129話 夢の遺跡
やる気が戻れば更新が早くなります。定期的に更新が遅くなる時期があるのでそれかもしれないです。
波がさざめく砂浜から離れ、アーチ状の岩をくぐって森へ入っていく。人か、そうでなくとも何かの動物がよく通るのか、1部の草が禿げて道が出来ているので、それを辿って歩く。
ロッククライミングの知識も技術もない僕にとって、崖を登ろうなんてゲーム内であろうと無謀な行為だ。
故に歩ける道を通って来たのだが、少し進むとそうも言っていられない状況に陥る。
開けた場所に出たと思ったら、明らかに人が作ったであろう建造物があった。櫓のような、木で作られた高台だ。少し古い物のようだ。それが数本立っているが、他に道は無い。崖の上はまだ広く、探索の余地がありそうだが、梯子などは置いていない。
「梯子がないなら作る……のは難しいかな。道具がないし紐とかもないから固定できないし」
櫓を構成している紐を取ろうにも結び目は見つからないし、引っ張って取れるような結び方はしていない。剣で切ってしまったら櫓が壊れてしまうかもしれないし、梯子を作るための紐としては切れている物ではあまり使えそうにない。
梯子を作れないとしたら、別の方法で登る必要がある。
薄々感づいてたが、櫓が御誂え向きに建てられている。登って飛び移ればなんとか崖まで登れそうな配置にはなっている。
夢幻世界で死ぬのかは分からないが、死んでも大丈夫だと覚悟を決めて櫓へ登る。1番低い物だけが梯子みたいな構造になっており、他は脚にしがみついて登るしかない。
当然ながら細い1本の棒を登れるような技術も力も無いので、梯子がある1番低い櫓へ登る。
登り終え、床以外無い狭い足場で歩数を合わせる。そして助走を付けて左足で深く踏み込み、次の足場まで飛び移る。
「はぁっ!」
最初の足場に立っていた時に見た次の足場は僕の腰くらいの高さだ。だが上方向にだけならともかく、横にも飛びつつでは腰くらいまでの高さは稼げない。
すると当然、次の足場には乗れていないのだが、それでも諦めまいと手で足場を掴んでいるのが現状だ。
「ん、しょっ……」
現実では無理だろうけど、この場ではSTRがあるからなんとか登れた。感覚的にはプールからプールサイドに上がる時と似ていた。足は地面にも櫓の柱にも届かずパタパタしていたけども。
そうして何個かの櫓を乗り移りながら少しずつ高度を稼ぎ、ようやく崖の付近まで到着した。
最後に崖へ飛び、縁をギリギリ掴んで腕力を使ってよじ登る。
「ふぃー……現実だったらやらなかったな、これ。女の子になる前でも腕力だけで登るのとか無理だろうしなぁ」
疲れた腕をプラプラさせながら、ここまで登ってきた広場を見返す。下から崖や櫓を眺めていた時と変わらず、上から見下ろしても広場は何もない。櫓という明らかな人工物があるのにも関わらず。
夢の世界について考察しても無意味なのかもしれないが、人工物があるのに居住はない。ならばここで生活することを想定しておらず、櫓は移動のためだけに作られている物だと考えるのが妥当だろう。
ここに住めない理由があったのか。それとも集落の入口を厳重にするため、あるいは警戒するために崖の先に集落を作ったり見張り台として櫓を作ったのか。
なんにせよ、僕には関係の無い話だ。何故なら櫓の状態は少し古い物だったからだ。古いというのはつまり、補修や整備などを行っておらず、何かの理由で居なくなっている可能性が高い。
「ちゃんとした設定とか歴史があれば、だけど……」
もしかしたら、夢だからの一言で片付くかもしれない。
しばらく進んでいくと、折角登ったというのに下りの坂道になっていき、再び開けた場所に出た。
開けた、とは言っても先程の櫓があった場所とは違う。あそこよりもっと広く、水が大半を占めている。つまり湖だ。
ただ一般的な湖とは明確に違う点がある。中に入らなくても水が綺麗だからはっきり見えるが、湖の底に建造物がある。石造で、階段とか祭壇っぽい物が水底に見える。何かの遺跡だろうか。
前にモリ森で探索したような湖底遺跡と比べてみると、水深はこの遺跡の方が浅い。なら探索もできるんじゃないかと潜ろうとしたが、湖へ飛び込んだ瞬間に大きく宙へ投げ飛ばされた。
「……? なんで?」
飛ばされ、再び着水したらまた飛ばされる。そう繰り返して向こう岸まで着いてしまい、ズサーッと顔から地面に滑り込んだ。そんなに痛くなかった。
少しは潜れたけど、それ以上は行けずに水上へ引き戻される。プールでビート板を沈めて射出する遊びみたいな感じだ。だがそれは沈める対象がビート板だからできるのであって、人間である僕がやろうとしてもできない行為だ。
