1 その命、哀れな末路につき――
一人の男が陰鬱とした森を駆け抜ける。
腕から流れる血を止めるでもなく、折れた肋骨が軋む痛みも気に留めず。
男はただひたすらに走り続けた。
自分の命が尽き果てようと、己が役目を果たすために。
既に男の仲間は息絶えた。
長年連れ添ってきた者達は遥か後方、誰も知らぬ地にて遺体を残してこの世から消え去ったのだ。
今、男が生きているのは奇跡でもなんでもない。
彼の仲間が、苦楽を共にしてきた友人達が、命を賭して逃してくれたからに他ならない。
故に男は走り続ける。
仲間の犠牲を無駄にせぬ為に。
託された思いを繋げる為に。
陰鬱とした木々が減り、視界が少しずつ開けて来た頃、漸く男は希望を見出した。
「もう少しっ、もう少しだッ!!」
自分を叱咤するように、渇き切った喉を酷使して紡いだ呟きに男の視界が滲んでいく。
朴訥な性格ながら巧みな盾裁きで前衛を努めていたエドも。
確かな才がありながらも調子に乗りやすいのが玉に瑕だったミナも。
もう居ない。
あの化け物に喰われてしまった。
それでも二人の命が無為に終わる前に、ただの無駄死にならぬように、男は最後の力を振り絞って足を踏み出す。
あと一歩。
そこまで辿り着いた時、男の身体が傾いた。
足が何かに引っ掛かった感覚の後、男の身体が地面に叩き付けられる。
「くそっ、あともう少しだってのに。こんな所で転んでる場合じゃ……」
折れた肋骨が衝撃で激痛を齎し、肺に溜まった空気を押し出して咳き込みながらも男は悪態をつく。
そうでもしないと心が折れ、意識を手放してしまいそうだった。
なんとか意識を繋ぎ止め、力を振り絞って地面に手をついて起き上がろうとする男。
しかし男の意思に反して身体は――――特に躓いた足が上手く動かない。
もしや足が折れたか。
そう考えて男が自身の足に目を向けると――――
「嘘…だろ……」
――――丈夫な革製の靴を破り、鋭い刃のような鋭利な木の根が男の足を貫いていた。
「痛ッ――」
遅れてやって来た痛みに悲鳴を上げようとした男だったが、それよりも早く森の奥から異変がやって来る。
それは触手だった。
しかも一本や二本ではない。
四本五本と高速で伸びて来た触手は瞬く間に男の足に、腕に、胴体に巻き付き締め上げる。
「このっ、くそったれが!!」
咄嗟に短剣を引き抜き、触手に突き立てる男。
しかし返ってくる感触は硬く、金属と見紛う硬質な音。
薄っすらとした傷を付けるだけで終わった短剣は撓んだ触手によって弾き飛ばされ、直ぐに別の触手が短剣を握っていた腕に巻き付いた。
「嫌だ……嫌だ嫌だイヤだいやだ!!!」
男は残酷な現実を否定する言葉を口にするが、それでも現実は変わらない。
なんとか抗おうと近場の木の根を掴むが、触手引き寄せる力は凄まじく、長くは持たないと男の本能が告げていた。
「エド……ミナ…………すまない…………」
その言葉を最後に木の根を掴んでいた男の爪が捲り上がり、男は悲鳴を残しながら森の中へと引き込まれていく。
後に残ったのはいくつかの生爪と、役目を果たせずに転がる短剣が一本。
この日、三つの命が誰に知られることもなくこの世を去った。
遅くなりましたが更新再開します。
別にプロキシ業やってたり、惑星テラで情緒を破壊されて遅くなったわけではありませんよ?




