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その者、化けの皮につき――  作者: 星空カナタ
三章 その動乱、始まりにつき――
73/221

16 その者、妖精につき――

300ブックマークを記念して突発更新です(*´ω`*)

本日、2話目の更新となりますので読み飛ばしにご注意下さい(*´ω`*)

 

 前触れも、音も、そよ風すらたてずに視界を占有する黒い影。


「……ッ!?」


 いつ、どうやって、何処から来たのか分からないほど気配はなく、それでいて目の前にある以上に存在感を放つ"ソレ"にレイラの視線は釘付けとなっていた。


 目の前の"ソレ"から一切敵意を感じなかったためレイラは微動だにせず観察できていたが、もし敵意ある相手であれば深手を負っていた事であろう。

 気を抜きすぎていたか、レイラが自省してる合間も"ソレ"はジッと見つめて来ているのが伝わってくる。


 瞳など存在しているのかも分からないのに、視線を感じるのも可笑しな話だと思っていると"ソレ"は音も無く離れていった。

 そして全容が分かるほど離れ、漸く"ソレ"が女の姿をしているとレイラは気付く。

 長い髪、華奢な肩、ヒラヒラと飾り建てられたと思しきスカートから覗くほっそりとした足首は女性の物。

 自身の隣に立った"ソレ"に困惑の目を向けたヴィクトールが促すと、"ソレ"はスカートを指で摘まむと僅かに頭を垂れる。

 バルセット近郊の礼節とはやや違うが、文句の付けようもない礼節に則った見事なカーテシーだった。


「彼女は妻のリリアーノ・ガルメンディア。リリアと呼んで構わないそうだヨ」


 お辞儀の後にコテんと首を傾げたリリアの頭上に挨拶の言葉を書き記された影文字が浮かび、文末に前世でよく見掛けたのものに似た笑みを模した顔文字が付け足される。


 リリアーノの正体は未だ不明だが、少なくとも人語を解し文化も理解できる存在なのは確かなようだった。

 ならばとレイラも挨拶を返すべきと判断して胸に手を当てようとしたが、それより早く何かに気付いたらしいリリアーノが漫画であれば擬音も付け足されていたと思える記号を頭上に浮かべ、ヴィクトールが持つ暗銀の箱に歩み寄る。


 そこには開いた隙間から頭らしき二つの影。


 ヴィクトールは家族達と言っていたなとレイラが思っていると、リリアーノは腰に両手を当てて怒ってますと言わんばかりの背を見せる。


「??ッ。―――!!」

「――ッ!!!!」

「――ッ、??っ!!!!!」


 音無き声でなにかやり取りしているリリアーノをただ見ていたが、ぷんぷんッと言う擬音が聞こえてきそうな仕草をするリリアーノ。

 そして先の上品なカーテシーからは想像できない乱雑さで箱の中に両手を突っ込み、中から二つの影を引きずり出した。

 外に出た途端、二つの影はリリアーノの手から逃れて彼女を挟むようにしてレイラと対峙する。しかしリリアーノがそれを許すはずもなく、仔猫のように首を掴まれて正面に持ってこられる。

 そこまでされて漸く諦めたのか、二つの影もリリアーノと同じく洗練されたカーテシーをしつつ頭上に文字を浮かべた。


「双子の娘達で、ルシエラとラストリアだヨ」

『ルシエラ…ガルメンディア……です』

『ラストリア・ガルメンディアよ』


 文字を書くのがやや遅いルシエラと名乗った影は豪奢な肩出しドレスとストールを腕に掛け――あくまで輪郭でそう見えるだけだが――ウェーブの付いた長い髪をした女性の姿をしており、レイラに視線を向けることなく俯きがちでモジモジと指を弄んでいた。

