114話 再翻訳みたいな
憂鬱は人々のために
猛毒ポーションと煙玉を合わせたら猛毒煙玉というアイテムになり、これを順調に量産した…とはならなかった。
煙玉が枯渇したのである。
これまで、1個の毒煙玉を作るのに100本の毒草が必要になるというのを伝えていて、ケムリの実よりも毒草の方が多く渡されていた。
だが、猛毒ポーションを使うことで1つの猛毒煙玉を作るのに必要な毒草は10個まで減った。それによりバランスが崩れ、有り余る猛毒ポーションと圧倒的に足りない煙玉という構図が完成してしまったのだ。
所持しているケムリの実を使って煙玉を作製したが、それでも足りなかった。どうせそんなに使わないだろうと煙玉の製作をサボっていた僕も悪くはないとは言いきれないが、根本的に材料が足りないんだから仕方ない。
毒草の消費が10分の1になったのだから、これからはケムリの実の供給量を10倍にしないと今までのバランスは保てないだろう。
ってな訳で、ある分の素材で猛毒煙玉を作れるだけ作った。大体200個くらい。
それはもう大変だった。魔法陣を描いてケムリの実を包んで煙玉を作り、それと猛毒ポーションを合成してを忙しなく繰り返していた。
時間もかかり、既にお昼頃を過ぎている。途中でお昼ご飯を食べるためにログアウトしたけど、その時点で完成していたのは140個くらいだったかな。
「疲れたよーうさ丸ー」
いつの間にか錬金ラボの端の方に置かれていた椅子に座り、机の上でくでーっとしながらうさ丸の体に顔を埋める。
「キュイッ」
うさ丸の毛を顔で感じながら今後の予定を考える。
さっき頼まれた毒煙玉は既に納品可能だ。毒煙玉じゃなくて猛毒煙玉になったけどダメージは上がってるんだ、文句は言われまい。
錬金釜を買ったことで寒くなった懐事情も、実は既に解決済みである。水道を導入した事、錬金釜を3つにした事で『合成』を使う回転率が上がったのでぐれーぷさんに売る用のポーションも作って売っておいた。よってお金も心配する必要は無い。
「となると、イベントをやるか錬金術をやるか…」
…忙しくて頭から抜け落ちていたが、寝起きにも少しやったように、昨日海の中で錬金術の『分解』について考えていたんだった。
星水については分かった。ポーションを作るのにはあった方がいいという結論になっている。
他に考えていたのは、煙玉とか星石とか、閃光玉とか。
やるならやろう。今日はずっと錬金術かな。
まず1番気になるのが、衝撃を与えたり破壊すると効果が出るアイテム。煙玉や閃光玉が該当する。
しかし煙玉は残念ながら在庫がないので、閃光玉で試して大丈夫そうなら納品分の猛毒煙玉から何個か拝借して試そう。納品数は言われてないし伝えてもない。元々その数ということにしとけばバレないだろう。
「んしょっと」
黒い工具箱、もとい分解キットを机の上に置く。
金具を外して中から金槌を取り出し、閃光玉の原料であるリアダントクリスタルへ振り下ろし、粉砕。
「光らない…か」
砕けたクリスタルを分解キットの一つであるよく分からない箱に放り込み、蓋を閉める。
排出されたカードは「閃光」と「クリスタル」の2枚。そういえば、とゴーグルでリアダントクリスタルを調べてみると、カードとして出てきたのとは別に「崩壊発動」という性質を持っている。
結論。
性質と同じカードと排出し、偏りはランダムだと思われる。
また、猛毒煙玉を調べると「崩壊発動」ではなく「衝撃発動」だが、リアダントクリスタルが破壊されても発動しなかったのを考えると、分解キットを使えば発動はしなくなるのだろう。
同じように猛毒煙玉も分解してみる。
猛毒煙玉が持つ性質は「猛毒」「煙」「玉」「衝撃発動」の4つ。「衝撃発動」以外は名前を分けただけだが、実際そうだから何とも言えない。
やはり分解キットを使うと発動しないようだ。潰れた猛毒煙玉から排出されたカードは「猛毒」が2枚、「煙」が1枚。
それから猛毒煙玉を何個か分解してみて「玉」や「衝撃発動」のカードも手に入れた。
ここで試したい事が幾つかある。
最初に、手に入れた「猛毒」「煙」「玉」を合成したら猛毒煙玉を復元できるんじゃないか? という物。
できるでしょ、と意気揚々と合成してみる。
《『合成』に成功しました》
《『猛毒煙玉』を作製しました》
ログを見て天才か? と自我自賛しようとした時にある違和感に気付いた。
「名前のまんまだ…」
比喩ではない。名前の通りの物が完成していた。
毒々しい色の煙の玉。
エニグマに頼まれて作った物とは明らかに違う、小さい煙の玉だ。
錬金釜の上に浮いているのに触れ、アイテム欄へ移動したのを取り出してみると、球状だった煙が空気と混ざりあって消えていった。
「えぇ…なんでさ」
