153話 巫術
自身の戦力強化について。
僕ができる自己強化、それも残り数日でできる事となるとそれほど多くない。
選択肢候補は幾つか。
まず強化の方向性として、新しくスキルなどを手に入れたり、スキルレベルを上げたり、武器を強くしたりと色々ある。しかし力を手にしても使い方を理解していなければ意味がない、という考えもある。それで戦略性が増したりとかあるだろうし。
僕も『リシッツァ神の巫女』の称号を手に入れ、その称号効果で与えられた『狐の巫術』についてまだ試していない。
という訳で『狐の巫術』の詳細確認から。
――
『狐の巫術』
リシッツァ神に仕える巫女が使用する特殊な呪術。
取得アビリティ
・『狐降ろし』
――
はい。
これを見てすぐに理解したことが一つある。取得アビリティの一覧があるという事は今後増える可能性が高い。この『狐降ろし』というアビリティだけで完結するなら、『エナジーヒール』のようにスキルの効果だけドーンと出るだろう。
しかし『狐の巫術』にスキルレベルは存在しない。つまりスキルレベルの上昇でアビリティが増えることもないのだ。
まあ心当たりがないこともない。錬金術でも何回か体験しているように、本を読んだりといった行為でアビリティを取得することもある。このスキルに関しては本を読むより、レーニイさんや神様から教えてもらった方が新しいアビリティを取得できそうだが。
それは後でやるとして先に『狐降ろし』の確認をしよう。
――
『狐降ろし』
狐の神を自身、あるいは狐を媒体として呼び出すことができる。
――
「え、短っ……」
一文だった。分かりやすくて簡潔だけども。
要はクォール村があった山の山頂の社でレーニイさんがやっていたように神様を呼べるのだろう。
よかった、これでわざわざクォール村に行かなくて済む……と言うと言い方があれだが、別に嫌いとかではなくて単純に移動が面倒というだけだけだ。
自分自身に神様を呼び出して憑依させた場合、僕が神様と会話できるかは不明である。レーニイさんがやっていたようにキツネに憑依させよう。
「よし、君に決めた」
クランハウスの施設の一つ、その名も庭。
ウサギ達を追いかけて遊んでいるキツネが一匹と、木陰でウサギに囲まれて寝ているもう一匹。なんとなく昼休みに外で遊ぶ男子とずっと教室に居る女子っぽさがあるな、と思ったり。
とにかく寝ているのを起こすのは申し訳ないので、元気が有り余ってる子に神様を憑依させてもらおう。
「『狐降ろし』」
僕の前で座っていたキツネに黒い影が降ってきた。
『いったぁ!?』
「神様?」
『貴様ァ! 儀式を省略するなとあれほど! この間はしっかりやったというのに……って貴様、新しい巫女か』
「え? あ、はい」
僕だと思わずに言ったということはさっきのセリフはレーニイさんだと思って言ったんだろう。
『どちらにせよレーニイは貴様らに儀式について教えてない事になるが……』
「儀式って何ですか?」
『私を呼ぶ時には儀式をしていないと憑依する体が少し痛むのだ。レーニイがやっているのを見ただろう?』
「あの灯篭ですか?」
『そうだ。本来であれば代替わりや新任の巫女が誕生した際に現役の者が教えるのだがな』
レーニイさんがその儀式を教えるのを怠った、と。
やはりあの巫女、ポンコツなのではないだろうか。何処か抜けている感じが否めない。
「儀式ってどうやるんですか?」
『灯篭を数十秒翳すだけだ。そうすれば私が灯篭の光を道標に近くまで行ってやる』
「その灯篭はレーニイさんから貰えばいいんですか?」
『私が渡しておこう。それと、もう一人の巫女に会う機会があったら渡しておいてくれ』
神様の声が聴こえた次の瞬間、淡い光と共にレーニイさんが持っていたのと同じ灯篭とハンドベルが二組現れた。一組は僕の分、もう一組はブレイズさんの物だろう。
「ハンドベルの用途については……?」
『狐を呼び寄せる鈴の音だ。一時的に協力してくれるだろう』
お持ち帰りし放題ってことか。
『悪用はするなよ』
「あ、はい」
『あともう一人の巫女に儀式についてしかと伝えておけ』
「はい」
『して、何の用だ。まさか気紛れに呼んだわけではあるまいな?』
その声からは「無意味に私に痛い思いをさせたのではないだろうな」という神様の気持ちが伝わってくる。声が頭に直接響く感じだから、もしかしたら思念も送れたりするのかも。
「『狐の巫術』というスキルについて聞きたくて。アビリティって『狐降ろし』だけじゃないですよね?」
『あるにはある。分類的には呪いだがな』
「呪いですか」
そういえば『狐の巫術』の詳細に呪術とか書かれていたような。スキルが、というより巫術自体が呪術という感じっぽいが。
『教えても良さそうなのは狐憑きくらいか』
「狐憑き」
『普通の人間に対して使うと錯乱してしまう呪いだ。狐には神の恩恵でしかないのだがな』
「僕にはどんな感じになりますか」
『貴様には加護だ。素質があって巫女になっているのだから当然であろう』
つまり僕やブレイズさん、あとキツネにはバフ、それ以外にはデバフを与えるアビリティということになる。バフとしてもデバフとしても使える点は優秀かも。相手を間違えてエニグマとかに使わないようにしないといけないが。
『この際授けてやろう。貴様はその見た目に反してレーニイよりしっかりしているからな』
≪『狐の巫術』のアビリティ:『狐憑き』を獲得しました≫
そんな、意外とあっさりと。貰えるなら貰っておくけど。
『力は使う者によって善悪が決まるものだ、使い道を違えるな』
「分かりました」
『直に時間が来る。儀式をしてないから短いな』
「というと?」
『憑依が解ける。私も常に憑依していられるわけではないのだ。ではな』
それ以上神様の声が聴こえなくなり、神様が憑依していたキツネは一瞬だけ僕と目を合わせてからウサギ達の元へ戻って行った。
「キツネには加護、か。キツネも戦力としてカウントするべきなのかな」
だとするとキツネ達のレベル上げをした方がいいかもしれない。ついでにタヌキとアライグマも。
何回も呼んで申し訳ないが、ウサギ達と遊んでいるキツネを呼ぶ。
「いやーごめんね何回も。僕と契約しよう、君の名前はソラだ。僕に力を貸してくれ」
そう言いながら手を差し伸べると、前足をポンと乗せてくれた。「お手」みたいだが、それはともかく契約に了承してくれたということでいいのだろうか。
【確認:『ソラ』と契約を結びますか?】
いいらしい。
了承すると、うさ丸と契約した時と同じメッセージが現れる。死の概念から引き離されたとか、ステータスの閲覧や変更が可能になったとかのメッセージだ。
この調子でもう一匹のキツネやタヌキ達とも契約する。
もう一匹のキツネの名前はルナ、普通のタヌキはウルス、白いタヌキはヴァイス、アライグマはノートだ。
ゲーム内でブラウザを開けるので色んな言語を調べながら名前を付けた。僕にしてはまあまあ良い感じ。
「さて、契約数が増えたけどなんかアビリティ増えてないかなっと……? 増えてるじゃん」
スキル『テイム』の詳細を開いてみると、新しいアビリティが増えていた。システムメッセージがなかったためいつ増えたのか分からないが、一体いつ……?
新たなアビリティは『召喚』。内容は名前の通り、契約したモンスターを召喚できるというものだ。送還も可能なようだ。
つまりキツネ達を引き連れて行く必要がなくなった。必要な時に召喚すればいいってことだ。
「いいね。最高」




