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その者、化けの皮につき――  作者: 星空カナタ
三章 その動乱、始まりにつき――
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17 その朝食、賑やかにつき――

 

 ヴィクトール、ニナ、そして路地裏で拾ってきた少年を加えた朝食はいつにも増して賑やかで、更に住み込みの者も含めれば最早開店しているのと変わらない賑やかさだ。

 大勢での食事は滅多にしないのか、会話と笑顔の途絶えない食卓に付きながらキョトンと座るヴィクトールと少年。


「そう言えば、今朝市場で吸血鬼が出たって騒ぎになってたな。昨日の衛兵が持ってきた仕事ってのはそれ絡みなのか?」

「えぇそうね。でも犯人は吸血鬼じゃないそうよ。ねぇ、ヴィク?」

「うん?あぁ、そうだネ。吸血鬼があんなに綺麗に血を飲み干すことはないからネ」

「そういうもんなのか?」


 レイラに水を向けられて呆けていたヴィクトールが頷くと、感心したようにハロルド。

 しかし何処か不思議そうにもしているハロルドに気付いたレイラが問い掛ける。


「どうかしたの?」

「いや、この大陸で長年冒険者やっていたし引退した後も冒険者と関わって来たが、吸血鬼なんて詩以外で聞いたことも無かったからな。ヴィクトールは海向こうの大陸から来たんだろ? だから向こうの大陸だとそんなことを知られるぐらい吸血鬼がいるのかと思ってな」

「確かにお伽話とかでしか聞いたことないわね」

「私も」

「数十年この店やってるけど、吸血鬼関連の依頼は来たことないね」


 現役の冒険者であるレイラとニナが頷き、依頼の斡旋をしているエレナまでも追認したことで全員の視線がヴィクトールに集中した。

 レイラ含め、"羊の踊る丘亭"で活動する冒険者の殆どはアルブドル大陸出身だ。

 そしてアルブドル大陸では他大陸の情報は滅多に流れてこない。商人や神殿との繋がりのあるレイラですら、滅多に知ることができないぐらいだ。


 元々アルブドル大陸と南方に隣接するノルウェア大陸は海溝挟んで位置してるため往来は容易なのだが、アルブドル大陸にやって来る人間は商会に属する人間か、一旗あげようという気概のある傭兵団ぐらいのもので、個人が大陸を渡る事は少ないのだ。

 それは航賃が高いのもあるが情報伝達に難のあるこの時代、入植が始まって一〇〇年近く経った今でも他大陸にとってアルブドル大陸は未だ未開の地、荒れ果てた世界、蛮族の支配地域という認識が拭えていない。

 危険だと思われている領域に好んで来る者は限られ、限られているが故にこの大陸にいる者は他大陸の情報に疎いという状況ができていた。


 そして知らぬが故にレイラ以外の者たちは知らぬ間に危険な場所であったアルブドル大陸よりも、他大陸の方が危険になったのではないか。

 そんな思いからヴィクトールの言葉を待っていると、ヴィクトールは首を振った。


「向こうの大陸でも人里に出てくる吸血鬼は珍しいヨ。私が知ってるのは彼等が落とす魔石が入用でネ、積極的に狩って回っていたからだヨ」

「でも吸血鬼って強いんでしょう?そんなに倒せるものなの?」

「成りたてだったり下位の吸血鬼なら問題ないヨ、ちょっと強い魔術師みたいなものサ。それに強く古い吸血鬼ほど陽光神に嫌われてるから、日差しの差さない自分の領域から出て来ないんだヨ。逆にコチラが攻め入るのも難しいけどネ」

「そういうものかい」


 エレナの呟きを皮切りにまた各々の会話が再開される。ただそれまでの話に引きづられたのか、もっぱら先日とある商会に定期船で持ち込まれたという大陸の珍品に対するものばかりだった。


