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168話 ドクター


 強化したチェーンソーを訓練所で試そうと思ったが、エニグマとブレイズさん、あと新しく入った子が行った施設は十中八九訓練所である。

 というかそれ以外に行くような施設が思い当たらない。競技場や寝室に行くとは思えないし、別にアリスさんやぐれーぷさんの店にも行かないだろう。

 邪魔するのも悪いかもと一瞬悩んだが、僕が見てはいけない事もないだろうし別にいいかと訓練所へ移動。


 訓練所では壁に寄りかかって空を見上げているブレイズさんと、エニグマと戦っている女の子が居た。


「お、リンちゃん」


「どうも。何してるんですか?」


「んー? 俺は現実逃避。ラピスラズリとエニグマは戦闘評価のために戦うとかなんとか」


「現実逃避? っていうかあの子ラピスラズリって名前なんですか?」


「聞いた名前が間違ってなければね」


 現実逃避をしてるのは何故かという疑問には答えてくれないらしい。聞かれたくないのであれば深く掘り下げるのも失礼だろう。これ以上は聞かない方がいいか。

 ラピスラズリ……さん? 今の僕と同じくらいだからちゃん? どっちがいいんだろうか。とりあえずさんにしておくか。

 エニグマとラピスラズリさんが戦っているのが藁人形の近くなので、僕がチェーンソーを試すこともできない。仕方なくブレイズさんと並んで二人が戦っているのを眺める。


 エニグマはイベント時のような強力なスキルは使ってないようだが、戦力は拮抗しているように見える。強化してない状態のエニグマと同じ実力というと結構強いのだが、また僕の影が薄くなりそうな気がする。

 ラピスラズリさんが使う武器は小さめのハンマーだ。地面にめり込んだハンマーを支えにダイナミックに動いているが、微妙に距離感を掴めていない感じがある。今もエニグマにぶつかりそうになった。


「ブレイズさんは闘技大会やりました?」


「まだやってないな。リンちゃんは?」


「僕もまだですね」


 僕もブレイズさんもやったことがないので細かいルールが分からず、対モンスターの方は複数人でできるのか、もしできたら今度やろうといった話をしている間にエニグマ達の戦闘が終わり、こちらへ寄ってくる。


「終わった。戦力としては申し分ない、一時的に加入させて周りの反応を確認する」


「お疲れ。もう藁人形使って良い?」


「ああ」


 許可が出たのでパネルを操作して藁人形のダメージ測定モードを起動し、チェーンソーを取り出して藁人形に近付く。

 チェーンソーを回転させ、藁人形に押し当てると藁が飛び散るエフェクトが発生し、しばらくすると人形が一旦消えた。


「前より倒すの早くなったかな……?」


 パネルからログを見ると討伐時間は0.8秒ほど。前は1秒より遅かったから早くなっているのは間違いない。攻撃力を上げたのと『物理攻撃強化』というスキルを付与したからだろう。

 ただ討伐時間が短くなり過ぎてきた。もうそろそろ藁人形のHP設定を増やすべきか。


 藁人形が復活したら、もう一度チェーンソーを起動する。

 次はスキルを試す。先程の強化で『魔法属性付与:雷』などをチェーンソーに付与した。属性が雷なのはイベントでエニグマが纏っていた雷がかっこよかったからだ。なんか雷ってかっこいい感じする。

