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その者、化けの皮につき――  作者: 星空カナタ
三章 その動乱、始まりにつき――
102/221

45 その問題、山積みにつき――

 

 吸血鬼襲撃事件が起きてから丸二日が過ぎた早朝。

 中央区内にある行政を担う文官や領地を持たぬ貴種が詰める城館。

 そこに存在する会議室には担当管区の衛兵を取り纏める所長が一同に介し、不機嫌さを隠そうともしていなかった。


 事件から二日過ぎたとはいえまだまだ収束には程遠く、各管区の垣根を超えて対処に当たっている中で呼び出された所長達の顔は険しい。

 誰もが吸血鬼襲撃事件の指揮を部下に預け、忙しい合間を縫ってやってきたのだ。にも関わらず彼等を招集させた全衛兵の頂点に立つライル・ディ・ブロフェルト準男爵がやってこないのだ。


「遅いっ!!こちらとて暇ではないんだぞッ」


 かれこれ四半刻は待たされているだろうか。

 堪らずと言った風に人種の太った男――――南方管区の所長であるリディリトアが声を荒らげれば、声を出して賛同はしないものの他の所長たちも同意していた。

 いい加減使いの者を出すかと彼等が考え始めた頃になって、漸く会議室の扉が開かれた。


「いやぁ、お待たせしてすまないね!対応していた来客を満足させるのに時間が掛かってしまったね」


 ギロリと音が聞こえそうな剣呑な目を向けられても物ともせず、軽薄な口調と共に現れたのは所長達の機嫌を損ねた原因たるライル準男爵その人であった。

 五人の視線を浴びても眉一つ動かさないライル準男爵は侍従に椅子を引かせ、大仰に腰掛けると口調と変わらない軽薄な笑みを彼等へと返す。


「さて、未だ多忙な君達の時間を奪ってしまっては申し訳ないからね。早速だけど本題に入ろうか」


 どの口が、全員が喉から出掛かった言葉を飲み込んだ。

 例え平民と大して変わらぬ権力と生活しかできない名誉称号に過ぎない準男爵と言えど、貴族は貴族。

 一平民でしかない所長達は引き攣る顔で礼の言葉を述べて続きを待った。


「吸血鬼襲撃事件が起きた夜、中央管区で一人の女冒険者が捕縛されたのはもう噂として広まっているから知っているね?彼女の名はレイラ・フォレット。今日はその女冒険者の処遇について相談をしたくて来てもらったんだ」


 顔の前で手を組みながら告げたライルに返される反応は様々だった。

 東西の所長の反応は薄く、早く終われと言わんばかりに変わらない。対して南の所長であるリディリトアは忌々しげに顔を歪め、中央所長は何故か冷や汗を流していた。

 そして最も大きな反応を示したのは北方管区の所長、四腕人(ストゥルト)のヴァルダだった。


「統括殿、一つ御伺したいのだが宜しいか?」


 下腕で腕組みをしたまま、上腕で挙手をするヴァルダにライルは胡散臭い笑みを向ける。


「うん?何かね、ヴァルダ所長?」

「レイラ嬢――――失礼、件の人物が捕縛されたのは街の噂で聞いておりましたが、罪状は一体なんなのですか?」

「あぁ、そう言えば君は彼女と面識があったね。彼女の罪は私闘だよ」

「私闘、ですか……」

「そう、私闘」


 私闘はバルセットでは禁止されており、それを犯せば罰金か数日間の投獄、あるいは一定期日の奉仕労働が課せられる罪となる。


 だが私闘罪の区分はスリや万引と同じ軽犯罪であり、軽犯罪であれば各管区の所長の判断で捌ける範疇でもあった。

 事情を知らないらしい東西の所長が、何故そんな事で呼んだんだと言わんばかりに眉を寄せるのを見て取ったライルはニヤリと笑う。


「ただし、一対三〇の私闘――――いや、今回の場合はレイラによる(いち)徒党(クラン)への襲撃と言い換えてもいいだろうね。なにせ件のレイラはほぼ無傷、対して襲われた場に居合わせた〝雷火の猛牛〟の面々は大半が重傷なんだから」


 予想外だったのだろう。

 レイラが捕縛される際に衛兵へ告げた啖呵と、自分より遥かに大きい牛躯人を引き摺って詰め所近くまで進んでいた姿は既に市中に広まっていたが、その所業の全容までは伝わっていなかったのだ。


 ヴァルダは被害者の数に驚きで目を見開き、東西の所長は信じられないと言わんばかりに顔を見合わせている。

 表情が変わらなかったのは顰めっ面のリディリトアと、会議が始まってから冷や汗を流し続ける中央の所長だけだった。


「幸いというべきか、〝雷火の猛牛〟に死者はいないんだよね。ただ、そのせいで少々面倒なことにもなっているわけだけど……」


 ライルの言葉に全員が唸りを上げる。

 重罪規定に記された基準は全て死者の数や領地に与えた影響によって量刑が変わるのだが、死者が出なかった場合の量刑は記されていないのだ。


 大規模の被害があった場合は著しく治安を乱したとして騒乱罪と言う罪名もあるが、それは多対多――――冒険者で言えば複数の徒党がぶつかり合った際に適応できる罪であり、レイラのように一対多の状況を想定していないのだ。


