18 その依頼、継続につき――
すみませんッ!!
予約投稿をすっかり忘れてましたっ!!
朝早くから衛兵長がやってきた事情を要約すると、今日も引き続き依頼を受けて欲しいと言う穏当なものだった。
わざわざ朝早くから来る必要性を感じなかったレイラが訳を聞けば、どうにも他の冒険者から辞退者が続出しており衛兵長自ら説得をして回っているそうだ。
さもありなんと話を聞き出したレイラは苦笑を浮かべていた。
陽光神殿のバルディーク司祭や双月神のラウル司祭と言う権力者と知己であり、無下に扱えばどうなるか分からないレイラは穏当に依頼を持ちかけられたが、他の冒険者は事情が違う。
ニナ含め、他の女冒険者は半ば強制的に依頼を受けさせられたのだ。
自分から危険に飛び込んだのなら兎も角、他人に強要されてまで命を賭けたいと思うものは如何に冒険者と言えどほとんどいない。
その上騒ぎを大きくしないようにするためだったのか。
一党全員を参加させずに安全を保証する代わりに引き抜く形で女冒険者に依頼を受けさせたにも関わらず、その冒険者に犠牲者が出てしまったとなれば一党か、あるいは徒党全員が拒否するだろう。
仮に受けたとしても報酬の引き上げぐらいはするはずだ。
レイラもその流れに乗じる訳ではないが、一つの追加のお願いをしていた。
「しかし良かったのかネ、私を一党扱いして依頼に参加させて」
マリエッタから受け取ったのだろう、黒茶の入れられたカップを両手に持ったヴィクトールがレイラの特等席である卓の対面に腰掛ける。
紫煙をくゆらせていたレイラはカップを受け取りながら肩を竦める。
「あら、迷惑だったかしら?」
「いや、そんなことは無いヨ。ただ少し私に都合が良すぎると思っただけサ」
「なら大丈夫でしょう。私も打算が無いわけでもないしね」
レイラが衛兵長にしたお願いとは、ヴィクトールをレイラの一党として依頼を受けさせて欲しいと言うものだった。
報酬額はそのままに、ヴィクトールとは報酬を分割するから参加だけ認めてくれと控えめな提案に逆に衛兵長の方が訝しげにしつつ、それぐらいならと直ぐに了承を勝ち取っていた。
損を被る形でレイラが提案したことにヴィクトールが怪訝に思うのも無理はないだろう。
「私はね、こんな下らない依頼で長期間拘束されるのが嫌なのよ。元よりお金には困ってないし、この秋雨が終わる頃にはまた他の依頼を受けたいしね」
「それは私が関われば、事件解決が早まると?」
「少なくとも衛兵の許可の元で動けた方が貴方も動きやすいでしょ? それにこれは貴方への助言だけど、一度受けた依頼は完遂しといた方がいいわよ。依頼達成すれば他の街に行くときに紹介状が貰えるからね」
「そう言えば、この国には冒険者組合がないんだったネ」
現状、ヴィクトールが元々受けていた遺族からの依頼は破棄していない。
と言うのも、ヴィクトールの受けた依頼は事件を解決し犯人を見つけだすこと。犯人の身柄については明記されていなかったのだ。
そして衛兵長からの依頼は事件の解決であり、下手人の捕縛である。
つまるところどちらの依頼も競合しておらず、片方を達成した時点でもう片方も自動的に達成されるのだ。
衛兵が事件解決を公表する前に報告する等のちょっとした小細工はいるだろうが、レイラとヴィクトールで犯人を捕まえれば些末な問題だ。
レイラは魔術などに精通したヴィクトールを報酬で縛り、早期解決に向けて尽力させられる。
ヴィクトールは路銀となる報酬が貰える上、今後アルブドル大陸で活動していくのに重要な実績が手に入る。
衛兵やヴィクトールの依頼主は事件が解決すると言う望みが叶う。
誰も損をすることもなく、最上の結果を得られるのだから文句はなかろう。そう説明してようやくヴィクトールも納得した。
「そうなると最低でも私達で犯人を特定する必要があるネ」
「そうね、だから必要な事があれば言ってちょうだい。可能な限り協力するわ」
「ふーむ、そうだネ――――」
下手人の特定に必要な物を挙げていくヴィクトールとそれに合わせて行くべき場所や尋ねるべき人物をリストアップしていく。
その最中、レイラはある事を思い出す。
一度断りを入れて自室に行き、戻ってきたレイラの手には一枚の硬貨が握られていた。
「ねぇ、ヴォク。貴方、これに見覚えある?」
レイラがそう言ってヴィクトールに渡したのは地下水路事件で主犯の屍術師が持っていた黒色の硬貨。
両面に太陽を喰らわんとする牙を模した刻印は人族の文明圏で使用されているどの硬貨とも特徴が一致せず、一銭の価値もないと両替商に突き返された物だった。