 バリバリという音を鳴らしながらさっきよりも若干早く藁人形が消えた。


「おお、0.5秒。雷の追加ダメージで早くなった」


 どうやら属性の追加ダメージは武器での攻撃時に発生するようで、チェーンソーとは相性が非常に良い。

 チェーンソーは0.8秒でもかなりの数の攻撃判定が出る。それに雷の追加ダメージが発生するので、結果0.3秒短縮できた。


「満足」


 まだ付与したスキルは幾つかあるが、この調子なら問題ないだろう。あとは実戦で試せばいい。


≪『ブラン』からフレンドメッセージが届いています≫

【ブラン:今時間ある?】


 なんてタイミングがいいんだ。ちょうど暇になったところである。

 何もなければバジトラの鉱山にでも行って採掘してこようと思ったが、誰かから誘われたのであればそちらを優先しよう。妹であるブランなら尚更。








****









 ブランがパンドラの箱のクランハウスに迎えに来た。何故来たのかはまだ聞かされていない。


「どしたの」


「ドクターが会いたいって言うから」


「ドクター?」


 どこかで聞いた名前だ。エニグマやニアさんが言っていたような。

 ニアさんとドクターという名前で思い出したが、クラン対抗戦イベントの表彰式の時にレジェンズの中継でドクターと呼ばれていた人が居たはずだ。

 ってことはレジェンズの人なのだが、僕に会いたいとは何の用だろう。


「……僕に?」


「うん」


 ニアさんに執着していたようだったし僕じゃない可能性もあると思ったが、僕で間違いないらしい。


「今来てるの?」


「もうすぐ来る」


 レジェンズとパンドラの箱は同盟を結んでいてクランハウスに入れるようになっているので来たら入ってくる、との事で、ホールで席に座ってゆっくり待つことになった。

 しばらくの間ブランに頭に生えたキツネの耳を触られながら最近あった事を話していると、クランハウスの玄関から見知らぬ人が入ってくる。


 白に近いグレーの髪で白衣を着ている女性だ。こちらに気付き、笑顔で手を振りながら近寄ってくる。笑顔で口の中がチラッと見えるが、ニアさんと同じギザギザした歯を持っている。


「やっほーブラン。そちらが噂の?」


「ん」


「やあ初めまして、リン。噂は聞いているよ。有名だからね」


「有名なんですか?」


 有名になるようなことはしていない。直近だとクラン対抗戦イベントだが、エニグマやニアさん、ブレイズさんと違って僕は何もしていない。表彰式の時に少し話したくらいだ。

 またブランが何か誇張して話しているのだろうか。


「……なんでもないよ。忘れてくれ。私の中では有名、ってことだ」


 レジェンズの人に覚えられるような事もしてない。だがそれを言い始めたらキリがない。


「そうですか。それで、えっと……なんて呼べばいいですか?」


「ドクターでいい。私もリンと呼ぼう。それでいいね?」


「はい。僕に用があるって聞きましたけど」


「ああ、早速本題に移ろう。実は風の噂で注射器を使う支援型のプレイヤーが居ると聞いてね。プレイヤーネームはリン。いつものように聞いているかも分からないブランに独り言のように話していたら、珍しく返事が返ってきたんだ。そのプレイヤーは私の姉だ、とね」


 ドクターは台本を朗読するかのように、わざとらしい感情とイントネーション、声の強弱を付けて話す。


「へぇー」


「……そんな反応薄い事ある? まあいいだろう。ブランから君の話を聞いているうちに、錬金術をやっているという話も出てくるじゃあないか。私が君に用があるのはそこだ」


「錬金術、ってことですか?」


 まさかここまで一度も出会わなかった錬金術仲間というやつだろうか。ここに来てようやく、しかもレジェンズに所属しているプレイヤーが初とは思ってもなかったが。


「そうだ。私も少々錬金術を嗜んでいてね。協力関係にならないかと話しに来た次第だ」


「いいですよ」


「ああ勿論君にメリットがないのは分かっている。君はゲーム開始からずっと錬金術をやってきた。それに比べ私は最近始めたばかりの……? いいの?」


「ええ」


「……こちらの提示条件も話しておこう。私は君にスキルオーブなどのアイテムを譲る。それを条件に錬金術の情報などを共有してもらいたい。それでいいかい?」


「はい」


 錬金術は分かりにくい割にチュートリアルが少ないとかそういった愚痴を言える人ができる。錬金術をしない人に話しても仕方ないと思って今まで言わなかったが、ドクターが錬金術仲間になるのなら言ってもいいだろうし、きっと共感してくれるだろう。

 更にスキルオーブなども貰えると来た。『分解』でスキルオーブを解体してみるというのはまだ試してなかったから、既に所持しているスキルのオーブでも貰えるのは有難い。持ってないスキルなら僕が取得するから無駄にはならない。


「よし、契約成立だ」


 まあ口約束だから強制力なんて存在しないけどね、とドクターは手を動かしながら言う。

 何を、という言葉が出そうになった瞬間に、ドクターの掌の上にスキルオーブが現れた。手を動かしていたのはメニューを操作していたのか。


「まずこれを上げよう。親睦を深めるための挨拶代わりに、ね」


悪い人間ではないのが滲み出てるドクター

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