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159話 Fate been×Fight clan(4)

まだまだ続くよクラン対抗戦


「だあぁぁぁぁ!」


 一応想定してはいたが、そうなって欲しくないと願っていた最悪の事態。一人で多くの敵を相手にしなければならない。

 そのような状況に陥ってしまったブレイズが最初に思い浮かべた策は、戦闘から離脱することだった。

 だがただの戦線離脱ではない。ポイントを手に入れてパンドラの箱の拠点まで撤退するべきだ。どうせ復活は可能だ、ここは強欲に行こう。


「おら死ね!」


 暴言をまき散らしながら敵を殺して数を減らす。

 戦闘から離脱するにしても、まず敵の数を減らさないことには離脱は不可能だ。AGIで振り切ることもできなくはないが、それではポイントが手に入らない。


 敵クランの拠点内部を走り回りながら着いてくる敵を殺し、一定距離を引き離す。

 ある地点をブレイズが通過してから追ってくる敵が同じ地点に到達するまで2秒ほどかかるようになったのを確認してから、拠点の出入り口を通り抜ける。


「『ミラージュフェイク』」


 出入り口から出て左に曲がり、そのまま一直線に走って逃げる。周りからはそういった風に見えるだろう。

 実際、ブレイズを追っていたプレイヤーの大多数がそのまま追って拠点から離れて行った。

 だが走って逃げて行ったブレイズは幻影によるフェイクであり、あれを倒してもブレイズは死なない。偽物としての完成度が高いのと、動かせる自由度が高いため使用後はステータスが三割減少するという制限があるため、見破られた場合は更に辛くなってしまうが。



 拠点の出入り口から出て左に曲がってすぐに城壁を駆け上がったブレイズは、ヒヤヒヤしながら幻影の偽物を追っていくプレイヤー達を見送った。

 そして身を隠したまま城壁の上から拠点に残ったプレイヤーを確認する。


「少し残ってるな」


 逃げて行ったブレイズが偽物だと気付けば、逃げられる場所は少ないのでまだ近くに居ると考え引き返してくるだろう。それは追って行ったプレイヤー達だけでなく、拠点に残っているプレイヤーがブレイズの存在に感付いても同じだ。

 そうなるとステータスが三割制限されただけで、自ら縛りを課すような事態になってしまう。だがブレイズは追い詰められて喜ぶような変態でも、戦闘狂でもない。


 ならどうするか。答えは簡単だ、偽物を追っているプレイヤーが逃げているブレイズが偽物だと気付かない内という時間制限を設けながら、拠点に残るプレイヤーに気付かれないようにクランコアを破壊するしかない。


「隠密行動は得意だってちょっと前に思ったが……これは難しいだろ」


 遮蔽があるとはいえ、コアという最も大事な装置の警備は厳重だ。拠点中央にあるから他の施設からは隔離されている上に、守っている人間は複数いる。

 例えステータス三割制限の枷をもう一度背負って幻影を生み出したとしても、コアを守るプレイヤーは追ってはこないだろう。

 仮に幻影に対応するとしても、ブレイズがコアに近付こうとするのを攻撃してきたり、ブレイズが攻撃するのをカウンターしてくる。しかもその時点でブレイズが戻ってきていると理解し、外へ出ていったプレイヤーにも知られてしまう。


「さて、どうするか……」


 ラピスラズリと少し話したことで喋らないようにしようと意識していたのが無くなってしまったのか、独り言が漏れる。慌てて誰にも聞こえてないよな、と口を塞ぎ、思っても口に出すべきじゃないと意識し直す。


「おい、何だあれ!」


「こっちに来るぞ!」


 高台に登っている敵に見つからないように城壁の上からから近くの物陰に隠れた時、拠点の出入り口から声が聴こえてくる。何かがこの拠点へ向かって進行してきているのだろう。

 だから何で面倒事が……と呟きかけたのを、今さっき改めた意識を思い出して言わないでおく。

 ともかく、別の敵が攻めて来てしまったらブレイズがポイントを獲得するのは難しくなってしまう。攻められた後なのにブレイズが戦力を誘導してしまっている今なら尚更だ。


≪『ニア』からフレンドメッセージが届いています≫

【ニア:まだ観察対象の拠点に居る?居るなら逃げるか絶対にバレない場所に隠れて。それか目立つ場所に出て】


 一体どういう事だと思考を巡らせ、ある答えに辿り着く。

 開戦前にエニグマから話されていた敵味方が分からなくなる暴走状態、それをクランを攻め落とす時に使用せざるを得ない状況に陥ったということだろう。その後の行動については指示されなかったが、AGIが異常なまでにあるニアが引きつけて誘導していたとしたら。