 対してラストリアと名乗った影はこの時代では珍しいショートヘアだが、耳元で揺れる飾りとルシエラと同じく肩の出たドレスから分かる輪郭は成熟した女性のもの。

 ルシエラと違い自信あり気に胸を張るラストリアだったが、ルシエラと同じく顔を逸して決してレイラを見ようとしない。


 三人の正体は未だ判然としないが、挨拶された以上はレイラも返すべきだと判断して右手を胸に当て、左脚を下げて頭を垂れる男性の礼をする。


「初めまして、レイラ・フォレットと言います。冒険者をしている粗忽者なためスカートを履いておりませんので、このような形の会釈で申し訳ありません」


 一応は貴種などの前でも失礼に当たらない男の会釈をするレイラ。

 その選択が三人には奇異に写ったのか、キョトンとした反応が感じ取れた。レイラが訝しみながら顔を上げると、ぱっと華やぐような記号を頭上に浮かべるのだった。


『お気になさらず。それと、この人のことを宜しくお願いしますね』


 リリアーノはそれだけ書き残し、ルシエラとラストリアを伴って箱の中へと帰っていった。

 箱に入る直前、娘二人がヴィクトールに何やら耳打ちしていたが、音が発せられることはなくレイラが聞き取ることはできなかった。


「それで、どういう事なのか説明して貰えるのかしら?」


 三人が箱の中に収まるとパタンと音を立てて箱が閉まるのを見届け、リリアーノの衝撃的な登場に忘れかけていた本題に戻るべくレイラはヴィクトールに真意を問いかけた。


「妻のリリアーノは世にも珍しい陰気を好む闇陰の妖精でネ。それで陰気に目敏い彼女が濃密な陰気の気配があると教えてくれたんだヨ。それで陰気を放つ不死者がいると思って駆け付けてみれば、あそこに君が居たというわけサ」


 そこまで聞いてレイラはある種納得した。



 妖精。



 妖精とは自然現象に等しい精霊が自らの意思を持って存在する、謂わば精霊の上位種である。

 その全容は前時代を含めほとんど解明されていないが、適正のある限られた人間にのみ視認され、自然現象と生物の間を揺蕩う存在、と言うのが妖精に対する一般的な認識だ。


 ただ、その知識があるが故にレイラには一つ気になる事があった。


 妖精は肉体を持たない。

 意思を持ったとはいえ本質は精霊に近いためなのだが、それにも関わらずヴィクトールはリリアーノを妻と呼び、また二人の子がいると言う。

 妖精を見たのも初めてだが、その妖精が人と子を成すなど寡聞にして聞いたことがない。妖精であると信じるよりも、三人とも死霊であると言われた方がしっくり来る。

 そんな疑問を直裁に問うと、ヴィクトールは博識だなと驚いてみせる。そして死霊ではないかと正面から問うたレイラに苦笑いを浮かべるのだった。


「妖精をお伽噺の存在だと思って信じない者も多いのによく知っていたネ。でだ、妻は元々受肉体――――お伽噺にもある取り替え子と言う奴でネ。娘達はその時に授かったのサ。今は訳あって三人とも肉体を失くしてこの"エルダンシアの柩"の中にしか居れないが、三人とも妖精であるのは事実だヨ」


 レイラが疑いの目を向けるとヴィクトールは再び驚いたような表情を浮かべ、死霊扱いが腹に据え兼ねたのか箱からは三本の腕が伸び出て音無くぶんぶんと手が振るわれ、怒ってますと言わんばかりに存在を主張する。


「そもそも死霊なら陽光結晶の置かれたこの街で存在し続けるのは不可能だヨ」

「あら、そうかしら? 術式と術者の腕次第では存在できるんじゃないかしら。屍術師ならそう言うのは得意でしょう?」

「確かに君の疑問は最もだけど、使役された死霊はうちの子達のように自我は持たないものだヨ。それでも疑うのなら、彼女達に陽光神の司祭に浄化の奇跡を受けてもらって証明すれば納得して貰えるかネ?」


