鐘の会議
「さて」
皆集まったようだ。時間ぴったりにユミオウギは口を開いた。
対パンデモニウムとの戦争を控えた"コーラカル"の幹部会議。つまりは各国の領主や国王を一同に集めた会議である。
一ヶ所に集めることはせず、武具による通信を用いての会議だ。こうして、"コーラカル"としての公式な会議は初めてとなる。
これまではそれぞれが連絡を取り合い情報を交換し合うという各国に任せた非公式的なものだった。
どこもキロ島を経由するために今までそれで問題なかったが、今回は改めて場を作ることにより皆の意識を統一するというのが目的だった。
会議は各国それぞれのものと"コーラカル"全体のものとの二重構造となる。それぞれ、自らの傘下の大臣や補佐役を交え、そこで出た意見を吸い上げて"コーラカル"の会議の場に出す。
エルジュならばエルジュ領主の他に、ユグギルを筆頭としたバハムクランの主だった面子と猟矢たちを合わせた話し合いをし、出した結論をエルジュの総論として提出する。
そして各国の総論をキロ島がまとめ、"コーラカル"全体のものとして出す。出たそれを各国が噛み砕き、話し合い、賛成が得られれば可決となる。
各国それぞれと"コーラカル"全体との二重構造の会議とはそういう意味だ。そうでなければこれだけの規模、収拾がつかない。
その取り仕切りを任されたユミオウギは、改めて現在の状況と想定している作戦について話し始めた。
「目指すはシャロー大陸西部、パンデモニウム本拠地だ」
峻厳な山に囲まれたそこは、大陸の西から乗り付けては到達できない。山を越えることは不可能だ。前人未到の山に何万人と送れるわけがない。
なのでシャロー大陸南部の氷原から北上しつつ目的地へと向かう。ラピス諸島からシャロー大陸南部の氷原へ渡り、そこから点々と補給基地を建てていくことになる。
この時、"コーラカル"に所属するすべての人間がシャロー大陸に渡るわけではない。パンデモニウム遊軍の奇襲を防ぐため、各国にも防衛戦力を残す。
各国の国軍は自国の防衛に専念しつつ、"アトルシャン"がその活動のために各国に置いた自警団やクランの連中がシャロー大陸へ渡る。
それが"コーラカル"に所属する者たちの共通の認識である。シャロー大陸に乗り込むならばそうなるだろうと打ち合わせをひ、そのために皆が準備している。
「で。……本当に言うんだな?」
ユミオウギが隣にいるカガリに確認を取る。応、と何やら楽しげなカガリの返答が聞こえた。
はぁ、と嘆息したユミオウギは、それに加え、と付け足す。
「それに加え? まだナニカあるノ?」
氷原から北上する以外に何かあるのだろうか。作戦を確認するというこの重大な場で今まで黙っているような何かが。
重要な作戦に加えて何かをやるのだからそれなりに大ごとだろう。だというのにこれまで何も言わず、事前に話すら通さないだなんて。
アッシュヴィトが思わず非難めいた口調で口を挟む。誰も続かなかったが、皆が同じ気持ちのようだ。
非難めいた雰囲気がユミオウギとカガリに刺さる。ユミオウギが首を竦めた。
「言わなかったのには理由があるんだ」
「おうおう。言い訳の弁解ならば聞き拝聴しようか」
ものによってはこの場で"コーラカル"は瓦解するぞ。ミーニンガルドの領主、ナクアブルが脅す。
重大な作戦に加えて行うというその口ぶりは、氷原を渡るに匹敵する大ごとであるということを示唆している。
それなのにこの場まで黙っているとは筋が通らない。作戦会議で作戦を秘する必要があろうか。重大な作戦と並行しなければならなさそうな物事を隠し持っているだなんて。それをするのに今から物資を用意し準備をかけねばならない手間もある。
いきなりそんなことを言うカガリは信用できない。そう言って"コーラカル"は瓦解する可能性もある。
言葉を選べよと脅すナクアブルは水面のように穏やかな表情をしているが、その言葉は荒れた海のように厳しい。
「立案者は俺じゃなくてカガリ様だっていうことを踏まえて聞いてほしい」
「おうおう。それでそれで言い訳の弁解とは?」
「……正気かと疑いたくなるほど突拍子もないんだ」
ユミオウギとて、カガリからそれを聞いた時は悪質な冗談だと思ったくらいだ。正気かと何度も聞いたし、この会議前にも両手で足りないほど問いただした。
机上の空論、絵空ごと。そんな単語さえ生ぬるいほどの突拍子のなさだった。
しかし落ち着いて条件を整理し、そのための手段を導き出せば可能だった。効率的だがあまりにも非現実的。そんな案であった。
「ナニ? パンデモニウム捕虜の"ラド"で拠点にひとっ飛びとか?」
「いや。……本当に言うぞ?」
馬鹿だと笑われ、カガリは正気を失ったと言われても知らんぞ。ユミオウギは重ねてカガリに確認を取った。
いいから言えと促され、ユミオウギは溜息を吐いてから一拍置いて口を開いた。
「シャロー大陸とキロ島を繋いで乗り込む」
「…………は?」
きょとんと。場が固まった。




