魔法によって出てきたのが空中に浮いている魔法陣だけだったからだ。
使用した魔法の名前に「レーザー」が含まれているのだから、魔法陣からレーザーのようなものが出てくる。そこまでは予想できた。
しかし想定外だったのはそのレーザーの大きさだ。
ブランが魔法陣を掴むように触れると、魔法陣はブランの手に追従するように動いた。その直後、魔法陣から大きな光が放たれた。
「何その……モザイク?」
いや、レーザーというのは頭で理解できているのだが、レーザーが大きすぎてモザイクにしか見えない。流れ出ている光に見た目の変化が無いのも、モザイクっぽさを助長させている。
ブランが手を左から右に大きく振ると、ブランの手を追いかけるように動く魔法陣も左から右へ移動する。もちろん、魔法陣から放たれているレーザーも左から右へ薙ぎ払うように移動していく。
幸いというか、元々これを考慮して最前線へ移動してきたので、他のプレイヤーやNPCを巻き込むことなく敵を殲滅している……ようだ。まだモンスターを視認できていないけど、パーティー経由で経験値が入ってきているから何かを倒しているという事だけは分かる。
「む。私たちの出番がないな。折角色々と準備してきたのだが」
筒を持っているドクターがブランを見てそう言った。作戦の打ち合わせとか全然やってないから仕方ないといえば仕方ない。
ちなみに、ドクターが持っているのはエニグマやブレイズさんと一緒に銃を開発していたグループに依頼して作ってもらったらしい大砲だ。詳しくは迫撃砲、だったはず。ゼリオンクリスタルの爆発を利用して弾を撃ち出すやつだ。銃と違うのは、山なりに撃ち出して上空から爆撃するような形になること。
「『シャイニングレーザー・複式』」
左右を何往復かした極式とかいうレーザーが消える直前、今度は複式という別の魔法が発動された。魔法陣が正面に地面と垂直で現れた極式とは違い、複式は上向きに地面と平行の状態で現れた。
ブランが魔法陣を掲げるように動かすと、極式と同じくらいの大きさのレーザーが真上に放たれる。レーザーは空中で細かく分裂して軌道を変え、前方へ飛んで行った。
「何この……何? 何で? 僕要る?」
「要る」
本当かそれ。僕が居なくてもブラン一人で解決するようにしか思えないけど。というかプレイヤーとNPC含め、ブラン以外何もしてないけど。
「これ何ウェーブまであるの?」
「それは、分からない。街によって、違う、らしい」
「そうなんだ。出番が回ってきて欲しいようなこのまま楽したいような……」
報酬が公開されておらず、ポイントなどがあるかも分からない状態だから活躍せずに眺めていていいのか判断に困る。
僕と同じような危機感を持っているプレイヤーは居るようで、ブランのレーザーが飛んでいく先へ走っていく人がちらほら出てきた。無事に倒せていればいいのだが、どう考えてもレーザーの方が速いので追い付く前にモンスターが死んでそうである。
「使い勝手は良い感じ。殲滅に使えそうだから残しておこうかな。次は……『あ』」
「『あ』?」
何かを思い出したかのように呟いたブランの言葉でまた魔法陣が現れた。
どう考えても「あ」としか言っていないので「あ」がトリガーとなって発動したのだろうが、ワードがおかしい。「あ」なんてスキルや魔法があるとは思えない。
魔法陣からは光の玉が出てきて、複式レーザーと同じように空中で分解して小さな玉になって飛んでいく。その先で閃光と共に爆発が起こる。
「えぇ、何それ。本当に僕要るの? ブランだけで解決するじゃん」
「要る」
クソつよブランちゃん
次回の更新はいつになるか分からんです