どういう原理なのかは知らないし分からないが、この湖の水は特殊なようだ。浮力が増して一定以上は潜れないし、潜れたとしても直ぐに引き戻されてしまうだろう。
「ふむ……もし正式なギミックとして存在するんだったら水の特殊効果を無くす方法、あるいは水自体を消す方法が存在すると考えるのが妥当、かな」
先程考えていた夢だから解決策がない、ってのも無いとは言い切れないのが不安なところだ。
湖の水は回収してみてもただの水であり、水には特殊な効果はなかった。その事実から、湖の水にだけ特殊な効果を付与する装置やら魔法陣やらが何処かにある可能性は高い。
予想を立てた後に遺跡の水に浸かっていない部分を探索していると、柱の部分に何か書かれているのを見つけた。
【守護者を倒したくば熱を破壊せよ】
「……ん?」
思っていたのと違った。何か書かれているから水についての事かと考えたが、まだ視認すらしていない要素に関する記述のようだ。
気に留めておく程度に覚えつつ、何か無いかともう一度探してみる。すると、別の柱の後ろに台座のような物が置かれてあった。その台座から辺りを見渡すと、崩れかけの壁の上や水に少し浸かっている所に同じ物がある。
台座の上には燃焼した跡のある、黒く炭化している木が。しかもどの台座にも同じようにある。
別に、台座に火を灯していた事についての疑問がある訳ではない。形状的に元々そういう目的で作られたであろうというのは僕でも分かるのだ。
気になっているのは台座の位置だ。火を灯すことを前提としているのであれば、目的は光源の確保だろう。ならば柱の裏という明かりを遮る物の近くに置くのはおかしい。しかも配置は不規則だ。
「って事は……これがギミックなのかな」
発火の魔法陣を使って台座の1つに火を灯し、木材に火を移して別の台座にも火をつけていく。1部はくべられている木材が湿気ているかと思ったが、問題なく着火できた。
全ての台座にも火を灯して最初の位置に戻ってくる。
「……何も起きてないような」
水は消えていないし、何かが現れたという事もない。
じゃあ台座は本当にただの装飾であってギミックでは無いのか、と別のギミックがないか探そうとするとまた柱に何かが書かれているのが見えた。
【空へ落ちる水は霹靂にて姿を滅失する】
思わず頭を傾げる。
「空へ落ちる水……? 水蒸気……いや、湖の水の事かな?」
潜っても浮力が増して宙へ投げ出される性質を「空へ落ちる」と表しているのだろうか。だとすれば滅失、つまり水をどうにかできる方法についてが書かれているんだろう。
ただ、問題があるとすれば……
「……なんて読むんだこれ。癖とか壁と同じ部位だから音読みはへきかな。もう1つは歴史の歴っぽい……いやなんか違うな、なんだろう」
読めないのだ。しかも読めたとしてもその意味を理解できないだろう。あと1歩なのに届かないこの感じ。
「みぃーつっけたぁー」
「ひょぉおわっ!?」
口に手を当てながら書いてある字の読み方や意味をどうにか予測できないかと考えていたら、不意に耳元で囁かれて変な声が出てしまった。
いつもなら反射的に距離を取るのだが、今はそれをやる前に背中から抑えられている。
知らない人にやられているのではないのが救いだろうか。
「ヒュプノスさん……もうちょっと普通に話しかけてくれませんか?」
毎回背後から抱き着いてくる眠くなるような声、十中八九ヒュプノスさんだろう。
「見つけた見つけたぁー」
「聞いてます?」
「にへへぇー……」
聞いてなさそうだ。以前夢幻世界に訪れた時にそうだったように今回もヒュプノスさんと遭遇してしまうかもと考えていたが、予想は当たってしまったようで。会わないようにと願っていたのは無駄だったらしい。
ヒュプノスさんに拘束されて動けないまま少し経った頃、立っている状態から持ち上げられてヒュプノスさんの上に座らせられる。
その間、どのタイミングだったかは分からないが、瞬きをした時に景色が草原に変わってしまった。
遺跡についてもう少し調べられたら良かったのだが。
「……なんで寝かされたんですか、僕」
「リンと寝ると快眠だからかなぁ」
「それはなにゆえ……?」
「抱き心地が最高」
それ僕と似たようなサイズの抱き枕とかじゃダメなのか。アリスさんに相談すれば作ってもらえそうだけども。
「前から欲しいって言ってるのにねー」
ヒュプノスさんはリンは意地悪だよねぇ、と続ける。
確かに言ってたけど断ったはずだし、意地悪と言われてもそれを受け入れる人は中々居ないんじゃないかな。
「だから今回はちゃんと考えてきたよぉ」
 