 となると最初にライルが言った通り私闘として裁くしかないのだが、被害者の数が数だけにその程度の量刑で済ませて良いのかという疑念が残る。

 あまり軽い量刑を科せば甘く見られて治安の悪化に繋がり兼ねず、かと言って過ぎた量刑で在れば民衆に不満を抱かせかねない。

 ただでさえ今は、衛兵の怠慢で吸血鬼襲撃事件の被害者が増加したと言う醜聞が蔓延っているのだ。下手を打てばバルセットで大規模な暴動が起きかねない。


「そこで君達の意見を聞きたいんだけど、今回の場合はどう裁くべきだと思うかな?」


 そんな重すぎる案件を平民の俺達に振るなよ。

 東西、そして北の所長たちの内心が一致する中、憮然とした表情のままだったリディリトアが真っ先に手を上げた。


「悩む必要などないでしょう。〝雷火の猛牛〟は公共物資輸送の護衛などでこのバルセットに貢献してきた優良な徒党。そんな徒党を襲う凶悪な冒険者など放っておいて百害あって一利なし。即刻犯罪奴隷に落とすか、入墨刑の上で奉仕労働させればでしょう」


「それは本気で言ってるのか?! 犯罪奴隷や入墨刑など重犯罪者と同じ扱いではないか! そもそも〝雷火の猛牛〟が優良な徒党だと言うのが信じられんっ!!噂ではその優良な徒党がレイラの丁稚を攫ったのが襲撃のそもそもの原因と言うではないか!!」


「何を言うかと思えば、所長という立場に就く物が市井の噂を本気で信じているのか?だとしたら笑えん冗談だな。〝雷火の猛牛〟の頭目であり、今回の被害者であるモラウ=バラはレイラが突然徒党に襲いかかってきたと証言しているぞ?」


 さも当然だと言わんばかりにリディリトアが言えば、レイラを良く知るヴァルダは猛然と反論する。しかしリディリトアの表情は崩れず、小馬鹿にするように鼻を鳴らして踏ん反り返る。


「それに私はレイラ・フォレットなどと言う名前は一度も聞いたことがない。そんな木っ端の冒険者と実績ある〝雷火の猛牛〟、どちらの言を信じるかなど決まっておろう。大方、レイラとかいう女はうだつが上がらないの気にして、名声欲しさに卑劣な手を使って〝雷火の猛牛〟を襲ったんだろうさ」


「彼女はそんなことをする人間ではない!! そもそも彼女の名が知れ渡っていないのは彼女が名声に興味がないからだ!!」


「……何を言うかと思えば、冒険者が名声に興味がない?それは商人が金儲けに興味がないと言っているようなものだぞ、馬鹿馬鹿しい。しかし君は随分とその女冒険者の事を庇うな。あれか、金でも積まれたのか?それとも股でも開かれたか?」


「言うに事欠いて貴様……ッ!!」


「それに捕縛される直前、随分と衛兵を舐めた事を吐かしたそうじゃないか。であるならば衛兵の威厳を保つ為にも厳罰に処すべきだと私は思うがね」


 言葉一つ交わす度に熱くなっていき、気付けば胸ぐらを掴み合わんばかりの剣幕へと発展していく。

 そんな二人をニコニコと見つめるライル準男爵。

 だが、そのにこやかな笑みに反して瞳が全く笑っていない事に気付いた中央所長が慌てて仲裁に入る。


「両名とも落ち着かれよっ!!今は事実どうこうより件の冒険者の処遇について話し合う場だぞっ!!」

「……チッ」

「……失礼した」


 矮人の所長の一喝で二人は一応は鉾を収めるものの、納得はしていないとありありと顔に書かれたまま席に座り直す二人。

 なんとか場が落ち着いた事に安堵の溜め息を中央所長が吐き出すが、ライルの表情は変わらなかった。


 重苦しい沈黙が続く中、その沈黙を破るように部屋の置物と化すように気配を殺していたライルの侍従が動き出す。そして誰にも内容が聞こえない声量でライルに耳打ちすると、ライル準男爵は何故か破顔した。


あ、そうそう。

実は今度の冬コミ二日目(12/31)東地区 “N”-41bで販売される悪堕研究機構様の「魔法少女悪堕ち合同誌」に寄稿させて頂いてますのでコミケに行かれる方がおりましたらお手に取ってみてください。


詳しくは下記URLをご確認下さい。

https://akuochi.com/event/c101

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