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その者、化けの皮につき――  作者: 星空カナタ
三章 その動乱、始まりにつき――
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31 その巨躯、強靭につき――

 

 自慢の腕を切り落とされて警戒しているのか、ウィリアムの戦い方が僅かに変わった。

 先にレイラが往なしたような大振りの一撃が減り、代わりに隙きが少ない乱打になっていた。


「まったく、小さくまとまってウザったいわね……」


 一撃一撃の威力は下がったがその分一撃の速さが増し、すぐに拳を引き戻されるため反撃に移れる時間が短くなった。

 にも関わらず、まともに喰らえばどんな一撃だろうと致命傷になり得るのだからレイラとしては鬱陶しいことこの上なかった。

 更に今の回避や拳を受け流す合間にウィリアムヘ与えられた傷は掠り傷のような小さなものばかりであり、ウィリアムの魔力を消耗させられているのかも甚だ疑問だった。


「さっきまでの威勢はどうした!! 逃げ回ってばかりいないで反撃の一つもしてみせろッ!!」


 幸いなことに一つのことに意識が集中しやすいらしいウィリアムの意識は完全にレイラへと向いており、当初の目的である時間稼ぎは成功していると言えるだろう。

 それにウィリアムの攻撃にも既に慣れており、このまま現状を維持し続ければ無理なく目的を達せられる。

 そうと分かっていても、レイラは面頬の中で口をへの字に曲げていた。




 ウィリアムの挑発を真に受けたのではない。

 ただ単純にレイラは既にこの状況に飽きていたのだ。




 速度はあるが単調な攻撃。

 そして何より相対してからと言うもの、変わらずに瞳を彩る感情は怒りと憎悪、それらに包まれた驕りを孕む余裕の"彩"を見飽きてしまっていたのだ。


「……このままで居るつもりだったけど、辞めだわ」


 いい加減に違った"彩"も見たいという欲求に突き動かされ、レイラは回避の為に浮かせていた足を叩きつけるようにして石畳を踏み締める。

 更に空いていた手に短剣を握らせ、重心を下げて腰を据えた受け身の姿勢へと切り替える。


「窮したかッ!!」

「そう思いたければ、勝手にそう思っていなさいな」


 勝ち誇るウィリアムを前にレイラは魔法薬ポーションによって底上げされた魔力量に物を言わせて身体賦活と武器強化を施し、正面切って拳を迎え撃つ。

 余程硬質化していたのか、刃と拳が触れる度に小さな火花が散るのも構わず、息付く間も無い拳打を弾き返し続けるレイラ。

 そして目を疑うような応酬の最中、繰り出される巨大な拳の一つに腰の入っていない一撃があるのをレイラは見逃さなかった。


「なっ?!」


 力の入っていない拳へ"斬り裂き丸"を叩き付けるようにして大きく弾き、耐久の限界を迎えて刃こぼればかりになった短剣をウィリアムへ投げつけて即座に戦斧へ持ち替え、レイラはガラ空きの胴へ袈裟懸けに振り下ろす。

 元々の間合いの違いから身体を浅く斬り裂くだけでしか無かったが、僅かに怯んだウィリアムの隙きを突いて懐に潜り込み、左脚を"斬り裂き丸"で斬り飛ばす。

 更に前へ崩れ落ちるウィリアムの巨体を躱し、頭を垂れるように丁度良い位置になった首へ"斬り裂き丸"の白刃を走らせた。


「ヴィクッ」

「はいヨ」


 軽快に飛んでいく首を見送り、立ち上がろうとするウィリアムの身体を力の限り尽くした両足蹴りで吹き飛ばしながらレイラが声を掛ければ、待ってましたと言わんばかりに禍々しい意匠をした槍がウィリアムを刺し貫いた。


「がぁぁあああああああああああああっっっっっっああ?!」


 戦い始めてから初めて悲鳴らしい悲鳴をあげるウィリアムを見据えながら、後退したレイラの傍にヴィクトールが立つ。

 何をしたのかと問い掛けるように視線を向ければ、ヴィクトールは気安い態度で肩を竦めた。


「なに、彼の弱点を突いただけだヨ」

「弱点?」

「そうとも。彼はネ、吸血鬼の弱点を消すために"魔人"を宿していたんだヨ」


 魔人とは蛮族神達がこの世界に侵攻してきた際に引き連れていた直系の配下であり、神代戦争後に破れた蛮族神と共に天界へと移った者たちの事を指すのだという。

 また魔人は言わば蛮族達の上位種ではあるのだが、蛮族神の加護の及ばぬ地上では存在を維持できず、天界からは出てくることは滅多にないのだとヴィクトールは言った。


「人族みたいな地上の生物に憑依することで地上に現界することが叶うのサ。まぁ、蛮族神が去った今、十全な力を振るえない地上に来たがる魔人はほとんどいないけどネ」

「じゃあ、その魔人とかいうのがウィリアムに憑依していると?」


 頷くヴィクトールは言った。

 今、ウィリアムを穿いたのはかつて同族をも喰らい自らの力としていた魔人が、同族である魔人を殺す為に使っていた魔槍の権能を魔術的に再現した物なのだと。

 そしてその魔槍はあくまで権能を再現した物であり、人や普通の蛮族――当然、不死者である吸血鬼もだ――に大しては威力や強度は普通の槍程度しかない。

 しかしそんな槍でも魔人が刺されれば効果は覿面であり、刺された魔人は苦痛に悶え苦しむのだと言う。

 丁度今、巨体を暴れさせて悶えているウィリアムと同じように。


「恐らくだけど、彼は吸血鬼が陽光や陽光結晶の影響を克服するために作られた実験体なんじゃないかナ?それに転化したての吸血鬼は脆弱だからネ、すぐに戦えるようにするための下駄を履かせる意味もあるんだと思うヨ」


