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178話 温泉

猛烈に飽きてきた


 旅館の部屋割りは一部屋に六人で、僕とエニグマ、アズマ、クロスくん、ブレイズさん、スピカが同じ部屋になっているらしい。そしてその部屋は最初にアリスさんが居た部屋であり、アリスさんに連れられて街へ行ってから帰って来た時にエニグマが居た部屋である。

 最初にアリスさんが居たのは部屋が分からなかったからのようだ。

 パンドラの箱に所属している中の男子が全員同じ部屋なのは何か意図的なものを感じるが、元男としては気まずい雰囲気にならないように配慮してくれて助かる限りだ。


「リンちゃんは好きな人とか居ないのー?」


 しかし女子が修学旅行の夜にするという恋バナ的なアレは避けられないらしい。同じ部屋で唯一の女性であるブレイズさんも例に漏れず恋バナが好きな女子だった。あるいはお酒で酔ってるからかも。


「居ないですねー」


「そーなんだー! こんな可愛いのにねー! まだちっちゃいからかな?」


「っすねー」


 ブレイズさんは酔うと絡み方がウザくなるタイプだ。普段から良くしてもらってるし良い人なのは知っているからこの程度で嫌いになったりはしないが、あまりお酒を飲ませるべきではないのかもしれない。とは言ってもそれは個人の自由だから僕が制限するような事でもないが。


「エックスとかエニグマは?」


「僕も居ない……ですね」


「酔いすぎだろ」


 温泉の後の飲み物を賭けてポーカーをしていた男子四人にも飛び火した。こればっかりは僕は悪くない、災害みたいなものだと諦めてほしい。


「ははは! 彼女作ったらどうだ?」


「それよりもやりたい事とやるべき事があるから要らん」


「今は特に」


「僕もです」


「私は……うーん……」


「つまんないなー!」


 まさに災害である。もう再びこっちに話を振ってこないことを願うしかない。南無。


「リンちゃんは彼氏欲しいとか思わないのー?」


 何でこういう時だけ願望と真逆の事が起きるんだろう。物欲センサー的な?


 しかし彼氏か。そういえば性別が変わったんだし、誰かと付き合った場合彼女ではなく彼氏なのか。

 でも男の人と付き合うのはどうなんだ、元男として。精神的には男だし、男性を恋愛対象として見ることは無いはずだ。……多分。

 そうだとしても女の人と付き合うのも、身体的には女性同士になる。最近は同性愛も受け入れられるようになってきているとはいえ、そんな女性と出会えるのだろうか。


 そもそも僕は恋愛に興味があるのか?

 ……と、考えている時点で興味はないんだろう。というか、恋愛って興味を持ってする物なのだろうか。いつの間にか好きになってたりするものなのでは。


「思わないですねー」


「なんだー! よかった!」


 良かったって何だ。良かったって、何だ?

 一体どういう感情と価値観でその言葉を口にしたんだ。僕が誰かと付き合いたいと思っていないことでブレイズさんの利になる事ってあるのか?


 ……一緒にゲームする時間が減るとかかな。よくブレイズさんとペアで行動する事が多いし、ブレイズさんが何かしたい時に僕と時間が合わないと困るとか。頼られているのだったら悪い気はしない。


「俺はリンちゃん好きだけどねー」


 どう返事すれば良いんだ、それ。その好きは恋愛的な好きなのか、友人としての好きなのか。話の流れで言えば前者だが。


「ありがとうございます?」


「凛に変な事すんなよ」


「分かってるって! 妹が居たらリンちゃんみたいなのかなーって思っただけだからさー」


 妹扱いなのか。だとすると好きというのは……家族愛? あるいは庇護欲、みたいな?


「私も妹にしたい……!」


「なんで?」




 しばらく暴走しているブレイズさんをどうにか受け流していると、無事にポーカーの決着がついたらしく、同じ部屋の人はエニグマと僕以外の全員が温泉へ行ってしまった。

 ブレイズさんも心配なので僕も行こうと思ったが、エニグマに止められて部屋に残っている次第である。ブレイズさんのあの様子だと温泉で溺れかねないから心配なのだが。


「調子はどうだ」


「平気。エニグマって普段そんな世間話から入ってたっけ?」


「いや、切り出しにくい話題なもんでな」


「そう」


「……前に言っていたアイデンティティの件は変わりないか。変わっているのならそれでもいい。本心で言ってくれ」


「アイデンティティ……」


 確かに前に言った。身体的な性別が変わっても精神的には変わっていない、と話した記憶がある。

 今もそうなのかという話のようだ。


 精神とは変化するものである。成長も退化もする。精神が適応という形で変化しているとしたら、前にエニグマ達に話した時よりも女性らしい精神になっている可能性はある。自分の身体に対する価値観とか。