「吸血鬼って不死者なのよね? どうやって殺すの?」

「不死者っていうのは常道な手段じゃ死なないから不死者って呼ばれてるだけで、別に死なない訳じゃないヨ」

「そうなの?」

「まぁネ。吸血鬼だったら日の出てる間とか聖別された物を相手の身体に埋め込めば不死性は薄れるし、なんなら身体を再生させるのに使ってる魔力が切れるまで殺し続ければいいのサ」


 再び騒がしくなった卓で食事を続けながら興味本位で聞けば、随分と脳筋じみた答えが返ってきて苦笑いを浮かべるレイラ。

 とは言え好奇心旺盛な――冒険者になる人間は元より好奇心旺盛なのだが――ニナの興味を惹くには十分だったようで、目を輝かせたニナが身を乗り出してレイラを挟んで座るヴィクトールに迫っていた。


「さっき吸血鬼の魔石が入用って言ってたけど、それってもしかして魔術で使うんですか?それと普通の蛮族とか魔獣の魔石じゃ駄目なんですか?」

「イヤ、吸血鬼の魔石は魔術では使わないヨ。私は錬金術も齧っているから使うのはそっちでだネ」

「れんきんじゅつ?」


 ニナの長い下肢の影になって卓上の料理が取りにくくなったレイラは、キョトンと首を傾げるニナの襟首を掴んで元の位置に戻してから溜め息を吐く。

 人種と比べて成熟までの期間が短いため出会ったときと比べてニナの顔立ちは随分と大人びた物に代わっているのだが、未だに幼さの抜け切らない行動には呆れるしかなかった。


「錬金術といえば貴女も良く使う魔法薬(ポーション)とかを作るときに使う技術のことよ」

「まぁ、錬金術で作る物は魔法薬だけじゃないけど、身近なものの代表ではあるだろうネ」


 ほへぇと気の抜けた返事を零すニナになんとも言えない表情を作ったヴィクトールは傍らに置いていた暗銀の箱を引き寄せる。

 そして不用意に蓋を開けて見せると、中に入っている影姿の妻子がいて―――――ということはなく、錬金術で使うと思われる素材や道具と思しき機材が緩衝材に包まれて入っていた。


「見てもらえば分かるけど、吸血鬼の魔石は普通の魔石と違っていてネ。かなり特殊な素材になるんだヨ」


 そう言ってヴィクトールが卓の上に置いた魔石は確かに普通の魔石とは異なっていた。

 通常、魔石というと光り加減で色を変えるが基本は黒色であり、形にしても文字通り石のような形をしている。

 だが、ヴィクトールが置いた魔石は血のように赤く、それでいて紅玉ルビーのような妖しい輝きを放っており、放射状にいくつもの結晶が生えたような独特な形状をしていた。


「こう言う特殊な魔石は色々と使い手があってネ。吸血鬼以外にも蛮族は特殊な魔石を体内に持ってる事があるんだヨ。こう言うのが欲しくて、私は蛮族の多いこの大陸に渡ってきたんだヨ」