 それならばニアの警告や、見慣れない物を発見した見張りの反応も分かる。


 暴走状態のエニグマはSTRだけでなく、AGIもアホみたいに高くなる。それこそ極振りのニアに迫るほどだ。

 そんなエニグマを相手に、ステータスを三割も制限されているブレイズが逃げられるかというと断じて否である。

 更に、戦闘の影響を考えると絶対にバレない場所というのは存在しないだろう。建物は壊れるし、物陰も消えてなくなる可能性が高い。


【ブレイズ:居る。城壁の上に立つ】


 総合して考えた結果、ニアに回収を頼むことにした。普段であれば他人に身を委ねて移動するという事はしないが、この緊急事態にそうは言っていられない。

 隠れずに城壁を登ったため案の定敵に見つかった。その直後にニアがブレイズの目の前まで来て、ブレイズに背を向けてしゃがんだ。


「乗って、早く」


「頼むぜニアちゃん」


 ブレイズを背負い、少しよろけながら立ち上がったニアはそのまま走り出し、城壁から飛び降りて拠点から離れていく。

 後ろからは鋭い金属音と激しいモーターの駆動音が鳴り響いている。


 予想が正しければあの場で戦っているのはエニグマなのだが、果てしてその成否はどうなのか。ニアに聞いてみると、ブレイズの予想通りの答えが返ってくる。

 暴走状態に入ったエニグマは当初倒す予定だったクランのコアを破壊し、数分間非戦闘状態で立ち尽くしていた。そこでニアは遠距離からエニグマの足元を狙撃し、自分の存在に気付かせることで誘導を行い、ここまで来たそうだ。


「ここまで来れば大丈夫、あとは私が誘導する。ブレイズは拠点に戻ってエニグマが死んで戻るまで待機してて」


 近くの山の上まで運ばれ、降ろされる。

 先程までブレイズが潜入していた拠点はギリギリ見えるくらい遠い。確かにここならブレイズから攻撃しなければエニグマに気付かれる事も無いだろう。


 暴走状態に入った場合、指揮権が誰に渡されるのかは決められていない。だからこそブレイズが知り得ない、予想外のニアの行動が実現している。

 エニグマのこの強化状態を利用し、より多くのポイントを得ようとするニアの行動は理解できなくもない。クールタイムなどでイベント中にもう一度あの状態になれるか分からない以上、できる限り利用するのも手だ。


「……了解、頑張れ」


 ニアは頷き、山を下って行った。


 暴走状態のエニグマを誘導できる技術も速さもないブレイズがニアを手伝える事はない。エニグマの暴走状態を利用するという点では賛成なのでニアを止める理由もないブレイズは、応援する以外の選択肢を持ち合わせていない。

 やる事がないのであればいたずらに他のクランを襲撃するより、防衛に回る方が現実的だ。ポイントを獲得して回るエニグマとニアも、クランコアが破壊されてしまえば活躍する機会が潰えてしまう。


「見やすいなエニグマ。あれコア破壊できんのか……?」


 スキルを使っているとはいえ、赤黒い雷と青白い雷、その両方を纏うエニグマは遠くから見ていてもどう動いているか可視化できる。

 それはそうと、あの状態でクランコアを破壊することはできるのか、という疑問が湧いて出てきたが、その直後にコアが破壊されて敵が消えた。


「コアを破壊する意思はあるのか? 敵味方が分からない戦闘狂みたいな状態になるだけで根本的な意思は残るのか……それとも偶然か? いや、一個前も破壊してたから偶然が二回も続くとは思えないな。見たところ広範囲攻撃はしてないしな」


 隣の山から銃声が鳴り響き、拠点の残骸で立ち止まっていたエニグマが動き出す。ニアが銃で撃ち、それを認識したエニグマが敵と判断して追いかけて行ったようだ。


「……果報は寝て待てって言うしな。寝はしないが大人しく待っとくか」


次回は誰の視点か全く決めてませーーーーーーん

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[一言] エニグマの暴走状態すげぇな
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