 神代に勃発した蛮族神との戦争で人族を裏切り、蛮族の一員となった吸血鬼の真祖とその配下たちは、戦争終結以降は陽光神の権能が宿る陽光が毒となった。

 故に吸血鬼達はあらゆる手段を持って陽光や人族への侵攻を食い止めている陽光結晶を克服する為に実験を繰り返しているのだという。


「かく言う私も吸血鬼たちが陽光を克服する一環として生まれたわけだけどネ。基本的には陽光を克服した時点で、吸血鬼としての権能の大半が失われるんだヨ」

「じゃあ彼もそうなのかしら?」

「どうだろうネ。見た限りかなり吸血鬼の権能は残っているようだし、完全には陽光を克服できてないんじゃないかナ?多分だけど、陽光や神職が誓願する奇跡なら効くと思うけど、私達は奇跡を扱えないから関係ないネ」

「それじゃあ結局?」

「死ぬまで殺し続けるしかないだろうネ」


 結局は最初と同じ結論へと辿り着いたが、最初と違ってウィリアムにヴィクトールの作る魔槍が効き、ただ殺し続けるよりも効率よく魔力を消費させられると分かっただけでも十分だろう。

 また今はバルセットを離れてしまっているがバルディーク司祭への言伝がちゃんと届けられていれば、ウィリアムの天敵となるかもしれない武僧団もやって来る可能性もある。

 ただし、それらが来るまでにどれほど時間が掛かるかなど分かりようもなかったが。


「ま、やれることをやるしかないわね」

「違いない」


 ようやく腕力でへし折れると気付いたウィリアムが自身を貫く魔槍を砕き、苦痛から開放されたウィリアムが睨みつけてくる。

 最早大物ぶる余裕もないのか、荒々しく肩を上下させていたウィリアムが動き出す。

 レイラも呼応して突っ込んでくるウィリアムからヴィクトールを護るように立ち塞がり、超重量の突進を受け止める。

 踏ん張った足に負けた石畳が何枚も捲れ上がり、レイラ自身も数メートルか後退したものの、受け止めきったレイラは突進の力が弱まった瞬間を狙って巨体を大きく弾く。


「ぐぅあああああああっ?!」


 体勢の崩れたウィリアムに容赦なく魔槍が突き刺され、悶狂いながら槍を壊すウィリアムに"斬り裂き丸"を容赦なく振るうレイラ。

 脚を斬り落とし、駆け上るように背中を斬りつけ、振り回される腕を掻い潜って脇腹へ斬線を走らせる。

 更に振り下ろされる拳は往なし、振り上げは弾き、ヤケのような突進は時に躱しながらもレイラの猛攻は止まらない。

 拳と刃が交差する度、ウィリアムの身体には傷が産まれているものの、レイラの作った傷などウィリアムにとっては些細なものだろう。

 しかし唯一大きなダメージを与えられるヴィクトールが攻撃する隙きを作り出し、レイラを無視してヴィクトールを潰しに向かおうとするウィリアムの行く手を阻んでいた。


「下等種どもガァああああああああ!!!!!!」


 吼えるウィリアムを無視して左足を切り飛ばしながらレイラは、常に自身を挟んでウィリアムと対峙するヴィクトールを振り返る。

 僅かに頷くヴィクトールを見てレイラは更に苛烈に刃を振るう。



 前衛のレイラがウィリアムの行動を妨害し、後衛のヴィクトールが攻める。



 顔を合わせてそれほど時間の経っていない二人による打ち合わせもない即席の役割分担だが、完全に型に嵌まった連携で二人はウィリアムを攻めたてる。


「ん?」


 ウィリアムを貫く魔槍の数が一〇を越え、歪な形となっているウィリアムの顔があからさまに窶れて見えてきた頃。

 漸くレイラを先に潰さねばヴィクトールへと届かないことに気付いたらしく、ウィリアムの標的がレイラへと移る。

 しかしそれ自体はさしたる問題はなく、逆にヴィクトールの位置を気に掛けなくて済むぶん余裕すら生まれていた。

 問題なのは広範囲にまで広げていたレイラの魔力感知に現れた複数の反応。

 統一感なく近寄る一団は訓練を受けた正規兵とは思えず、ウィリアムとの攻防の隙きを見て振り返るレイラ。

 そしてレイラは己が目を疑った。

 不揃いな装備を身に着けた冒険者達が弓や魔法を構えて今にも放とうとしていたのだ。


「余計な事をッ」


 レイラが射線上いるのも構わないと言わんばかりの様子に舌打ちを零したレイラが直ぐ様跳び退けば、頬を掠めるように放たれた矢が飛んでいく。


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