172話 積雪地帯のレベル上げ
レベル上げをどこで行うかという問題だが、いつもとは違ったところでやってみる事にした。
いつもはサスティクのダンジョン、街の周辺などで行っているが、今回は探索も兼ねて何処かへずっと進みながらレベル上げをする。死ぬまで戻ることはない。すぐ死んでしまえば収益は少ない、あるいはマイナスになってしまう。
街から出発するという関係上、進む方面によっては予測できる地形になる。北や南に進めば、大体街に着くように。
つまり、街が続いていない東か西へ向かって行けば、クォール村のようなあまり知られていない場所へ行けるかもしれない。エニグマが多くのスキルを所持しているように、僕も少し自分の強化に貪欲になってみるべきだ。
まあ村とかがあるかは分からないし、スキルを手に入れられるかも不明で運任せな所は否めないけど。
「よし、行こう」
ラーディアから出てすぐに、ソラとルナを『召喚』を使って呼び出した。こちらは武器が強いと言えども本体はレベル1であるため、彼らの協力があるに越したことはない。
レベル1でラーディアまで来るのもどうかと思ったが、今なら死んでも失う物は少ない。お金は転移用を除いて貯金箱に預けているためロストしないし、経験値は元よりない。逆にある程度モンスターを倒せれば、経験値の収入はかなり大きいだろう。
ここから東に向かう。別に西でもいいが、なんとなく東だ。いや、薄っぺらい理由は一応ある。グレイズから西に向かった先がクォール村なのだから、東はどうなのだろうという理由とも言えないような動機が。
そもそもどちらへ向かおうが未確認の地なのだから、どこへ向かおうが大差ないだろう。そういうのは結果論というらしい。
「頼むよ」
ソラとルナを一撫でし、出発する。
街を出たのが北側の門からなので、右側に向かって行けば東方面だろう。大体方角があっていれば問題ない。
最近武器の分類が弓だと発覚し、試してみた結果弓のスキルも適用されると分かったシリンジカタパルトを右手に雪が積もっている大地を歩いていく。
雪の上ではローラースケートは使えないので厚底靴を履いているが、感覚に慣れない。足首とかをあまり動かせないからかも。
それでも前を先導してくれているソラが雪を掻き分けて進んでいてくれているので、何もないよりかは歩きやすくて助かる。
この一帯に出てくるモンスターは鹿と鶴だと聞いている。実際にはラーディアから出発してからエンカウントしていないため、現段階ではまだ言伝で聞いた話だ。
しかし積雪地帯であるなら、別の存在が通過した跡は分かりやすい。森林や草原よりもはっきりと足跡が残っているからだ。おそらく砂漠も似たような環境になるだろうが、ここよりかは木も少なく見晴らしが良いだろう。
でも砂漠には行きたくない。エニグマほどではないが、暑いのは苦手だ。
「お、この足跡は……」
細長い穴のような足跡が沢山ある。
鹿か鶴かと考えた場合、相当変な種族でなければ鹿でいいだろう。鳥の足は大きいが、脚部は細い。足跡の底を見ると、穴と同等の大きさの蹄のような跡が残っている。キメラみたいな鳥でない限り、9割くらいは鹿のはずだ。残り1割は僕が知らないだけである可能性。
「鹿ねぇ……」
鹿というと草食動物だ。本来はほとんど人間には敵対しないが、ここの鹿はどうだろうか。ゲームの世界だし、ビジュアルだけ鹿でも肉食である可能性は否めない。
そういえばサスティクのダンジョンの20階層のボスが馬と鹿だった記憶がある。鹿の角を持ったマッチョみたいな謎のクリーチャー、あれを鹿と言っていいのかは分からないが、最悪ここの鹿もあれと同じだったり……は流石にないと思いたい。
ソラに足跡を追ってみようというのを伝えると、足跡を辿って進んでくれる。
時々こちらを振り返って着いてきているのを確認しているが、これは僕の事を心配してくれているのだろうか。
モミの木の間を通って足跡を追っていくと、またソラが止まった。僕を見た後、また前を向くが進むことは無い。
どうかしたのかとソラの視線の先を見てみると鹿が居た。
特別何か変な様子はない。マッチョでもなく、足がとてつもなく長いとかそういうのもない。草食か肉食かは判断不可。こちらに気付いておらず、のんびり歩いている。
