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カミサマが助けてくれないので復讐します 3  作者: つくたん
戦いの前に
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共有された情報は

「ユミオウギ、なんだって?」

戻ってきたアルフに問う。アルフは手に手帳を持っていた。

「んー、敵の情報」

パンデモニウムのカーディナル級の情報だ。名前や容姿、二つ名やその由来、所持している武具など。

情報は自力で集めるべしという信条を持つユミオウギがこんなものを送るとは思えないのだが、どうやらカガリに請われて提出したものをこちらに回してきたということらしい。

送られてきた書類の束はそのままユグギルに渡し、自分は必要なところだけを自分の手帳に書き写して持ってきた。

「へぇ、敵の?」

それは興味がある。アッシュヴィトは顔を上げ、視線を手元のバーダルチキンからアルフに向けた。

「聞いておきたいな」

攻略本を見てボスの予習をしておくような気持ちで猟矢が言う。敵の情報を知っているのと知らないのではこれからの難度が大きく変わる。これはぜひとも知っておきたい。

「まぁそう言うだろうと思ってさ」

ちゃんとこの場で披露するつもりだ。よっこいしょ、と大仰に椅子に座ったアルフは手帳を開く。一同の視線がアルフに集中する。

アルフに向く前、ダルシーの視線がアルフのコップに留まっていたのは気になるが、ひとまずそれを置いておくことにした。

「カーディナル級にも派閥があるんだと」

やはり大規模な集団であるからか、その中には様々な派閥ができている。その派閥によって同じカーディナル級でも縦に割れているのだとか。そしてそれに沿ってレッター級も割れる。対立するほどではないが、やはり派閥間の思想差からくる亀裂はあるようだ。

派閥は大きく3つに分けられる。ひとつは、ただ破壊を楽しみたい、他者から奪いたい勢力。説明するまでもない単純な勢力だ。これは5年前、世界にパンデモニウムの名が轟いてから急激に増えたものだ。

過去、自分たちが戦った中だとミュスカデがそれにあたる。"強欲"の二つ名を持つ彼女は目に映るすべてを手に入れようとしていた。

「んで、2つ目は理由はともあれ世界をひっくり返したいやつ」

この世界の真実を知ったりだとか、自らの運命に絶望したりだとか。国の統治という制度を壊したいだとか。神によって縛られた世界を脱却したいだとか。

それを変えようとして、神や運命、国家、制度といったどうにもならない大きなものに挑もうとする勢力だ。

カーディナル級ではないが、ネツァーラグはここに属する思想だろう。語るアルフの話を猟矢は神妙な顔で聞いていた。

「それで、最後のひとつが、パンデモニウム、特にそのトップに心酔する勢力」

パンデモニウムそのものや、その頂点である"デューク"ロシュフォルに心酔し、忠誠を誓う勢力だ。

この派閥は古参が多い。5年前、パンデモニウムがビルスキールニルを制圧するより前から所属している者たちだ。まだパンデモニウムが統率された団ではなく小さなならず者集団であった頃からの。

「ふぅん……」

あんな無法者のどこに心酔する要素があるのか。冷淡に突き放し、バルセナはガラッタ苺のタルトにフォークを刺した。

こうして恋人こそ人間の姿に戻ったものの、仲間はほとんどがパンデモニウムに殺された。その仇は討ったものの、それでも心は晴れない。パンデモニウムそのものが消えない限りこの感情はなくならない。

「それで、この3つ目の勢力……信奉者の中にはひとつのまとまりがある」

彼らのことを十章衆と呼ぶ。

十章衆という単語にアッシュヴィトが顔を上げた。聞き覚えがある。ビルスキールニルがパンデモニウムによって滅ぼされた時にその名を聞いた。ような覚えがある。

「5年前のビルスキールニルから現れたんだと……ヴィト、知ってるか?」

「…ううん……聞いた覚えがあるような、ないような……」

うーんと唸りながら記憶を探る。十章衆。いかにも幹部らしい響きは聞き覚えがあるのだが。

あの日のことを順番に思い出してみる。ビルスキールニルの玄関口に現れた者たち。パンデモニウムと名乗る彼らは衛兵を殺して島内に侵入した。そこからは手当たり次第に殺し、壊しながら王宮へと進んで。それらを迎え撃つ兵たちの報告を王宮で聞いていた。その報告の中にあったような、なかったような。

「……………あぁ!」

記憶の中からようやく探し出し、アッシュヴィトは声をあげた。

いた。ビルスキールニルの兵士を束ねるバッシュが巡回中に交戦したとか、なんとか。そんな報告があったような。

十章衆だとか大層な名乗りのくせに弱かっただとか、幹部らしい響きに名前負けしているとか言っていた記憶がある。

「島の淵から海めがけて突き落としてやったとか言ってたナァ……」

幸福だかなんだかそんな二つ名を名乗っていた娘だ。色っぽいを通り越して下品な装いが癪だったので海に突き落としたとか。

ビルスキールニルは宙に浮かぶ島だ。高度はかなりある。その淵から突き落とされれば万に一つもない限り死ぬだろう。そんな報告を聞いたような気がする。

「印象に残らないほどの存在すぎて逆に印象に残る、か」

十章衆はまさにそんな感じなのだとか。所属する年数が長いだけの古参というだけで偉ぶっていて、実力はそれほどでもないとユミオウギからの情報にも記されていた。

ビルスキールニル襲撃時も、人数の少なさ故に相対的に上であっただけでカーディナル級を与えられただけだろう。人が増えればそこに埋もれる程度なのだ。

「まぁでも油断は禁物だろ?」

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