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133話 パイルバンカー

他視点の練習も兼ねて


 ネクロと対峙した時、こちらが説得をしようとしても話を聞いてくれなかった。僕の言葉選びが悪くコミュニケーションエラーが発生してしまったのもあるが、それを差し引いても説得は少し面倒そうだ。

 何よりも情報が足りない。ネクロがどういう出自で、何の為にあの場所に居たのか。戦うつもりはなさそうだったのに自ら敵対するつもりはないという可能性を潰してきたのには、何か理由があるのだろうか。

 クエストなどの仕様上戦闘が避けられないのだとしたら、倒した先に何かがあるのだろう。そうなると倒す方法も考えておいた方がいいかもしれない。


 困った時はエニグマに丸投げすれば大体は解決する。フレンドメッセージで聞いてみたところ、錬金ラボまで来てくれるそうなのでゆっくり待っておく。


「お、来た……裕哉?」


「プレイヤーネームで呼べよ」


 錬金ラボへやってきたエニグマは前に会った時から雰囲気が変わっていた。

 赤かった髪が毛先の方に行くにつれて黒くなっているグラデーションが増えていた。ゲーム外では裕哉と呼んでいたのだが、髪が黒かったせいでその癖が出てしまった。


「どうしたの?」


「呪いに掛かっただけだ、気にするな」


「めっちゃ気になるけど……」


 呪いを受けるとは、一体何をしていたんだろうか。


「んで、何の用だよ」


「アンデッドに有効な攻撃とかないかなって」


「……検証班の情報ではネームドアンデッドエネミーは蘇生薬で蘇生できるらしいぞ」


 ほら、エニグマに頼れば解決した。


 それにしても蘇生薬とは盲点だった。プレイヤーが使うだけでなくNPC、しかもアンデッドのモンスターにまで有効だったとは。

 蘇生薬は現在開催されているイベントの「大狩猟祭」のポイント交換報酬にあるし、エニグマに連れられて結構なポイントを稼いだ僕は既に交換済みだ。今もアイテム欄を開けば取り出せる。


「飲ませればいいの?」


「かければ効果出るって言ってたな」


 しかも難易度も低かった。毒煙玉や爆弾は再生されるから効かなかっただけだったし、再生能力の原因になっているであろうアンデッドの要素を取り除ければ撃破は容易になるだろう。

 倒せる条件は揃っている。


「アンデッドモンスターに倒せない奴でも居るのか?」


「ちょっとね。でもエニグマの手を煩わせるほどでもないよ」


「俺としては何かやらかす前に頼ってくれた方がいいんだがな」


 僕に対する信頼の低さ。いや、これは捉えようによっては心配だから頼れと言っているのかもしれない。ポジティブシンキングは大事。

 エニグマはアイテム欄を操作し、チェーンソーを取り出した。


「使え」


「いいの?」


「そんなすぐ必要にならんしな」


 そう言うなら借りておこう。武器としての性能はかなり高いからネクロに会うまでの道で使える。









****








 ブレイズがヴィクターにある運搬者ギルドに侵入してから数日。

 ネクロを殺害するために編成された討伐隊と同じ道を辿り、情報を集めた。その中で新たに分かったのはネクロが隠れたとされる場所へ行くためのギミックがあるのは、サスティクのダンジョンの40階層に存在するボス戦の空間だということ。

 場所が分かったなら行ってみるべきだと判断し、満月の日にベギドラの森に出現する墓地からフォルグ家とエシル家の紋章を回収してサスティクのダンジョンへ向かった。


 これまでソロで行動してきて一切の支障が無かったブレイズのプレイヤースキルと、ボス戦は挑戦者の人数によって難易度が調整される仕様から難なく30階層まで到達した。


「あばよぉ!」


 爆発の後に、金属が打ち付けられる音が鳴り響く。

 ボスの10mはある蜘蛛に突き刺さったパイルバンカーを引き抜くと、蜘蛛は光となって消えていく。

 このパイルバンカーは銃開発の副産物であり、ゼリオンクリスタルの爆発を利用して槍を高速で射出する武器だ。射出する度に専用に加工したゼリオンクリスタルを装填する必要があるが、その手間の分威力は絶大である。


「あと10階。敵の強さの変動傾向が急に変わらなければ余裕だな」


 ボス部屋を出て次の階層へ向かう。

 寂れ、一部が損壊している階段を下りていくと薄暗い空間へ繋がった。青い人魂が明かりの役割を果たし、その光が照らす第31階層は廃れた墓地のようだ。雰囲気はベギドラの森に出現する墓地と似ており、これらの情報だけで出てくるモンスターが簡単に想像できる。


「アンデッドか」


 呟いた直後、目の前の地面から手が突き出た。腕、上半身、下半身と体を出してゾンビが現れるが、ブレイズはそんな長ったらしい登場シーンを律儀に待つような性格ではない。

 ゾンビに剣を突き刺すと、下半身が埋まったまま消えていった。

 その後も現れるゾンビやスケルトン、デュラハンなどを問答無用で倒して進んでいく。パイルバンカーはゼリオンクリスタルの温存のために使わずに戦闘を行っているが、困るような場面には遭遇しない。



 1階、また1階と順調に進み、40階層まで来ると、休憩する間もなくボス戦へ移行する。

 ボス部屋は39階までと同じ広い墓地であり、その中心にローブを着こんだ男が佇んでいる。顔の全体は見えないが、本来あるはずの頬の肉がなく、骨が露出している。さらにその付近の肌の色は死体のように白く、ゾンビのように見える。


 先手を取って右手に持ったパイルバンカーで貫く。だがボスだけあって一撃で倒せるという事はなく、貫かれてもなお魔法の詠唱を始めた。


「知るかよ、さっさと死ね」


 ゼリオンクリスタルを装填し、二回、三回と爆発音を響かせる。一撃でも十分な火力を持つパイルバンカー、それを何回も直撃させればボスであろうと撃破可能だ。


 数秒でボスを撃破したブレイズはボス部屋の探索を始める。情報が正しければこの部屋に紋章を嵌めるギミックがあり、その先にネクロが隠れたとされる空間が存在する。

 戦闘を終えて辺りを探索し始めたブレイズは、偶然にも一部が地面に埋まった石碑を見つけた。書かれている内容には見覚えがある。かつて栄えた国の幹部である一族の役割と、方角。ベギドラの森の墓地で見た物と同じだ。

 ダンジョン内ではマップが機能しないため方角が分からないが、ベギドラの森の墓地と同じであれば六つある石板の内の一つを見つければ方角と石板の位置は特定できる。そこからエシル家とフォルグ家の紋章を嵌める石板の位置を特定し、ギミックを解除すればいい。


「確か端の方にあったな」


気分が変わらなければ次回もブレイズ視点かも

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― 新着の感想 ―
[一言] パイルバンカーて またロマン武器を そういやネクロが、前に来たやつとか言ってたな ブレイズ達のことか?
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