143話 シリンジカタパルト
学校の描写はあんまりする予定ないです(最悪作品完結まで描写されない可能性もある)
古賀先生や林くんは名前出したけど今後一切出てこないかも
学校が終わり、お昼前辺りに帰ってきてシャワーを浴びた。朝はまだマシだけど、昼くらいになってくると8月末といえど暑く、汗をかいた状態で午後を過ごす気にはなれない。それにこうすれば夜にお風呂に入る必要がなくなる。
「あ、パンツ忘れた」
帰ってきてリビングを通りながら荷物と制服を置いてそのままお風呂場へ行ったため、自分の部屋からパンツを持ってくるのを忘れた。それと着る服も持ってきてない。
まあ家の中だし誰も居ないからいいかとタオルで体を拭いてから二階へ向かう。
階段を上がっている途中、二階から真白が目を擦りながら下りてくる。真白は僕より学校が始まるのが遅く、金曜日に行って土日で休んで次の月曜から通常の授業とよく分からない日程になっているらしい。
「凛姉、家の中だからって全裸で歩き回るのはやめた方がいいと思う」
「パンツ忘れただけだから! 露出狂とかじゃないからね!」
怒られるかと思ったが、怒られるよりも妹に露出狂とかと思われる方がダメージが高い。間違いの無いようにしっかり訂正しておこう。
「なら良かった」
本当に大丈夫かと心配になるが、それを確認する前に僕の横を通って一階へ下りて行ってしまった。
僕も体が冷えてしまう前に服を着よう。
「そのダサい服なんなの」
服を着てからしばらくベッドの上でゴロゴロと休憩していると真白に呼ばれ、一階へ行くとご飯が並べられていた。どうやら真白が作ったようだ。
「ダサい……?」
「うん」
今日の昼ご飯は炒飯。炒飯の素があったはずなのでそれを使ったのだろう。
そして話題は僕が着ている服についての物になる。
今僕が着ている服は夏休み中に裕哉とアズマが来た時にも着ていた「超新星爆発」と書かれたTシャツだ。裕哉に貰い、そのくれた本人も忘れてなんだそれと言ってくるような服ではあるが、ダサくはないだろう。
「いや、ダサいよ」
「そんなはず……ないでしょ」
「ダサTって分類じゃん。もう名前からダサいって認めてるよね」
「嘘……」
これが完全論破というものか……。可愛いのになぁ。
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「ってことがあってさ」
「いや、お前に押し付けた俺が言うのも何だが、あれはダサい。というか前にも言ったろ、ダサいからあのTシャツ着て外出るなって」
FFにログインしてエニグマに昼食時の事を話をしたら、エニグマにもダサいと言われた。そこまでダサいのか……。
しばらく雑談していると頼んでいた設計の話になり、設計図と構成するパーツを取り出してくる。
構造を語っているのを聞くと、注射器を弾として撃ち出す銃のような物らしい。だが本物の、エニグマが開発しているような爆発を利用する銃ではなく、弓やクロスボウのような原理に近い。ただしその構造はできる限り小さくして内部に組み込むようになっているため、一目では分からないとか。
また、注射器もゴーレム化する計画のようで、突き刺さった瞬間に中身を注入する出力を設定するように言われる。確かに、ただの注射器では突き刺さっても中身が変動しないままだから当然と言えば当然である。
完成した武器はハンドガンに近い形状だが、内部構造の関係でサイズはハンドガンよりも大きくなっている。弾丸が注射器という関係上、マガジンなどは存在せず、一発ずつ手動で装填する必要がある。
「これで最後?」
「ああ、また自分でやる場合が出てくるだろうから注射器の設定のメモも渡しておくぞ」
「この武器名前とかあるの?」
「シリンジカタパルトとかでいいんじゃねぇか」
ある程度のステータス設定はしたけど、チェーンソーとかと違ってこれ以上の更新は必要ないらしい。更新するとしたら注射器側くらいと言われたので、おそらく変更はしない。
一応試しておけと言われたので、中身に入れる血液の準備をしよう。
