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カミサマが助けてくれないので復讐します 3  作者: つくたん
戦いが始まって
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示唆

「あのさ!」

沈黙を破って猟矢が口を開いた。

言わなければならないことがある。そう言って猟矢はすべてを話した。異世界から召喚されたこと、アッシュヴィトの願いを叶えるまで帰れず、そして願いが叶ったら元の世界に帰れるということ。その願いとは復讐であり、ロシュフォルを討てば叶うということ。つまりこの戦いの決着がつくということはすなわち元の世界に帰るということ。

アッシュヴィトはすでに知っていたという顔で聞き、アルフは予想がついていたという顔で聞き、バルセナやハーブロークやダルシーは薄々勘づいていたという顔で聞いていた。

ラクドウは表情を動かさず、ルイスは興味深そうに、ヴィリは我関せずという雰囲気で、エメットは驚愕してその話を聞いた。

「異世界から来たって嘘や騙りじゃなかったんだ……」

なんかこう、何かしらの尾ひれがついた結果だと思っていた。それがまさか本当で、しかもこの戦いが終わったら帰るということになっていたとは。

はー、と長い感嘆の息を吐いてエメットは驚きを口にした。

「元の世界とやら、気になるのぅ」

ミリアム諸島の外ですら未知の世界であるルイスにとっては、猟矢がいた世界など未知の未知だ。興味が尽きない。

ぜひとも聞いてみたいではないか。語ってもらうに十分な時間がないことが惜しい。

文化や風習、技術など色々気になるが、せめてこれだけは聞かせてもらおう。ルイスは質問を絞った。

「そちらでお主は幸せか?」

「うん」

「そうか、ならよかった」

もし元の世界とやらが苦痛に満ちた世界であるなら、帰らずずっとここにいればいいのにと言うつもりだったが即答されては誘えない。言葉を引っ込めてルイスは目元を和ませた。

「ついでだ、俺からも聞くが」

「え、なに?」

いつものおちゃらけた調子ではない。至極真面目な声でハーブロークが問うた。

異世界から来たのだからそのうち帰る時が来るだろうとは思っていた。その別れが今来ただけで、ある程度覚悟ができていたぶん衝撃は薄い。突然すぎて実感が追い付いてないだけかもしれない。

「帰ったとして……その時俺らのことは忘れんのか?」

「えーと……そういうことは聞いてないけど……」

忘れるならあらかじめ通知される気がする。あの声だけの道化はそんなこと言っていなかったのでおそらく記憶は保持されるはずだ。

元の世界に持っていくことはたぶんできないだろうから、武具は置いていくことになるだろう。

"キャンセル"の力も失うだろう。元々あれはこの世界に召喚されたために与えられた保障だ。

武具も"キャンセル"の力も失うが、記憶だけは思い出として持って帰れるはずだ。そう答えるとハーブロークは小さく安堵したように息を吐いた。

「そっか」

忘れるなんて言ったら許さないところだった。ハーブロークの台詞をアッシュヴィトは俯いて聞いていた。


それからあらかた話したところで話題も尽き、今夜は眠ろうということになった。

"アイロネート"が霧で目隠ししているとはいえやはり見張りも必要だ。火の番と見張りをヴィリが引き受けた。

あとの面子はそれぞれ狼を枕や背もたれにして眠りについた。仰向けに寝転んだアルフの腹を"アイロネート"が枕にしている。

目隠しの霧は"アイロネート"の呼吸によって首の穴から自然に発生するため、"アイロネート"は起きている必要がない。それならば主人の腹を下敷きにして休むに限る。竜のおとがいを乗せられ、アルフがうなされているがそれは無視。

ユキス(それにしても)……それにしても」

静かだ。遠くの波の音が聞こえるくらいには。

そう。静かすぎる。霧の目隠しをしているとはいえパンデモニウム兵に遭遇しないとは。突如できた大地を不審に思い、偵察のために兵を差し向けるのが普通なのに。

この大地から乗り込もうとする自分たちを意に介していないだとか興味がないだとか、そんなはずではないだろう。そこまで愚かならパンデモニウムはここまで巨大な勢力になりえない。

だとするなら偵察隊を派遣できない理由があると考えるが筋だ。聞けば氷原の側もパンデモニウムと遭遇していないという。

ユミオウギとやらは籠城でもしているのだろうと予想しているが、それはどうだろうか。直感が違うと告げている。

ドゥシンク(どう思う)?」

見張りの交替のために起きたのか、それとも寝つけなかったのか。狼の腹から身を起こしたエメットに声をかけた。

バレたの、と呟いたエメットは皆を起こさないよう立ち上がりそっとルイスの隣に座り直した。

ボアシンク(あたしが思うに)……パデク(パンデモニウムは)オ・ギ・バドラ(たぶん戦えない)」 

ギ・バドラ(戦えない)?」

戦えない、とは。駆け出しとはいえ"観測士"である彼女には何が見えているのだろう。

ヴィリの問いに頷きながら、エメットは続けた。砂語を練習としての会話ではなく、まともに喋るために使うのは初めてだ。間違った文法をしていなければいいが。

「ええと……パデダヴィ(パンデモニウム本拠地)()シャロキンイサ(シャロー大陸にある)

氷の大陸だ。こうして我々"コーラカル"が乗り込むまで前人未到の地であった。万年吹き荒れる吹雪と永久凍土の大陸であるシャロー大陸は人間の立ち入りを拒んできた。

そこに拠点を構えたのがパンデモニウムである。拠点に張られた特殊な結界は永久凍土の極寒を阻み、内部に快適な環境をもたらしているという。

その結界が壊れたなり何なりしたのではないか、とエメットはにらんでいる。

結界が壊れていないにせよ、不調で規模を縮小せざるをえないだとか、あるいは拠点そのものが何かで損害を受けたとか。

ともかく、何かしらの事情があって外に出ている余裕がないのでは、というのがエメットの予想である。

「……ヴィテ(もしかして)

パンデモニウムは"破壊神"という恐ろしいものを抱えている。この戦争に"破壊神"を持ち出そうとしているために兵を出す必要がないのかもしれない。

適当に近付いてきたところに破滅の一撃を落とせばいい。結界により余波は本拠地に届かない。

それなら偵察も迎撃も必要ない。むしろ早く近付けさせるためにこちらの道中を順調にさせるだろう。

「うーん、ギ・レア(わからない)!」

結論を出すには材料が足りない。降参のようにエメットは手を挙げた。

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