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カミサマが助けてくれないので復讐します 3  作者: つくたん
戦いの前に
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嵐の前の静けさ、嵐の後の心変わり

戦争前だというのに穏やかだ。緊張などおくびも見せずエルジュの港町は静かな昼下がりを過ごしていた。

だがその緊張のなさは表向きだけだ。"コーラカル"の一員として、エルジュに拠点を置くバハムクランの面々はその準備に追われていた。

戦場はパンデモニウム本拠地があるシャロー大陸になるだろう。そこに"コーラカル"の戦力を注ぎ込む。街も村も何もない極寒の大陸はパンデモニウムだけでなく自然すら敵になる。そんな中で戦いの傷を癒し休むための仮設拠点が必要となる。

それだけではない。シャロー大陸へ攻め入るために手薄となってしまう各国にパンデモニウムは現れるだろう。それらの対処もしなければならない。

やることはたくさんある。武具の手配、人員の配置、食料や資材の確保、戦場になるであろうシャロー大陸の地理の把握。それらに追われながらも、エルジュに散りばめた表向きの仕事もこなす。複雑に入り組んだエルジュの町の各所に立つ案内人の仕事、港町にやってくる貿易品の各都市国家への配達。それらの手を休めるわけにはいかない。案内人も配達人も表向きは"コーラカル"ともバハムクランとも関係のない一般人だ。一般人を装うならばこれらの手を止めてはならない。

「大変だよなぁ」

堂々バハムクランの一員を名乗っているのでそれらの仕事は回されていない。ハーブロークはのんびりと呟いた。

バハムクランに加入した当初は倒錯の呪いによってただの鷹だったので、猟矢たちとは違って表向き一般人としての配達人の役割も割り振られていない。人の姿に戻った後もそれは変わらないので、堂々とエルジュの港町の自警団の一員を名乗らせてもらっている。

そんな身分なので、平時はまったくやることがない。パンデモニウムが近隣に現れなければ、やることといえば自警団らしく街の見回りだとかくらいだ。なのでこうして暇を持て余している。

対するバルセナは配達人の仕事を割り振られているのでそれをこなしている。今日はもうすでに自分の分担を終わらせていて、小銭稼ぎに噴水広場でベルベニ族得意の歌と踊りを披露している。ハーブロークは暇なのでその護衛だ。

「まぁなぁ」

同じく仕事を終わらせて暇そうな船乗りが頷いた。酒豪同士ということで意気投合した結果、ハーブロークと船乗りの彼は円満な友情を築いている。こうしてバルセナの警護ついでに雑談をするなど一度や二度ではない。

「アルフのやつなんて情報整理に追われてるからな」

「昨晩寝ゲロ吐いたのにか」

「吐かせるほど飲ませたのは誰だ」

「俺」

しれっと返しながら雑談に興じる。

"観測士"たるもの二日酔いで寝込んでいてはいけない。たとえ頭痛がひどかろうとも情報整理は正確に。師匠たるユミオウギにそう言われ尻を叩かれながらこれからに備えての情報を集めているらしい。集めた情報は整理して必要であれば皆に周知する。

エルデナもエルデナでバハムクラン専属の武具職人の役目がある。亡き師匠が遺した武具の鍵の解錠よりもそちらを優先せねばならない。バハムクランのメンバーそれぞれの武具の状態を点検し整備して手入れする。必要なら新しく作り与える。

誰がどんなものを必要としているのか、またこれからの戦いで何が必要そうになるのかを見極めて準備しなければならない。

「はー、大変だよなぁ」

ハーブロークはのんびりとした口調でぼやいた。かくいうハーブロークもエルデナによる武具点検を受けたのだが。その結果は問題なしで、新たな武具の製作も必要ないと太鼓判を押された。

「バハムクランだけじゃないからな」

これはバハムクランだけの話ではない。"コーラカル"、ひいては全世界の話だ。

それぞれの都市国家で、国で、島で。同じように準備に追われている。戦場になるであろうシャロー大陸へ派遣する戦力と自国を守るための防衛戦力の割り振り、各国への報告、連絡、相談。どこも東奔西走している。

「そういや、結局ミリアム諸島の連中は式典に来なかったな」

ベルミア大陸の3国、クレイラ島、キロ島、それらが"コーラカル"へ加わる式典にミリアム諸島は参列しなかった。

ミリアム諸島に住むアレイヴ族は"コーラカル"に加入を決めたわけではなく、恩に報いて一度だけ力を貸すことになっているから仕方ないとはいえ。

相変わらず外界への接触を嫌っているようだ。とはいえ、彼女らの安全について放置するわけにもいかないので戦争の話は知らせている。

パンデモニウムがミリアム諸島に攻め入るかもしれない、それを防衛するために"コーラカル"が踏み入るかもしれない。というような話は連絡を済ませており、ミリアム諸島のアレイヴ族を統べる族長からも立ち入りの許可と交戦の許しは得ている。必要以上に森を損なうことなく、アレイヴ族の誰一人巻き添えで傷付けることなく戦うならば、族長の権限においてミリアム諸島への立ち入りを許すと。

「あの族長が?」

胡乱げにハーブロークは聞き返した。

以前、アレイヴ族の族長に会ったことがある。その時の印象からはとうてい信じられない返事だ。あの外界嫌いの族長が借りがあるとはいえそんなことを言うとは。

あの族長のことだ。精霊トレントが森もアレイヴ族も守るからお前たちの助けなど必要ないと突っぱねるかと思いきや。

いったい、彼女の心境にどんな変化があったのだろう。

「いや、最初はそうやって突っぱねてたんだが」

ミリアム諸島の精霊トレントが外界への接触を厭うているために立ち入りを許可するわけにはいかない。配慮はありがたいし恩に報いるつもりはあるが、と苦い顔で断っていたのだ。

しかしある日を境に、精霊トレントからの許可が出たので立ち入りを許すときた。どうやら精霊トレントに何らかの心変わりがあったらしい。

「その前の晩は海が大荒れで、嵐があったくらいしかなかったと思うんだが」

不思議なことだ。そう船乗りは呟いた。

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