シリンジカタパルトにあらかじめ装填されていた注射器を射出して麻痺の魔導血液を鹿に注入し、麻痺させてからソラとルナへ指示を出して攻撃させる。
その間にチェーンソーを取り出して麻痺が解除される前に倒しきろうとしたが、チェーンソーが回転を始める前にソラとルナが倒してしまった。
「ないすー」
起動しようとしたチェーンソーを仕舞い、寄ってくる二匹を撫でる。
流石にラーディア周囲に居るモンスターだからか、経験値は多いようだ。レベルが幾つか上がった。
それと同時に、麻痺で動けなかったとはいえすぐに倒したソラとルナの強さが目立つ。攻撃力を重視したステータスにしておいてよかった。
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鹿も鶴も麻痺耐性が低いようで、こちらが先に発見できれば麻痺を付与できる。なので逃げられる事もなく簡単にレベル上げができる。
そして僕の前を歩いているソラの索敵能力が高いため、大抵の場合に相手よりも先に発見できる。
レベル上げは順調だ。
かなりの時間狩りを続け、レベルも16になった頃。
歩いていて違和感があると思い、辺りを見渡してみてからある事に気付く。
「雪が浅くなってきたかな。ねえ、ルナ?」
ルナに話しかけた意味はない。
積雪が深かった時は腰辺りまであり、浅くても膝下くらいまではあったのに、いつの間にかくるぶしの少し上くらいの高さになっていた。
寒さは変わらないので、湿度とかが変わったのかなともう少し進む。
「そもそも雨が降らない場所なら雪も降らないのかな」
一歩進む毎に僅かに、しかし確実に浅くなっていく積雪。
やがて積もっている雪はなくなり、木の根や黒い地面が見えるようになってきた。頻繁に見かけていた鹿や鶴などのモンスターも全く居ない。
「エリアチェンジ? ってことは出てくるモンスターも変わるかな」
麻痺が有効か、ソラ達が倒せるかという不安が出てくる。
しかしここで引き返してもほぼ安全だ。死んで戻る以外にレベル上げをやめる方法がないため、危険を冒してでも探索を続けるべきだろう。
ここまでの経験値獲得量を考えると、サスティクのダンジョン11階層から19階層まででレベルを上げるよりもちょっと効率が良い。
ダンジョンの方は19階に着いたら戻れば周回ができるため移動と索敵の手間は少ないが、資材の消費と11階までに到達できるかという運があるため難しい。
その点、こちらは移動と索敵はあれど効率は良いし迷う事もない。
総合的にはダンジョンよりもこちらの方が良いかもしれない。いや、契約してテイムした子達の誰かに道を覚えさせればダンジョンも或いは……?
「……でもやっぱり資材の消費が痛いか」
一つの階層を突破するのに安定を取るなら毒煙玉を2個使う。11階から19階までを往復する場合、計算が面倒だから適当に出すと40個くらい。
合成があるとはいえ、一往復で40個も消費するとなると生産が間に合わないというか実に面倒である。一度に大量生産すると腕が痛くなるし、複数回に分けるのも手間だ。あと最近渡される素材の量が少なくなり、それと同時にエニグマからの依頼量も減っている。多分だが、毒煙玉に頼らずとも自己解決できる力を手に入れたから需要が減ったんだろう。
結局ラーディア周辺の方が良いな、と結論を出した所で、前に居たソラが止まった。考えるのに集中していてただソラに着いて行くだけだったので、ソラが急に止まったことで思考が中断された。
レベル上げを始めてからここまで、ソラが止まるのは敵を発見した場合だけだったので、何があったのかを確認する前にシリンジカタパルトを右手に構えた。
しかしソラが止まった理由はモンスターを発見したからではなく、これまでにない物を見つけたからのようだ。
視線の先には洋館があった。
窓からは明かりが漏れていて、薄暗くなってきている外を照らしている。
「入るべきなのかな……?」
何かのイベントが存在する可能性。
それ以前に、明かりがあるのならNPCが住んでいる筈だ。そうでないとしても幽霊なんかが居る事になる。それはそれで面白い。
もしNPCが居るなら、イベントが発生しなくても何か話が聞けるだろう。それに、もう外が暗くなってきている。夜になれば日の光が無くなり、更に気温が下がる上に視界が悪くなる。ゲーム内で一晩泊めてもらえるか話してみるか。
わあ




