134話 残された手記
書き始めた当初はリン以外の視点をあんまり描写する予定がなかったので付けてなかったんですけど、少なくともブレイズ視点を書くなら必要になるのでR15と残酷描写ありを付けました
最初に見つけたのは技術を担当するフィクトス家の石版だった。
暗記していた各石版の方角ではフィクトス家の物は南西にあり、目的のエシル家とフォルグ家は北と西。南西にある石版を中央から見た時、右方向に進んで行けば西に行くし、更に進めば北にも行ける。
ボス戦の最中に邪魔してくるために定期的に出てくるゾンビやスケルトンを適当に倒しながら紋章を石版へ嵌める。
べギドラの森にある墓地はギミックを解いた後、中央の石碑の部分に隠し通路が現れた。配置が同じならば現れる場所も同じだろうと中央へ向かう。
前回と違い音が聴こえてこないから違う可能性もあるなと考えながら戻ってくると、通路ではなく魔法陣が出現していた。
「行くか」
魔法陣へ乗り、転移すると何処かの家屋の中に居た。
状況確認のために辺りを見回すと、古びた鎧と机の上に置かれた手記が目に入る。
私ではネクロに勝てない。やはり来るべきではなかった。腰抜けと言われようが、貶されようが、蔑まれようが拒否したり離脱するべきだった。
だがそれももう遅い。もう、帰り道などない。
だからせめて彼の情報を残し、次に来る者の手助けとなろう。
ネクロは死霊を率いる。戦闘で死んだ者もアンデッドにされてしまった。私は戦いの最中で逃げ出してしまったが、私の仲間も死体となって操られているだろう。
アンデッドは各々は弱いが、数が脅威的だ。騎士団の副団長を務め、討伐隊の隊長であるロイ様も数で押されて殺されてしまった。
もしアンデッド達を倒しても、ネクロ本人も厄介だ。際限なく再生し、倒すことができない。望みがあるとすればロイ様が持っていた祈りの聖剣だろう。不浄な者や死霊は触れられないし、もしかしたら何処かに残っているかもしれない。
ネクロは世界の写鏡の入口を進んだ先にいる。
私はもう戦えない。仲間の死を見てしまった。
誇りも意志もなく操られるのを想像して、足が竦んでしまう。それくらいならここで操られないように死ぬ方がいい。
次に来る者が、希望である事を願おう。
空腹が限界まできている。力がでない。もうながくは持たないだろう。
うまれ変わるとしたら、へいおんな人生を
途中までは読めるが、最後の方はふにゃふにゃで文字として認識できなくなっている。
どうやらこの鎧の人物が書いた物のようだ。
「祈りの聖剣……再生能力を打ち消すイベントアイテムか」
ネクロが居ると書かれている世界の写鏡とは、ダンジョンの事だ。ブレイズもネクロを追うために情報を集めている中で初めて知った名前である。40階層がべギドラの森にある墓地と同じ構造なのも、写鏡という名前が表す通りだろう。
家屋の外へ行くと31階からと同じように青い人魂が明かりの役割を果たしている街に出た。街道には見える範囲で2体のスケルトンが歩いている。
祈りの聖剣を探すために街中を探索していると、ある事に気が付く。
街並みがサスティクに似ている。
知っている店は大半が無いが、老舗である店と同じ店名、同じ看板の店は新築のような形で残っている。クランハウスなども無い。
それらを考えると、過去のサスティクの街並みなのだろうか。世界の写鏡の先にネクロが居るというのが理解できずにスルーしていたが、ここがサスティクなのであれば手記は間違ってないんだろう。
だが集めていた情報によると討伐隊が編成された時代、ネクロがジードとして生きていた時代にはサスティクという街はまだ存在していなかった。
少なくとも討伐隊とネクロが戦闘を行ったのはサスティクが無かった時代である。
この空間が在りし日のサスティクをコピーしたものだとしたら、討伐隊とネクロの戦闘よりも後にコピーされているだろうし、祈りの聖剣とやらは残っているんだろうか。
と、考えながら歩いているとそういった心配は見事に杞憂で終わった。
街の中心にある広場、そのちょうど中央に柄が埋まっていた。力を込めて引き抜くと剣であり、アイテムステータスを確認すると祈りの聖剣という名前だった。
「これか」
祈りの聖剣に付着した錆や土を軽く取り除き、砥石を使って応急処置をして斬れ味をある程度まで復活させる。使う場面は必ずあるだろうし、その時になってから使えませんとは言っていられない。
準備を終え、世界の写鏡の入口へ向かう。中央広場から歩いてすぐそこにあるので、大して時間もかからずに到着した。
「最終確認ヨシ!」
行くか、と呟いて安全装置の間を通り抜けて階段を下りていく。
1階から9階までは迷路のような場所なので、最短ルートを思い出して脳内のマップに投影しようとしていると、階段が終わり、広い空間へ出た。それはつまり、思い出した最短ルートは意味が無かった。
ブレイズは肩を落としながらも、広く暗い空間を進んでいく。街中には骨だけのスケルトン、鎧を着たスケルトンが徘徊していた。
しかし、ネクロが居る場所の近くにはモンスターが一切居ない。元人間なだけあってモンスターを嫌っているのか、ここにネクロは居ないのか。
「不気味なもんだ」
呟きを零し、ドーム状の空間を歩いて進む。
壁に吊るされているランタンを辿っていくと、黒い金属の扉が見えてきた。扉は完全には開いてないが、小さな子供が入れそうな隙間は開いていた。
「誰かが俺より先に入ったのか……?」
入るために扉に手を触れた瞬間、中から聞き慣れない音が聴こえてきた。モーターの駆動音。それもゼンマイ仕掛けのような物でなく、もっと現代的な装置の音だ。