 精神的な変化という点で言えば、変わっていると言うだろう。

 しかしあの話をしたのは関係性が悪化したりしないように、余計な気を遣わずに今まで通りにしてほしいという考えも込めて話した事だ。その思いは今だって変わらない。


「どうだろう。精神的には変わってるかもしれないけど、話した時の思いは変わらないよ」


「そうか。さっきブレイズに話を振られて考え込んでたのも精神的な変化か?」


「考え込んでた?」


「彼氏がどう、とか……」


 こっちが本題だろうか、さっきよりも歯切れが悪い。切り出しにくい話題というのは振られた側である僕でも分かる。


「あー、ね。いやさ、男の人と付き合ったら精神的には男性同士じゃん? でも女の人と付き合ったら身体的には女性同士じゃん」


 って事は性別が変わってしまった人の中で、前は女性で今は男性の人と付き合えば精神的にも身体的にも正常に男女の関係になるのか。


「世間体なんて気にする必要はないぞ。お前はお前の好きにすればいい」


「言われなくてもそうするよ。ただ今は付き合いたいと思う人は居ないし、積極的に誰かと付き合おうとは思ってないだけだから」


「そうか。悪いな、こんな質問して。……さて、風呂行くか。お前も入りたいなら入っとけよ」


「うい」










****













 流石にお風呂といえども裸になることはできないようで、システムメッセージで注意書きが届いた。


【入浴には水着などを用いる事を推奨します】


 らしい。温泉プールみたいな感じ。

 前からずっと使っているスクール水着に着替えて浴室へ入る。前に水着を着た時から尻尾が増えているが、服装にも適応する力があるので支障はない。

 浴室にはシャワーなどがあるが、現実の物とそう変わらない設備だ。なんか現代的というかなんというか……世界観に合わないような。


 浴室の中には僕の他には先に入っていたブレイズさんしか居ない。そのブレイズさんは妙にハイテンションに笑いながら浴槽で泳いでいる。


「お、リンちゃん! すっげぇ広いよ!」


 だからって泳ぐのは良くないのでは。

 ブレイズさんは浴槽から出てきて僕へ近付いてくる。その足取りは少しフラフラしていて、まだ酔いは醒めていないようだ。


「あっちに露天風呂もあるから後で行こう!」


「分かりました。……あの、何してるんですか?」


「洗うの手伝うよ」


 僕と同じように水着を着用しているブレイズさんは、シャワーに手を掛けている僕の背後から尻尾を触ってくる。

 ゲーム内でお風呂に入る事が無かったが、やっぱり尻尾も洗うんだろうか。一人だったら付け根の方洗いにくいのかなぁ、と考えたところで、ブレイズさんがいつもと違うのに気付いた。


「ブレイズさん、尻尾と耳はどうしたんですか?」


「邪魔だから設定で見た目の変化を消した!」


 なるほど、そういう手もあったか。

 だがそれをするなら入る前にするべきだった、今からでは遅いだろう。


 とりあえず髪と肌が出ている所を洗い、浴槽に入る。その間ブレイズさんはずっと僕の尻尾を触っていた。


「あつい……」


「んぁー」


 酔っているブレイズさんはやはり面倒だ。お湯に浸かっているのに抱き着いてくるから熱いし、行動が予測できない。


「ん……。ごめんリンちゃん」


「のぼせましたか?」


「いや……酩酊の状態異常が切れた」


「……つまり?」


「酔いが醒めた」


 やっぱり状態異常だったのか、酔いって。今急に醒めたのだから、自然に醒めるのではなく時間経過によって治るものなのだろう。状態異常だし、治す薬とかもあってもおかしくない。


「大丈夫なんですか?」


「平気。ごめんねリンちゃん」


 酔っている間の言動について謝っているのは分かる。しかし酔いが醒めたのに、未だに僕の尻尾を離してくれないのは何故なんだ。


「ブレイズさんって酔ったらあんな感じになるんですね」


「リアルだともうちょい大人しいはずだけどね。……露天風呂行く?」


「行きますか」


 ようやく尻尾から手を離してくれたブレイズさんと共に、ガラスの戸によって隔たれた先の空間へ向かう。

 ガラス越しに見えるのは雪景色と、所々に岩が形を残している浴槽。張られているお湯は緑色をしていて、底は見えない。


 ガラスの戸を開けると冷たい空気が僕の体に触れる。


「さむっ」


 ブレイズさんも寒いようで、さっさと入ろうと言いながら足早に温泉の方へ向かっていった。


「あったか……あっつ!?」


 外の気温が低いから入った瞬間は温かいと思ったのだが、入ってから時間が経つと急に熱く感じた。どうやら外にある温泉は中のよりも水温が高いようだ。


「足から慣れさせていくのが良いのかもね」


「ブレイズさんは熱くないんですか?」


「熱いけどまあ耐えられない程じゃないかな。敵が魔法使ってきたり火吐いてくるとこれの比じゃないくらい熱いし、慣れじゃない?」


「凄いですね」


 助言に従い、足だけをお湯に浸からせて慣れさせてゆく。

 ブレイズさんの言っている「慣れ」は温泉からかけ離れたものだが、普段僕と居ない時にどれだけ無茶をしているんだ。魔法やブレスの火を受けるのは慣れてはいけないというか、慣れるようなものではないはずだ。


「一回火口に……ぁいや、何でもない。まー、リンちゃんは守られるくらいの方が可愛くて良いと思うよ」


「僕だって守られずに戦えるようになりたいですけどね」


「おー」


 レベルが下がったりそもそも戦闘のセンスが無いとかで難しいけど。エニグマやブレイズさんのように自分の力で戦えるようになったら楽しいんだろうか。


「……そういえばさっき、女子部屋の子達と会ったよ。あとで俺らの部屋にも来るってさ」


「そうですか。……酔ってても記憶有るんですね」


「いや、いくら俺でも記憶飛ぶような飲み方しないからね? 流石にそこまで泥酔しないし」


 それもそうか。ゲーム内の状態異常で記憶が無くなったら怖いしね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しみに拝見してます [一言] 猛烈にあきてきたって書かれて、楽しみに読んでる人々の気持ちはどうなの? 作者様のコメントですが、 一発目でそれでは、コチラがテンション下がりますよ …
[一言] 飽きちゃったんですか!? 続きが読めなくなるのはさびしいですねぇ まあでも、仕方ないか 無理に書いてもらっても、最高の作品ができるわけじゃないし。 でもやっぱり、たまには書いて欲しいですね…
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