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『ヒロインの姉は妹を更正させたい』

 私は、生まれつき体が弱かった。

 生まれてからずっと、病院から出たことがない。友達と遊んだことも、学校で勉強したこともなかった。

 憧れたし、泣いたし、親にどうして私はこうなのと言って傷つけたこともある。

 けれどそれは一時の事。すぐに私は全てを諦めて、日中はひたすら本を読み、暇つぶしにテレビを見たり窓の外を眺めた。

 本の世界は、綺麗だ。

 窓の向こうでは、常に退院した誰かが感動的な物語を繰り広げている。

 素晴らしかった。これが、私の世界だ。


 ……そう、思っていて。

 これからも続くと、思っていて。


詩織しおりさん!! 私の声は聞こえますか!? 詩織しおりさん!?』

『……』


 けれど私はある日唐突に、本当に何の前触れもなく、十七歳という若さで命を落とした。体がどんどん弱っていったのだろう。

 一向に回復しなくて、ついに私は天国へゆくのだ。


 ――けれどもし来世があるならば。健康な体に生まれていますように。



 ふわふわと、浮ついた感覚。

 自分がどこにいるか分からない。視界もはっきりしなくて、意識もぼんやりしている。思考も完全に停止していて、だからこそただただふわふわしているのだ。

 そんな全てがぼんやりとしている中、私は確かに見た。


『さあ、おきなさい。わたしの愛し子』


 顔は良く見えなかったが、真っ白のドレスに身を包んだ、長い金髪の神々しい女性。それが確かにいたのだ、私に手を伸ばしていたのだ。



 ぱちり、と勢いよく目を覚ました。目を覚まさせられているのでは、という感覚を覚えるほど、それはいきなりの目覚めだった。

 さすがに戸惑い、私は辺りをきょろきょろと見回す。すると、私の髪の毛がふんわりカーブした紫髪であることに気付く。

 なるほど生まれ変わったのか、夢なのか、天国なのかに違いない。

 私が死んだことは知っている。でも、だからと言って来世があるのは聞いていない。例え夢でも天国でも、凄く、感覚に現実感があるから。

 前世に未練はもうなかった。全てを諦めていたから、戻りたいと泣いたりはしない。だけれど、この世界がどこなのかははっきりさせねばならないだろう。


「頭もぼんやりしてない……ここは一体……うぐっ!?」


 その瞬間、頭に膨大な量の情報が流れ込んできた。私の頭はそれに耐えきれずに、痛みとしてSOSを訴える。

 右手で頭を抑えた私は、ベッドから勢い良く起き上がって悶えた。

 体に原因不明の激痛が走ることは良くあった事だが、これはそのどれよりも痛いかもしれない。

 けれどその痛みがしばらく続いた後、私は今起こっていることを把握することになぜか成功してしまった。


「ソフィー……リア……?」

 

 私の名前はソフィーリア。しがない男爵家の長女である。そして妹はアリーシャ。可愛く愛嬌のある誰にでも好かれるタイプの人間。

 ソフィーリア。アリーシャ。そしてこの髪。男爵家という身分。

 そこから、私はこの世界が何なのかを導き出した。

 本ばかり読んでいたから。本の内容を記憶するほどの時間が、私にはあったからこそ。


「ライトノベル『悪役令嬢は生まれ変わってヒロインに復讐したらしいです』。の世界かな……だとしても、ヒロインでも悪役令嬢でもなくその姉ってかなり微妙な立場なんじゃ……」


 あの本は、はやりの『ヒロインが愛される』スタイルをぶち壊した、最初の悪役令嬢系ライトノベルだ。

 だからこそ当たり前のように私も読んでいて、勿論内容もしっかり記憶。

 悪役令嬢に断罪されたヒロインアリーシャは、そのとばっちりで自分を肯定し続けた姉をも監獄に落とす。

 まあ、ソフィーリアも監獄に落とされるだけの罪状はあったのだが、味方であり続けた姉に『こいつも罪人だわ!』と思い切り手のひら返しをするのはさすがに笑った覚えがある。

 そして、私はその手のひら返しを食らう姉役……らしい。


(例え夢でも夢じゃなくても、これはせっかく手に入れた健康的な人生だもん。……ちゃんと生きたい)


 けれど、『ソフィーリア』はヒロインと悪役令嬢に左右されるキャラクターだ。自分がいくら真面目に生きても、絶対妹に罪を擦り付けられて監獄に落とされるはず。

 なら、どうすればいいか。

 十七年培ってきた想像力という名の妄想力で、私はこれからするべきことを導きだす。


「……そうだ」


 そう、この瞬間私の運命は決まったのである。

 私は私の運命を変える計画を、始動させたのだから!


 名付けて『ヒロイン大更生計画』!


 ヒロインの姉なのだから、ヒロインの性格を叩きなおすチャンスは十分にあるはずなのだ。加えて、ヒロインは今まだ五歳なのである。


「ようしっ、いける、行けるわ!」


『ソフィーリア様~?』


 そう決意した時、素晴らしいタイミングでドアの向こうから呼ばれた。良いタイミングだったので、私はすぐにベッドを下りて扉に向かった。


「は~い!」

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