174話 獣人属吸血種
血を吸わせて欲しいと頼まれたが、どう吸わせるべきか。
注射器を使用して血を取り出し、コップなどに移すのか。はたまたヴラドが持つ鋭い歯で直接吸うのか。
ヴラドに聞いてみると、どちらでも望む方でいいと言われた。
最初は注射器で血を抜こうかと考えたが、ヴラドが満足するのには何回も繰り返さなければならないだろう。何回も注射器を刺すのは嫌だし、面倒だ。
結局ヴラドに吸ってもらう事にした。腕の何処かの血管から吸ってもらおうと、腕をヴラドに向かって突き出す。
「失礼する」
ヴラドは突き出した腕の横に回り、口を大きく開けて噛みついてきた。
鋭い痛みの後に、寒くなるような感覚と腕の血管が脈動している感覚を認識する。自分で注射器を刺して血を抜く時よりも痛みは少ないが、この感覚はない。吸血鬼の特性みたいなものなのかもしれない。
腕に噛みつかれている時間が経つにつれて寒さが増し、HPが減ってくる。
「ヴラド」
「ん、すまない。血を吸うのは久方振りだからつい」
名前を呼ぶと腕から口を離してくれた。
血を吸っていた筈なのに、腕から血が溢れてくる事はない。噛まれた歯形の痕が付いてしまっているが、それだけだ。
「血に味の違いってあるんですか?」
「あるに決まっているだろう。貴様の血は実に美味であった」
「そうですか。それは良かったです」
ただでさえ少ないHPがかなり減ってしまったので回復ポーションを飲んで回復させておく。
血を吸われている間に一つ、気になったことがあった。
吸血鬼やヴァンパイアというと、血を吸った相手を自分の眷属にするみたいな能力があったような。それがこのゲームの吸血鬼にもあるのならば、ヴラドに頼めば僕も吸血鬼になれたりするのだろうか。
吸血鬼ってなんかかっこよくない?
「ヴラド、僕も吸血鬼になれますか?」
「……なれる」
なれるのか。獣人なのに。
どういう状態になるんだろう。耳と尻尾が消えるのか、残ったまま吸血鬼になるのか。吸血鬼に蝙蝠の羽が生えるような特性があった場合、耳も尻尾も生えたまま蝙蝠の羽も生えるのかな。キメラかよ。
「同族の血は不味いから嫌なのだが。……いや、獣人属の吸血種は会った事が無いな。貴様は例外になるかもしれないな」
「吸血種?」
「そうだ。吸血鬼という存在が珍しいから貴様は知らないだろうが、吸血鬼は種族名ではない。種族の中に吸血種という括りがあり、あらゆる種族の吸血種を総合して吸血鬼と呼ぶだけだ。私は人属の吸血種で、貴様が吸血鬼になった場合は獣人属の吸血種だ。珍しいだろうが鬼属や人魚属なんかも吸血種が存在していてもおかしくはない」
なるほど。自己紹介をされた時に吸血鬼だと言っていたが、僕が勝手に勘違いしていただけで種族ではないのか。
ということは、アズマが吸血鬼になった場合はヴラドが今言っていたような鬼属の吸血種になるんだろう。
そういえばヒュプノスって人間なのかな。夢の神様になっていたし、種族は神なのだろうか。種族が変わっているであろうプレイヤーはまだ少ないだろうが、その中でも神は唯一無二と言っていいかもしれない。そんなヒュプノスが吸血種になると、神属の吸血種、って事になるはずだ。
「吸血種になってしまえば元に戻ることはできないぞ」
「弱点とかあります?」
「陽の光の元では再生能力が低くなるくらいだが」
「えっ」
そんな少ないのか。というか日光浴びても平気なのか。
吸血鬼というと日光で死ぬイメージがある。あと十字架とかニンニクも弱点で、食事が血になる、みたいに思っていた。
しかしヴラドは僕の血を吸って久方振りと言っていたし、吸血行為は生きていく上で必須ではないのかもしれない。十字架やニンニクについては不明だが。
