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175話 ブラッドエンゲージ


 ヴラドから教えてもらった漁村へ行ったが、そこでは特に何もなかった。

 平和と言えば平和であり、暇といえば暇である田舎の村だった。小さな商船が稀に近くまで来るという話を聞いたが今回は来なかったし、基本的に自足時給で村の外の人間が来る事も珍しいから特産品とかも無いという話を聞いた。

 結局、何もせずに自殺してクランハウスへ帰還した。



 次の日、学校が終わって帰ってきたがまだ時間があるので、吸血鬼について少し調べる事にした。

 正確には吸血鬼というより『ブラッドエンゲージ』というスキルについて、だ。

 ヴラドが僕に使用したのがこの『ブラッドエンゲージ』であるのならば、僕も同じスキルを使用すれば誰かを吸血種にする事ができるだろう。


 『ブラッドエンゲージ』の効果は二つ。

 一つはおそらくヴラドがやっていた形式で、血を吸った相手を眷属状態にする。

 もう一つは発動中に自分の血を抜き、誰か別の人に与える事で一時的に眷属状態にするというもの。

 ヴラドが僕に使ったのが『ブラッドエンゲージ』のみで、他のスキルなどを一切使用していないとすればどちらの効果でも眷属状態は解除できるはずだ。

 というか効果としては眷属状態にするのがメインだが、僕としては吸血種へ変化させる効果がメインだと考えている。


 もし一時的な効果でも他人を吸血種へと変化させられるなら、バフとしての使い方ができるかもしれない。

 昼の間はバフは全ステータスが5%上昇するだけで、HPの自動回復量が30%減少する上に水属性の被ダメージが25%上がってしまうが。しかし夜ならば全ステータスが更に10%、合計で15%上昇し、HPとMPの自動回復速度と自動回復量が上がる。水属性の被ダメージ上昇は消えないが、それでも夜の間は優秀なバフとして機能するだろう。


「準備オッケー」


 そんな訳で来たのは訓練所。

 『ブラッドエンゲージ』の二つ目の効果を発動している途中で抜き取った自分の血は「吸血種の血液」というアイテムになっていた。一旦注射器から出して魔導水と合成してからまた注射器に充填したものと、何も加工せずに抜き取った血がそのまま入っている注射器を用意した。

 検証相手はいつも付き合ってくれているブレイズさん。今回も快く引き受けてくれた。


 訓練所の設定はデスペナルティ無し、天候は夜。

 まず魔導水と合成した自分の血を充填した注射器をシリンジカタパルトに装填し、腕を広げて待機しているブレイズさんに向かって射出する。


 注射器が刺さったブレイズさんは痛みによって顔を(しか)めた。

 直後に紺色の髪の毛の一部に、僕の髪色と同じ銀色が混ざり始めた。更に、赤色に変化したブレイズさんの目が夜という環境で光を反射し、光っているように見える。


「目が赤い……?」


「近いよリンちゃん。ちょ、近っ! 距離感!」


 ブレイズさんの目は普段は水色だが、僕の血を注入し一時的とはいえ僕の眷属となった事で赤くなった。これは吸血種へ変化した事による影響だろうか。

 いや、それよりも……。


「ブレイズさん、僕とパーティー組んでもらっても良いですか?」


「良いよ。でもちょっと離れた方がいいんじゃない?」


「ああ、すいません」


 疑問を優先してしまったから睫毛が触れそうな距離で目を見ていた。流石のこの距離で会話を続けるのは失礼なので離れる。

 パーティーの申請を送るとすぐに入ってきてくれた。

 ステータスを確認すると、パーティーを組む前よりもステータスが上がっていた。それも特定のステータスだけでなく、全てのステータスが。


「やっぱり……」


 予想通りだ。

 ドクターから貰っていた『緋色の共鳴』というスキル。スキルや称号、状態異常などで目が赤くなっているアバターがパーティー内に居る時、ステータスが上昇するという効果を持つスキルだ。

 ブレイズさんとパーティーを組むことでステータスが上がっているのなら、『ブラッドエンゲージ』を使用してパーティー内のプレイヤーを眷属にすれば『緋色の共鳴』の効果が適用されるという事だ。

 吸血種になる事で瞳が赤くなり、『緋色の共鳴』が発動するとしたら自分も含まれているのかもしれない。パーティーを組まずとも自分の分、一人分の20%は常に上がっているのかもしれないが、常に発動しているのだとしたら変化している場面に遭遇できないので確かめようがない。


「藁人形ってパーティー組めたかな……」


 訓練所のパネルを操作して藁人形の設定を調べてみる。

 パーティーを組めるようになるとかなさそうだよなー、と呟きながら調べていると、「デコイ調整」という設定欄に色々あった。

 ちゃんとパーティーも組めるらしい。


「あるんだ。支援職とかのためにあるのかな。有難いけど」


 デコイ、もとい藁人形とパーティーを組む。ついでにステータスを全て100に調整しておく。

 藁人形にある程度近付いたらアイテム欄から取り出した注射器をシリンジカタパルトに装填する。今さっきブレイズさんに使ったのと同じやつだ。


「あ、メッシュ増えてる。良いなこれ。牙もあるのか」


 手鏡を持って自分の顔を確認しているブレイズさんを横目で見ながら、藁人形へ向かって注射器を射出する。

 注射器によって僕の血を注入された藁人形に見た目の変化はない。

 しかし自分のステータスを確認すると確かに上がっている。

 パネルから藁人形のステータスを見ると、全ての項目が175まで上がっていた。


「100から175まで……75%?」


 『緋色の共鳴』の効果が適用されているなら60%の筈……。

 いや違うな。吸血種になった効果か。夜だから15%の上昇があって、『緋色の共鳴』の効果と合わせて75%なのか。


「え、強くない?」


 仮にパーティーメンバー全員に『ブラッドエンゲージ』を使用して眷属にした場合、僕も含めて『緋色の共鳴』の効果が発動するからメンバー全員の全ステータスを120%上昇させる。その過程で吸血種になるから昼なら更に5%、夜なら15%上がる。