確かに、完成したのは猛毒の煙の玉なんだろう。
なら「衝撃発動」を加えれば完成するのか、と試してもみたが、それもそれで違うらしい。
さっきの3つに加え、「衝撃発動」を合成してみた。これで元の性質は全て揃ったわけだが、それで出来上がったのは猛毒煙玉というアイテム。
勿論、復元はできていない。アイテムを取り出してみると、掌の上にビー玉サイズの煙の玉が浮いている。
「…? なんで形を保ってるんだろ」
短剣を取り出してちょんと触れてみると、1回目に作った猛毒煙玉みたいに、空気と交わって消えていった。
「ああ、衝撃発動ね…」
そこに適用されるのか。
どうにも、性質を揃えたからといって同じアイテムへ復元できるわけではないらしい。今回は猛毒煙までは復元できたが、玉の部分が変わってしまった。
「何その精度低い翻訳サイトで英語に翻訳した文をもう1回日本語に直すみたいなの」
一時期それが妙に面白くて、色々な単語や文を外国の言語に翻訳してから日本語へ再翻訳して遊んでたりもした事がある。「憂鬱」をラテン語で翻訳して出てきたものを日本語へ再翻訳すると「人間のために」になる、みたいな。
今回のはそれに近しい何かを感じるのだ。
だが、結果から考えれば、猛毒煙までは完成しているのだ。あとは玉の部分をこちらで補ってやれば、猛毒煙玉が完成するのではないだろうか。
「…でも玉ないな」
仕方ないので別の物で色々代用してみよう。
とりあえず似たような感じだった閃光玉から、「クリスタル」と「崩壊発動」のカードを抽出して合成する。
結果、キラキラと煌めく毒々しい紫色の煙が完成した。
なんでやねん、とツッコミながら短剣で突っつくと、キラキラしながら消えていった。本当になんでやねん。
カードじゃ駄目なのかなと考え、空のガラス瓶と合成。
結果、ガラス瓶に充満した紫色の煙が完成。まあそうだよな、と。
多分、カード以外で玉の形状の、「衝撃発動」か「崩壊発動」の性質を持つアイテムであれば成功するだろう。
「何の効果も持たないクリスタルとかなら行けそうかな」
そんなの持ってないけど。
猛毒煙玉についてはここで切り上げよう。今のところこれ以上の進展はないだろうし、あっても疲労が大きい。
そしてここまでの結果で、閃光玉や爆弾についても予想できる。
この2つは個性…というか、各自で完結している性能を持っているので分解する必要も、復元する必要もない。というか、復元しようとしても煌めく爆発とかになるだろう。
閃光玉と爆弾は研究しなくていい。以上。
ここまで『分解』について調べてきて、ゴーグルに付属しているスキルの『鑑定』でアイテムを調べた時に表示される「性質」の部分がカードとして排出される事が分かっている。
よって、分解してみて何のカードが出るかを調べるというのは愚の骨頂…は言い過ぎた。短縮できる作業である。
なので分解はせず、星石を『鑑定』で調べてみた。
性質は「星」「石」「武具強化」の3つだ。
「…えっ? 武具強化?」
それはとても気になるので金槌で粉砕し、分解を行う。
1回で「武具強化」のカードが排出されたので、先程まで煙を割るのに使っていた短剣と合成してみる。
合成後の攻撃力は11。前に短剣は使い捨てとして何本か買っていて、その時にアイテムステータスは全て同じだという事を確認済みだが、他の短剣の攻撃力は9。
「増えてる…!」
2も上昇している。それが大きい上がり方なのかは分からないが、変動するはずのない数値が増えているのだからそれだけでも凄い事象だろう。
星石を分解して「武具強化」のカードを手に入れ、武具と合成する事で強化する。それを繰り返せば、高い装備を買わなくても強くなれる。
星水といい星石といい、星由来のアイテムはどれも有能だ。
星石の量産と分解を行うと決め、次のアイテムを調べる。
最後に『分解』で抽出されるカードだ。本当はスキルオーブも調べたいが、手持ちにないのでカードを調べて最後にする。
適当に取り出した「水」のカードだが、ゴーグルの『鑑定』を発動してみても性質の部分が空欄だ。説明欄は「水を表すカード。錬金術で用いられる」としか書かれておらず、情報がない。
他のカードを調べてみても同様で、説明欄の水の部分が変わるだけだ。
「水」のカードをカッターナイフで切断し、分解してみる…が、いつまで経っても箱がガタガタと振動しない。蓋を開けて中を確認すると、既にカードをバラバラにした残骸が消えている。
「じゃあカードは分解不可なのか…」
まあ納得できる。カードを分解して手に入れたカードを更に分解して…と、無限に手に入ってしまうからだろう。流石に対策はされているようだ。
「んー、一通り終わったかな。次は何をしようか…」