一応由縁を調べるべく様々な知識人に当たってみたものの、魔道具組合や陽光神殿を預かるバルディーク司祭も硬貨に描かれた紋様の意味を知らず、今の今まで?笥の肥やしになって忘れ去られていた代物だ。
レイラ自身ヴォクトールが硬貨の正体を知っているなどと期待はしておらず、屍術師が関わっているなら何かしら繋がりがあるかも知れないという程度ものだった。
しかし硬貨を受け取った瞬間、ヴィクトールの表情が変わる。
「コレはどこで?」
「さっき屍術師が起こした事件に巻き込まれたって話はしたでしょ? その時に殺した術師が持ってたのよ」
「コレを屍術師が、ネェ…」
しげしげと観察してから何やら考え込み始めてしまったヴィクトールを見ながら安楽椅子に腰掛け、レイラは言葉を紡がれるのを紫煙燻らせながら静かに待った。
中空を彷徨っていたヴィクトールの視線が再びレイラを捉えたのに合わせて煙管を向ける。
「で、それは一体何なのかしら?」
「コレは太古の吸血鬼、真祖が産み出した十二人の始祖が一人、ロウェステーロを表す紋章だったものだヨ」
「だった?」
硬貨をレイラに返しながらヴィクトールが語り始めたには歴史の裏側、人族ではなく蛮族側の歴史だった。
かつて神代において不浄と病巣の蛆溜まりの手によって産み出された真祖キルケスク。
彼は混沌の最中に十二人の人間を自身の配下として転化させ、蛮族神の手先として猛威を振るっていた。
そして運命を頒かつ決戦の日、蛮族神は破れ真祖も討ち取られてしまった。
残された配下は混乱の中で散り散りとなり、一人を除いた全員が逃げ延びた先で自身を長とした吸血鬼の一団を築き上げた。
そして彼らは氏族を名乗り、神々の消えた地上で人族を滅ぼす蛮族神の尖兵として戦い続けた。
二〇〇〇年の月日が経ち、魔法文明時代と呼ばれる時代が人族優勢で隆盛を極めた頃に一人の吸血鬼が台頭してきた。
その吸血鬼の名はガルザード。
ロウェステーロの氏族に産まれ落ちた彼は同族を喰らい尽くし、自身の始祖をも喰らって手に入れた力で世界に挑み、世界を滅亡一歩手前まで追い詰めた。
あとの流れはレイラも知る歴史と繋がった。
「ガルザードも討ち取られ、ロウェステーロ氏族名と紋章は歴史の渦に呑まれて知る者は蛮族の中でも殆どいない、筈なんだけどネェ」
吸血鬼から聞き出した限りだけどと締められたヴィクトールの話を聞き終え、レイラは知られざる歴史に関心を持ちつつも首を傾げていた。
数年前、地下水路事件を解決した後に衛兵そして陽光神殿が総力を挙げて主犯であったランベントの経歴を調べ上げた結果、様々な国や街で事件を起こしていた邪教団の一員である事は判明していた。
しかしその邪教団も崇拝者の数は多いが歴史は浅く、ここ数百年の間に作り出された比較的新興集団であるとのことだった。
またその目的は屍術による不老不死の実現であるが、確認されている限り蛮族との繋がりはなかった。
それにより事件は完全に終息したとして調査も打ち切られたのだが、そんな新興集団の一員でしかないランベントが誰も知らない筈の――ヴィクトールの話が本当であればだが――ロウェステーロ氏族の紋章が描かれた硬貨を持っているのは可笑しな話であった。
硬貨自体が骨董品のような物であれば偶然持っていたとも考えられなくはないが、レイラの手に収まるそれは骨董品と呼ぶには真新しく、魔具のように長きに渡り保たれるような逸品でもないのだから。
「忘れ去られた氏族の紋章を持っていた屍術師が事件を起こした街で、今度は吸血鬼の仕業に見せかけた事件が起きた。コレを偶然で片付けてしまうのは些か無理があると思うのは私の穿ち過ぎかしら?」
「いや、私も無理があると思うヨ。ふーむ、しかしそうなると最初の推理も間違ってる可能性が出てきたネ」
なんとも言えず、二人揃って難しい顔をしていると店の奥から衛兵長とニナ、そしてウォルトが姿を表した。
衛兵長は僅かに目を向けるだけで店から出ていき、ニナとウォルトの二人はレイラ達の元に歩み寄ってくる。
「話は上手くまとまった?」
「……ん、まぁな。部屋使わせて貰って助かった」
「どういたしまして」
レイラとの交渉後、その場に居るのだからとウォルトとニナも衛兵長との交渉に望んでいた。
結果を聞けば、ウォルト達も今回の依頼に一党全員で参加することにしたらしい。
その後、冒険者同士で簡単な情報交換をしていたレイラとニナ達だったが、ふと思い出したようにウォルトは言った。
「そう言えば色々あっていい忘れてたけど、この店を監視……かどうかまでは分からなかったけど、なんか様子を見てる奴がいたぞ」
その瞬間、レイラの目がスッと細められた。