 そこまで言われてしまえば疑いを掛けるのも難しいと判断し、レイラは一先ず納得したことを伝える。それに時間の余裕があればバルディーク司祭の元に向かえば良い。

 しかしレイラが一人納得している傍ら、ぷんぷんと怒っています言わんばかりの腕たちを宥めつつ、レイラを見つめるヴィクトールの瞳に疑念の色が灯った。


「ふぅむ、しかし君は随分と博識のようだネ。妖精の事だけじゃなく屍術についても知っているとは驚きだヨ。私としては一介の冒険者がそんなことまで知ってるのか聞きたいぐらいだネェ……」


 立場が逆転したなと思いながら肩を竦めるレイラ。

 別段隠し建てすることでもないと、レイラは正直に白状した。


「こう見えて私、結構顔が広いのよ。それに人から話を聞くのも好きでね、妖精の事を知ってたのは各地を廻る行商人や巡察吏、神殿の司祭とかからたまたま話を聞いてただけよ。屍術については何年か前にこの街で起きた事件に巻き込まれたから、ある程度調べていたのよ」


 お互い疚しいことなどないと言わんばかりに見つめ合う。二秒、三秒と時間を重ねながらも視線を外そうとはしない二人。

 静かな雨音だけが聞こえる中、沈黙を破る人物が現れた。


「おはようございます、レイラさん。あの、お邪魔でしたか?」

「おはようエッタ、普通に話をしてただけだから気にしないで。それよりどうかしたの?」


 甲殻に覆われた六脚を器用に動かし、中庭を覗き込んでいたマリエッタに向き直るレイラ。


「あの、エレナさんとハロルドさんが朝食ができたから呼んで来いって言ってて……」

「そう、分かったわ。私はまだ寝てるだろうニナを起こしてくるから先に食べてて貰って。あと昨日は遅くまでごめんなさいね、助かったわ」

「いえ、あれぐらいなら全然大丈夫です!! それじゃあ、エレナさん達に伝えてきますね」


 気付けば中庭を共有している家々から物音がするようになっており、遅れて遠くから壱の鐘が響いてくる。


「あまり人の事を詮索するものではないわね、悪かったわ」

「こちらも下手に勘ぐってしまって済まなかったネ」

「それと貴女達も死霊扱いしてごめんなさいね」


 そもそも下手人ではないのはお互いが証明しあえるのだからこれ以上の深入りをする理由はなく、疑い合う空気でもなくなってしまったため、二人は揃って謝罪の言葉を口にして室内に向かおうと歩き出す。

 箱から伸びる黒い手も謝罪を受け入れてくれたのか、三本とも握り拳で親指を空に向けて立てて――――所謂、サムズアップのハンドサインだ―――気にするなと言わんばかりだった。






「あぁ、そうだ。これは娘たちから伝えるように言われた苦情なんだけどネ、『趣味嗜好は人それぞれだけど、愉しむならもう少し声を抑えて欲しい』だそうだヨ」







 そう言い残して先に店へと戻っていくヴィクトールの背を見送り、立ち止まったレイラはルシエラとラストリアの妙な反応に納得をしていた。

 しかし二人は成熟した見た目をしていたが、多少漏れ聞こえたぐらいで随分と初心な反応をするものだな、と場違いな感想を抱いていたレイラはある事を思い出す。


「そう言えばあの部屋、隣の部屋との壁が薄かったわね……今まで誰も寝泊まりしてなかったからすっかり忘れてたわ」


 声は抑えさせていたし、薄いとは言え壁を一枚挟んだ筈なのだが、ヴィクトールの言いざまから察するに全て聞こえていたのだろう。

 中途半端に体に"熱"が籠もってしまっていたから随分と激しくニナを責め立てた自覚のあったレイラは今後はそのことも注意しておくべきかと改め、しかし過ぎたことは仕方ないとこれも割り切ってレイラはヴィクトールの後を追って店の中へと戻っていった。


 さて、声が隣室に漏れていたと知ったニナがどんな反応するのかを考えながら。


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