「しっかり考えろ。人生の大部分に関わる問題を軽率に決めるべきではない」
「大丈夫です、お願いします」
「私の話を聞け。……本当に良いのか?」
「はい」
「そうか……。ならば契りを交わそう。貴様を吸血鬼にしてやる。その対価に貴様の血を吸わせてもらうぞ」
ヴラドはまた近付いてきてから膝を曲げて少し屈み、首に噛みついてきた。
また血を吸われているのか、段々寒くなってくる。
先程よりも短い時間で、僕が何か声を掛ける前に首に噛まれている感覚がなくなり、それと同時にシステムメッセージが届いた。
≪称号:『吸血種』を獲得しました≫
「これでいいだろう」
ステータスから称号の詳細を確認しようとすると、対価を払ってもらおう、というヴラドの声が聞こえてきた。
今さっき言っていた吸血鬼になった後の血を吸わせろというのだろう。ステータスの確認も今すぐしたいので、片腕を突き出してもう片方の腕でメニューを操作する。
――
『吸血種』
現在の状態:獣人属吸血種-眷属
日光を浴びている間、HPの自動回復量が30%減少する。
水属性の被ダメージが25%上昇する。
全ステータスが5%上昇し、夜の間は更に10%上昇する。
夜の間はHPとMPの自動回復速度が20%、自動回復量が30%上昇する。
暗視能力を獲得する。
特殊スキル『ブラッドエンゲージ』を取得。
――
『ブラッドエンゲージ』
吸血種は契約に血を用いる。
アクティブ1:吸血した相手と契約を結び、永続する眷属状態にする。この契約には互いの了承が必要。
アクティブ2:発動中に特殊な血液を生成する。効果中に生成した血液を摂取した者を一時的に眷属状態にする。この契約は強制力を持つ。
――
また色々多いな。
基本的に昼でもあまり変わらないけど、夜は強くなるという事でいいんだろう。水属性が弱点になるようだが、そもそも攻撃を受ける事自体が弱点みたいなものだしあまり変わらない。
特殊スキルの効果を見る限り、ヴラドが僕に使ったのもこのスキルだろう。血を吸った相手、血を分け与えた相手を吸血鬼にするスキルだが、ヴラドの眷属になったのか。そういうのは伝えてほしかった。
「なんだこの味は。苦い……いや、甘いのか……?」
「いつまで吸ってるんですか。死にそうなんですけど」
「癖になる味だ」
ヴラドが吸血をやめてくれたので、瀕死のHPをポーションで回復してメニューを閉じる。
≪種族状態変化:眷属状態が解除されました≫
「満足だ。私の知的好奇心は満たされた」
「ありがとうございます」
****
吸血鬼について教えてもらったり、この辺りの地形について話しているとゲーム内で日が変わり、夜から朝になった。
ヴラドは吸血鬼だからか夜行性らしい。僕と会った時は寝起きだったようで、朝になってしばらくしたら少々眠いと言い出した。キリが良さそうなのでそろそろ僕も出発する事に。
「吸血鬼になったのだから夜に行かせればよかったか」
「日光浴びたりとかで死なないなら平気です」
「そうか。また何かあれば来るがいい。私は貴様を歓迎する」
玄関で別れの挨拶をしてから洋館を出る。
最初は不気味な館だったが、ヴラドは結構いい人だった。ヴラドは自分の知的好奇心を満たすためと言っていたけど、それでも僕の頼みで吸血鬼にしてくれたのに変わりはない。しかも知的好奇心だけなら眷属状態を解除する必要はなかっただろう。
「さて、行きますかー」
ヴラドから教えてもらった漁村へ向かう。そこでもう少し情報を集めたりアイテムを収集してからクランハウスへ戻ろう。
一応強化だけどもう少し強くなれる