昨日渡された何の変哲もない注射器をゴーレム化し、シリンジカタパルトの弾として作った注射器とは違い刺さったら押す部分―プランジャーというらしい―を引いて血を抽出できるようにした。これは一人でやる場合、腕や手首に刺したら片手しか使えないのでプランジャーを操作できないのでは、と思ったからだ。
抽出した血は試験管に移し、魔石と水を合成した魔導水と血を合わせて魔導血液を作製する。その魔導血液とポーション類を合成して、効力を持つ魔導血液が何個か完成した。
「それ自分の血じゃないとダメなのか?」
「ん? 別に誰のでもいいと思うけど。なんで?」
「昨日試した時に何回か採血したから俺の血を使って良いぞ」
今ちょうど思い出したかのように話し、何十本かの注射器を取り出して渡してきた。その全てに血が入っていて、エニグマの言う事が正しければ入っている血は全てエニグマの物だろう。
「血管の位置とか関係なく普通に採血できたから注入時も体に刺さってればどこでも良さそうだな」
「ん、ありがとう」
「言ってくれれば献血するが」
「じゃあ今度また作る時に頼むかも」
「了解」
訓練所に移動し、藁人形に対してシリンジカタパルトを構える。銃の構え方とかは知らないのでとりあえずそれっぽく両手で持ち、直線上に藁人形が来るように狙う。
当たるだろうというところでトリガーを引くと、カシュッという音と共に注射器が射出され、藁人形に刺さった。注射器内部の血が藁人形に入っていくと、藁人形が「毒」の状態異常を発現した。
シリンジカタパルトはしっかり機能しており、魔導血液もちゃんと効果が出ている。ひとまずは完成ということで良いだろう。
何回か試してみるとなんとなく使い方が分かってくる。
まず構え方だが、反動が少ないため両手で構える必要はない。片手で狙えるなら、利き手じゃない左手に常に持っておけば遠近両用で戦闘が可能になる。
改善点があるとすれば、射出速度とか射程距離、装填についてだろうか。
射出速度はそれなりにあるが、反射速度が良かったりAGIが高いと避けられてしまう。銃もそうだが、射出速度が変動しないと高レベルになるにつれて対応できなくなる。
射程距離は25m程度。28mくらいは勢いや角度によっては刺さらなくもないが、それ以上になると失速して注射器が突き刺さらないため射程範囲外となる。射出速度もそうだが、どこかのパーツのSTRなどを強化すれば改善できなくもない。
装填はハンドガンでいうハンマー辺りの場所を開いて注射器を装填しているが、開けて装填して閉めるのが面倒だ。これはエニグマにワンボタンで開閉できるような構造にできないか相談してみるべきだろう。
「OK、とりあえず装填機構は改善案を考えておく」
「大丈夫? 何回も頼ってるけど……」
「これくらい問題ない。それに知識と経験ってのは蓄積される。やればやるだけ次に繋がるんだ」
「考え方がめっちゃ優等生」
「そんな上等なもんじゃねぇけどな」
お試しは終わりにして、ホールまで戻ってくる。
このシリンジカタパルトは相手が鎧を着ていて肌を晒していなかったり、そもそも注射器が刺さらない材質の皮膚を持つモンスターとかには有効ではない。ある程度の布なら20mくらいの距離であれば貫通できるが、極端に体毛が密集していたり厚い布には刺さらないだろう。
相手を選ぶが、有効な相手には遠距離から状態異常を付与できる強みがある。今は毒くらいしかないけど、今後麻痺や睡眠などのポーションを作れれば使えるようになるだろう。しかもこれは敵に対してだけでなく、味方に対して回復効果やバフを与えるという使い方もできる。
この武器一つで大幅に戦術が広がり、自己完結する一人の戦闘だけでなく他人のサポートなどにも回れる。
「そして加速する魔石の需要……」
問題となるのは魔導血液の材料である魔導水の素材の魔石。ゴーレム化をするのにも魔石を使うし、エニグマやクランのみんなが供給してくれている分があっても足りなくなりそうだ。
でもちょうどいい、最近ゼリオンクリスタルやリアダントクリスタルが枯渇気味だったし、バジトラの鉱山に採りに行こう。