 レイラの知るどの魔石とも似ても似つかない魔石を手に取り、ニナは再びほへぇと気の抜けた声を漏らしている。


「こんな魔石、初めて見ました。じゃあヴィクトールさんはこう言う魔石を探すためだけにわざわざこの大陸まで来たんですか?」

「そうなるネ。ノルウェア大陸だと人族の領域が広がって境界線以外だと滅多に蛮族を見掛けなくなっていたし、迷宮とかはあまり興味がなかったからネ」


 ヴィクトールは返された魔石を仕舞いながら食事を再開させる。

 ニナも聞きたいことを聞いて満足したのか食事を再開し始め、レイラもようやく目の前を通すやり取りが終わったと判断して食事を再開させようとした。

 だが、丁度背を向けていた店の入口に人の気配を感じたレイラは食器をテーブルに置いて立ち上がる。

 レイラが扉を開けて外に出ると、鋭い眼光と勝ち気な印象与える赤髪の少年が驚いたような表情を浮かべて立っていた。


「そんな所で突っ立ってないで入ってきたら?」

「お、おう。と言うかなんで窓もないのに外に俺がいるって気付いたんだよ」

「さぁ、なんででしょうね?」

「………」


 ニヤりと笑ってみせるとレイラよりやや低い位置にある少年の顔は忌々しげに歪み、直ぐに顔を背けられてしまう。

 傍目からでも分かる嫉妬と引け目の感情を浮かべる少年の名はウォルト。ニナの属する一党パーティのリーダーであり、幼馴染でもある少年だった。

 ウォルトとの付き合いも地下水路事件からと長く、当時あの場にウォルトも居たのだがレイラの眼中になかった駆け出しの冒険者の一人だった。

 しかし今では若手冒険者の中でも有望株と目されており、レイラと違って『鷹の目』の二つ名と共に知られ始めている。

 ただ本人は未だ何もできなかった地下水路事件の事を引きずっており、その事件を解決したレイラが無名のままであることに憤りを覚えているようだった。


「ニナは今朝食を取ってる所だけど、貴方は?」

「……俺は食ってきた」

「そう、じゃあ上がって。あんまり雨に当たるものでもないし、お茶ぐらいなら出すわよ。煎れるのは私じゃないけど」

「……分かった」


 レイラとしては何に拘っているのか理解できないでいたが、ニナに普通に接して欲しいと言われていたため本人の好きにさせていた。

 そんなウォルトを連れて店に戻ったレイラはニナが見えるように道を譲りながら自身の席を目指す。


「ニナ、彼氏さんがお迎えに来たわよ」

「え、ウォルくんもう来たの?!」

「……来ちゃ、わりぃかよ」

「そういう訳じゃないけど、いつもならまだ寝てる時間だからビックリしちゃって……」


 ニナの驚きようにブスッとした表情でそっぽを向くウォルトだが、その目元に薄っすらと隈が浮かんでるのを見つけるレイラ。

 素直に成ればいいのにと思いながら席に着いたレイラはニナの肩に手を置いて耳元に口を寄せる。


「あんまり酷いこと言わないの。ウォルトは貴女のことが心配で碌に眠れてなかったみたいなんだから」

「え、そうなの?!」

「ち、ちげーよ!!」


 レイラがウォルトの目元を指差しながら呟けば、目敏く聞き取ったウォルトの叫ぶような否定の言葉がが響く。

 朝食をとっていた全員が一瞬で耳まで赤くなったウォルトと僅かに喜色を浮かべるニナに生温かい眼差しを向ける中、一人だけ首を傾げている人物が居た。


「あれ、でも昨日の夜はレイラと―――イ゛ッ?!」

「変な声出してどうかしたの、ヴィク?」


 足を踏み抜かれ、悶えて俯くヴィクトールの顔を覗き込みながらレイラは懇親の笑みを浮かべる。


「アレは一夜の御楽しみ。それを本命の前で告げるのは野暮というものでしょう?」

「そ、そうだネ」

「分かってくれて私も嬉しいわ」

「は、ハハハ……」


 交渉が即決で済んだこと、そしてヴィクトールの呟きを拾った人物が居ないことに満足したレイラは再びニナたちへと向き直る。


「ニナ、食事が済んでるなら私の部屋を使いなさいな。心配して寝不足の彼氏くんを労ってあげるといいわよ」

「だからそんなに心配なんてしてねーよ!!」

「ふふっ、そういう事にしておきましょうか。エッタ、申し訳ないんだけど彼にお茶を用意しておいて上げて」

「わかりましたっ!!」


 照れたような表情でウォルトを連れて二階に向かっていくニナを見送り、中断していた食事を再開しようと食器に伸ばそうとしたレイラの手が止まる。

 そして大きな溜め息を吐き出した


「今日はとことん食事を邪魔されるわね」


 そう呟いたレイラが振り返ると、昨日より険しい表情をした衛兵長が店の扉を押し開けて入ってくる所だった。

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