 つまり夜に行えばこれだけでプラス135%だ。

 クラン対抗戦イベントでエニグマが使っていた『阿修羅求道』だったか、そんな感じのスキル。あれはステータスを120%上昇させる効果があるが、デメリットとして高すぎる闘争心によって敵味方の区別が付かなくなって暴走してしまう。

 エニグマの『阿修羅求道』よりも高い効果で暴走する心配がない。最低でも全ステータス125%アップというのは、HPの回復量が下がるとか水属性の被ダメージが増える代償を軽く打ち消せる効果と言えるだろう。



 藁人形とのパーティーを解除してブレイズさんとしばらく話していると、ブレイズさんが吸血種になった事で現れた変化が消え、元に戻った。


「メッシュ消えた……」


「まだ試したいんですけど平気ですか?」


「当然」


 立ち上がりながら、シリンジカタパルトに加工せずに抜いた時のままの血が入った注射器を装填し、ブレイズさんに射出する。

 すると先程と同じ変化が出てきた。髪と目、牙。

 『ブラッドエンゲージ』の使用中に抜き取った血は、わざわざ魔導水と合成する必要ないのか。なら手抜きでいいか。


 そしてもう一つ確認した事がある。

 血を与えた場合、眷属状態は一時的なものだ。それはスキルの説明からも、今さっきブレイズさんの変化が無くなった事からも分かる。

 制限時間があるなら、その時間も把握しておいた方がいい。制限時間を超過してしまえば125%以上のステータスアップが一気に無くなってしまう。いや、僕の分は残るから105%かな? ……どっちでもいいか、どちらにせよバフが消える。

 味方への警告を行うためにも、制限時間は知っておくべきだ。



 しかし何も喋らずにじっと待っているのも暇なので、タイマー機能を起動してまたブレイズさんと話しておく。


「永続でも良いと思うけど、永続じゃなくても切り札っぽくて良いんじゃないかな。そこはリンちゃんがどうしたいかとか、他の人との兼ね合いによるかも」


「どうしたいか……」


 みんなが強くなるなら永続でも良いと思ったが、ブレイズさんの言う通り一時的に強化する方が切り札っぽい。

 味方に注射器を撃ったら一部の髪色が変わったり目が赤くなり、全員が大幅に強化される。

 うん、かっこいいな。味方を改造したりする支援タイプの悪役っぽさがある。


「じゃあ頼まれなかったら永続化はしません」


「そっか。俺も気が向いたら頼もうかな」


 いざという時、咄嗟にパーティーメンバー全員、最大で五人に素早く注射器を刺す方法も考えておいた方がいいだろう。

 なんとなくあるかも、というのは一応考えてある。シリンジカタパルトの武器カテゴリは弓で、弓のスキルも使える。続けざまに矢を放つ速射系のアビリティがあるなら、シリンジカタパルトでも使えるはずだ。


「弓で速射できるスキルとかアビリティ知りません?」


「知らな……あー、弓メインのプレイヤーなら知り合いに居る。今度一緒に会いに行こうか?」


「お願いします」


 ブレイズさんも人脈凄いんだな。

 とにかく、弓メインのプレイヤーなら僕が求めているスキルを持っているかもしれないし、もしかしたら取得方法も教えてくれるかもしれない。

 なかったらなかったでエニグマを頼ろう。


「あ、消えた」


「何分?」


 タイマーに表示されているのは14分30秒くらいだ。最初のタイマー起動に手間取ってたりした時間を含めると15分くらいだと考えるのが妥当だろう。


「15分ですね」


 一つの戦闘にそこまで長引く事はあまりない。15分もあれば一個の戦闘は終わっているはずだ。連続の戦闘だったり、敵の耐久力が異様に高いとかなら話は別だが。

 ならば15分という時間は十分すぎる程の制限時間だ。


「んー、永続化頼もうかなー。でもなぁ……」


「何か懸念点が?」


「いや、俺狐耳あるじゃん? それで更に吸血鬼になったらリンちゃんと要素被りすぎなんじゃないかなって」


「そんな気にする事ですか、それ」


「気にならない?」


「別に……」


 獣人属かつ吸血種のプレイヤーは少ないだろうからアイデンティティの危機という考え方もある。

 でも別にそんなに気にする事でもないし、ブレイズさんが僕が決めればいいと言ってくれたように、ブレイズさんもそういうのに囚われずに自分がどうしたいかで決めて欲しい。


「……もう少し考えるよ」


ちなみにリンは最初から永続化されている上に、システム設定項目の「スキル、称号による外見の変更」で『吸血種』をオンにしていないため見た目に変化はないです。

一時的な眷属状態は状態異常扱いなので見た目の変化を抑えることはできません。

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